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初めての日(耶告×紘可)

管理人室へ入ると、いつも通り耶告がそこにいた。

「耶告」

名前を呼ばれて振り返った耶告はしかめっ面になった。
その原因は分かっている。
私が髪を結んでいないからだ。
面倒な事が嫌いな私がなんでいっつもきちんと髪を結んでいるのか。
それはこの目の前の保護者の教えだ。
耶告が22歳のとき、私を引き取った。
女の子らしいことを、と耶告は考えたのだろう。
髪飾りをくれた時のことは今でも色鮮やかに覚えているし、
この髪の結い方を教え込まれたスパルタの日々だって目を閉じなくても覚えてる。

「お前、髪どうしたんだよ」

「耶告、結んで」

「はぁ?お前、自分で出来るだろう」

「面倒だから頼んでるんじゃないの。耶告にして欲しいから頼んでる」

毎日髪を結うのは正直面倒だ。
うん…毎日耶告が結んでくれるんならそれはそれでラッキーなんだけど、今それを言ったら叩かれる気がするから要点だけ伝える。

「…ったくお前は。ここ座れ」

「うん」

ソファに並んで座り、私は髪をいじりやすいように体ごと横をむいた。
耶告の手が私の髪にふれる。
こうしてもらうのはいつぶりだろう。
お風呂上り、髪を乾かすのが面倒だし、髪を結うのが面倒だし、切ってしまえばよかったのかもしれない。
だけど、耶告が一生懸命教えてくれたものをなくしてしまうのは惜しい気がした。

「ねえ、耶告」

「ん?」

「今日何の日か覚えてる?」

「さあ、何の日だったかな」

分かってるくせに。
いつも私が昼寝をしているとわざとらしいため息をするから、それを真似て私もわざとらしいため息をついてみせる。

「自分の誕生日、忘れるなんて」

「嘘だよ、覚えてる。まだそこまで年をとっちゃいない」

「まあ、耶告が忘れても私が覚えてるからいいんだけど。
欲しいもの、何かない?」

「お前、それを当日に本人に聞くのか?」

「だってもうネタ切れ」

何度一緒に誕生日を迎えただろう。
子どものとき、肩たたき券をあげようと考えた時もあったが面倒だったので一瞬で諦めた。
耶告はこうやって毎年聞いても教えてくれない。
欲しいものなんて特にないと言う。

「私だったら欲しいものいっぱいあるのに」

「例えば?」

「焼肉とか、快眠用枕…とか」

耶告の手料理をおなかいっぱい食べたい。
枕は別にこだわりなんてないけど、ちょっとチャレンジしてみてもいいかな、とか思う。

「お前はもっと花の女子高生らしく、可愛い洋服が欲しいとか小物が欲しいとかアクセサリーが欲しいとか言えないのか」

「うーん…」

そういうものに全く興味がないといえば嘘になるかもしれない。
だけど積極的に欲しいとも思わない。

「私の欲しいものは今いいよ。耶告は何が欲しい?」

同じ問いを繰り返す。
その内に私の髪を結うのは終わってしまった。

「そうだなぁ…」

私の髪から耶告の手が離れる。
耶告が離れることに一瞬寂しさを覚えた。
振り返ろうとすると、耶告が私を後ろからそっと抱き締めた。

「お前がいれば、欲しいものなんてないよ」

仄かにタバコの匂いがする。
頻繁に吸う訳じゃないし、私がいる時には吸わないからあまり意識していなかったがこの距離だと感じる。

「やつぐ…?」

「悪い。久しぶりに髪なんて結ったからお前が子どもの頃思い出しただけだ」

耶告はすぐ私から離れ、なんでもないように笑った。

「もう高校生なんだもんな、お前」

分かりきっていることを改めて言う。
その表情は少しだけ寂しそうだ。

「よし、飯作ってやるよ。何が食べたい?」

「…耶告の誕生日なのに」

「じゃあ、後でケーキでも買いにいこうか。お前のおごりで」

「ろうそく35本立ててあげるね」

「にんじんだらけの飯にするぞ」

「ごめんなさい、嘘です」

いつも通りの会話。
小さな時は耶告と眠っていたときだってあった。
抱っこしてもらったり、肩車をしてもらったことだってある。
なのに、今更耶告にドキドキしている自分がいる。
寮に入るまでは耶告と二人きりの世界に近かったのに、それが変わったから私の心にも変化が現れたんだろうか。
分からない。

「耶告」

名前を呼ぶ。

「誕生日、おめでとう」

今まで何度も言ってきた言葉。

「ああ、ありがとう。紘可」

 

今日は耶告の誕生日。
初めて、耶告を男の人だと意識した日。

その先へ(剛つば)

レコーディング、雑誌のインタビュー…
今日の仕事が終わり、部屋に戻る。
腹は空いていたが、それよりも日中かいた汗を早く落としたくて、帰った早々にシャワーを浴びる。
仕事の上がりは一緒だったが、愛染はいつものように女と会うと嘘なのか本当なのか分からない言葉を残し、
阿修は甘いものが食べたいと駄々をこね、是国を誘って甘いものを食べにいくとか言っていた。

(…何もねえな)

冷蔵庫を開ける前から分かっていたが、飲み物くらいしか入っていない冷蔵庫に思わず舌打ちをする。
しゃーない。ラーメンでも食いに行くか。
濡れた髪をタオルで拭きながらそんな事を考えていると、チャイムが鳴った。

 

 

「お疲れ様です、金城さん!」

「ん。おまえか」

ドアを開けると、立っていたのは澄空だった。

「急ぎじゃないんですけど、インタビューの記事があがったのでチェックして頂ければと思って…」

肩からかけた鞄から厚めの封筒を取り出す。

「…ああ、サンキュ。それより上がっていかないか」

上擦りそうになる声。
俺の言葉に驚いたようだ。澄空は俺の顔をじっと見つめた。

「いいんですか?ありがとうございます!」

ちょっとした下心。
いや、愛染じゃあるまいし。
澄空と二人になる時間が欲しいだなんて…思ってはいた。

 

部屋へ招きいれ、何か飲み物と思ってさっきも開けた冷蔵庫を開く。

「あー…大したものなんだった」

「あ!お構いなく!」

「そういうわけにはいかないだろ」

とは言ったものの。
大したものはない。
冷蔵庫の前で動かない俺を不思議に思ったのか、澄空が傍までやってきた。

「もしかしてお夕食、まだですか?」

「ああ。そうなんだけど、冷蔵庫に何もないんだよ」

「もし良ければ私が作りましょうか?」

「…こんな何にもねーのに作れんのか」

「冷凍庫、開けてもいいですか?」

「ああ」

澄空は冷凍庫、野菜室を確認すると力強く頷いた。

「はい、大丈夫です!少し待っていていただけますか」

「ああ、悪いな」

腕まくりをして、気合をいれたようだ。
澄空がキッチンで奮闘している間にさっき持ってきてくれたインタビュー記事に目を通す。
もっと柔軟になれと愛染に言われるが、澄空は俺の思うまま言葉にすればいいと言ってくれた。
言葉は難しい。
傷つけるつもりがなくても、相手の受け取り方次第で変わってしまう。
だから言葉で何かを訴えるより、歌に色んなものを込めたい。

インタビュー記事のチェックを終える頃、キッチンから良い香りが漂ってきた。

「何つくってんだ?」

キッチンにいる澄空の下へ行き、声をかけると驚いたのか肩がびくりと震えた。

「簡単なものですけど、パスタを…!」

「へぇ、うまそう」

澄空の肩越しにフライパンの中を覗く。

「金城さん…その、近いです!」

そりゃそうだろう。
後ろから抱き締めるような態勢だ。

「…二人っきりなんだから、名前でもいいんじゃないか」

澄空の後頭部にキスすると、緊張を吐き出すみたいにはぁ~っと澄空が息を吐いた。

「剛士くんは心臓に悪いです」

「ん、そうか?」

好きな女が自分のために料理を作ってくれる。
今までそんな事の何がいいんだ?と思っていたが、今日澄空がキッチンに向かう姿を見て悪くないと思った。
頑張る姿は仕事の時にもみているが、今は全部俺のためだけの行動だ。

「剛士くん、髪乾かしてないですね」

ぽたり、と水滴が落ちたようだ。

「風邪なんてひかねーから大丈夫だよ」

「もう…ご飯食べ終わったら乾かしましょう」

「あーはいはい」

世話焼かれるのも苦手だった。
自分から寄ってきて、世話を焼いて、見返りを求める奴らを沢山見てきたから。
苦手だったはずなのに。
こいつなら全部嬉しくなる。

「全部お前だからかな」

ぽつりと漏れた本音。

「え?何がですか?」

「飯よりおまえが食いたい」

「えっ、えええ!?」

突然の言葉に驚いたのか、澄空が振り返る。

「ばーか」

その隙をつくように、触れるだけのキスをする。

「飯食った後だ、後」

「…え!?それって」

キスしただけでどうしようもない気持ちになる。
もっと触れたい。そんな欲が生まれるなんて知らなかった。
この先を、知りたい。
多分、澄空も同じ気持ち…だろう。
飯か、それともこの先か…催促するように、つばさの耳朶にキスを送った。

 

affirmation(レビ×ジェド)

本当の自分

本当の自分は獣じみた生き物だ。
人を殺す事をなんとも想っておらず、それよりも母さんが褒めてくれるから殺すことにためらないなんてなかった。
だけど、ジェドがいてくれればそれだけでオレはレビのままだった。

 

「レビ、寒くない?」

「ん、大丈夫。それよりジェドは?」

「寒くないよ、レビがあったかいから」

追放されたオレたちは、あてもなくただひたすら歩いた。
雪に足を取られて歩きにくい道懸命に歩いた。
足跡がないほうへないほうへ…
そう、誰もいない場所を求めて歩いた。

 

歩いて歩いて、その先にようやく誰も使っていないであろう寂れた小屋を見つけた。
中は埃まみれで掃除をしなければ住めそうもない。
いくつかある部屋のベッド。毛布を引きずりだし、暖炉の前に二人でうずくまる。

「薪、少しだけでもあって良かった」

「ああ、でもすぐなくなるから探しにいかないとな」

食料だってなさそうだ。
こんな雪景色しか広がらない場所で、食料や薪になりそうなものを簡単に確保できるとはさすがのオレも思っていない。

「でも、久しぶりに屋根のある場所で眠れるんだからさ。
先のことはあとで考えよう」

ジェドはオレを甘やかすみたいに笑う。
肩を抱き寄せれば、ジェドの香りがする。
触れている部分だけ、妙に熱を持つ。
こんな状況なのに、欲情している自分がいた。
さすがに気付いていないだろうけど、その分ジェドは無防備だ。
安心しきった顔で燃える薪を見つめている。
その横顔も、小さい頃からよく知っているジェドなはずなのに、こんなにも綺麗だったのかと動揺してしまう。

「レビ、なんか静かだね」

「えっ!?あ、いやそうか?そんな事は」

「そうかな。…でも、さすがのレビも歩き疲れたか」

「お前の方が…!」

そういおうとして、コイツが住んでいた場所を思い出す。
男のオレでさえ、夜には通りたくないと思うような道で、塔へ戻っていってたのだ。
さすがジェドというかなんというか…

「なぁ、ジェド」

「ん、なに?」

「お前、綺麗だな」

素直に言葉にしてみると、驚いたようにジェドがオレを見つめる。
頬が紅く色づいた。

「照れてる?」

「急にそんな事言われたら誰だって…!」

「今思ったから口にしただけ」

ジェドがこんな事くらいで動揺するなんて。
これからはオレだけが見ていくんだと思うと嬉しい気持ちとなぜか泣きたい気持ちになる。
肩を抱いていた手でそのままオレの腕のなかにジェドを閉じ込める。
額を合わせて、見つめるとジェドは言葉を飲み込んだ。

「ジェド、ジェド…」

お前が男でも女でも関係ない。
ジェドが好きだ。
お前がいたから、オレはオレのままでいられた。
血がこびりついて綺麗にならないオレの手で、お前に触れる。
それでもジェドはジェドのままだ。

「…レビ、…」

名前を呼ばれ、たまらなくなって唇を奪う。
舌だけは別の生き物みたいに熱くて、ジェドのそれを追い回す。
合間に漏れる声にくらりとした。
こんなジェドを知っているのはオレだけ。
これから何年過ぎようが、オレだけが知っているジェド。

「…ジェド、ジェド」

名前を呼んで、ただ求める。
ジェドがいれば、オレはオレのまま。

「好きだ、ジェド」

何度も愛おしい人の名を呼ぶ。
潤んだ瞳でオレを見つめて、静かにきつく抱き寄せてくれた。

「うん、レビ…私も、レビが好きだよ」

蒔がなくなってしまっても、オレとジェドはただ互いを求める事しか知らないみたいに抱き合っていた。
もう呼べないと覚悟した事だってあった愛おしい人の名前を、ただ何度も何度も呼んで。
これが愛なのかもしれない、とオレが言うとジェドは今更だよと笑った。

誰も知らない(ルーガス×エアル)

私の本当の名前はフランシスカとの秘密だ。
だから誰も知らない、そう…あいつ以外は
誰も知らない

 

 

 

 

女の格好をして町を歩いていると、すぐ姿を見つけてしまった。
隠れようかとも思ったが、変な動きをする方が気付かれてしまうだろう。
平静を装って通り過ぎることにしよう。
ひっそり深呼吸をしてから私は歩き出した。だけど、そんな私の気配にさえ気付いてしまう鷹の次期当主。

「待て」

芯のある声が響いた。
それは自分に宛てられたものではないだろう。
そう言い聞かせ、去ろうとするがあっという間に腕を掴まれて振り向かされる。

「-っ!」

「聞こえなかったか。待てと言ったんだ」

「あはは。私に言ったものではないと思いました」

笑って誤魔化そうとすると、不機嫌そうに視線を逸らされる。
怖いイメージしかなかったはずなのに、会話を交わせば交わすほど、彼という人がどんな人なのか分かるような気がしていた。
もしかしたら仲良くなれるかもしれないと思う気持ちと時折ルーガスが強い瞳で私を見つめてくるから胸の奥がちりちりとした焦燥感を覚える。
焦燥感…っていっていいのか分からないけど。
正直戸惑っているのだ。
ルーガスの態度に。言葉に。

「時間をくれ」

「えーと…人と約束しているので、ごめんなさい」

いつも通り断りの言葉を口にすれば、私の腕を掴む手がより強くなる。

「…あの」

「次はいつ会えるんだ」

「さあ、いつでしょう」

「約束を交わしたい」

「約束は…できません」

「なぜだ」

「…えーと。それは」

ああいえばこう言うとは違うけれど、矢継ぎ早に言葉をかけられ、戸惑う。

「腕、痛いです」

「…すまない」

ようやく腕を離してもらい、ほっとする。

「近いうちにまた」

いつも通りの言葉を紡ぎ、私はなんとかルーガスから逃れる。
情報収集するのなら、もっと言葉を交わして情報を引きずり出せばいい。
なのに、そんな駆け引きが出来ない。

 

「…近いうちっていつだろう」

 

ルーガスから逃げたのは自分なのに。
私はぽつりと呟いていた。

 

 

 

 

最後の夜。

色々な人に会った。
そして、私は道を決めた。
目を閉じると、なぜかルーガスの顔が浮かんだ。

(…なぜか、じゃないな。私は…)

ぼんやりと考える。
性別が皆に知られたけれど。
私の名前が『エアル』だと知っているのは、ルーガスだけ。
彼だけが私を知っている。
そう思うと、ああ…良かったと安堵してしまう。
恋しいと思う人だけが、本当の私だということを知っている。
本当はしてみたい事も沢山ある。
雪のない道を歩きたいし
太陽の下、駆け回ってみたい
女の子の友達を作って、恋の話に花を咲かせてみたり、
好きな人と…なんでもない時間を過ごしたり
そういう小さな幸福が欲しいと思っていた。

だけど、小さな幸福さえ手は届かない。
その中でたった一つ握り締めることが出来る想い。
好きと言葉にする事は叶わなかった。
好きという言葉が正しいのかさえ分からない。
唇を指でそっと撫でる。

(…私は、私じゃなくなってしまう。けれど、)

ルーガスが、私が誰かを知っていてくれるだけでいいと思えた。
そんな恋もあるのだと初めて知った。

(私がエアルだということを、この世界がなくなってしまっても覚えていて…なんて言えないけど)

 

私はただ願いを胸に目を閉じた。

恋にも満たない感情(耶告×紘可)

「ねえ、耶告」

学校へ行って、帰って来て、眠って、耶告のご飯を食べて、眠って…
大体毎日同じことを繰り返している。
耶告はそんな私を見て、時折わざとらしいため息をつく。
それを聞こえないふりをして、私は耶告の名前を呼ぶ。

「耶告、彼女とかいらないの?」

両親が亡くなって、友達だった耶告が私を引き取ってくれた。
実の親よりも長い時間を過ごしている世界でたった一人の私の家族。

「何言ってんだよ、おまえは。そんな事よりお前はもっと外に遊びにいけ」

「えー」

「えーじゃない!そんなところでごろごろしてるんなら掃除手伝ってもらうぞ」

そう言って耶告は私に雑巾を押し付ける。
今日はベランダの窓を綺麗にするとか言ってたのを思い出す。
しかし、今更思い出してももう遅い。
逃げ出すことも出来るけど、たまには耶告のお手伝いをしてあげようとのろのろと起き上がった。

「顔だって悪くないのに、どうして耶告には彼女とかお嫁さんがいないんだろう」

「今日の晩御飯、にんじんだけにするぞ」

「何にもいってませーん」

窓をせっせと拭く耶告の横顔をちらりと盗み見る。
顔だって悪くない。世話焼きだし、料理は上手だし、まぁ…性格だって悪くない。
だけど、今まで一緒に暮らしてきて、耶告に恋人がいる気配を感じた事が一度もないのだ。
私に気を遣っているのかもしれない。
そんな気遣いなんて、いらないのに。

「このままじゃ耶告の老後が心配になるかも」

「俺はお前のぐうたらが心配だよ」

昔から眠ることが大好きで、めんどくさいことが嫌いだった私に根気よく髪の結い方を教え込んだ耶告。
小さな女の子の面倒をある日突然見るだなんてきっと大変だっただろう。
デパートに私を連れて行き、ファッションショーのごとく大量の服を着せられた日もあった。
長期休暇の宿題が終わらず、徹夜で一緒にやってくれたこともあった。
耶告との思い出なんて数え切れない。

 

耶告は私にとって何よりも大切な人。

両親を失って、ぽっかりと胸に穴があいたような気持ちになって眠れない夜。
耶告は私の手を握ってくれた。

初めての授業参観で、少し気まずそうにしながらも最後まで私を見ていてくれた耶告。
うたた寝しそうになったことを帰り道に怒られたのも覚えてる。

 

「じゃあ耶告が結婚できなさそうだったら私がもらってあげる」

耶告にお嫁さんが来たら―

私と耶告は家族じゃなくなるかもしれない。
それでも、私の世界で一番大切な人が、幸福になるのならそれでもいいかと思っているのに
少しだけそれが寂しいと思ってる自分がいる

「…紘可」

耶告が、驚いたような、悲しそうな顔をした。
そんな表情をする耶告なんて見たことなかったから、私は内心どきりとしてしまう。

「お前が心配しなくたって大丈夫だよ」

「そう」

いつか。
家族じゃなくなる日が来るのかもしれない。
そう思うとたまらない気持ちになるが、でもいつかはまだ来ない。

「今日は焼肉が食べたいなー」

「肉ばっかり食べてたら栄養かたよるだろ、却下」

「えぇー。こんなに手伝ってるのに」

 

いつかが来た時。
私は耶告の幸福を祝福できるように。
笑えますように。

 

だから今は、私だけの耶告でいてくれますように。

 

二人だけの部屋で、私はそんな子どもみたいな独占欲の感情の名前を探していた。

9~10月プレイ状況

ペルソナが発売してからただひたすらペルソナ5をやっていました。
おかげでそんなにプレイしていないかな?
ペルソナ5、めっちゃ面白かったです!!!!明智くん!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

灰鷹のサイケデリカ

うさぎちゃん可愛い。いや、可愛すぎるだろう。どういうことだって何度も思いました。
教会組は色々としんどかったですね…いや、黒蝶ネタぶっこんでくるから「ああああ・・・なっちゃんんん」ってなるよ、なりますよ。
一番最初に少女END行ってしまいまして、夜中に「あああああああ・・・!!!アイちゃん!!!!」って泣きました。
アキアイ要素をありがとう、おとめーと様。サイケデリカスタッフの皆様。
ルーガス、良かったですね。ルーガスENDよりもTRUE ENDがルーガスエンドだったね。
愛する人を殺す約束を守り、そしてその手を離さないと決めたからには潔く自分の命も絶つ。
ルーガス最高かよ…すごい良かった。本当に良かった。
狼族の兄弟に背負わされた業が深すぎて、しんどかった。
ヒューっていうか旅人END?は何にもとらわれない、ただの女の子として生きたいと思った姿がいとおしかったです。
サイケデリカ、続けようと思えばいくらでも続けられる題材だよなーって今回改めて思った。
ぜひ続いて欲しいな。期待を裏切らない素晴らしい作品でした。

 

ノルンノネットアクトチューン

ありがとう、ノルン。ありがとう、ノルン。
あきななぁああああってなったよ。当たり前だけど。
LEの合間の話と後のお話。凄く良かったです。
あきななの結婚式見れて泣いた。暁人の愛がつまったウエディングドレス、ううっ・・・
欲をいえば、七海組は子どもいないので、子どもみたかったなぁっていうのがあったり。
でも、七海自身が母親になるってことに凄く臆病になっているから、家族になるという形に至った奇跡にまず感謝すべきですよね。
いつかあきななの子どもが見たいよ・・・!
こはる組は、正宗か駆が子ども出てくるかなと思ったけど、駆でしたね。凄くよかった。
深琴組は、深琴の角がとれて、本当に誰かを一途に愛する女の子になったんだな・・・って思うと凄くしみじみしました。
あと!!!LE後の話だと、大体みんな結婚してるから苗字かわってるの!!!こはるには苗字あるの!!!!
それが凄く感慨深かった・・・ありがとうアクトチューン。
あと、学園ノルンとRPGはまぁ・・・いいや。公式がやるパロディが元々あんまり好きじゃないので。
あきななで言えば、互いに過去に被害者・加害者となって、それを乗り越えていったから二人は結ばれた・・・っていう経緯も全て愛してるので、
暁人が世話焼きおかんの鳥苦手。七海がぼんやりしてるけど、食いしん坊。っていうだけを抽出してやられてもな~ってなっちゃいました。
二次創作とかなら楽しいんですけどね。公式がやると冷える。
いや、学園ものなら学園ものらしく「吾妻先生」とかいう深琴がみたい。「夏彦」って普通に呼ぶんだwwwってなった。
でも、いいんです。結婚おめでとう、みんな。ありがとうアクトチューン。ノルン大好きです。

 

BEYOND THE FUTURE – FIX THE TIME ARROWS –

合間合間にやっていたおかげでぼんやりしてしまって申し訳ない。
ラブロストってなんだ???いや、ちゃんと物語読んでいたんですけど、なんかついていけないwwwってことが多かったですが、スチルとか綺麗でしたよ!!
RPGでやったら本当に面白かっただろうな~っておもう。ネイトが34歳だってことに驚きつつも、ネイトが一番好きです。やっぱり子どもいるENDって美味しいな。可愛かった。

 

PsychicEmotion6

どこかで見たことあるような設定・展開を詰め込みました!!!!!ってかんじです。
普通。めっちゃ普通。元々原画の人の絵がそこまで好きってわけでもないので、スチルも普通かな~って思ったし、主人公よりも主人公の友達の方が可愛い。
そして、主人公は普通の、乙女ゲームではよくいる女の子かな~。
だけど、シナリオは割りとボリュームあります。それを×7人。
よくある設定・展開をあれだけ繰り返すんならもっとひねりが欲しかった。

 

悠久のティアブレイド

クレイドルに落ちました。どうもどうも。
いや、シュド√美味しかったけど、クレイドル良かったね。「ひとりはさみしい」っていって、自分のわがままでイヴちゃんを作ってしまったこと。
そういうのに抜群に弱い。
過去イヴについてはー、うん。
ロウENDが納得いかないって思った。いや、過去イヴでしかロウを幸せにしてあげることは出来ないけど、過去イヴはそもそも3000年前にロウを好きだったんだろうかっていうのが一番引っかかる。
彼女はあの時点では、ロウが自分を求めてくる・・・支えてあげなきゃ、自分がついていてあげなきゃ・・っていう義務感だったり、同情だったりが働いたんだと思う。
で、ギルが死ぬんだって分かった時、イヴはロウのことなんて考えないで走り出しちゃったわけですよね。
家族としてだろうと、そうでなかろうとあのイヴはロウよりもギルをあの瞬間選んだんじゃないだろうかってずっと思ってた。
永い年月、ロウを探していたのも、自分と分かり合えるのはロウしかいなかったから。それは恋ではなくて、依存というかなんというか。
だから過去イヴになって、「私もロウが好きって気付いたわ」みたいな流れだと「?????」ってなっちゃう。
過去イヴで攻略するキャラがロウしかいなかったのであれば、3000年前から彼を好きだという描写はもっとあっても良かったと思うし、昔の二人のエピソードをもっと盛り込んでくれれば置いてけぼりにならなかったかなー。
あとは物語の整合性のなさ。
イヴちゃんが「し」というものを知らないっていうわりには、「し」んじゃうとか「し」ぬ、「し」なないとか。活用できてんじゃんっていう謎。
わざとそうしてたのかもしれないけど、伏線というかそういう回収もうちょっとしても良かったかなぁ?
面白かったけどね!!!ちょっと気になっただけです!!
あと、一番最初に起動したときにヤジュルに首しめられたかなんかのスチルだったので「こいつ敵か」っていうネタバレを食らって笑いました。

 

ゆのはなSpRING!〜Cherishing Time〜

短いよ~って聞いていたので、短いのは全然OKです。
アナザーストーリーはイマイチかな~ってなりましたが、(それはただ単に新キャラ好きじゃないだけ)アフターストーリーいいね!!!!
ウェディングドレスの二人も見れるし、結婚した後の様子も見れるし、幸せいっぱいだな!!!
人死んだりしないし、殺伐としてないし、どこに転がってもゆのはちゃん幸せだし!!!
糖度高いけど、健全な糖度というか、「あー幸せそうだなぁ」ってなってそういう明るい作品あんまりないから余計眩しい。
あんまり露骨なえろい感じがあんまり得意じゃないので(やるならエロゲーでやれっていう人なんです)、
こういう健全ないちゃいちゃ~って可愛いし癒される。

消えない痕(契×市香)

カーテンの隙間から差し込んだ明かりで目を覚ます。
元来、そんな繊細な性質ではないが今日は眠りが浅かったのだろう。
隣で眠る彼女は肌寒いのか、猫みたいに体を丸めてオレに寄り添って眠っている。

(可愛いなぁ)

タオルケットがかかっていないむき出しの肩が寒そうだ。
顔を近づけて唇を落とす。
少し冷えた肌に何度か口付けをし、その後起こさない程度に吸い上げた。
赤い花が、そこに咲く。市香ちゃんの白い肌に残す痕。
昨夜だけでも数えるのがバカらしいくらいつけた。
目を覚ましたらきっと彼女は顔を真っ赤にして怒るんだろう。
早くその顔が見たくて、タオルケットの中に潜り込んで眠る彼女のいたるところに口付けを落としていく。

「ん……、おかざきさん?」

まだ眠そうな、そしていつもより掠れた声にほくそえむ。

「おはよ、市香ちゃん。よく眠れた?」

「…いま、何かしてました?」

「うん。してたよ」

「何を」

「キミが寒そうだったから暖めてあげようと思ってキスしてた」

「…岡崎さん、あの…」

市香ちゃんは想像した通り、顔を赤らめて上目遣いにオレを睨む。
そしてタオルケットの中を覗き込んで、ため息をつく。

「岡崎さん、あんまり痕、残しちゃ駄目って前に言いましたよね?」

「うん、聞いたね」

「…香月に指摘されて恥ずかしかったんです」

「うん。だから今回は見えないところにばっかりつけたよ」

「岡崎さん…」

困ったような顔をする市香ちゃんを抱き締めると、諦めたみたいに力を抜いた。

「岡崎さんは、痕をつけるの好きですね」

「んー、そうかな?」

「そうですよ」

回した腕に市香ちゃんが触れる。
手も小さいし、指も細い。
こんな子が拳銃を握るなんて想像つかないだろう。

「市香ちゃんもオレにつけてみれば?」

「……いいんですか?」

「うん」

オレの顔をじっと見た後、鎖骨の下あたりに唇を寄せて吸われる。
自分が促したとはいえ、彼女がこうやってしてくれたことが嬉しくて顔が綻ぶ。
しばらくして唇を離すが、赤くなりはしたがすぐ消えてしまう。

「難しいですね、つけるの」

「でも、キミの痕ならここにあるからいいんだけど」

「ここ?」

「うん」

そう言って彼女の手を背中へ移動させる。
触れただけで分かるだろうか。昨夜キミが残した痕。

「-っ!!痛くない、ですか?」

「痛くないよ。だってキミがつけてくれた痕だから」

オレの言葉を聞くと、申し訳なさそうにオレを見つめながらやさしく背中をさすってくれる。

「こっちは練習してつけれるようになって」

こんな痕、数日も経てば消えてしまうけど。
それでもキミからもらいたいなんて願ってる。

「…がんばります」

「うん」

健気な市香ちゃんは決意したみたいに頷いてくれた。
それが嬉しくて、彼女に頬ずりする。

「市香ちゃん、これから練習しようか」

「え?これから?」

「うん、そう。これから」

まだ朝も早い。
彼女のぬくもりをこれだけ堪能してしまったんだから、もう我慢出来ない。
彼女の返事を待たずに、今日初めての唇へのキスを送った。

Be with you~night~(秋梓)

待つ時間は嫌いじゃない。
時計を確認すると彼が帰ってくるいつもの時間まであと一時間くらいある。
今日の夕食は旬のお魚が手に入ったので、焼き魚の予定だ。
昔は全然料理が出来なかったけれど、今は仕事から帰ってくる彼を喜ばせたいという気持ちから料理の勉強をしている。

(シベリアだって作れるようになったんだから上出来…だよね?)

彼の好物であるシベリアもたまに彼のおやつとして持っていってもらってるが、シベリアを持たせる日は必ず仕事がはかどるといって少し早く帰って来てくれる。シベリアおそるべし。

 

 

 

チャイムが鳴り、玄関まで駆けていって扉を開ける。
仕事から帰ってきた秋兵さんが立っていた。

「ただいま、梓」

「秋兵さん、おかえりなさい!」

十時間前後しか離れていないはずなのに凄く久しぶりに会う気持ちになる。
玄関まで必ず迎えに出たいからチャイムを鳴らして欲しいと彼にお願いしているのだ。

「梓」

鞄を受け取ると、秋兵さんは私の耳に髪をかけ、そのまま頬にキスをしてくれた。

「ただいまのキスです」

「…おかえりなさい」

私もお返しに少し背伸びして彼の頬に口付けた。秋兵さんはそれを嬉しそうに受け入れた。

「夕食、すぐ支度しますね」

「手伝いましょう」

「これは私の仕事です。秋兵さんは仕事から帰ってきたんですから着替えてゆっくりしてください」

台所についてこようとする秋兵さんの背中を押して拒む。
秋兵さんはわざとらしく悲しそうな顔を作るが、私はそれを無視して着替えをしてくるように促す。

「今日もお弁当美味しかったです。ありがとう」

「そう言ってもらえるだけで十分です。夕食も楽しみにしていてください」

「分かりました」

秋兵さんを台所からようやく追い出すと私は夕食の支度へ取り掛かる。
受け取ったお弁当箱は米粒一つ残っていないくらい綺麗に食べてくれていて、相変わらず清清しいお弁当箱だ。

 

 

 

「ご馳走様でした」

「お粗末様です」

「梓の料理の腕前はあっという間に上達していくね」

「秋兵さんに美味しいもの食べて欲しいって思うからですよ。今、お茶の用意しますね」

「あ、それは僕がしますよ。梓は座っていて」

「じゃあお願いします」

頷くと秋兵さんは立ち上がって台所へ消えていく。
秋兵さんの淹れてくれるお茶は美味しい。
私が淹れるものより深みがあって美味しく感じる。
テーブルに肘をついて両手に顎を乗せて、彼が戻ってくるのを待つ。
目を閉じれば、秋兵さんが台所でお茶をいれてくれている光景が浮かんでくる。

「お待たせ」

「ありがとうございます!」

お盆に二つの湯のみとお皿が載っていた。お皿には紙がかかっていて、何が載っているか見えない。

「秋兵さん、それは?」

「ふふふ、それはですね」

にやりと笑うと得意げに紙を取り払った。

「あ、シベリア!」

「そうです。駄菓子屋さんに寄ったら売っていたので。一緒に食べましょう」

「わぁ!嬉しいです!」

淹れてくれたお茶を一口飲むとやっぱり美味しい。

「秋兵さんが淹れてくれるお茶って凄く美味しいです」

「それは君への愛情がたくさん入っているからですよ」

「ふふ、だと思いました」

私が微笑んでそう返すと、秋兵さんは少し驚いた顔をした。

「君も言うようになりましたね。僕の言葉に慣れてしまいましたか?」

「慣れるっていうと聞こえが悪いですけど…
そうですね、慣れました。でも、嬉しい気持ちは変わりません」

慣れるくらい私への愛の言葉をくれる秋兵さん。
その気持ちが嬉しくないわけない。
変わらない愛情を毎日毎日注いでくれて、私がもしも花だったら綺麗な大輪が咲いていたんじゃないかって思うくらい愛情をもらってるだろう。

「初々しい君も好きでしたけど…僕の愛情を受け入れてくれる君が大好きですよ」

「秋兵さん…」

「さあ、一緒に食べましょう」

「あ、待ってください。一人一個は多いので、一つを半分こずつしましょう」

私はシベリアに手を伸ばし、半分に分けるとその片方を秋兵さんに差し出した。

「食べさせてくれるんですか?」

「え?そういうつもりじゃなかったですけど…」

楽しげに輝く瞳が可愛かったから、私は秋兵さんの口元へシベリアを寄せた。

「今日はトクベツですよ。はい、あーん」

「あーん」

ぱくりと食べると、残りは私から受け取って食べ始める。
そんな様子を見てから私も自分の分を食べ始めた。

「なんだかバカップルみたいですね」

「バカップル?」

言葉の意味が分からなかった秋兵さんは首をかしげた。

「…えーと、まわりが見えてない仲良しの恋人…ですね」

「それは違いますよ。君は僕の愛する奥さんです。」

そう微笑まれて、心臓がドキリとした。
ああ、慣れたなんて言ったけど、やっぱり全然慣れてない。

「梓。顔が愛らしい程赤くなっていますよ」

「…気のせいです」

「そうですか、残念。愛おしい君への言葉が響いたのかと思いました」

私の気持ちなんてお見通しみたい。
秋兵さんが嬉しそうに笑うから恥ずかしさを誤魔化すようにシベリアをまた一口頬張った。

「甘いですね」

「そうですね、まるで…」

「秋兵さんみたいに甘いです」

私がそういうと、珍しく秋兵さんが赤くなって微笑んだ。

Be with you~noon~(ラスラン)

普段お昼は、食堂で食べる事が多い。
今日は午後の授業が休講になり、他の当番もないので昼食を食べるために街へ出てきた。
本当はユリアナも一緒に行こうと言っていたんだけど、エリアス教官に呼び出されてしまった為、一人の昼食になってしまった。
緑の滴亭に行こうかとも考えたけれど、ユリアナと週末に一緒に行く約束をしていた為、その前に一人で行くのは憚られた。
どうしようかと街をぶらぶらと歩いていると、ベーグルに具をたっぷりはさんだサンドウィッチを見つけて、それにする事に決めた。
照り焼きチキンとレタス、ゴボウをマヨネーズで和えたものがはさんである。
ちょうどいいところにベンチを見つけたのでそこで昼食をとることにする。

「いただきます」

アサカの国では食べる前に両手を合わせるそうだ。
そう聞いてから私もその習慣を真似るようになった。口を開けてベーグルにかじりつくと、ふと私の前に誰かが立っていた。

「ねえ、そこの彼女。俺とお茶でもどうかな」

「ラスティン」

「隣、いい?」

「うん、どうぞ」

ベーグルを食べようとしていた口を慌てて手で覆うとラスティンは私の隣に腰掛けて顔を近づけた。

「こんな所で一人寂しくランチするくらいなら、俺のこと誘ってくれても良かったんじゃない?」

「ラスティンのこと探したんだけど見つけれなくて」

それは嘘。
ユリアナがエリアス教官に連れて行かれた後、ラスティンのことはもちろん探した。
ラスティンを探してうろうろしていると、ようやく見つけた彼は真剣な表情で鍛錬していた。
それを邪魔することがどうしてもはばかられて一人でやってきたのだ。

「ふーん。ランは聞き分けが良すぎるところが良くないね」

「え?」

ラスティンは私が持っていたベーグルを私の手ごと引き寄せ、一口かじりついた。

「……っ!」

「ん、結構イケるね。これ。俺も買ってこようかな」

「…ラスティンの分も買ってあるんだけど、食べる?」

一人分だけ買うのは味気なくて、ラスティンの分も買っていたのだ。
袋から彼の分を取り出すとラスティンは驚いたように私を見た。

「俺が来るっておもってた?」

「…来るとはおもってなかったけど、来たらいいなって思ってた、が正解かな」

「はは。俺、ランのそういうところ好きだな」

私が持っていたベーグルを受け取ると、ラスティンは包みを開けて食べ始めた。
ラスティンは出会った時からいつだって優しかった。
初めて出会った時、蒼いアネモネを持って現れたラスティンにびっくりしてしまったけど、魔剣を宿した私にああやって軽口を叩いてくれたのはやはりありがたかった。

「ラスティンって…」

「ん?俺が何?」

何を聞こうとおもったんだろう。
隣から伝わるぬくもりはとても心地良くて安心する。
魔剣がなくなった今、普通の女の子でしかない私はラスティンの隣がふさわしい女の子になれているんだろうか。
そんな事をうまく言葉に出来ず、私は困ったようにラスティンを見つめると、ラスティンは私の言葉を待つように優しく笑った。
そんな時、道行く人が一人立ち止まった。

「あら、ラスティンじゃない。こんなところで何してるの?」

その人は女の私から見ても綺麗な人で、大人の色香というのはこういうものだと身体で表しているような女性だった。

「見てわかんない?彼女とデート中」

「健全なデートだこと」

「うるさい。あんたには関係ないだろう」

「そうね。それじゃあまた」

私に対してもにっこりと微笑むとその女性は立ち去って言った。ラスティンは何事もなかったように私を見つめた。

「で?」

「で?」

「さっき、言いかけた言葉は聞かせてくれないのかな」

「…ええと、その…」

口に出す事はやっぱり憚られて、私はベーグルを頬張ることしか出来なかった。
食べ終わると、私の分もゴミを捨てにいってくれた。私はその後ろ姿を見つめていた。

「あの、すいません」

「はい?」

突然声をかけられ、顔を上げると知らない男の人が紙を片手に持っていた。

「ここに行きたいんですけど、道分かりますか?」

「ああ、それなら…」

メモを見せてもらい、道順を伝えると男の人は安心したように笑った。

「ありがとうございます。さっきから同じところをぐるぐるしていて困っていたんです。助かりました」

「いえ、お気をつけて」

男性を見送ると入れ替わるようにラスティンが戻っていた。

「ありがとう、ラスティン」

「…うん」

「ラスティン?」

なんだか不機嫌そうな顔をしているラスティン。
何かあったのかと思い、顔を覗きこむとラスティンはため息をついた。

「あー、俺かっこわるい」

「え?」

そう言って、周囲に人がいるにも関わらずラスティンが私を抱き締めた。

「ごめん」

すぐ離れたぬくもりに動揺が隠せない。
けど、このままラスティンが離れるのは嫌だから私は慌てて彼の手をとった。

「ラスティン、言葉にしてくれないと分からないよ」

「…わるい」

きゅっと手を握ると、ラスティンは降参だといわんばかりに額に手を当てた。

「ちょーっとヤキモチ妬いた」

「ヤキモチ?」

「嘘、かなり妬いた」

「え?え?」

いつ妬くような事があっただろうか。
私が困惑していると、ラスティンが私の手を握り返した。

「今、知らない男と話してただろ?
道を尋ねてただけって分かるけど、あんたの笑顔は俺が独占したいって思っちゃったんだよね」

「…ラスティン」

「それに引き換え、ランはさっき俺に女の人が話しかけてきても動じないし、どっちが年上だかわかんないなーって反省してたところ」

「私だって妬いたりするよ。
さっきの人は仕事関係だろうなって思ったし…その、ちゃんと相手にも彼女って言ってくれたから妬かないでいいんだっておもったし」

そう、ラスティンは私が不安がるような事は一切しない。
初めての恋に戸惑う事も多い私だけど、ラスティンは過剰な不安を与えるような真似は決してしない。

「それに…ラスティンが私にちゃんと好きだっていう事伝えてくれるから不安にならなくて済んでるのかもしれない」

「本当にあんたは…」

繋いだ手を持ち上げて、私の手の甲にラスティンはそっと口付けた。

「きゃっ」

「ランのそういうところ、好きだよ」

初めて出会った日にもこうして手の甲に口付けられた。
あの日から一年も経っていないのに、いつの間にこんなに好きになったんだろう。
ラスティンに恋をしていない自分を思い出せない。

「私もラスティンのそういうところ、好き」

好きという言葉を口にすることにはまだまだ慣れないけど、彼が私にしてくれるように、私も彼に安心をあげたい。
だからもう少し頑張ろう。

「言葉にしなきゃいけないのは私のほうだね」

「ゆっくりでいいよ。頑張るあんたも好きだけど、俺の前では無理しないで欲しいから」

「うん、ありがとう」

私にはもうトクベツな何かはないけれど。
ラスティンの隣にいる自分がいつでも胸をはれるような自分でいたいから。

「また今度、ケバブサンド食べたいな。その時は付き合ってくれる?」

「ああ勿論。可愛い彼女のお願いならいくらでも」

そう返事をすると、ラスティンは私にウィンクしてくれた。

Be with you~morning~(モドアル)

いつもより早く目が覚めてしまったある日の事。身支度を整えると、私は朝の散歩をすることにした。
庭園まで足を運ぶと朝露で濡れる花がキラキラと輝いて見えた。そういえば城で暮らす前はこういう光景も見ていたんだ。
最近は忙しさに目を回してばかりで、花を愛でる時間さえなかった気がする。
気持ちに余裕がないと表情も強張る…。朝露を覗き込もうと身体を屈めると、突然肩を叩かれた。

「やあ、アル」

「……モードレット?」

振り向くと、にっこりと笑みを浮かべたモードレットがいた。驚いて固まる私を見て、くすりと笑う。

「なに、そのお化けに出会ったみたいなカオ」

「こんな時間にこんな場所で会うと思わなかったから」

「俺に会いたくなかった?」

「……その聞き方はずるいと思う」

好きな人に会いたくないわけがないもの。

「ふふ、ごめん。膨れないでよ、アル」

そう言って、私の頬をつついてくる。そんな事されたら余計膨れて、モードレットを困らせてあげたくなる。

「それよりもどうしてこんな朝早くにモードレットはこんな場所にいるの?」

「俺、早起きなんだ」

「………」

「というのは冗談で、今日は珍しく早く目が覚めて、窓の向こうを見ていたらアルが出てくるのが見えたからこうしてはせ参じたというわけさ」

「モードレットの部屋から見えるの?」

行った事はないけど、彼らが住んでいる場所は分かっている。果たして見えるんだろうか?と首をかしげると、モードレットは私の髪にそっと触れて、唇を寄せた。

「今度確かめに来てみたらいいと思うよ」

「お部屋に行くのは、その……」

からかわれているのかもしれないが、こういう時のモードレットはずるい。
何度されても慣れる事がなくて、頬が赤くなってしまう。

「アル、顔真っ赤」

そういうモードレットもよく見れば、赤くなっている気がする。

「モードレットだって」

私がそう言いかえそうとすると、モードレットは小さく笑った。

「ごめん。ちょっと浮かれてた」

「え?」

「朝からアルに会えたから」

よく見れば、モードレットの髪は少し跳ねていて、本当に彼は私を窓から見つけて、慌てて出てきたのかもしれない。そう思うと、胸が高鳴ってしまう。
髪に触れていた手を、私にそっと差し出すとモードレットは少しだけ真剣な瞳で私を見つめた。

「姫、お手をどうぞ」

「…姫、ではないよ。モードレット」

「俺にとっては愛おしいお姫様だよ、アル」

言葉にされるとくすぐったいけど、好きな人が自分を好きだと伝えてくれること。
こんなに嬉しい事は他にはないと思うくらい、私は幸福だ。

「じゃあ…モードレットは私だけの王子様だね」

彼の手をとると、私たちは並んで歩き始めた。

 

 

 

朝の庭園は静かだ。
小鳥の鳴き声もほとんど聞こえない。
空気は澄んでいて、とても落ち着く。

「なんだか世界に私とモードレットしかいないみたいだね」

湖に行った時も二人きりだったけど、あの時はこんな気持ちにはならなかった。
朝特有の空気がそんな事を考えさせるのかもしれない。

「もしもこの世界が俺とアルだけだったら幸せだろうね」

「どうして?」

「だっていつだって君を独占できるんだから」

たまに見せてくれる彼の独占欲が好きだ。

「モードレットってたまに子どもみたいな事いうよね」

「子ども、ねぇ」

私の言葉に眉間に皺を寄せるモードレット。
まさか子ども扱いされると思わなかったのか、不機嫌さを露にする。

「ふふ、可愛い」

「男に可愛いっていうのはナシだと思うよ。俺よりアルの方が可愛い」

ムキになって言葉を返すところもこうやって想いが重なるようになってから見せてくれるようになった一面だ。
私だけに見せてくれる全てが愛おしくて、抱き締めたくなってしまう。

「…アル。俺で遊んでる?」

「まさか」

「今凄いにやにやしてたよ」

「にやにやは言葉が悪いと思います」

「俺で遊ぼうとするアルが悪いと思います」

見つめ合ってしばしの沈黙。私が堪えきれなくなって噴出してしまう。

「あはは、モードレットってば」

「アルも人が悪くなってきたなぁ」

肩をすくませてやれやれといわんばかりに訴えてくるモードレットが可笑しくて私はまた笑ってしまう。

「それはお互い様だよ」

「俺はそんなに人悪くないよ」

「ふふ、そうだね」

「そうだねって顔してないけど」

「ん?そうかなぁ」

他愛のないやりとりをしていると、ライラックの花の前にさしかかる。モードレットは足を止め、それを嬉しそうに見つめる。

「色によっても意味が違うんだってね」

「何が?」

「花言葉」

「…どうだったかな」

「覚えてますって顔に書いてあるよ、アル」

白のライラックは、青春の喜びというらしい。
私が以前、モードレットに贈ったライラックは紫色のライラックだ。紫のライラックの花言葉は―初恋だ。
私に恋を教えてくれたモードレットにあげるならライラックしかないと思って選んだお花だけど、意味が知られてしまって少しだけ恥ずかしい。
照れを誤魔化すためにライラックに視線を移した。

「アル」

私の名前を愛おしそうに呼ぶ。
隣にいるモードレットを見上げると、彼の顔が近づく。
私も応えるように瞼を閉じると、そっと唇が重なった。

「今度さ、夜が明ける時一緒にいたら…紅茶を一緒に飲もうよ」

「え?」

「意味、分かる?」

唇が離れると、耳元で囁くように言葉を紡ぐ。
言葉の意味を理解すると、私は慌ててモードレットの胸を押して距離を取った。

「…そういうのは、こんな時間から言っちゃダメだよ」

「今度って言ってるのになぁ。もしかして今夜いいのかな?」

からかうように言葉を続けるモードレットにもう一度近づき、彼の胸に手をやって背伸びをする。

「え、ア」

私の名前を呼ぶ唇をそっと塞ぐ。
しばらくして唇を離すと、モードレットは目を見開いたまま固まっていた。

「…夜明けの紅茶は保留として、これから一緒に紅茶どうかな」

自分から口付ける事なんてほとんどないから自分でも恥ずかしい。
早口にそう伝えるとモードレットは私の手を掴んだ。

「生殺しっていうんだよ、そういうの」

「…モードレットは私の気持ちを無視するような人じゃないと思うから」

「当たり前でしょ、もう…」

困ったように笑うと、モードレットは私を引き寄せて力強く抱き締めた。

「今日はこれで我慢する。だからもう少しだけこのまま抱き締めてもいいかな」

「…うん」

「その後、一緒に紅茶を頂くよ」

「うん」

モードレットの腕の中、私もただただ幸福をかみ締めていた。

彼女に友達が出来ました(アキアイ)

※灰鷹のネタバレを含みます。ご注意ください

 

 

 

 

 

 

普段、アイちゃんのクラスに顔を出すということはほとんどない。
下級生が上級生の階の廊下を歩いてる事自体良い顔をされないし、そもそもアイちゃんが恥ずかしがるのであまり行かないようにしている。
が、今日は緊急事態。アイちゃんのクラスを覗くと、窓際の席に座っているアイちゃんを見つけた。

「ア・・・」

名前を呼ぼうか一瞬悩み、オレの横を通り過ぎていこうとした女子生徒を捕まえる。

「すいませーん。湊戸先輩呼んでもらえますか?」

「湊戸さんね、ちょっと待ってて」

その女子生徒がアイちゃんの元へ行き、オレを指差す。
アイちゃんはそれでようやくオレの存在に気付いて席を立った。

「アキちゃん、どうしたの!?」

「いや~、今日携帯忘れちゃって。アイちゃんが連絡返ってこなくて心配しないようにーって思ったんだけど」

「あ、そうなんだ。分かったよ」

アイちゃんはオレの言葉に頷く。
オレはさっきまでアイちゃんと楽しそうに話していた子を気付かれないように見る。

「うん、それだけ。じゃーね」

オレはひらひらとアイちゃんに手を振ると、自分の教室へと向かった。
あー、オレが同い年だったらアイちゃんと机を並べて授業を受けることも出来たのに、と何度考えたかわかんない事を思い浮かべる。
転入生がやってきた、とアイちゃんに聞いた時はあんなに仲良くなると思っていなかった。
放課後だったり、休日だったり、遊んだりしているようだ。
彼女とどこへ行った、楽しかった・・・といったような話もよく聞くようになった。

(・・・女の子に嫉妬するっていうのもなー。でも、イケメンっぽいカオしてたし)

アイちゃんがあんなふうに作った笑顔じゃなくて、オレにも見せてくれるような顔で笑うのを女の子に見せてるのは初めて見た気がする。
それだけ仲良くなったということだろう。

 

とられたら面白くないな、と思いながらもオレはその後の授業をぼんやりと受けた。

-放課後。
今日は一緒に帰る約束をしていたので、下駄箱のところでアイちゃんが来るのを待つ。
すると、例の彼女が現れた。

「どうも」

「どーも」

オレの存在は認識しているようで軽い言葉をかわすと、

「今先生に呼ばれてたからもう少しかかるかも、彼女」

「あーありがとうございます」

へらっと笑ってみせると、彼女は何かを察したのか苦笑いを浮かべる。
そうして、軽く会釈をしてオレの横を通り過ぎていった。

・・・まぁ、男でも女でも関係ないんだけど。オレが妬いちゃうのは。

苦笑いを浮かべながらも、彼女の背中を見送る。
と、色黒の生徒が彼女に声をかけた。
あの人も確か転入生・・・だったかな?振り返った彼女の表情を見て、オレは固まる。

(・・・あれは、もしかして)

恋をしている、ということが一目見てわかる表情だ。

 

「ごめんね、おまたせ!アキちゃん」

「すっげー待ったよー」

「えぇ?ごめんね!」

アイちゃんが駆け寄ってきてくれたので、わざとらしく拗ねてみせるとアイちゃんは申し訳なさそうな顔になる。

「嘘だよ。アイちゃん困らせたくなっただけ。帰ろっか」

「うんっ!」

アイちゃんと並んで歩き始める。
ちらりとアイちゃんに視線を送ると不思議そうに首をかしげられる。

「どうかした?」

「アイちゃんってオレのこと、大好きだーって顔してるよね」

「え!?そ、そう?」

アイちゃんは慌てて両手で頬をおさえる。
それが可愛くて、オレは笑う。

「女の子は恋をしてると、より一層可愛く見えるよね」

「・・・アキちゃん、恥ずかしいからあんまりそういう事言わないでよ」

「ごめんごめん」

アイちゃんと話す彼女は楽しそうに笑っていて、正直オレのライバルなんじゃないかって思ってしまった。
だけど

「アイちゃん、友達できてよかったね」

「・・・うん、ありがとう」

アイちゃんの手をきゅっと握ると、恥ずかしそうにしながらも手を握り返してくれた。
オレの大事な彼女に友達が出来たこと、素直に喜んであげてもいいみたい。
なんてことをさっきみた光景を思い出しながら、考えていた。

 

紳士のたしなみ(尊×市香)

久しぶりに重なった休日。
家でのんびりするのでも良かったが、休みが重ならない限り俺と市香の世界はほぼ俺の家で終わってしまう。
さすがにそれも良くない。
昨夜家に泊まった市香が朝食の支度をしている姿を見つめながら俺は口を開いた。

「出掛けるか」

「え?」

フライパンに溶き卵を流しいれた音のせいで届かなかったのか、市香は不思議そうに顔を上げる。

「笹塚さん、何か言いましたか?」

「だから、出掛けるぞ。今日」

ぶっきらぼうに伝えると、すぐさま嬉しさに満ちた返事が聞こえた。

 

 

 

 

「ふふ」

俺の腕をぎゅうっと掴む市香はご機嫌だ。
平日休みのありがたいところは街中がそんなに混んでいないという点だろうか。
市香がいなければ休みなんて大して関係ないのだが、ご機嫌な恋人を横目で見て、外に出て良かったなどと思ってしまう。

「笹塚さんが出掛けようなんて珍しいですね」

「たまにはな」

恋人・・・市香を喜ばせたいとはまぁ、そこそこ考えている。

「もう秋なんですもんね、はやいですね」

「もうすぐ一年か」

出会ったのは12月。
めまぐるしく時間は流れ、気付けばもう秋だ。
一年前、誰かが俺の隣にこうしているだなんて想像もしていなかった。
市香をちらりと見ると目が合った。

「バカ猫に懐かれるだなんておもってなかったな」

「笹塚さんは優しくなりましたね」

「生意気言うな」

市香の額を指で軽くはじく。
ふと、ショーウインドウに展示されているワンピースに目を奪われる。

「おまえ、ああいう服着ないよな」

「え?ああ、そうですね。職業柄、ついつい私服も動きやすくて可愛いものを・・・って選んじゃうので。
でも、ああいう服も可愛いですよね」

市香もそのワンピースを見つめると、目を輝かせた。
確かにこいつが着る服は似合ってはいるが、ふわふわした感じのものは見たことがない気がする。

「行くぞ」

「えっ、どこへ?」

市香を引っ張るように歩き出し、そのワンピースを飾ってある店に入る。
店員のいらっしゃいませーという言葉を聞き流しながら目当てのワンピースの前へたどり着いた。

「ほら、着てみろよ」

「え!?でも」

ワンピースを手に取ると、市香へ押し付ける。
服の上からあてただけでも十分似合いそうに見えるけどな。
えんじ色でまとめられたそのワンピースは、真ん中に花柄があしらわれている。
裾の方にかけてボリュームを出しているのか、ふわふわとした感じが普段の市香にはないもので興味をそそる。

「いいから早くしろ」

「うっ・・・わかりました」

市香はようやくワンピースを受け取り、試着室へと入っていった。
待っている間、近くにある椅子に腰掛けて待っていると、店員が何かを持って近づいてくる。

「今、カップルさんにこういうの人気なんですよー」

「ふうん」

そう言って見せられたのは皮製のアクセサリーだ。

「彼女さんの服にはこちらのベルト。彼氏さんはこのブレスレットってすると、隠れたペアになるんです」

ペアといえば、同じTシャツを着たりする痛々しいやつしか浮かばなかったが、こういうものもあるのか。
感心してそれを手に取ってみると、確かにこれくらいならいいかもしれない。

「笹塚さん、どうでしょう」

カーテンを開く音がして、顔をあげると恥ずかしそうに頬を染めながら着替え終わった市香が立っていた。

「へえ」

上から下までじっくり見ると、市香は言葉を求めるように俺をじっと見つめた。

「今着てるのと、これ。会計」

「ありがとうございますー!着ていかれますか、そちら」

「え!?え、っと」

「ああ、着てきた服つめてもらえよ」

「かしこまりました。では、お会計こちらへ・・・とその前にベルトつけさせていただいてもよろしいですか」

「ああ」

「笹塚さん?」

あれよあれよと言う間に話が進むもんだから市香は何が起きたかわからないというように困惑している。
その市香を置いて、さっさと会計を済ませると店員から俺用のブレスレットを受け取った。

「彼女さん、気付いたらお喜びになるとおもいますよ」

曖昧に笑って見せると、追いついた市香が不思議そうにその光景を見た。
あっという間の買い物を済ませ、店の外に出ると市香は口を開いた。

「あの、ありがとうございます」

「まあ、たまにはな」

「笹塚さんは自分のもの、何か買ったんですか?」

「さあな」

「さっき受け取ってるの見たんですけど」

「さあな」

聞き流しつつ、受け取ったブレスレットをつけてみせる。
市香はそれを見つめた後、自分の腰のベルトに視線を落とした。

「-っ!それって」

「いいから行くぞ、バカ猫」

照れを誤魔化すように市香の手を取って歩き出す。

「嬉しいです」

きゅっと俺の手を握り返した市香の可愛い言葉に予想外に照れる自分がいる。

「男が女に服をプレゼントすることの意味、分かってるか?」

「え?」

意地悪くそう言ってみれば、意味がわかったらしく俺以上に赤くなった市香を見て、俺は小さく笑った。

CODE #000(契×市香)

塗りつぶされる視界。
オレの世界はあの日位置づけられた。

 

 

SPの仕事は拘束時間が長い。朝から晩まで睡眠時間を削って護衛対象を守る。
守るためなら自分の身体だろうがなんだろうが、全てをつかって守るのだ。
そこらへんに落ちている石っころとオレの命は同等かもしれない。
そんな事を考えていた時もあった。

 

「岡崎さん?」

「あ、市香ちゃん」

市香ちゃんちのマンションの前でしゃがんでいると、驚いたような声でオレの名を呼んだ。

「おかえり」

「どうしたんですか、こんなところで」

顔が見たくなった。
会いたくなった。
メールや電話じゃ足りないくらい、キミが欲しくなった。
いくらでも理由なんてあった。
だけど、うまく言葉が出てこない。
だから言葉の変わりに市香ちゃんを引き寄せてぎゅっと抱き締めた。
ああ、久しぶりの彼女の匂い。
首筋に顔を埋めて、しばらくそのまま動かなかった。

「岡崎さん、良かったら家に上がっていきませんか?」

「んん、そろそろ時間だから」

特別な何かがあったわけじゃない。
休憩時間を使って走ってきただけだ。
会えたらラッキー。もしも会えなかったらそこまで。
それくらいの軽い気持ちだったのに、身体を離すことがどうしても出来ない。

「市香ちゃん、市香ちゃんは・・・」

言葉を続ける前に市香ちゃんがオレをぎゅうっと抱き締め返した。

「・・・痛いな、それ」

「痛いかなって思うくらい強くしてますもん」

「そっか」

キミの為ならこの命惜しくない。
そうだな、眼球だってえぐって見せてもいい。
キミになら腎臓だけじゃなくて、心臓だってあげてもいい
オレの望みなんて今ではこんな簡単なコト。
ただ、キミと一緒にいたいだけなんだ

「次のお休み、一緒に映画に行きたいです」

ふと、オレを抱き締める腕の力が緩む

「あとは一緒に干したての布団に転がったりしたいです」

「・・・ほかには?」

「そうですね。たまには一緒に料理とか・・・は心配なので料理している私の隣にいてください」

「うん」

「あとは、ちゃんと寝てくださいね」

そう言って俺の顔を見上げると目の下を細い指でなぞった。

「くま、出来てます」

「・・・」

「岡崎さん、眠るの大好きなのに・・・よっぽど忙しいんですね、今の現場」

「うん・・・そうかも」

「一段落したら、私のお願い叶えてくださいね」

「うん・・・うん、」

こつん、と額をあわせる。

「いってらっしゃい、岡崎さん」

「いってきます、市香ちゃん」

触れるだけのキスをして、送り出してくれた。
空を見上げれば、さっきまで雲で隠れていた月が笑っているように見えた。

CODE #DC143C(尊×市香)

目の前が真っ赤に染まる
何度も何度も夢に見る光景
いつまでも消えない、俺の痕

 

 

 

「笹塚さん・・・笹塚さん」

名前を呼ばれて、ぼんやり意識を取り戻す。
ようやく焦点が合って、腕の中にいる市香に目をやった。

「・・・ああ」

久しぶりに見た夢だ。

「うなされていたので・・・すいません」

「いや、いい」

カーテンの隙間から見える外はまだ暗い。まだ深夜のようだ。
眠りについてそんなに時間が経っていなかっただろうに起こしてしまって悪い事をした。そっと俺の頬に触れる市香の手は少し冷たい

「おまえの手、冷たいな」

「女の人は冷え性が多いんですって」

「ふーん。じゃああっためてやろうか」

「え?」

瞬時に眠る前の出来事を思い出したのか。
真っ赤になる市香を見て、意地悪く笑ってみせる。

「ばーか、何考えてんだよ」

でこピンをすると、市香は赤くなったカオを誤魔化すように身体を寄せてきた。

「でも、笹塚さんあったかいですね」

「でもってなんだよ」

「・・・さあ」

離れていこうとする手を掴むと、市香は笑う。

「ほら、手だって笹塚さんのほうがあったかい」

「だからおまえの手が冷たいって言ってんだろ」

握っている手が、ようやく冷たくなくなってきたので離してやると子猫みたいに俺に擦り寄ってくる。

「悪い夢を見ないおまじない、知っていますか?」

「言ってみろ」

「・・・言うのはちょっと」

「じゃあなんなんだよ」

身体を少し上にずらし、俺の前髪をかきあげると市香はそっと額にキスを落とした。

「・・・良い夢が見れますように」

「バカ猫」

「え?きゃっ、」

すぐ身体を引き寄せて、唇を奪う。
指先とかは冷たいけど、こんなに熱い場所あるだろうと言い聞かせるように舌を絡める。
深い口付けから解放してやると、すぐきつく抱き締めた。

「いい夢、見れるかもな。おまえが」

「笹塚さんが見ないとダメです」

「・・・あっそ。じゃあ、こうしてれば見れるだろ」

そう言って、少しあったかくなった市香の手を握る。

「一緒の夢、見れるといいですね」

市香はそう言って、嬉しそうに笑った。

 

きっと、もうあの日の夢は見ない。

 

Code #FFF(弓弦×市香)

眩しい

目を開けていることさえ億劫になる

 

俺は、目を閉じた。

 

 

 

「冴木くん?」

「え?」

賑やかな雑踏。
立ち止まった俺を見上げて不思議そうな顔をしていた。

「ああ、悪い悪い」

何か適当な話題を探そうとして周囲へ視線をやるとウィンドウに飾られているそれに気付いた。

「これ、すっごい綺麗だとおもって」

「わぁ、ウェディングドレス・・・!」

星野は目を輝かせて、俺の視線の先にあるそれを見つめた。
彼女も女の子だ。やっぱりこういうものが好きなんだなと思うと、なぜだかほっとした。

「やっぱり星野もこういうの好きなんだ?」

「女の人は誰だって好きだと思うな」

「あー確かに」

二人してウェディングドレスの前で立ち止まっていると、まるで俺たちが恋人同士みたいだ。
そんなわけないのに。星野の肩が俺の腕にぶつかったとしても、俺はこいつの手を握ることも腰を抱き寄せることも出来ないのに。

 

「お前もいつか、こういうの着て誰かの隣歩くんだろうな」

目を閉じて、その光景を想像してみる。
純白のウェディングドレスを着て、愛しい誰かの元へ真っ赤な道を歩くんだろう。
ああ、それは-

「俺、そんな光景みたら泣いちゃいそうだなぁ」

「ふふ、なんで冴木くんが泣いちゃうの?」

「んー、なんでだろうな。正義を語り合った最高の同期が幸せになるところ見れるから・・・かな?」

道の先にいるのは俺じゃない。
おめでとうと声をかける場所にも俺はいない。

「結婚なんてまだまだ先の話・・・というより相手もいないんだけど。
そうだね、私もいつか・・・着れたらいいなぁ」

夢を語り合った時とは、また違う瞳。
その瞳にいつか俺は映るのだろうか。
まだ、見えない未来

 

 

「それよりも私達の同期への結婚祝いを探すのが先だよね。
ほら、急がないと選ぶ時間なくなっちゃう!」

いつまでも動けない俺を、星野は俺の腕を掴んで歩き出した。
その耳は、心なしか赤く見えた。

「ああ・・・そうだな」

 

おまえが、好きだよ。星野。
たとえ、おまえの未来に俺がいなくても。

 

8~9月プレイ状況

今週は待ちに待ったペルソナ5が発売ですね!!!!!
とっても楽しみです!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

アンダーザムーン~つきいろ絵本~

あんまり記憶に残らなかったな。本編の病んでる感じが好きだったけど、ほのぼの姫様も可愛いから良い。

 

華ヤカ哉、我ガ一族(雅のみ)・華ヤカ哉、我ガ一族 幻燈ノスタルジィ(雅のみ)

雅様目当てで購入し、想像以上に雅様がドつぼすぎて他キャラ攻略できずに積みました・・・笑
最初、はるちゃんがあんまり得意じゃなくて(出稼ぎに来て、住み込み始めたのに寝坊はするわ、うっかり多すぎるわで大丈夫かこいつって引いてました)けど、
雅様の可愛いところを存分に引き出してくれたはるちゃんに私は感謝しています。ありがとうはるちゃん。泣き真似してくれてありがとう。
心の準備が出来たら他の兄弟もやりたいと思います。

いじわる My Master

あんなにおっぱいでかいのにパイズリスチルがないなんて・・・!!!!
女性向けエロゲーは大体アングル決まってるんですかね。あんなにおっぱいあるのにもったいないなって野郎目線で申し訳ないwww

 

大正アリス all in one

PC版をやっているので、全て分かった上でプレイ始めたらまた違う視点から見れましたが、やっぱり面白い。
そしてグレーテルくんが大好きです。彼の√の変更が結構あったけど、私はPC版のほうが好きだな。
いや、本当面白かったです。

 

Collar×Malice

こちらで感想かいてます。

尊市可愛い。みんなそれぞれ可愛い。

 

猛獣たちとお姫様

こちらで感想かいてます

とっても辛口評価です。日野さんのわんわん!が聞けただけで1万円の価値はある

 

罪喰い

バグが多い・・・!!!
そんなわけでシナリオは面白くて、可愛すぎかよ・・・って萌え転がるんですが、次のキャラ攻略しよう~ってやるとなかなかルートに入れない。(バグのせいで)
だからなんか凄い熱が下がるというか。面白かった。ヒロインボイスありとても良かったです。

 

逢魔が刻 ~かくりよの縁~

なんか想像していたのと違ったwww
学園モノ(というほどでないけど)だと思わなかったので、「お、おう」ってなった。
戦ワルみたいな感じだと思ってもらえれば・・・!
颯→そうた→よいみやってやってて、「あーくそつまらん」ってなってたんですけど。
いや、そうたと宵宮さんはどう考えても私の好きなタイプじゃないので、そのせいでつまらなかったんですけど!
(宵宮さん√で皓の正体分かったり・・・ていうかなんで皓攻略できないの???バグ????)
常盤が本当に美味しかった。何もかも美味しかった。常盤のために買ったと思います。
めっちゃ可愛い。ツンデレ美味しいし、昔からのつながり美味しいし、ツンデレ美味しい。何もかもがタイプで辛かった・・・
ありがとう、常盤。ありがとう。
でも、主人公ちゃんが可愛くなくて本当不思議。この絵師さんのほかの絵見ても男女ともに素敵なのに、どうしてこの主人公可愛くないの???ってずっと不思議だった。
真相ENDも別にいらなかったかな?って思うけど、ま、いいよ!!いいよ!もう!
常盤のおかげでこのゲームを手放さないことにしました。デフォ呼び搭載してほしかった。

 

花咲くまにまに

友達に勧められていて、買ってあったのですが、遊郭とか花魁ものが乙女ゲームの題材になるのが苦手でして・・・(確実に百華のせい)
ようやくプレイしましたが、めちゃくちゃ面白かったです!!!
ネタバレ一切見てなかったので「ええ!高杉!?」とか「桂さん!?」とか一緒に驚きました笑
和助さん=高杉って分かった時、もう高杉さんの終わりは分かっているじゃないですか・・・どうなるんだろうどうなるんだろうって思っていたら現代に戻ってハッピーエンドで安心しました。
ノマエンもそれはそれでよかったです。EDより何より、和助のために自分が出来ることをやる・・・と覚悟を決めて花魁になったとき、抱いてほしいと言う七緒ちゃんにああああああってなりました。
あのシーンが一番熱かったです・・・好き。
キャラ的には白玖さんが一番好きです。最初桂さんと同一人物だって全然気付かなくて、声聞いてれば分かるもののすっかりだまされました笑
照れ顔おいしかった・・・めっちゃ美味しかった・・・そしてノマエンが凄くぐさっときました。白玖さんと「白玖さんが年下だったら~」って話していたのがノマエンで生かされるっていう。
あああ、しんどい・・・・でもああいう終わり大好きです。ありがとうございました。
あと宝良。どう考えても血つながってないだろって思ってたから最初からオチは兄妹じゃありませんでした~だよなって余裕かましてたらベストEND幸せ家族すぎて泣いた。
ああいう未来、いいですね・・・可愛い。
辰義に関しては宝良でネタバレしてるから話の盛り上がり難しいですよね。バッドエンド好みでした。
そして、楓さん。嫉妬のあまり本人にきつく当たる人は苦手です。でも、うん・・・楓はずるいね。ハッピーエンドになるの!?これって。ドキドキしてたらハッピーでしたね。
面白かったです、花まに。何もかもが丁寧で、最初から働かせるのではなくて、全て七緒ちゃんの意思で決めさせてくれるっていうのが凄く良かったし、何もできない必要とされない、居場所がなくて苦しい。そんな時にとたが話を聞いてくれたり・・・凄くじんとしました。

 

 

B-PROJECT

突然更新するようになったので、お察しですがある日突然Bプロにはまりました。
自分でもびっくりするくらい泥沼です笑
剛士くんめっちゃタイプでしんどいわ~ってずっと言ってます。二次元アイドルにハマる日が来ると思っていなかったので、多分私が一番驚いてます。
そっと見守っていていただけるとありがたいです。

End of the world(尊×市香)

例えばの話。
明日、世界が終わるとして俺は何をしているだろうか。
変わりなくキーボードを叩いているのか。
それともドーナツを貪るのか。

アイツの隣にいるのか。

 

 

 

End of the world

 

 

「あー、疲れたなぁ…ちょっと一服いれるか」

一段落ついた同僚たちが思い切り伸びをしたり、首をまわしたり始める。
俺はドーナツをかじりながら、キーボードを打つ手を止めない。

「笹塚も休憩はいれば?」

「俺はまだいい」

「そう。そういやこないだ差し入れ持ってきてたのって笹塚の彼女?」

俺は休憩に入らないと言ったつもりなんだが、雑談を吹っかけてくる同僚。
多分ドーナツを食べていなかったら舌打ちしていただろう。

「そうだけど」

「結婚とか考えてんの?」

「さあ」

こいつにそんな事を言う必要はない。
解析データを上から下まで目を通し、スクロールさせる。

「俺も結婚したばっかりの頃はさー、家に帰るのうきうきしたけどさー。
今じゃなかなか帰れない中家に帰っても『あら、あなたもう帰ってきたの?』だって。
女は結婚すると変わるんだよなー。おまえも気をつけろよ」

「……ところで、提出してきたデータ、間違ってるから休憩終わったらもう一回チェックかけろよ」

「え!?」

「俺も休憩してくる」

食べかけのドーナツを口に押し込み、俺はそいつを残して部屋を出た。
新鮮な空気が吸いたくて、非常階段に出て、スマホを取り出す。
市香からのメールをチェックすると、「今日の夕食、何か食べたいものありますか?」というのと「巡回中に出会いました」と猫の写真が添付されていた。
猫の写真には市香の影も映りこんでいて、彼女の存在にほっとする自分がいた。
深く息を吐いてから、着信履歴から市香を選んで電話をする。

『笹塚さん?お疲れ様です』

数コール後に声がした。

「ん、おつかれ」

『何かありました?』

俺を気遣う声に安堵する。

「いや、今日は魚が食いたい」

『・・・分かりました。そうですね、旬ですし秋刀魚にしましょうか』

「ああ、いいな」

市香も仕事中だし、そろそろ休憩を終わりにしないといけないな。

「じゃあ、また夜な」

『はい、また夜に』

そう言って電話を切る。
握り締めたスマートホンが少し熱を帯びていた。

 

 

 

 

 

予定より一時間遅くなったが、仕事が終わり部屋に帰ると市香がキッチンに立っていた。

「おかえりなさい、笹塚さん」

「ん、ただいま」

俺に駆け寄ると、嬉しそうに笑った。

「バカ猫、火ついてんじゃないのか」

「今秋刀魚焼いてるところなんで大丈夫です」

「あっそ」

上着を脱ぐと、それを床に放って市香を抱き寄せた。
彼女の首筋に顔を埋めると、市香が俺の頭をあやすように撫でた。

「・・・なんだよ、それ」

「笹塚さん、なんだか元気ないように見えたから」

「ガキ相手にしてんのか」

「違います。恋人扱いしてるんです、これでも」

「バカ猫のくせに」

「あ、今日の猫の写真見てくれましたか?可愛くて、笹塚さんにも見せなきゃ!っておもって」

「あーかわいかったな」

お前の影が映っていることに安心したなんていえない。
ぐりぐりとまるで猫が甘えるように市香に頭をこする。
普段なら絶対しない。なんだか今日は少し落ち込んでいるみたいだ。

「今日の笹塚さん、猫みたいです」

「・・・バーカ」

掠めるようにキスをすると、ようやく身体を離す。
一瞬の口付けに驚いたようだが、俺が離れるとコートを拾ってハンガーにかけた。

「早く弟独り立ちさせろよ」

「・・・それは追々」

何度目かになるやりとり。
眠る時も起きる時も一緒にいたい。
離したくない、と馬鹿みたいに願ってる。

 

(もしも、明日世界が終わるならー)

 

「市香は俺の嫁になっても、俺の事・・・」

「大好きですよ、だから笹塚さんも私のことずっと大好きでいてくださいね」

そう言って、笑った市香は驚くくらい綺麗で、愛おしかった。

 

(俺はやっぱりお前といたい)

 

そんな事を考えた、とある秋の日。

スイッチ(健十×つばさ)

「お疲れ様です!」

新曲の収録が終わり、ブースから出てくる愛染さんに飲み物を手渡す。

「ありがと、つばさ」

それを受け取って、にっこり笑うとごくごくと一気に飲み干した。
ソファに座ると、ブースに入った金城さんを真剣な眼差しで見つめる。
あの一件があってからか、愛染さんの雰囲気・・・といっていいのか周囲に対する目線が変わった気がする。

「愛染さん、喉の調子大丈夫ですか?」

「うん、平気平気」

視線は私に映すことなく、金城さんを黙って見つめている。
そう、メンバーを大事にするようになった気がする。
以前からも周囲への気配りは素晴らしかったけど、なんだろう・・・本気になったんじゃないかなと私は思っている。

「あー・・・そっか」

ここはこうやって声を出すのか、という意味なんだろう。
サビに入る手前につぶやいた言葉。

「ねね、つばさちゃん」

「どうかしました?」

「ケンケンさ、変わったよね」

私にそっと耳打ちする阿修くん。
ああ、彼の目からみてもそう見えるんだ。
伝わっているんだ、と思うとなんだか私まで嬉しくなった。

「良い事ですね」

「うん、そうだね」

私たちは二人でひっそりと笑った。
それに気付かない愛染さんではない。
阿修くんがお手洗いに行くと出て行くと、私の髪に愛染さんの手が伸びた。

「なに二人で話してたの?随分楽しそうだったね」

「ふふ。愛染さんの話、してたんですよ」

「俺の?」

「はい、愛染さんが変わったねって」

嬉しくて、ついさっきのやりとりを話す。
愛染さんは驚いたように目を見開いた。

「・・・つばさの目から見て、俺はそんなに変わったんだ」

「今までも適当だったわけではないですけど、本気になったんだっていうのが私の目から見ても分かります」

「・・・・・・」

「今も真剣に金城さんの収録聞いてますもんね。先に収録していた阿修くんの時もそうでした」

愛染さんは指先で弄んでいた私の髪から手を離す。
なんだか泣きそうなカオに見えて、ドキリとした。

「本気で欲しいと思うものは作らないようにしてたんだ。
そこそこに、それなりで、良かったんだけどな」

「愛染さん?」

そう言って、彼の顔がゆっくりと私に近づいて。
もしかしてこれってキス・・・!?
拒まなければいけない、だって彼はアイドルで。私はA&Rだから。
だけど、身体は自分の意思に逆らうように動かない。

「ん、」

口付けられたのは、額だった。
驚いて、私は自分の額を両手で押さえる。

「本気で欲しくなった」

「え・・・?」

「ちょっとコンビニ行ってくるね。すぐ帰る」

見た事のない凄く真剣な瞳で私を見つめると、いつものように笑みを刻んだ顔に戻る。
そして、部屋を出て行った。
本気で欲しくなった、って何を?あんな瞳で、何を求めてるのだろう。

「はい、オッケー!金城くん良かったよー!じゃあ15分休憩して三人で!」

「ありがとうございます。・・・何赤くなってんだ、おまえ」

ブースから出てきた金城さんはいぶかしげに私を見る。

「い!いいえ!!お疲れ様です!」

「ん」

上擦った声が出てしまうが、慌てて金城さんのドリンクを手渡す。
何も追求されることはなく、誰にも見られていなかったことに私はほっとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あっれー、ケンケン!どうしたの、こんなところで」

トイレから戻ってくる悠太と廊下で出くわす。
部屋から出た後、思わずあふれ出てしまった気持ちが恥ずかしくなり思わずうずくまっていた。

「ああ、いや。なんでもない」

「そう?先に戻ってるねー」

立ち上がった俺を見て、悠太はなんでもないと判断してくれたのか俺とすれ違う。

「ああ」

「カオ、赤いから熱冷ましたほうがいいよ。じゃーねー」

見られていなかったはずなのに、バレバレの表情をしていたらしい。
今更あれくらいで赤くなるなんて・・・
でも、俺以上に真っ赤になっていたつばさの顔を思い出すとまた顔が熱くなる。
軽く自分の頬を叩いた。

(-でも、本気にさせたのはつばさなんだから。本気で手に入れる)

 

 

それは反則(契×市香)

「市香ちゃん、市香ちゃん」

名前を呼ばれて手招きされる。
近づいていくと、正面からぎゅっと抱き締められて耳元に唇が寄せられた。

「いちゃいちゃしたいな」

「-っ!岡崎さんは、直球ですね」

「ん?そうかな。思ったこと言っただけなんだけど」

それを直球だというんだけど。
慌てて私は岡崎さんを両手で押しやって引き離す。

「ダメです!こんな昼間から!」

数ヶ月ぶりの一緒の休暇。
それなのに、昼間からいちゃいちゃするなんて・・・

「昼間だったらどうしてダメなの?」

「・・・それは、その」

いちゃいちゃするのは夜というイメージが強いからか。
小首をかしげて聞いてくる岡崎さんを論破する言葉が浮かばなくて口ごもってしまう。

「市香ちゃんってば顔赤い」

私の顔を見て、岡崎さんは笑みを浮かべる。
いつも私が赤くなってばかりで、なんかこう・・・岡崎さんのペースに持っていかれてしまってる気がする。
私も彼にときめいてほしい、なんてちょっと恥ずかしいことを思っているんだけどなかなか叶ってる気がしない。

「あんまりからかわないでください」

「からかってるつもりはなかったんだけどな。ごめんね」

抱き締める手を緩めて、私の瞼にそっと口付けられる。

「機嫌、直してくれた?」

「・・・どうでしょう」

「意地悪だなぁ、市香ちゃんは」

「岡崎さんほどじゃないです」

私がそう返すと、岡崎さんは一瞬驚いたような顔をしてから笑った。

「じゃあ今日はどこへ行こうか?」

「うーん。目的もなくぶらぶらするとか、ダメですか?」

「うん、いいよ」

岡崎さんは嫌な顔もせず、頷いてくれた。
そして私から身体を離すと、キッチンへ行こうと後ろを向いた。

「契さん・・・!」

私は離れたばかりの身体に手を伸ばし、岡崎さんを後ろから抱き締めた。
彼の背中に頬を寄せると、彼の鼓動が伝わってきた。

(・・・あ、岡崎さんの鼓動、早くなってる)

「・・・あの、契さん?」

早くなる鼓動とは裏腹に岡崎さんは全く動かない。
どうしたのか、不安になって抱き締める腕を緩めると回していた手を掴まれた。
そして、次の瞬間には横抱きに抱え上げられ、あっという間にベッドへと下ろされた。

「市香ちゃん、それはずるいよ」

「え、あの」

私の上に覆いかぶさってきた岡崎さんの顔は真っ赤になっていた。
驚いて私は言葉がうまく出ない。

「岡崎さ・・・」

名前を呼ぼうとすると、キスで言葉を飲み込まされた。
唇を離すと、岡崎さんは耳元でこう囁く。

「だーめ。オレの名前、ちゃんと呼んで」

「・・・!契さん、あの・・・おでかけは」

「だって市香ちゃんから誘ってきてくれたんだもん。しょうがないよ」

そう言って、私の手に自分の手を絡める。
こうなってしまったらもう私に拒む事なんて出来ない。
カーテンを閉めたって入ってくる光のせいでお互いの表情なんていくらでも見えてしまう。

「・・・あんまり顔、みないでください」

強請るように言葉にしてみると、岡崎さんは笑った。

「市香のどんな表情でも見たいからそれは聞けないな」

「いま、なまえ」

呼び捨てにされた事に嬉しさを隠せなくて起き上がろうとすると口付けられてまた言葉を奪われる。
啄ばむようなキスを繰り返し、息の上がった私に彼は優しく微笑んだ。

「君に触れてもいい?」

結局彼に振り回されてしまう。
繋いでいない手で彼の頬に触れた。

「私も触れたいから・・・触れてください」

私の言葉に岡崎さんの動きが止まる。

「本当に・・・キミには叶わないな」

そうして困ったように笑うと、今度は熱っぽいキスをくれた。

結び目(峰雄×市香)

ふわふわとゆれる髪に手を伸ばす。

「ん?どうかしたか」

「ううん。峰雄さんの髪って綺麗ですよね」

乱暴に結んではあるけど、触れたら痛んでないし、指どおりもいい。
そんなに丁寧に扱ってる姿は浮かばないから意外だ。峰雄さんの髪を触っていると、気付けば身体を硬直させて動かなくなっていた。

「・・・峰雄さん?」

「えっ!?いや!!決してやましいことなんてまったく!まーったく考えてない!!!」

何も言っていないんだけど、峰雄さんの耳は後ろからみても分かるくらい真っ赤だ。

「・・・解いてみてもいいですか?」

「~、いや、それはあの・・・もしかしてOKのサインかなにか、なのか?
いや、でも香月帰ってくるんだろ?」

「バンドの練習で遅くなるって言ってましたが、帰ってきますよ。
帰ってきたら一緒に夕食食べましょうね。今日は和風ハンバーグです!」

「おっ、それは楽しみだな!!じゃ、なくて!」

峰雄さんはぐるんと振り返り、私の両肩を掴んだ。
顔が近くて、ちょっと恥ずかしい。
視線を逸らしたらいけない気がして私は彼を静かに見つめた。

「・・・市香、あのさ」

「はい」

「俺も、」

私を掴んでいた手が肩から頭の後ろに移動する。

「俺もお前の髪、触りたい」

「・・・ど、どうぞ」

そんな真剣な瞳で言うことなのかな、これって。
でも、峰雄さんがそこまで願うなら私の髪くらいいくらでも。
了承すると、峰雄さんの手が私の髪を丁寧に触れていく。
壊れ物に触れるみたいな優しい指使いに私はなんだか恥ずかしくなってしまう。
正面から触られるのってなんていうか照れる。
自分は何をしていればいいんだろう。
手持ち無沙汰な手を彼の腰に伸ばした。

「-っ!!い、市香!」

「触りたくなりました。ダメですか?」

「好きな子が俺に触れたいって言ってんだ。
ダメなわけ、ない。」

「・・・そういうのなんかずるいです」

峰雄さんは恥ずかしげに視線をさ迷わせながらも私の髪に触れた。

「髪解いたおまえも見てみたいな」

「じゃあ今度のデートのとき、髪下ろしていきます」

結ぶことが習慣になってしまったからなかなかおろさないけど。
好きなひとがそんな風に言ってくれるんだから叶えてあげたくなる。

「香月帰ってくるの何時だ?」

「21時は過ぎるって言ってました」

時計を見ると今は19時だ。
遅めの夕食になってしまうのが不満なのかもしれない。

「市香、あのさ」

「もしかしておなか空いてます?先に食べますか?」

「・・・いや、そっちじゃなくて」

峰雄さんの手が、髪から私の頬に移動した。
軽く顔を持ち上げられて、顔が近づいた。

「その・・・いいか?」

「-っ!」

そういわれてようやく気付いた。
一気に熱が顔に集まった。

「・・・はい」

こくりと頷くと峰雄さんは私の額にキスを落とした。

「髪、ほどいてもいいか?」

そういう意味だったのか、と思うとここにいたるまで気付かなかった自分が恥ずかしくなったが彼の首に腕を回す。

「峰雄さんのもほどいていいですか?」

「・・・ん、おまえならいいよ」

そう笑って、峰雄さんは今度は熱っぽいキスをくれた。

 

要はタイミングの問題(剛士×つばさ)

先日のことだ。
収録の合間に金城さんと話したときに私の呼びたい時に名前で呼べ、といわれた。

(他の皆さんは私のこと、下の名前で呼んでくれているけど金城さんはいつも名前で呼ばないもんなぁ)

それが悪い事とか、嫌だということではない。
呼びやすいように呼んでもらえればそれでいいと思ってる。
だけど、名前で呼んでもらえたら・・・嬉しい。
嬉しいけど、私も金城さんを名前で呼ぶだなんて恥ずかしい。

「・・・ふう」

上がってきた原稿のチェックをしながら私はため息をついていた。

「何してんの、おまえ」

「-っ!お疲れ様です!」

すぐ傍に金城さんのぬくもりがあって、驚いて思わず椅子を引いてしまう。

「何びびってんだよ」

「いえ、全然気付かなくて・・・すいませんでした」

「そんな事でいちいち謝んなよ」

私がチェックしていた原稿を手に取ると文章を目で追うのが分かった。

「金城さんたちにも後でチェックお願いすることになると思います」

「ん、分かった」

「飲み物、買ってきましょうか」

「いや、大丈夫」

「そうですか」

金城さんを前に妙に動揺してしまう。
金城さんが何を言うのか身構えてしまい、沈黙に耐え切れなくなって次の言葉を捜していると金城さんに鼻をつままれる。

「!?」

「どうしたんだよ、そんな顔して」

「か、かねしろさんが」

「変な顔」

悪戯が成功した子どもみたいなカオで笑う金城さんに思わず心臓が跳ねる。
どちらかといえばいつも真剣な瞳をしていて、あまり笑わない金城さんが私に向けてこんな風に笑うなんて。
金城さんの手が私から離れると、慌てて鼻を隠した。

「金城さんが変なことするからですよ!」

「その前から俺に対して緊張してただろーが」

「う・・・それは、その・・・こないだの事思い出しちゃって」

「こないだ?」

「・・・その、名前で呼ぶっていう」

「-っ!!」

金城さんも思い出したのか、手に持っていた原稿が滑り落ちた。
慌てて拾おうと手を伸ばすと、金城さんも同じタイミングで手を伸ばした。

「あっ」

まるでドラマのワンシーンのように手が重なった。
慌てて手を引っ込めようとするが、なぜか金城さんに掴まれた。

「・・・っ、金城さん」

「なんだって?」

「・・・えと、手を」

「誰に話しかけてんだよ」

私を探るような瞳が何を訴えているかようやく気付いた。

「手を、離してください。剛士くん」

「ふーん」

そう言うと強く手を握られた。
金城さんの手って私よりも、熱い。

「つばさの手、冷たいな。女は冷えやすいっていうもんな」

「剛士くん・・・あんまり意地悪しないでください」

どうしていいのか分からない。
アイドルとA&Rの距離ってこんなに近づいちゃダメだって分かってるのに。
心臓がうるさい。金城さんから目を逸らせない。

「それはこっちの台詞だ」

ようやく手が解放され、拾った原稿を手渡された。

「んじゃ、お疲れ」

「お疲れ様です。何か用事あったんじゃ?」

「おまえがいるの見えたから寄っただけだ。じゃあな」

軽く手をあげて、金城さんは部屋を出て行った。
なんかもう・・・色々と駄目な気がする。

「次・・・金城さんに会ったとき普通に出来るかな・・・」

熱のひかない頬を両手で押さえて、私はため息をついた。

ギブアンドテイク(剛士×つばさ)

「ねね、ごうちんごうちん!」

「んだよ」

収録の待ち時間、こないだインタビューを受けた原稿チェックをしていると後ろからにゅっと悠太が現れた。

「ごうちんはさ、なんでつばさちゃんを名前で呼ばないの?」

「はぁ?」

「あー、そういえばあんまり聞いたことないねー」

前髪をセットしなおしていた健十もしれっと会話に参戦してくる。
どうでもいい事にいちいち気付く奴らだ。

「別にお前らには関係ないだろーが」

「えー気になるよー。だっていっつもお前、とか言うんだもん。
つばさちゃん可哀想じゃん。可愛い名前なのに」

「そうそう。それに女の子をお前呼ばわりするヤツはモテないぞ」

「うるせーんだよ、おまえらは。俺は俺の呼びたいように呼ぶんだよ」

呼ばなければならない時には呼んでいる。
だからおまえらが知らないだけだ。
それを言葉にしないのはからかわれるのがめんどくさいからだ。

「あ、みなさん。もうすぐ収録再開になりますよ。移動してください」

タイミング悪くつばさが現れると悠太と健十が顔を見合わせにやりと笑った。

「ねーねー、つばさちゃん。つばさちゃんはごうちんに名前で呼ばれたいよね?」

「どうしたんですか、急に」

「つばさだってお前って呼ばれるの好きじゃないだろ?」

二人でつばさをはさんで俺をにやにやと見ながら口々に言う。
はさまれた本人は何がなんだかという風に困った顔をして俺に助けを求める目をする。

「くだらない事言ってないで、行くぞ」

二人をつばさから引き離し、つばさの腕を掴んで歩き出した。

「金城さん?どうしたんですか?」

廊下へでると掴んでいた手を離し、俺は振り返った。

「・・・おまえはどうなんだよ」

「え?」

何を言ってるのか分からないらしく目をぱちくりして俺を見つめてくる。
その視線に弱くて、俺は思わず舌打ちをした。

「だから、名前」

「剛士くん?」

「-っ!!ばっ、そっちじゃなくて」

突然名前を呼ばれて、思わず赤面してしまう。
名前を呼ばれるくらいでなんだっていうんだ。バカらしい。

「おまえは、つばさって呼ばれたいのかって聞いてるんだよ」

「あっ、ごめんなさい!間違えちゃいました・・・!!」

自分の勘違いが恥ずかしかったらしくつばさも顔を赤くした。

「え、と。私はどちらでも。金城さんが呼びやすいように呼んでいただければ構いません」

「・・・ふーん」

そう言われると面白くない。

「じゃあおまえが俺のこと名前で呼んだら俺もつばさって呼ぶ」

俺が強制したみたいなのは面白くない。
だからおまえに決定権をゆだねてやる。

「じゃあ・・・たまに呼ばせてください。剛士くん・・・って」

「お、おう」

恥ずかしそうに俺の名前を紡ぐと、つばさはそれを誤魔化すように俺の背中を押した。

「ほら!急がないと遅れちゃいます!!」

「分かったから押すな!」

 

 

 

 

 

「甘酸っぱいね~」

「甘酸っぱいなぁ」

つばさと剛士の事の顛末を後ろから見ながら二人でにやりと笑った。

わりとよい日(剛士×つばさ)

その日は喉の調子もいつもより良い感じがしていた。
朝起きた瞬間からそんな気がしていた。
おかげで予定より早く自分の分の収録が終わり、待ち時間の間にコンビニへと向かった。
そこのコンビニには俺がいつも飲むドリンクが売っていることも良いことだ。
他のコンビニだとなかなかなくて、忘れた日には気が滅入る。
予備のために2本買い、袋をぶら下げてコンビニから出ようとして雑誌が置いてある棚の前で思わず立ち止まった。

(・・・これ、こないだの)

にゃんにゃんポーズを強いられ、キレた日のことを思い出す。
大人気なかったと自分でも思うが、あんなことをするために俺たちがいるわけじゃないと強く思った。
そして仲間二人までバカにされて流せるほど人間ができていなかった。

(でも、まぁ・・・たまにはこういう写真も悪くないのかもな)

雑誌を手に取り、自分たちが載っているページを開く。
既に一度目を通しているが、こうやって実際に並んでいるのを見るのはまた違うものを見ている気分になる。猫耳をつけるなんて死んでもごめんだけど、たまにならこういうアイドルっぽいことをしてやるのもしょうがないかもな。
雑誌を閉じて、棚に戻すとコンビニを後にした。
スタジオに入ろうとしたとき、小さな鳴き声が聞こえた。

「・・・ん?」

足元を見ると、猫がいた。
それはこないだ撮影のときに現れた白猫に似ている気もした。
足にすりすりと身体をこすりつけ、俺に甘えてくる。

「なんだよ、おまえ。こないだのやつか」

仕方なくしゃがみこみ、猫を足から引き離して抱き上げる。
にゃーと返事するみたいに鳴くのが愛らしくて、俺は思わず頬が緩んだ。

「なんだよ、俺に会いにきたのかにゃー」

つられるように出た言葉。
いや、本当つられたんだ。猫に。それだけ。決して俺の趣味じゃない。

「金城さん?」

背後から俺を呼ぶ声。
背中に汗がつたった気がした。
おそるおそる振り返るとそこにはつばさが立っていた。

「・・・聞いてたか」

「え?」

「今の」

「この子、こないだの子に似てますね」

俺が抱っこしている猫に気付き俺の隣にしゃがみこむ。
猫の顎を指の腹で転がすように撫でると猫も甘えたような声をあげる。

「かわいいですねー」

「・・・おまえのほうが」

可愛いだろうといいそうになった言葉を慌ててぶった切る。

「それより、どうしたんだよ」

「金城さんがなかなか戻ってこないから心配になって見に来ちゃいました」

「悪い、そんなに時間経ってたか?」

「いえ、いつも10分しないで戻ってこられるので、私が心配になっただけです」

「・・・あっそ」

そういう細かい部分も見てくれてるんだよな、こいつ。
なんとも思ってないけど、そういう部分に感謝してる。
こいつのアドバイスだったり、気配りだったり凄いなと思うことはあるし。
いや、意識はしていないけど。
俺は健十みたいに女のことばっかり考えてチャラチャラするタイプじゃねーし。
隣にいるつばさを盗み見ると、嬉しそうな顔をして猫をなで続けていた。
俺は立ち上がると、つばさの頭をぽんぽんとなでた。

「-っ!?金城さん?」

「迎えにきたんだろ、もどるぞ」

「はいっ!」

女のことばっかり考えているわけじゃない。
ふとした瞬間に、こいつのことを考えているだけだ。
それだけのこと。
熱くなった頬を誤魔化すように、買ったばかりの炭酸を煽るように飲んだ。

紡ぐ言葉(夏深)

「夏彦、何をしてるの?」

昼下がり、夏彦にコーヒーを煎れてもっていくといつもならデスクの前で黙々と作業をしている夏彦は部屋の片隅で背中を丸くしていた。

「深琴か、どうしたんだ?」

「そろそろ一息入れた方が良いかと思ってコーヒー持ってきたの」

「そうか、ありがとう」

夏彦は小さく笑うと、私からコーヒーを受け取った。
何をしていたのか覗き込もうとすると、さりげなく夏彦に邪魔される。

「・・・・・・・・・」

「・・・ねえ、夏彦。どいて欲しいんだけど」

「深琴の煎れたコーヒーはうまいな」

「誤魔化さないで」

まだ熱いのに無理矢理コーヒーを飲み干すとマグカップを私へ返してくる。

「ねぇ、夏彦」

「ありがとう、深琴。いい休憩になった」

くるりと回転させられるとそのまま背中を押されて、私は部屋を追い出されてしまった。

「ちょ、夏彦」

「悪い、今立て込んでるんだ」

「・・・そう。がんばって」

力なく言葉を返すと夏彦に返されたマグカップを持ってキッチンへと戻った。

 

「はぁ、どうしたのかしら・・・夏彦」

マグカップを洗い終わり、椅子に腰掛けて一息つく。
夏彦にあしらわれる事なんてここ最近なかったから自分が思いのほか落ち込んでいることに気付いて驚く。
でも本当に何か忙しそうだったし・・・私の知らない何かが舞い込んだのかしら。
ため息がもう一度自然と口から漏れ、私はそのまま机に突っ伏した。

「・・・夏彦のばか」

少し話しをしたかっただけなのに。
今日の夕食は夏彦の嫌いな食べ物いっぱい入れてやるんだから。
そんな事を決意した時、

「ぴぴ」

「・・・え?」

顔を上げると気付けば目の前に白ヒヨコがいた。

「どうしたの?最近全然動かなかったからもう駄目なのかと思ってた・・・!」

「ぴぴぴぴーぴぴ(ご心配をおかけしてすいません。実は今日)」

「なに?どうしたの?」

久しぶりにだっこすると懐かしい気持ちになる。
この子がいたから私と夏彦がうまく話せるようになったのかもしれない。

「ぴぴぴぴーぴぴぴぴ(深琴さん、お誕生日おめでとうございます)」

電子板にそう表示されると、白ヒヨコが口をあけた。
その中には小さなケースが入っていた。
それを取り出して開きー

「・・・、ありがとう。私、夏彦のところにいってくるわ」

「ぴぴ」

机の上に白ヒヨコを戻すと、私はケースを胸に抱いて夏彦の部屋へと駆け出した。

 

 

「夏彦っ!」

「・・・深琴」

今度はデスクの前になんでもないような顔をして座っていた。
私は勢いよく抱きつくと、夏彦は慌てて私を抱きとめた。

「ばかっ!白ヒヨコをつかってこんなことするなんて!」

「・・・おまえが白ヒヨコと話したがってると思ったんだ」

私を喜ばせようとしてくれたことなのに。
本当は泣きたいくらい嬉しかったのに、どうして素直に嬉しいと先にいえないんだろう。
そうおもいながらも言葉が溢れる。

「それはそうだけど!私、さっき寂しかったのに・・・!夏彦が私に隠し事してるみたいでふあ」

だけど、私の言葉はすぐ塞がれてしまった。
夏彦の唇が、私の言葉を奪う。
さっき飲んだコーヒーの味が仄かにするキス。
私は大人しく夏彦のキスを受け入れた。しばらくして、唇が離れると夏彦は私の額に自分の額を合わせた。

「深琴、好きだ」

「・・・夏彦」

「好きだ、おまえが好きなんだ」

「・・・うん」

「好きだ」

ひたすら言葉を重ねられ、キスの余韻ではなく私の頬は熱くなる。
視線を逸らそうとすると、甘えるように擦り寄られ、両頬を優しく包まれる。

「逃げるな、深琴。
俺はおまえが好きだ」

「・・・うん、私も好きよ」

「ああ、あと。誕生日、おめでとう」

よく見れば、夏彦の耳が赤くなっていた。
心臓がバカみたいに騒いでいたけど、それをみてちょっとだけ安心して笑ってしまった。

「順序が逆よ、夏彦。
でも、ありがとう」
素直になれない私も愛してくれてありがとう。
あなたの隣で、また一つ時を刻ませてくれてありがとう。
夏彦の頬を両手でそっと触れると、そんな感謝の気持ちをこめて、私からキスをした。

 

 

 

Happy Birthday Mikoto!!!

 

また明日(剛士×つばさ)

「ん~っ!」

今日の仕事も無事に終わり、私は思い切り伸びをした。
皆さんの撮影中はその様子を傍で見つめて、何か不備はないか、彼らが何か困っていないかに気を配るのが仕事だ。
自然と身体に力が入ってしまうためか、今までなったことのなかった肩こりに悩まされたりする。
でも、それも少しでも皆さんの役に立てるなら嬉しいことだ。
外はすっかり暗くなっていて、時計を見ると22時を過ぎていた。

「何してんだ、こんなところで」

「あ、お疲れ様です!金城さん」

コンビニの袋をぶら下げて帰ってきたのは金城さんだった。

「で?」

「北門さんに次のお仕事のときに使う資料を届けに来たんです」

「あっそう」

「はい!お疲れ様です!」

ぺこりと頭を下げて、金城さんの横を通ろうとすると突然腕を掴まれた。
驚いて顔をあげると、私を掴んだ張本人のほうが私より驚いた顔をしていた。

「-っ、わりぃ」

「いえ、どうかしました?」

「…いや、買い忘れたものあるから俺も途中まで行く」

「え?でも、今コンビニから…」

「だから!忘れたんだよ」

視線を逸らすと、私の手首を掴んで歩き始めた。
慌てて金城さんの背中を追うように歩くが、男の人の歩幅に比べれば私の歩幅なんて小さくて。
手を引かれてるから自分だけゆっくり歩くなんてこともできなくて。

「あ、あのっ!金城さん!」

「ん?」

「ちょっとだけ歩くの、ゆっくりしてもらえればありがたいですっ!」

息の上がった様子の私にようやく気付き、金城さんは舌打ちした。

「わりぃ、無理させた」

「私こそ歩くの遅くてすいません」

「…女って、歩幅も違うんだもんな」

ぼそりと呟かれた言葉になぜかときめいてしまった。
…いや、女の子扱いされたからってそれくらいで喜んでどうするの。
首をぶんぶんと振り、邪念を追い出す。
でも、私の手首を掴んだままの金城さんの手は一体…どういう意味なんだろう

 

しばらくロクな会話もしないまま歩いていると、金城さんが目指していたコンビニがあった。

「金城さん、コンビニありましたよ」

「見りゃわかる」

「え?」

「ついでだから駅まで送る」

「…ありがとうございます」

この時、初めて気付いた。
わざわざ私のために帰ってきたばっかりだったのにもう一度外へ出てくれたこと。
私を気遣って、手を引いてくれていることも全部。

 

駅に着くと、私の手から金城さんのぬくもりが離れた。

「ありがとうございました!」

「ついでだっただけ」

「…それでも、ひとりで夜歩くのって得意じゃないのですっごく嬉しかったです。ありがとうございます」

素直にそう言葉にすると、金城さんは照れたのか口元を覆って私から視線を逸らした。

「気つけて帰れよ」

「はい!ありがとうございます!金城さんも気をつけて帰ってくださいね!
明日もよろしくお願いします!」

ぺこりと頭を下げ、私と金城さんは別れた。
階段を下りる前にちらりと振り返ってみれば、同じタイミングで金城さんも振り返っていて、目があう。私は笑みを浮かべて、小さく手を振ると、金城さんも軽く手をあげてこたえてくれた。

(明日も頑張れそう!)

私は嬉しい気持ちを抑えながら、改札まで小走りで歩いた。

 

 

 

 

 

 

「あっれー?ごうちん!僕のアイスは?」

「あ?ほらよ」

手に持っていたビニール袋を渡すと、悠太はすぐさま袋をのぞいて悲鳴のような声をあげた。

「溶けてるじゃん!ねぇ、ごうちん!とけてる!!」

「冷凍庫にでもつっこんどけ!」

「…ごうちん、寄り道したでしょ」

「さあな」

寄り道…というか、ちょっとした…

「デートだったりして」

「-っ!」

「え、そうなの?ケンケン見たの?」

「さあね」

「うるせー!俺は寝るからな!!」

「はいはい、おやすみ~」

「あーあ、僕のアイス」

悠太と健十からの視線から逃げるように自室へ戻った。

「はぁ…マジでやばいかもな」

別れ際のあいつの表情と、さっきまで触れていた手のぬくもりを思い出して、年甲斐もなく赤面してしまった。
今別れたのにもう会いたいなんて、バカみたいだな。

 

おめでとうのキスをあなたに(愛時×市香)

初めて一緒に迎える誕生日。
榎本さんが率先してみんなに声をかけて開かれることになった愛時さんの誕生日会。
一応気を遣ってくれて、前の日に開催されることになった。久しぶりに事務所に集まった面々にみんなではしゃぎ倒し、気付けば日付が変わりそうになっていた。

「愛時さん、タバコですか?」

「ああ」

「一緒にいってもいいですか?」

「ああ」

以前もこうやってタバコを吸いにいく愛時さんについていった。
昼でも夜でも、屋上から見る景色がとても好きだった。

「ここはやっぱり気持ちいいですね」

「そうか?」

「愛時さんもタバコ吸う回数減ったからあんまり来てないんじゃないんですか?」

「ああ、そうだな」

そういいながら私から視線を逸らす愛時さん。
これはタバコの量は減っていない証拠だ。
以前よりは吸う量は減った。一日10本に抑えていると本人は言っているからそれを信じよう。
健康のことを考えるとあんまり吸わないでほしいけど、集中したい時や気晴らししたい時に吸うらしいのであんまり口うるさく言わないようにきをつけている。

「あと数分でお誕生日ですね」

「この年になってこんな風に誕生日を盛大に祝ってもらうと思ってなかったよ」

「だって、初めてみんなで…いいえ、私と愛時さんが一緒に迎える誕生日ですもん」

初めて迎える恋人の誕生日。
最近は治安も良くなってきて、有休もなんとか獲得することが出来たので明日はお休み。
愛時さんのために色々と支度はしてきているけど、それは明日のお楽しみ。

「…もうこないだみたいな真似にならないようにしないとな」

「こないだ?」

「……」

そういわれて思い出したのは、あの日。
愛時さんが私に指輪をくれたあの日。
みんなにこっそり覗かれていた時のことだろう。
思い出して、思わず苦笑いを浮かべてしまう。
時計を見ると、秒針がもうすぐてっぺんをさす。

「5、4、3」

私は声に出してカウントダウンを始める。
愛時さんはそれに耳を傾けてくれているようだ。

「2、1…お誕生日おめでとうございます!」

「ありがとう、市香」

煙草を吸い終わり、携帯灰皿に吸殻を仕舞うと私の腰にそっと手をまわして抱き寄せてくる。

「あ、愛時さん」

「ん?なんだ?」

「プレゼントは明日お祝いのときに改めて渡しますね」

「そうか、今ないのか」

「…ないですね、今」

「じゃあ、俺の願いを叶えてくれないか?」

「いいですよ。なんですか?」

「俺の年の数だけ、市香からキスしてくれないか」

「………っ!!?え、こ……ここで!?」

「ああ、ダメか?」

その聞き方はずるい。
しかも、私の耳元で囁くように言うなんて。
私が愛時さんにそうされるの弱いって知っててやっているんだから。

「でも、誰かのぞくかも」

「鍵かけた」

「え?鍵締めれたんですか?」

「ん?鍵つけてもらった」

「……計画犯ですね」

「さあな」

いたずらっ子みたいに笑う愛時さんが可愛くて、私は自分の頬をぺちぺちと叩いた。

「目、閉じてください」

背伸びをして、頬に一度目のキスをする。
二度目のキスは、もう片方の頬に。

「…照れるな、これ」

「自分から言ったんじゃないですか」

「ほら、続き」

「…はい」

三度目のキスからは、唇に。

 

「愛時さん、お誕生日おめでとうございます。世界で一番、大好きです」

キスの合間にそう言うと、愛時さんは耳まで赤くなった。

 

 

 

 

Happy Birthday Aiji Yanagi!!!

合図(尊×市香)

「これ、どうなってんだ?」

私の頭に触れると、笹塚さんが眉間に皺を寄せた。

「これですか?なれちゃえば結構楽チンなんですよ」

「ふーん」

笹塚さんは気のない返事をしながらも、髪をねじ込んでいる部分を集中的に触られる。
まるで丸くなって寝ている猫のおなかを触るような・・・なんというか、イケない事されているような気がする。
「急にどうしたんですか?」

「お前が髪下ろしてるのってほとんど見ないから」

「昔はおろしていたんですけど、警察学校に入って訓練とかしてるときに髪が長いと邪魔だなーって思ってからこの髪なんです。
短くするのは嫌だったんで」

「あっそ」

私をくるりと後ろに向かせると、笹塚さんは本格的に私の髪の構造を暴くように手を動かし始めた。
頭を撫でられることなんて大人になってからほとんどないけど、笹塚さんは私が眠っているときに甘やかすように頭を撫でてくれることがある。
それが心地よくて、ああしあわせだなと何度思ったことか。
笹塚さんが私の髪に触れているからか、ついそんな事を思い出してしまう。
髪をまさぐっていた指が、ようやくヘアピンを抜くことに成功したようだ。
一本一本、思いのほか丁寧に扱われて戸惑う。

「さ、笹塚さん?」

「ああ、こうなってんのか。ほら、とれた」

ヘアピンを外し終わると、髪を両手で解かれる。
解けたことに満足したのか、笹塚さんの声色は嬉しそうだ。

「楽しかったですか?」

「ん、」

返事のかわりに後ろからぎゅっと抱き締められる。
私も甘えるように笹塚さんによりかかる。

「今日の門限も変わらないのか」

「…いつも通りですね」

「姉離れさせろよ、弟」

何度言われたか分からない台詞。
苦笑いを浮かべると、顔が見えていないはずなのに笹塚さんはわざとらしいため息をついた。

「ま、もう少しの間だから許してやるよ」

「ありがとうございます」

いつも通りのやりとり。
笹塚さんと香月は顔を合わせれば口げんかみたいなものを繰り返す。
だけど、見た目ほど互いに嫌っているとかそういうわけではない。
男同士、そういうコミュニケーションもあるんじゃないかと榎本さんは言っていた。

「市香」

耳元で名前を呼ばれ、耳をゆるく噛まれる。

「…んっ、笹塚さん」

なんで急に笹塚さんが私の髪を解きたかったか、意味がようやく理解した。
多分今、顔が真っ赤になっているんだろうな、私…
だけど、私も彼に触れたいし、触れられたい。
その気持ちが伝わりますように、と願いながら…私を抱き締める彼の手に、自分の手を重ねた。

それぞれの幸福論~星野香月の場合~(市香+香月)

「香月、今日何食べたい?」

「なんでもいいよ」

「うーん…じゃあ、ハンバーグでも作ろうか」

育ち盛りの男子高校生は肉が好き、とでも思っているんだろうか。
困った時のハンバーグの確率の高さに本人は気付いているんだろうか。
せっかくの休日に、家で弟と夕食をとる必要もないだろうに。

「今日、会わないの?」

「え?」

「だから、彼氏と…飯とか行かないの?」

「あ、ああ」

彼氏という言葉に顔があっという間に赤くなる。
そんな事でいちいち照れなくてもいいだろうに。
弟に指摘されるのが恥ずかしいのか、それとも恋愛ごとをつっこまれるのが恥ずかしいのか。
…いや、多分どっちもだろうな。
同じクラスの女子だって、普通に彼氏の話とかつっこまれたって赤くならないのに。
自分の姉ながら純情だな、と笑ってしまいたくなる。

「今日は香月とゆっくりしようかなぁー、なんて」

「…彼氏は仕事?」

「だから香月とゆっくりしたいなって思ったからだよ」

嘘か本当か分からないけど、姉ちゃんは俺から視線を逸らして冷蔵庫の中身を確認する。

「ね、せっかくだから久しぶりに一緒に買い物行かない?」

「荷物持ち?」

図星だったのか、困ったように笑って誤魔化される。
せっかくの休日を彼氏がいるくせに弟と過ごすなんてバカなヤツ。
一緒に暮らしていてもずっとロクに口をきかなかった。
口をきいたかと思えば、言い合いになってばかりで何も伝えられず、何も伝わらずただ同じ家に暮らしていた。
あの事件をきっかけに、ひさしぶりに姉弟らしい会話をするようになり、昔のように普通に話すようになった。
姉に彼氏が出来て、そいつがまたいいヤツかどうかはさておき…姉を大事にしてくれていることだけは確かだから文句は言わない。
たまに門限を破るけど、そんなもん本当に守れっていう意味で言ってないのに律儀に守ろうと頑張る二人は微笑ましいというか笑える。
本当は大好きな彼氏と一緒に暮らしたいだろうに、俺がいるから一緒に暮らせない。
責任感もあってだろうが、俺を放り出して恋に走れない姉をみて、なんともいえないため息をついた。

「香月の好きなものも買ってあげるよ」

「スーパーに俺の好きなもの売ってんの」

「新発売のお菓子…とか?」

「いつまで子ども扱いしてんだよ」

「うっ…でも、お菓子はみんな好きだよ」

「はいはい。ほら、さっさと支度しろよ」

男の外出なんて支度に大した時間はかからない。
俺の言葉を聞いて、一緒にいくことに気付いたのか、ぱぁっと嬉しそうな表情になる。
弟と出掛けるのを喜ぶねーちゃんなんてそんなにいないだろ。

「うん!ちょっと待っててね!」

「はいはい」

待つ間、携帯を見る。
一緒に暮らし始めた頃はさっさと姉から離れたいと思っていた。
自立して、自分の好きなことをして、夢を追いかけたい。そんなことばかり考えていた。

俺が自立する頃、きっと姉は俺の姉じゃなくて、あいつの嫁ということになるんだろう。
幸せになってほしい。だけど、自分の姉のままでいてほしい。
そんな子どもみたいな独占欲があるなんて知らなかった。
子どものころ、自分の友達が姉に懐く姿をみて、もやもやしたのを思い出す。
多分、あれに似てる。

けど、誰よりも近い場所でずっと見てきたから。

「幸せになれよ、姉ちゃん」

本人に言うのはまだ先。

 

「香月、お待たせ!」

「ん、じゃあ行くか」

星野市香じゃなくなっても、姉であることには変わりないんだけど。
それでもまだもう少しだけ、星野市香でいて欲しいなんてことはきっと言わない。

それぞれの幸福論~冴木弓弦の場合~(弓弦×市香)

同期というものは不思議なものだ。
これだけ多くの人間が存在する警察署のなかで、同じ時に警察学校に通ったからというだけでなんだかほっとする。
約束していた夜、星野といつもの居酒屋へ行く。いつものようにビールで乾杯し、互いに労を労う。
いつもより少し早いペースでビールを煽る星野を見て、頬が緩んだ。

「あ~、やっぱり同期っていいなぁ」

「ん、そうだね」

「お前のそういう顔が見れるんだもんな」

「え、なに?何か言った?」

「いいや。ビールが美味いって言った」

「ふふ、そうだね」

二杯目のビールを飲み干すと、枝豆に手を伸ばす。

「星野は?ビールでいい?」

「うん。ありがとう」

二人分のビールを注文すると、俺も枝豆に手を伸ばした。
星野が食べる姿を見ると、両手で枝豆を持ってちまちま食べる感じがハムスターみたいで可愛らしい。
きっとこういう星野を見たことあるのは警察署内では俺だけだろうな。
それにちょっとだけ優越感を抱いた。

「…なあ、星野」

そんな事で優越感を抱いた自分が怖くなって、俺は口を開く。
話すことなんて、いつも決まっている。

「俺の夢はさ、でっかいかもしれないけど当たり前だと思うんだよなぁ」

「冴木くんの夢は人々の幸せと世界平和のため、だもんね」

「おうっ!俺はそのために命を賭ける!」

ぐっと手を握ると、星野は笑った。
星野の笑う顔が、好きだ。
でも、真剣な眼差しで照準を合わせてる姿が一番好きかもしれない。

人の役に立ちたいとありふれた夢を抱いて、それを叶えようと日々頑張る普通の女の子。
俺にとって、普通がどんなものかはわからない。
だって俺は初めからおかしかったから。
正しい世界に導くんだ。
弱い人間が泣かなくていい世界に。

 

 

「あー、やっぱり星野と呑むのがいっちばん楽しいなぁ」

「私も冴木くんと呑むの好きだなぁー。やっぱり同期っていいよね」

「ああ、そうだな。…よし、今日は朝まで呑むか!」

「うん、それは大丈夫かな」

「ちぇっ、わかってるよー。ちゃんと終電前には帰らないと弟心配するもんなー」

「心配はしてないと思うけどね」

酒で火照った頬に触れてみたい。
恋人みたいに肩を抱いてみたい。
そんな欲もあるのに。
俺がこいつに望むのはその綺麗な手で拳銃を握って、
綺麗な瞳で俺を捕らえて、
俺を撃ち殺す未来を最も望むなんて。

あーあ、俺も大概だな。

「星野ー、俺は正義を貫くぞー!」

「私もがんばるぞー!」

酒がまわって、バカみたいに理想を口にしてみる。
二人で笑いあう。
この日常もあと少しで終わるんだ。

 

 

いつか、その瞳で俺を射殺す日が来るまで…
さあ、もうすぐカウントダウンが始まる。

それぞれの幸福論~柳愛時の場合~(愛時×市香)

「…そんなに見つめられるとちょっと照れるな」

海が見たいと珍しくカップルっぽいデートの提案をされたのが先週のこと。
市香を助手席に乗せて、海を目指して車を走らせる車中で、隣から視線を感じる。

「車を運転する姿って5割増しですよね」

「そ、そうか」

榎本が読んでいる雑誌にでも書いてありそうな言葉になんと返事していいのかわからず俺は頬をかいた。
七歳下の俺の恋人。名前を呼ばれただけで、顔が熱くなるし、名前を呼んだだけでドキドキする。
いい年して何おもってるんだ、と思うこともしばしば。

「それにしても混んでるな」

海までの道。
まだシーズンではないから大丈夫だろうと思っていたが、思いのほか道が混んでいてなかなか進まない。

「ですね。でも、こういうのもドライブの醍醐味ですよね、きっと」

「そう言ってくれると助かる」

道が混んでるとイライラしてくるが、市香がそう言ってくれるおかげで随分焦りがなくなる。

「これ、柳さんの好きな曲ですか?」

「ああ、そうだ。割と良く聞いてるな」

「こういうのも聞くんですね」

「似合わないか?」

「いえ、そんな事は…。嘘です、意外でした。
流行の曲を聴くイメージはありませんでした」

「素直でよろしい」

車内に流れるのは、なんというかラブソングだ。
市香も意外に思うだろうし、俺も実は自分で意外だ。
今まで人と深く付き合うことを避けていたからか、ラブソングなんて全く耳に入らなかったのに市香と付き合い始めた途端これだ。
自分の浮かれ具合に笑ってしまう。

「お前はどんな曲聞くんだ?」

「私ですか?そうですねー」

俺でも知っているような歌手の名前がいくつか挙がる。
そして、少し恥ずかしそうに笑ってこう言った。

「あと、…愛時さんと付き合うようになって、ラブソング聞くようになりました」

多分ここが車の中じゃなくて、部屋の中とかだったら迷わず抱き締めていただろう。
それくらいの破壊力のある台詞だった。

「なあ、市香」

「はい」

「道も混んでるし、ちょっとだけいいか」

赤信号に変わり、車の進みが止まる。
市香のほうを見ると、先ほどと変わらず俺を見つめていた。

「なにがですか?」

「これ」

そう言って、顔を近づけて触れるだけの口付けをした。

「-っ、あ、愛時さん!!」

「お前が可愛すぎて我慢できなかった」

赤くなった市香に気持ちの籠もっていない謝罪の言葉を口にすると、信号が再び青に変わった。

「…愛時さん」

「ん?」

車を発進させると同時くらいに、頬に何かが触れた。

「お返しですっ!」

「あんまり俺を煽らないでくれ」

目的地を別の場所に変えてしまいそうになる。

「柳さん、海はもうすぐです!頑張りましょう!!」

このいたたまれない空気を換えるかのように市香が言う。
しょうがない。今日は、予定通り恋人の願いを叶えよう。
今日の夜は榎本は呑みに出掛けるといっていたことも忘れてはいない。

「そうだな、もうすぐだ」

ハンドルを握りなおし、海へと車を走らせた。