先日のことだ。
収録の合間に金城さんと話したときに私の呼びたい時に名前で呼べ、といわれた。
(他の皆さんは私のこと、下の名前で呼んでくれているけど金城さんはいつも名前で呼ばないもんなぁ)
それが悪い事とか、嫌だということではない。
呼びやすいように呼んでもらえればそれでいいと思ってる。
だけど、名前で呼んでもらえたら・・・嬉しい。
嬉しいけど、私も金城さんを名前で呼ぶだなんて恥ずかしい。
「・・・ふう」
上がってきた原稿のチェックをしながら私はため息をついていた。
「何してんの、おまえ」
「-っ!お疲れ様です!」
すぐ傍に金城さんのぬくもりがあって、驚いて思わず椅子を引いてしまう。
「何びびってんだよ」
「いえ、全然気付かなくて・・・すいませんでした」
「そんな事でいちいち謝んなよ」
私がチェックしていた原稿を手に取ると文章を目で追うのが分かった。
「金城さんたちにも後でチェックお願いすることになると思います」
「ん、分かった」
「飲み物、買ってきましょうか」
「いや、大丈夫」
「そうですか」
金城さんを前に妙に動揺してしまう。
金城さんが何を言うのか身構えてしまい、沈黙に耐え切れなくなって次の言葉を捜していると金城さんに鼻をつままれる。
「!?」
「どうしたんだよ、そんな顔して」
「か、かねしろさんが」
「変な顔」
悪戯が成功した子どもみたいなカオで笑う金城さんに思わず心臓が跳ねる。
どちらかといえばいつも真剣な瞳をしていて、あまり笑わない金城さんが私に向けてこんな風に笑うなんて。
金城さんの手が私から離れると、慌てて鼻を隠した。
「金城さんが変なことするからですよ!」
「その前から俺に対して緊張してただろーが」
「う・・・それは、その・・・こないだの事思い出しちゃって」
「こないだ?」
「・・・その、名前で呼ぶっていう」
「-っ!!」
金城さんも思い出したのか、手に持っていた原稿が滑り落ちた。
慌てて拾おうと手を伸ばすと、金城さんも同じタイミングで手を伸ばした。
「あっ」
まるでドラマのワンシーンのように手が重なった。
慌てて手を引っ込めようとするが、なぜか金城さんに掴まれた。
「・・・っ、金城さん」
「なんだって?」
「・・・えと、手を」
「誰に話しかけてんだよ」
私を探るような瞳が何を訴えているかようやく気付いた。
「手を、離してください。剛士くん」
「ふーん」
そう言うと強く手を握られた。
金城さんの手って私よりも、熱い。
「つばさの手、冷たいな。女は冷えやすいっていうもんな」
「剛士くん・・・あんまり意地悪しないでください」
どうしていいのか分からない。
アイドルとA&Rの距離ってこんなに近づいちゃダメだって分かってるのに。
心臓がうるさい。金城さんから目を逸らせない。
「それはこっちの台詞だ」
ようやく手が解放され、拾った原稿を手渡された。
「んじゃ、お疲れ」
「お疲れ様です。何か用事あったんじゃ?」
「おまえがいるの見えたから寄っただけだ。じゃあな」
軽く手をあげて、金城さんは部屋を出て行った。
なんかもう・・・色々と駄目な気がする。
「次・・・金城さんに会ったとき普通に出来るかな・・・」
熱のひかない頬を両手で押さえて、私はため息をついた。