「ねね、ごうちんごうちん!」
「んだよ」
収録の待ち時間、こないだインタビューを受けた原稿チェックをしていると後ろからにゅっと悠太が現れた。
「ごうちんはさ、なんでつばさちゃんを名前で呼ばないの?」
「はぁ?」
「あー、そういえばあんまり聞いたことないねー」
前髪をセットしなおしていた健十もしれっと会話に参戦してくる。
どうでもいい事にいちいち気付く奴らだ。
「別にお前らには関係ないだろーが」
「えー気になるよー。だっていっつもお前、とか言うんだもん。
つばさちゃん可哀想じゃん。可愛い名前なのに」
「そうそう。それに女の子をお前呼ばわりするヤツはモテないぞ」
「うるせーんだよ、おまえらは。俺は俺の呼びたいように呼ぶんだよ」
呼ばなければならない時には呼んでいる。
だからおまえらが知らないだけだ。
それを言葉にしないのはからかわれるのがめんどくさいからだ。
「あ、みなさん。もうすぐ収録再開になりますよ。移動してください」
タイミング悪くつばさが現れると悠太と健十が顔を見合わせにやりと笑った。
「ねーねー、つばさちゃん。つばさちゃんはごうちんに名前で呼ばれたいよね?」
「どうしたんですか、急に」
「つばさだってお前って呼ばれるの好きじゃないだろ?」
二人でつばさをはさんで俺をにやにやと見ながら口々に言う。
はさまれた本人は何がなんだかという風に困った顔をして俺に助けを求める目をする。
「くだらない事言ってないで、行くぞ」
二人をつばさから引き離し、つばさの腕を掴んで歩き出した。
「金城さん?どうしたんですか?」
廊下へでると掴んでいた手を離し、俺は振り返った。
「・・・おまえはどうなんだよ」
「え?」
何を言ってるのか分からないらしく目をぱちくりして俺を見つめてくる。
その視線に弱くて、俺は思わず舌打ちをした。
「だから、名前」
「剛士くん?」
「-っ!!ばっ、そっちじゃなくて」
突然名前を呼ばれて、思わず赤面してしまう。
名前を呼ばれるくらいでなんだっていうんだ。バカらしい。
「おまえは、つばさって呼ばれたいのかって聞いてるんだよ」
「あっ、ごめんなさい!間違えちゃいました・・・!!」
自分の勘違いが恥ずかしかったらしくつばさも顔を赤くした。
「え、と。私はどちらでも。金城さんが呼びやすいように呼んでいただければ構いません」
「・・・ふーん」
そう言われると面白くない。
「じゃあおまえが俺のこと名前で呼んだら俺もつばさって呼ぶ」
俺が強制したみたいなのは面白くない。
だからおまえに決定権をゆだねてやる。
「じゃあ・・・たまに呼ばせてください。剛士くん・・・って」
「お、おう」
恥ずかしそうに俺の名前を紡ぐと、つばさはそれを誤魔化すように俺の背中を押した。
「ほら!急がないと遅れちゃいます!!」
「分かったから押すな!」
「甘酸っぱいね~」
「甘酸っぱいなぁ」
つばさと剛士の事の顛末を後ろから見ながら二人でにやりと笑った。