その日は喉の調子もいつもより良い感じがしていた。
朝起きた瞬間からそんな気がしていた。
おかげで予定より早く自分の分の収録が終わり、待ち時間の間にコンビニへと向かった。
そこのコンビニには俺がいつも飲むドリンクが売っていることも良いことだ。
他のコンビニだとなかなかなくて、忘れた日には気が滅入る。
予備のために2本買い、袋をぶら下げてコンビニから出ようとして雑誌が置いてある棚の前で思わず立ち止まった。
(・・・これ、こないだの)
にゃんにゃんポーズを強いられ、キレた日のことを思い出す。
大人気なかったと自分でも思うが、あんなことをするために俺たちがいるわけじゃないと強く思った。
そして仲間二人までバカにされて流せるほど人間ができていなかった。
(でも、まぁ・・・たまにはこういう写真も悪くないのかもな)
雑誌を手に取り、自分たちが載っているページを開く。
既に一度目を通しているが、こうやって実際に並んでいるのを見るのはまた違うものを見ている気分になる。猫耳をつけるなんて死んでもごめんだけど、たまにならこういうアイドルっぽいことをしてやるのもしょうがないかもな。
雑誌を閉じて、棚に戻すとコンビニを後にした。
スタジオに入ろうとしたとき、小さな鳴き声が聞こえた。
「・・・ん?」
足元を見ると、猫がいた。
それはこないだ撮影のときに現れた白猫に似ている気もした。
足にすりすりと身体をこすりつけ、俺に甘えてくる。
「なんだよ、おまえ。こないだのやつか」
仕方なくしゃがみこみ、猫を足から引き離して抱き上げる。
にゃーと返事するみたいに鳴くのが愛らしくて、俺は思わず頬が緩んだ。
「なんだよ、俺に会いにきたのかにゃー」
つられるように出た言葉。
いや、本当つられたんだ。猫に。それだけ。決して俺の趣味じゃない。
「金城さん?」
背後から俺を呼ぶ声。
背中に汗がつたった気がした。
おそるおそる振り返るとそこにはつばさが立っていた。
「・・・聞いてたか」
「え?」
「今の」
「この子、こないだの子に似てますね」
俺が抱っこしている猫に気付き俺の隣にしゃがみこむ。
猫の顎を指の腹で転がすように撫でると猫も甘えたような声をあげる。
「かわいいですねー」
「・・・おまえのほうが」
可愛いだろうといいそうになった言葉を慌ててぶった切る。
「それより、どうしたんだよ」
「金城さんがなかなか戻ってこないから心配になって見に来ちゃいました」
「悪い、そんなに時間経ってたか?」
「いえ、いつも10分しないで戻ってこられるので、私が心配になっただけです」
「・・・あっそ」
そういう細かい部分も見てくれてるんだよな、こいつ。
なんとも思ってないけど、そういう部分に感謝してる。
こいつのアドバイスだったり、気配りだったり凄いなと思うことはあるし。
いや、意識はしていないけど。
俺は健十みたいに女のことばっかり考えてチャラチャラするタイプじゃねーし。
隣にいるつばさを盗み見ると、嬉しそうな顔をして猫をなで続けていた。
俺は立ち上がると、つばさの頭をぽんぽんとなでた。
「-っ!?金城さん?」
「迎えにきたんだろ、もどるぞ」
「はいっ!」
女のことばっかり考えているわけじゃない。
ふとした瞬間に、こいつのことを考えているだけだ。
それだけのこと。
熱くなった頬を誤魔化すように、買ったばかりの炭酸を煽るように飲んだ。