紡ぐ言葉(夏深)

「夏彦、何をしてるの?」

昼下がり、夏彦にコーヒーを煎れてもっていくといつもならデスクの前で黙々と作業をしている夏彦は部屋の片隅で背中を丸くしていた。

「深琴か、どうしたんだ?」

「そろそろ一息入れた方が良いかと思ってコーヒー持ってきたの」

「そうか、ありがとう」

夏彦は小さく笑うと、私からコーヒーを受け取った。
何をしていたのか覗き込もうとすると、さりげなく夏彦に邪魔される。

「・・・・・・・・・」

「・・・ねえ、夏彦。どいて欲しいんだけど」

「深琴の煎れたコーヒーはうまいな」

「誤魔化さないで」

まだ熱いのに無理矢理コーヒーを飲み干すとマグカップを私へ返してくる。

「ねぇ、夏彦」

「ありがとう、深琴。いい休憩になった」

くるりと回転させられるとそのまま背中を押されて、私は部屋を追い出されてしまった。

「ちょ、夏彦」

「悪い、今立て込んでるんだ」

「・・・そう。がんばって」

力なく言葉を返すと夏彦に返されたマグカップを持ってキッチンへと戻った。

 

「はぁ、どうしたのかしら・・・夏彦」

マグカップを洗い終わり、椅子に腰掛けて一息つく。
夏彦にあしらわれる事なんてここ最近なかったから自分が思いのほか落ち込んでいることに気付いて驚く。
でも本当に何か忙しそうだったし・・・私の知らない何かが舞い込んだのかしら。
ため息がもう一度自然と口から漏れ、私はそのまま机に突っ伏した。

「・・・夏彦のばか」

少し話しをしたかっただけなのに。
今日の夕食は夏彦の嫌いな食べ物いっぱい入れてやるんだから。
そんな事を決意した時、

「ぴぴ」

「・・・え?」

顔を上げると気付けば目の前に白ヒヨコがいた。

「どうしたの?最近全然動かなかったからもう駄目なのかと思ってた・・・!」

「ぴぴぴぴーぴぴ(ご心配をおかけしてすいません。実は今日)」

「なに?どうしたの?」

久しぶりにだっこすると懐かしい気持ちになる。
この子がいたから私と夏彦がうまく話せるようになったのかもしれない。

「ぴぴぴぴーぴぴぴぴ(深琴さん、お誕生日おめでとうございます)」

電子板にそう表示されると、白ヒヨコが口をあけた。
その中には小さなケースが入っていた。
それを取り出して開きー

「・・・、ありがとう。私、夏彦のところにいってくるわ」

「ぴぴ」

机の上に白ヒヨコを戻すと、私はケースを胸に抱いて夏彦の部屋へと駆け出した。

 

 

「夏彦っ!」

「・・・深琴」

今度はデスクの前になんでもないような顔をして座っていた。
私は勢いよく抱きつくと、夏彦は慌てて私を抱きとめた。

「ばかっ!白ヒヨコをつかってこんなことするなんて!」

「・・・おまえが白ヒヨコと話したがってると思ったんだ」

私を喜ばせようとしてくれたことなのに。
本当は泣きたいくらい嬉しかったのに、どうして素直に嬉しいと先にいえないんだろう。
そうおもいながらも言葉が溢れる。

「それはそうだけど!私、さっき寂しかったのに・・・!夏彦が私に隠し事してるみたいでふあ」

だけど、私の言葉はすぐ塞がれてしまった。
夏彦の唇が、私の言葉を奪う。
さっき飲んだコーヒーの味が仄かにするキス。
私は大人しく夏彦のキスを受け入れた。しばらくして、唇が離れると夏彦は私の額に自分の額を合わせた。

「深琴、好きだ」

「・・・夏彦」

「好きだ、おまえが好きなんだ」

「・・・うん」

「好きだ」

ひたすら言葉を重ねられ、キスの余韻ではなく私の頬は熱くなる。
視線を逸らそうとすると、甘えるように擦り寄られ、両頬を優しく包まれる。

「逃げるな、深琴。
俺はおまえが好きだ」

「・・・うん、私も好きよ」

「ああ、あと。誕生日、おめでとう」

よく見れば、夏彦の耳が赤くなっていた。
心臓がバカみたいに騒いでいたけど、それをみてちょっとだけ安心して笑ってしまった。

「順序が逆よ、夏彦。
でも、ありがとう」
素直になれない私も愛してくれてありがとう。
あなたの隣で、また一つ時を刻ませてくれてありがとう。
夏彦の頬を両手でそっと触れると、そんな感謝の気持ちをこめて、私からキスをした。

 

 

 

Happy Birthday Mikoto!!!

 

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