ふわふわとゆれる髪に手を伸ばす。
「ん?どうかしたか」
「ううん。峰雄さんの髪って綺麗ですよね」
乱暴に結んではあるけど、触れたら痛んでないし、指どおりもいい。
そんなに丁寧に扱ってる姿は浮かばないから意外だ。峰雄さんの髪を触っていると、気付けば身体を硬直させて動かなくなっていた。
「・・・峰雄さん?」
「えっ!?いや!!決してやましいことなんてまったく!まーったく考えてない!!!」
何も言っていないんだけど、峰雄さんの耳は後ろからみても分かるくらい真っ赤だ。
「・・・解いてみてもいいですか?」
「~、いや、それはあの・・・もしかしてOKのサインかなにか、なのか?
いや、でも香月帰ってくるんだろ?」
「バンドの練習で遅くなるって言ってましたが、帰ってきますよ。
帰ってきたら一緒に夕食食べましょうね。今日は和風ハンバーグです!」
「おっ、それは楽しみだな!!じゃ、なくて!」
峰雄さんはぐるんと振り返り、私の両肩を掴んだ。
顔が近くて、ちょっと恥ずかしい。
視線を逸らしたらいけない気がして私は彼を静かに見つめた。
「・・・市香、あのさ」
「はい」
「俺も、」
私を掴んでいた手が肩から頭の後ろに移動する。
「俺もお前の髪、触りたい」
「・・・ど、どうぞ」
そんな真剣な瞳で言うことなのかな、これって。
でも、峰雄さんがそこまで願うなら私の髪くらいいくらでも。
了承すると、峰雄さんの手が私の髪を丁寧に触れていく。
壊れ物に触れるみたいな優しい指使いに私はなんだか恥ずかしくなってしまう。
正面から触られるのってなんていうか照れる。
自分は何をしていればいいんだろう。
手持ち無沙汰な手を彼の腰に伸ばした。
「-っ!!い、市香!」
「触りたくなりました。ダメですか?」
「好きな子が俺に触れたいって言ってんだ。
ダメなわけ、ない。」
「・・・そういうのなんかずるいです」
峰雄さんは恥ずかしげに視線をさ迷わせながらも私の髪に触れた。
「髪解いたおまえも見てみたいな」
「じゃあ今度のデートのとき、髪下ろしていきます」
結ぶことが習慣になってしまったからなかなかおろさないけど。
好きなひとがそんな風に言ってくれるんだから叶えてあげたくなる。
「香月帰ってくるの何時だ?」
「21時は過ぎるって言ってました」
時計を見ると今は19時だ。
遅めの夕食になってしまうのが不満なのかもしれない。
「市香、あのさ」
「もしかしておなか空いてます?先に食べますか?」
「・・・いや、そっちじゃなくて」
峰雄さんの手が、髪から私の頬に移動した。
軽く顔を持ち上げられて、顔が近づいた。
「その・・・いいか?」
「-っ!」
そういわれてようやく気付いた。
一気に熱が顔に集まった。
「・・・はい」
こくりと頷くと峰雄さんは私の額にキスを落とした。
「髪、ほどいてもいいか?」
そういう意味だったのか、と思うとここにいたるまで気付かなかった自分が恥ずかしくなったが彼の首に腕を回す。
「峰雄さんのもほどいていいですか?」
「・・・ん、おまえならいいよ」
そう笑って、峰雄さんは今度は熱っぽいキスをくれた。