それは反則(契×市香)

「市香ちゃん、市香ちゃん」

名前を呼ばれて手招きされる。
近づいていくと、正面からぎゅっと抱き締められて耳元に唇が寄せられた。

「いちゃいちゃしたいな」

「-っ!岡崎さんは、直球ですね」

「ん?そうかな。思ったこと言っただけなんだけど」

それを直球だというんだけど。
慌てて私は岡崎さんを両手で押しやって引き離す。

「ダメです!こんな昼間から!」

数ヶ月ぶりの一緒の休暇。
それなのに、昼間からいちゃいちゃするなんて・・・

「昼間だったらどうしてダメなの?」

「・・・それは、その」

いちゃいちゃするのは夜というイメージが強いからか。
小首をかしげて聞いてくる岡崎さんを論破する言葉が浮かばなくて口ごもってしまう。

「市香ちゃんってば顔赤い」

私の顔を見て、岡崎さんは笑みを浮かべる。
いつも私が赤くなってばかりで、なんかこう・・・岡崎さんのペースに持っていかれてしまってる気がする。
私も彼にときめいてほしい、なんてちょっと恥ずかしいことを思っているんだけどなかなか叶ってる気がしない。

「あんまりからかわないでください」

「からかってるつもりはなかったんだけどな。ごめんね」

抱き締める手を緩めて、私の瞼にそっと口付けられる。

「機嫌、直してくれた?」

「・・・どうでしょう」

「意地悪だなぁ、市香ちゃんは」

「岡崎さんほどじゃないです」

私がそう返すと、岡崎さんは一瞬驚いたような顔をしてから笑った。

「じゃあ今日はどこへ行こうか?」

「うーん。目的もなくぶらぶらするとか、ダメですか?」

「うん、いいよ」

岡崎さんは嫌な顔もせず、頷いてくれた。
そして私から身体を離すと、キッチンへ行こうと後ろを向いた。

「契さん・・・!」

私は離れたばかりの身体に手を伸ばし、岡崎さんを後ろから抱き締めた。
彼の背中に頬を寄せると、彼の鼓動が伝わってきた。

(・・・あ、岡崎さんの鼓動、早くなってる)

「・・・あの、契さん?」

早くなる鼓動とは裏腹に岡崎さんは全く動かない。
どうしたのか、不安になって抱き締める腕を緩めると回していた手を掴まれた。
そして、次の瞬間には横抱きに抱え上げられ、あっという間にベッドへと下ろされた。

「市香ちゃん、それはずるいよ」

「え、あの」

私の上に覆いかぶさってきた岡崎さんの顔は真っ赤になっていた。
驚いて私は言葉がうまく出ない。

「岡崎さ・・・」

名前を呼ぼうとすると、キスで言葉を飲み込まされた。
唇を離すと、岡崎さんは耳元でこう囁く。

「だーめ。オレの名前、ちゃんと呼んで」

「・・・!契さん、あの・・・おでかけは」

「だって市香ちゃんから誘ってきてくれたんだもん。しょうがないよ」

そう言って、私の手に自分の手を絡める。
こうなってしまったらもう私に拒む事なんて出来ない。
カーテンを閉めたって入ってくる光のせいでお互いの表情なんていくらでも見えてしまう。

「・・・あんまり顔、みないでください」

強請るように言葉にしてみると、岡崎さんは笑った。

「市香のどんな表情でも見たいからそれは聞けないな」

「いま、なまえ」

呼び捨てにされた事に嬉しさを隠せなくて起き上がろうとすると口付けられてまた言葉を奪われる。
啄ばむようなキスを繰り返し、息の上がった私に彼は優しく微笑んだ。

「君に触れてもいい?」

結局彼に振り回されてしまう。
繋いでいない手で彼の頬に触れた。

「私も触れたいから・・・触れてください」

私の言葉に岡崎さんの動きが止まる。

「本当に・・・キミには叶わないな」

そうして困ったように笑うと、今度は熱っぽいキスをくれた。

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