初めて一緒に迎える誕生日。
榎本さんが率先してみんなに声をかけて開かれることになった愛時さんの誕生日会。
一応気を遣ってくれて、前の日に開催されることになった。久しぶりに事務所に集まった面々にみんなではしゃぎ倒し、気付けば日付が変わりそうになっていた。
「愛時さん、タバコですか?」
「ああ」
「一緒にいってもいいですか?」
「ああ」
以前もこうやってタバコを吸いにいく愛時さんについていった。
昼でも夜でも、屋上から見る景色がとても好きだった。
「ここはやっぱり気持ちいいですね」
「そうか?」
「愛時さんもタバコ吸う回数減ったからあんまり来てないんじゃないんですか?」
「ああ、そうだな」
そういいながら私から視線を逸らす愛時さん。
これはタバコの量は減っていない証拠だ。
以前よりは吸う量は減った。一日10本に抑えていると本人は言っているからそれを信じよう。
健康のことを考えるとあんまり吸わないでほしいけど、集中したい時や気晴らししたい時に吸うらしいのであんまり口うるさく言わないようにきをつけている。
「あと数分でお誕生日ですね」
「この年になってこんな風に誕生日を盛大に祝ってもらうと思ってなかったよ」
「だって、初めてみんなで…いいえ、私と愛時さんが一緒に迎える誕生日ですもん」
初めて迎える恋人の誕生日。
最近は治安も良くなってきて、有休もなんとか獲得することが出来たので明日はお休み。
愛時さんのために色々と支度はしてきているけど、それは明日のお楽しみ。
「…もうこないだみたいな真似にならないようにしないとな」
「こないだ?」
「……」
そういわれて思い出したのは、あの日。
愛時さんが私に指輪をくれたあの日。
みんなにこっそり覗かれていた時のことだろう。
思い出して、思わず苦笑いを浮かべてしまう。
時計を見ると、秒針がもうすぐてっぺんをさす。
「5、4、3」
私は声に出してカウントダウンを始める。
愛時さんはそれに耳を傾けてくれているようだ。
「2、1…お誕生日おめでとうございます!」
「ありがとう、市香」
煙草を吸い終わり、携帯灰皿に吸殻を仕舞うと私の腰にそっと手をまわして抱き寄せてくる。
「あ、愛時さん」
「ん?なんだ?」
「プレゼントは明日お祝いのときに改めて渡しますね」
「そうか、今ないのか」
「…ないですね、今」
「じゃあ、俺の願いを叶えてくれないか?」
「いいですよ。なんですか?」
「俺の年の数だけ、市香からキスしてくれないか」
「………っ!!?え、こ……ここで!?」
「ああ、ダメか?」
その聞き方はずるい。
しかも、私の耳元で囁くように言うなんて。
私が愛時さんにそうされるの弱いって知っててやっているんだから。
「でも、誰かのぞくかも」
「鍵かけた」
「え?鍵締めれたんですか?」
「ん?鍵つけてもらった」
「……計画犯ですね」
「さあな」
いたずらっ子みたいに笑う愛時さんが可愛くて、私は自分の頬をぺちぺちと叩いた。
「目、閉じてください」
背伸びをして、頬に一度目のキスをする。
二度目のキスは、もう片方の頬に。
「…照れるな、これ」
「自分から言ったんじゃないですか」
「ほら、続き」
「…はい」
三度目のキスからは、唇に。
「愛時さん、お誕生日おめでとうございます。世界で一番、大好きです」
キスの合間にそう言うと、愛時さんは耳まで赤くなった。
Happy Birthday Aiji Yanagi!!!