本当の自分
本当の自分は獣じみた生き物だ。
人を殺す事をなんとも想っておらず、それよりも母さんが褒めてくれるから殺すことにためらないなんてなかった。
だけど、ジェドがいてくれればそれだけでオレはレビのままだった。
「レビ、寒くない?」
「ん、大丈夫。それよりジェドは?」
「寒くないよ、レビがあったかいから」
追放されたオレたちは、あてもなくただひたすら歩いた。
雪に足を取られて歩きにくい道懸命に歩いた。
足跡がないほうへないほうへ…
そう、誰もいない場所を求めて歩いた。
歩いて歩いて、その先にようやく誰も使っていないであろう寂れた小屋を見つけた。
中は埃まみれで掃除をしなければ住めそうもない。
いくつかある部屋のベッド。毛布を引きずりだし、暖炉の前に二人でうずくまる。
「薪、少しだけでもあって良かった」
「ああ、でもすぐなくなるから探しにいかないとな」
食料だってなさそうだ。
こんな雪景色しか広がらない場所で、食料や薪になりそうなものを簡単に確保できるとはさすがのオレも思っていない。
「でも、久しぶりに屋根のある場所で眠れるんだからさ。
先のことはあとで考えよう」
ジェドはオレを甘やかすみたいに笑う。
肩を抱き寄せれば、ジェドの香りがする。
触れている部分だけ、妙に熱を持つ。
こんな状況なのに、欲情している自分がいた。
さすがに気付いていないだろうけど、その分ジェドは無防備だ。
安心しきった顔で燃える薪を見つめている。
その横顔も、小さい頃からよく知っているジェドなはずなのに、こんなにも綺麗だったのかと動揺してしまう。
「レビ、なんか静かだね」
「えっ!?あ、いやそうか?そんな事は」
「そうかな。…でも、さすがのレビも歩き疲れたか」
「お前の方が…!」
そういおうとして、コイツが住んでいた場所を思い出す。
男のオレでさえ、夜には通りたくないと思うような道で、塔へ戻っていってたのだ。
さすがジェドというかなんというか…
「なぁ、ジェド」
「ん、なに?」
「お前、綺麗だな」
素直に言葉にしてみると、驚いたようにジェドがオレを見つめる。
頬が紅く色づいた。
「照れてる?」
「急にそんな事言われたら誰だって…!」
「今思ったから口にしただけ」
ジェドがこんな事くらいで動揺するなんて。
これからはオレだけが見ていくんだと思うと嬉しい気持ちとなぜか泣きたい気持ちになる。
肩を抱いていた手でそのままオレの腕のなかにジェドを閉じ込める。
額を合わせて、見つめるとジェドは言葉を飲み込んだ。
「ジェド、ジェド…」
お前が男でも女でも関係ない。
ジェドが好きだ。
お前がいたから、オレはオレのままでいられた。
血がこびりついて綺麗にならないオレの手で、お前に触れる。
それでもジェドはジェドのままだ。
「…レビ、…」
名前を呼ばれ、たまらなくなって唇を奪う。
舌だけは別の生き物みたいに熱くて、ジェドのそれを追い回す。
合間に漏れる声にくらりとした。
こんなジェドを知っているのはオレだけ。
これから何年過ぎようが、オレだけが知っているジェド。
「…ジェド、ジェド」
名前を呼んで、ただ求める。
ジェドがいれば、オレはオレのまま。
「好きだ、ジェド」
何度も愛おしい人の名を呼ぶ。
潤んだ瞳でオレを見つめて、静かにきつく抱き寄せてくれた。
「うん、レビ…私も、レビが好きだよ」
蒔がなくなってしまっても、オレとジェドはただ互いを求める事しか知らないみたいに抱き合っていた。
もう呼べないと覚悟した事だってあった愛おしい人の名前を、ただ何度も何度も呼んで。
これが愛なのかもしれない、とオレが言うとジェドは今更だよと笑った。