レコーディング、雑誌のインタビュー…
今日の仕事が終わり、部屋に戻る。
腹は空いていたが、それよりも日中かいた汗を早く落としたくて、帰った早々にシャワーを浴びる。
仕事の上がりは一緒だったが、愛染はいつものように女と会うと嘘なのか本当なのか分からない言葉を残し、
阿修は甘いものが食べたいと駄々をこね、是国を誘って甘いものを食べにいくとか言っていた。
(…何もねえな)
冷蔵庫を開ける前から分かっていたが、飲み物くらいしか入っていない冷蔵庫に思わず舌打ちをする。
しゃーない。ラーメンでも食いに行くか。
濡れた髪をタオルで拭きながらそんな事を考えていると、チャイムが鳴った。
「お疲れ様です、金城さん!」
「ん。おまえか」
ドアを開けると、立っていたのは澄空だった。
「急ぎじゃないんですけど、インタビューの記事があがったのでチェックして頂ければと思って…」
肩からかけた鞄から厚めの封筒を取り出す。
「…ああ、サンキュ。それより上がっていかないか」
上擦りそうになる声。
俺の言葉に驚いたようだ。澄空は俺の顔をじっと見つめた。
「いいんですか?ありがとうございます!」
ちょっとした下心。
いや、愛染じゃあるまいし。
澄空と二人になる時間が欲しいだなんて…思ってはいた。
部屋へ招きいれ、何か飲み物と思ってさっきも開けた冷蔵庫を開く。
「あー…大したものなんだった」
「あ!お構いなく!」
「そういうわけにはいかないだろ」
とは言ったものの。
大したものはない。
冷蔵庫の前で動かない俺を不思議に思ったのか、澄空が傍までやってきた。
「もしかしてお夕食、まだですか?」
「ああ。そうなんだけど、冷蔵庫に何もないんだよ」
「もし良ければ私が作りましょうか?」
「…こんな何にもねーのに作れんのか」
「冷凍庫、開けてもいいですか?」
「ああ」
澄空は冷凍庫、野菜室を確認すると力強く頷いた。
「はい、大丈夫です!少し待っていていただけますか」
「ああ、悪いな」
腕まくりをして、気合をいれたようだ。
澄空がキッチンで奮闘している間にさっき持ってきてくれたインタビュー記事に目を通す。
もっと柔軟になれと愛染に言われるが、澄空は俺の思うまま言葉にすればいいと言ってくれた。
言葉は難しい。
傷つけるつもりがなくても、相手の受け取り方次第で変わってしまう。
だから言葉で何かを訴えるより、歌に色んなものを込めたい。
インタビュー記事のチェックを終える頃、キッチンから良い香りが漂ってきた。
「何つくってんだ?」
キッチンにいる澄空の下へ行き、声をかけると驚いたのか肩がびくりと震えた。
「簡単なものですけど、パスタを…!」
「へぇ、うまそう」
澄空の肩越しにフライパンの中を覗く。
「金城さん…その、近いです!」
そりゃそうだろう。
後ろから抱き締めるような態勢だ。
「…二人っきりなんだから、名前でもいいんじゃないか」
澄空の後頭部にキスすると、緊張を吐き出すみたいにはぁ~っと澄空が息を吐いた。
「剛士くんは心臓に悪いです」
「ん、そうか?」
好きな女が自分のために料理を作ってくれる。
今までそんな事の何がいいんだ?と思っていたが、今日澄空がキッチンに向かう姿を見て悪くないと思った。
頑張る姿は仕事の時にもみているが、今は全部俺のためだけの行動だ。
「剛士くん、髪乾かしてないですね」
ぽたり、と水滴が落ちたようだ。
「風邪なんてひかねーから大丈夫だよ」
「もう…ご飯食べ終わったら乾かしましょう」
「あーはいはい」
世話焼かれるのも苦手だった。
自分から寄ってきて、世話を焼いて、見返りを求める奴らを沢山見てきたから。
苦手だったはずなのに。
こいつなら全部嬉しくなる。
「全部お前だからかな」
ぽつりと漏れた本音。
「え?何がですか?」
「飯よりおまえが食いたい」
「えっ、えええ!?」
突然の言葉に驚いたのか、澄空が振り返る。
「ばーか」
その隙をつくように、触れるだけのキスをする。
「飯食った後だ、後」
「…え!?それって」
キスしただけでどうしようもない気持ちになる。
もっと触れたい。そんな欲が生まれるなんて知らなかった。
この先を、知りたい。
多分、澄空も同じ気持ち…だろう。
飯か、それともこの先か…催促するように、つばさの耳朶にキスを送った。