同期というものは不思議なものだ。
これだけ多くの人間が存在する警察署のなかで、同じ時に警察学校に通ったからというだけでなんだかほっとする。
約束していた夜、星野といつもの居酒屋へ行く。いつものようにビールで乾杯し、互いに労を労う。
いつもより少し早いペースでビールを煽る星野を見て、頬が緩んだ。
「あ~、やっぱり同期っていいなぁ」
「ん、そうだね」
「お前のそういう顔が見れるんだもんな」
「え、なに?何か言った?」
「いいや。ビールが美味いって言った」
「ふふ、そうだね」
二杯目のビールを飲み干すと、枝豆に手を伸ばす。
「星野は?ビールでいい?」
「うん。ありがとう」
二人分のビールを注文すると、俺も枝豆に手を伸ばした。
星野が食べる姿を見ると、両手で枝豆を持ってちまちま食べる感じがハムスターみたいで可愛らしい。
きっとこういう星野を見たことあるのは警察署内では俺だけだろうな。
それにちょっとだけ優越感を抱いた。
「…なあ、星野」
そんな事で優越感を抱いた自分が怖くなって、俺は口を開く。
話すことなんて、いつも決まっている。
「俺の夢はさ、でっかいかもしれないけど当たり前だと思うんだよなぁ」
「冴木くんの夢は人々の幸せと世界平和のため、だもんね」
「おうっ!俺はそのために命を賭ける!」
ぐっと手を握ると、星野は笑った。
星野の笑う顔が、好きだ。
でも、真剣な眼差しで照準を合わせてる姿が一番好きかもしれない。
人の役に立ちたいとありふれた夢を抱いて、それを叶えようと日々頑張る普通の女の子。
俺にとって、普通がどんなものかはわからない。
だって俺は初めからおかしかったから。
正しい世界に導くんだ。
弱い人間が泣かなくていい世界に。
「あー、やっぱり星野と呑むのがいっちばん楽しいなぁ」
「私も冴木くんと呑むの好きだなぁー。やっぱり同期っていいよね」
「ああ、そうだな。…よし、今日は朝まで呑むか!」
「うん、それは大丈夫かな」
「ちぇっ、わかってるよー。ちゃんと終電前には帰らないと弟心配するもんなー」
「心配はしてないと思うけどね」
酒で火照った頬に触れてみたい。
恋人みたいに肩を抱いてみたい。
そんな欲もあるのに。
俺がこいつに望むのはその綺麗な手で拳銃を握って、
綺麗な瞳で俺を捕らえて、
俺を撃ち殺す未来を最も望むなんて。
あーあ、俺も大概だな。
「星野ー、俺は正義を貫くぞー!」
「私もがんばるぞー!」
酒がまわって、バカみたいに理想を口にしてみる。
二人で笑いあう。
この日常もあと少しで終わるんだ。
いつか、その瞳で俺を射殺す日が来るまで…
さあ、もうすぐカウントダウンが始まる。