カーテンの隙間から差し込んだ明かりで目を覚ます。
元来、そんな繊細な性質ではないが今日は眠りが浅かったのだろう。
隣で眠る彼女は肌寒いのか、猫みたいに体を丸めてオレに寄り添って眠っている。
(可愛いなぁ)
タオルケットがかかっていないむき出しの肩が寒そうだ。
顔を近づけて唇を落とす。
少し冷えた肌に何度か口付けをし、その後起こさない程度に吸い上げた。
赤い花が、そこに咲く。市香ちゃんの白い肌に残す痕。
昨夜だけでも数えるのがバカらしいくらいつけた。
目を覚ましたらきっと彼女は顔を真っ赤にして怒るんだろう。
早くその顔が見たくて、タオルケットの中に潜り込んで眠る彼女のいたるところに口付けを落としていく。
「ん……、おかざきさん?」
まだ眠そうな、そしていつもより掠れた声にほくそえむ。
「おはよ、市香ちゃん。よく眠れた?」
「…いま、何かしてました?」
「うん。してたよ」
「何を」
「キミが寒そうだったから暖めてあげようと思ってキスしてた」
「…岡崎さん、あの…」
市香ちゃんは想像した通り、顔を赤らめて上目遣いにオレを睨む。
そしてタオルケットの中を覗き込んで、ため息をつく。
「岡崎さん、あんまり痕、残しちゃ駄目って前に言いましたよね?」
「うん、聞いたね」
「…香月に指摘されて恥ずかしかったんです」
「うん。だから今回は見えないところにばっかりつけたよ」
「岡崎さん…」
困ったような顔をする市香ちゃんを抱き締めると、諦めたみたいに力を抜いた。
「岡崎さんは、痕をつけるの好きですね」
「んー、そうかな?」
「そうですよ」
回した腕に市香ちゃんが触れる。
手も小さいし、指も細い。
こんな子が拳銃を握るなんて想像つかないだろう。
「市香ちゃんもオレにつけてみれば?」
「……いいんですか?」
「うん」
オレの顔をじっと見た後、鎖骨の下あたりに唇を寄せて吸われる。
自分が促したとはいえ、彼女がこうやってしてくれたことが嬉しくて顔が綻ぶ。
しばらくして唇を離すが、赤くなりはしたがすぐ消えてしまう。
「難しいですね、つけるの」
「でも、キミの痕ならここにあるからいいんだけど」
「ここ?」
「うん」
そう言って彼女の手を背中へ移動させる。
触れただけで分かるだろうか。昨夜キミが残した痕。
「-っ!!痛くない、ですか?」
「痛くないよ。だってキミがつけてくれた痕だから」
オレの言葉を聞くと、申し訳なさそうにオレを見つめながらやさしく背中をさすってくれる。
「こっちは練習してつけれるようになって」
こんな痕、数日も経てば消えてしまうけど。
それでもキミからもらいたいなんて願ってる。
「…がんばります」
「うん」
健気な市香ちゃんは決意したみたいに頷いてくれた。
それが嬉しくて、彼女に頬ずりする。
「市香ちゃん、これから練習しようか」
「え?これから?」
「うん、そう。これから」
まだ朝も早い。
彼女のぬくもりをこれだけ堪能してしまったんだから、もう我慢出来ない。
彼女の返事を待たずに、今日初めての唇へのキスを送った。