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nobody else(正こは)

「こはる、髪になにかついてるぞ」

手を伸ばして、こはるの髪に触れる。
少し触れただけなのに、その髪はさわり心地がよくて驚いてしまう。

「ありがとうございます、正宗さん」

「あ、ああ」

髪についていた糸くずを払ってやると、こはるがぺこりと頭を下げて深琴たちの元へ駆けていくのをぼんやりと眺めていた。

「正宗、どうかした?」

「いや・・・」

いつまでも眺めている俺を不思議に思ったのか、駆が俺と同じようにこはるがいた場所へ視線を遣る。

「こはるは、女の子なんだな」

「・・・正宗、その言い方おやじくさい」

「なっ!!」

ただふと思ってしまった。
見た目を見れば分かるのに。
彼女がか弱い少女だということ。
何ももたない彼女が、一生懸命留める様々な言葉を。
触れた一部が、おそろしく繊細だということを。

 

 

 

 

 

「正宗さん、起きてください」

「ん・・・」

朝、こはるに肩を揺すられてようやく目を開けた。
視界にいるこはるに手を伸ばし、そのまま抱き寄せる。

「きゃっ!正宗さんっ」

「もう少しだけ、いいだろ・・・?」

空いてる手でこはるの後頭部を優しく撫でる。
羞恥で頬を赤らめるこはるの顔を見て、満足げに微笑む。

「・・・図書館に行くの遅くなっちゃいます」

「あと五分だけ・・・駄目か?」

「五分だけですよ」

甘えるようにこはるの胸元へ顔を埋めると、こはるは優しく俺を抱き締め返してくれた。
触れることをためらった少女は今、俺にとってかけがえのない存在になった。
この子のためなら何もかも捨てても構わないと思わせてくれた。
何も持たなかった少女の、何かになりたいと強く願ったのだ。

「こはる、好きだよ」

「私も正宗さんのこと、大好きです」

なんでもないある日の朝、俺たちはただ幸せをかみ締めた。

 

 

枕(イシュアス)

「姫・・・これはどうするつもりだ?」

イシュマールが眉間をおさえながら口を開いた。
枕の中から真っ白い羽と、よく分からない白い玉がたくさん出てきて、ベッドから零れ落ちた。
事の発端はこうだ。

 

「ね、イシュマール!」

「・・・」

「イシュマールってば」

「・・・」

机に真剣に向かう姿は何度も見てきたが、何度も呼びかけているのに一向に応答がない。
それだけ集中しているということは素晴らしいかもしれない。
だけど、夕食の支度が出来たので呼んでいるのにイシュマールは振り返ってもくれないのだ。
それが少し・・・いや、とっっっても面白くなくて、わたしはあるものに手を伸ばし、それを勢いよくイシュマールの背中に投げつけた。

「-っ!なんだね、一体!」

背中に当たって落ちた枕をイシュマールは拾いつつ、ようやく振り返った。

「ふふ、勝負よ!イシュマール!」

「はぁ!?」

もう一個あった枕に手を伸ばし、再び力いっぱいイシュマールに投げつけた。
それを開始の合図代わりに、わたしたちの枕投げ合戦が始まったのだ。

 

 

 

 

「結構楽しかったね」

「・・・君という人は」

枕投げが終わる頃には枕一つが駄目になり、中身がぶちまけられる結果となった。
枕の中身ってこんな風になっていたのね、知らなかった。

「どうするんだ、枕が一つになってしまったではないか」

「もうしょうがないわね。イシュマールが使っていいよ、枕」

夕食を食べている時も、その話が続いた。
枕投げしてるときはイシュマールだって楽しそうだったくせに。
それからいつものように寝る支度を整え、一緒のベッドにもぐりこむ。

「・・・君はどうするつもりだ」

枕をわたしに押し付けられたイシュマールはなんとも言えない表情で隣で横になるわたしを見ていた。

「え、このまま寝るけど」

「それでは首が疲れるだろう」

「いや、別に」

正直、路上でも気にせず眠れるんだから枕があってもなくても眠りにつけるのは変わりない。
イシュマールはため息をついてから、わたしの首の下に腕を差し込んで肩を抱き寄せた。

「・・・イシュマール?」

「こうすれば君も少しは楽だろう」

「・・・でもイシュマールの腕」

「なんだね、私の腕では安眠できないというのかね?
それは仕方ないだろう、枕ではないんだ。そもそも枕をだめにしたのは先ほどの枕投げであってだな。
君の遊びに乗ってしまった私にも責任があるんだ。だからこれはだな・・・」

恥ずかしさを誤魔化すためか、まくし立てるようにイシュマールは言葉を続ける。
それがなんだか可愛くて、わたしはくすりと笑った。
甘えるようにイシュマールに身体を寄せると、イシュマールがようやく大人しくなった。

「なんだかいい夢見れそうだな」

「そうか・・・」

ようやく目が合い、微笑みあった。

「おやすみ、イシュマール」

「・・・ああ、おやすみ」

一つだった枕が二つになって、また一つになってしまったけど。
イシュマールともう一度枕を買いに出掛けられるんならそれも幸せかも。
でも、すぐ買いにいかなくてもいいかな。
この枕をもう少し堪能したいから、なんてね。

変わらないもの(ヴィルラン)

風が少し冷たくなってきた。
ぶるりと身を震わすと、隣に座っていたヴィルヘルムに肩を抱かれる。

「こないだまで暑かったと思ったんだけどなぁ」
「そうだね、もうこの時間になると風が冷たいね」

日曜日。
こうしてヴィルヘルムと森で過ごすことが日課になっていた。
隣にいることが当たり前になった彼をちらりと見ると、ヴィルヘルムは穏やかな表情をしていた。
初めて会った頃は手負いの獣のように誰も信用出来ないと啖呵をきっていた思い出す。
そんな彼が、今はこうして冷たくなった風から私を守るように抱き寄せてくれる。
ヴィルヘルムとずっと一緒にいたい、と強く願うようになっている自分に気付いていた。
彼と離れる未来は私にはないし、おそらく彼もそうだろう。

「ねぇ、ヴィルヘルム」
「ん?」
「ユリアナの話、聞いた?」
「いや、なんにも」
「・・・卒業したら結婚するんだって」
「へぇ」

彼のその反応は予想していた通りだったが、結婚というものにぴんと来ないのだろう。
仕方がないことなのかもしれない。
いつだったか、男の人は結婚というものをリアルに想像できないと聞いたことがある。
それにヴィルヘルムには家庭というものが想像できないのかもしれない。
そう思いつつも、気付けばため息が出ていた。

「どうした?」
「ううん、なんでもない」
「なんでもないんならため息つかないだろう」

心配そうに私をみつめる瞳に誘導されるように、気付けば私はぽつりぽつりと言葉を紡いでいた。

「ヴィルヘルムは結婚を考えたこと、ある?」
「ないな。結婚する意味がわかんねぇ」
「・・・っ!」

肩を抱く手が嬉しいはずなのに、苦しい。
彼は自分が言った言葉がどれだけ私を傷つけたか、分からないだろう。

「私はヴィルヘルムといつか・・・そうなりたいって思ってるのに」

搾り出した声が震えていることに気付かないヴィルヘルム。

「今のままでいいだろ。なんでわざわざ結婚するんだ?」
「・・・っ」

ヴィルヘルムはまるで今日の食事の相談をしているような口ぶりだ。
そんな彼になんて言えば私の気持ちが伝わるのか、分からなかった。
肩にあった手を振り払い、私は立ち上がる。
驚いたようにぽかんと私を見上げる彼が、今は憎たらしい。

「私は、ヴィルヘルムとずっと一緒にいたいから結婚したいって・・・」
「だからずっと一緒にいればいいじゃねえか。
そこにどうして結婚が絡んでくるんだよ」

本気で分からない、と彼は苛立ったように髪をかきあげた。
その動作をみたとき、私のなかでぷつりと何かが切れた音がした。
私は自分で言うのもなんだけど、あまり怒るタイプじゃないと思っていた。
だけど、今頭に血が昇っている。

「ヴィルヘルムの馬鹿!」

そう叫ぶと私は彼を残して走り出していた。
全速力で走って息が苦しい。
しばらく走ったところで、私はようやく立ち止まった。

「・・・追いかけてもくれないのね」

自分から逃げ出したくせに私はぽつりと呟いていた。
気付けば頬が涙で濡れていた。

 

 

 

 

 

 (なんで怒られたか意味がわかんねえ)

先日の森での出来事。
あれ以来、ランはろくに口を利いてくれない。
気付けばこないだのあいつのようにため息をついていた。

「なあ、ヴィルヘルム!」
「ん?」

マルクに稽古をつけてやることが習慣となってどれくらい経っただろうか。

「お姉ちゃんと喧嘩でもしたの?」
「なっ・・・。ランがなんか言ってたのか?」
「ううん、ヴィルヘルムの顔に書いてある」

「・・・くそ」

思わず舌打ちをする。
そんなに俺が分かりやすいと言いたいのか。
苛立ちを誤魔化すようにマルクを横目で見たその時、俺は違和感を感じた。

「お前、背ぇ伸びたか?」

「ふっふーん!気付いた?ヴィルヘルムを越す日も遠くないよ、きっと!」

「馬鹿言うな、お前になんてまだまだ抜かされないぞ」

マルクの額を軽く叩くと、マルクは不満げに俺を見上げる。
そうか、背・・・伸びたのか。

「ヴィルヘルム、お姉ちゃんと仲直りしないと他の人にとられちゃうんじゃないの?」
「なに言ってんだよ。そんなわけ・・・」
「だってソロンだってコレットと付き合い始めたんだよ?
他の人だって彼女欲しいに決まってるよ!
お姉ちゃん可愛いし!」

「・・・っ!うるせえ!あいつは俺の女だ!」

少しでも伸びた身長が縮むようにぐりぐりとマルクの頭を押してやった。

 

 

 

 

変わることが怖い。
今日一緒に戦場で戦った奴が、明日は俺に剣を向けていることだってあった。
だから誰も信用しない。
裏切られた、と思うのは自分がそいつを信用していたからだ。
俺は死にたくない。ただ、死にたくなかった。
そうして魔剣になってからも、人の欲望というものを嫌というほど見てきた。
魔剣の影響で変わっていく人間を見ていた俺は、『変わる』ということが怖くなった。
俺は変われないのに、どうして周囲は変わっていくんだろう。
それが怖かった。
俺も自分が気付かないうちに変わっていくんだろうか。
・・・狂っていくんだろうか、分からない

 

 

ぼんやりとした気持ちでニルヴァーナに戻ると、門のところでしゃがみこんでいる人影があった。

「ラン・・・」
「ヴィルヘルム」

俺に気付くと、ランは立ち上がった。
その瞳は、何を考えているか分からないが真剣だった。

「私と手合わせして欲しいの」
「・・・はぁ?」
「勝負して、ヴィルヘルム」

冗談と笑い飛ばすには、ランの瞳があまりにも真剣だった。
俺は静かに頷いた。

 

 

鍛錬場へ移動すると、そこにはエリアスが待ち構えていた。

「エリアス教官、すいません」
「いや、構わないよ」

ランは申し訳なさそうにエリアスに頭を下げる。
にこりと笑ってそれに応えるエリアスを見て、なんだか面白くない気持ちになる。
軽い鍛錬だが、念のためランは防具をつける。
ハンデは必要だろう。俺はいつもの格好のままだ。
そんな俺を見て、ランは不服そうに口を開いた。

「ヴィルヘルムも防具つけて」
「俺は大丈夫だろ」
「・・・それは何があっても私に傷一つつけられない自信があるってこと?」
「悪かったよ、つける」

決してそういう意味で防具がいらないと言ったわけではないのに、今日のランは厳しい。
気付かれないように息を吐いてから、防具を身にまとい、剣をとる。
定位置につき、向かい合った。

「はじめっ!」

エリアスの声が響くと同時にランが地面を蹴った。
一気に間合いがつまり、ランの剣が俺に向かう。
それを受け流し、一歩下がるがランは構わずに追撃してくる。
剣を受け流すだけでも、ランの手はしびれるだろう。
彼女の細腕には、俺の大剣を相手にするのは厳しいだろう。

「俺相手に正面から来るなんて潔すぎだ!」

はじめの合図と共に決着をつけるか、不意打ちを狙わないとランの実力では俺に勝てない。
分かっているだろうに、正攻法でいつまでも迫ってくるランを退けていく。

「私は!」

俺の横へ飛ぶとその勢いで剣を振り下ろす。
それを受け止め、ランの剣を吹き飛ばそうとなぎ払う。
が、ランは剣を手放さなかった。

「あなたと一緒にいたいから強くなるって決めたの!」

ぎゅ、と柄を握りなおすともう一度剣を振りかざす。

「ヴィルヘルムが変わりたくないって思ってることも分かってる!
だけど、それでも私はあなたと変わっていきたいって思うから!」

泣き出す寸前みたいな顔をして怒られたのはついこないだの事だ。
今のこいつの表情はまるで違う。
それに気をとられたのか、ランの一撃は俺の剣を吹き飛ばした。

「・・・っ!」
「勝負あり!」

エリアスの声が響いた。

「はは・・・マジかよ」
「・・・」

ユリアナが結婚をする。
マルクの身長が伸びた。
ソロンとコレットが付き合い始めた。
ランは・・・強くなった。
なんだよ、みんな変わっていくんじゃないか。
俺だってそうだ。
女なんてなんとも思っていなかったのに、俺は今目の前にいるこの女を誰よりも綺麗だと思ってる。

「俺の負けだな」

髪をかきあげて笑う俺を、ランはじっと見つめていた。
その瞳には不安が覗いていることにようやく気付いた。
ああ、不安にさせていたんだな。

「さすがお前は俺が唯一惚れた女だ」
「・・・っ、ヴィルヘルム」

ランに手を伸ばして、きつく抱き締めた。
触れるのは数日ぶりなのに酷く懐かしい。

「悪かった、ラン」

ランの頭を優しく撫でる。

「・・・私も、ごめんなさい」

ランの手が俺の背中に回った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラン、聞いたよー!」

「え、何を?」

「ヴィルヘルムと勝負して勝ったんでしょ?」

「え、と。勝ったというか・・・」

鍛錬場には人がいなかったと思ったけど、もしかしたら見ていた人がいたのかもしれない。
ユリアナの言葉を誤魔化すように笑うと、肩を叩かれた。

「ラン、ちょっと良いか?」
「ヴィルヘルム・・・!うん、大丈夫。ごめんね、ユリアナ」

ユリアナに謝罪しつつも内心助かったと思ってしまった。
ヴィルヘルムはぎこちない表情をしながらも私の手を引いてくれた。
少しだけ周囲の目が気になるけど、私は大人しくヴィルヘルムについていった。
ついたのはルナリアの木の下だった。

「・・・どうしたの?こんなところに」
「お前が結婚したいって言った時、意味が分からなかった」

向かい合うとヴィルヘルムは突然そんな事を言い出した。

「それは・・・!」
「最後まで黙って聞いてくれ」

反論しようとすると、ヴィルヘルムがそう言うから私は黙るしかなかった。
彼は咳払いをし、言葉を続けた。

「一緒にいたいならずっとこのままでいいと思ってた。
俺もお前も変わらなければ・・・ずっと一緒にいれるだろうって思ってたんだ。
だけど、お前は強くなったし・・・初めて会った時はよく泣くし、口うるさい女だなって思ってたのに」

昔、と言うほど前のことではないのに、遠い昔のように思える。
ヴィルヘルムと出会って、初めは魔剣という存在に怯えたけれど。
私の目の前に現れた彼を放っておけなくて、追いかけている内に気付いたら私は恋に落ちていた。
ずっと一緒にいたい、と願うようになっていた。

「気付いたんだ。
お前のことを愛してるって」
「・・・っ」
「俺も、お前と一緒に変わっていきたいって思ってる。
だから、結婚してくれないか」

ズボンのポケットから小さな箱が出てくる。
ぱか、と音を立てて開いた。
そこには指輪があった。

「・・・」
「・・・おい、なんか言えよ」
「だって黙って聞いてろって」
「あー・・・もうしゃべっていいんだよ!」

嬉しさと恥ずかしさを誤魔化すように軽口を叩くと、ヴィルヘルムは恥ずかしそうに頬を赤らめた。

「・・・返事、聞いてもいいか」
「もちろん・・・」

返事なんて決まってる。
こらえきれなくなって、私はヴィルヘルムに飛びついた。

 

 

 

 

それから慌しく時は流れた。
支度を終え、ランの部屋にやってきた。

「どうだ、準備は出来た・・・」
「ヴィルヘルム!ノックしないと駄目でしょ!」
「ユリアナ、大丈夫だよ」

ドアを開けると、ランの支度を手伝っていたらしいユリアナに怒鳴られるがそんな事全く気にならない。
俺はランに釘付けになっていた。

「あ、じゃあ私は退散するね。それじゃあ後でね」
「うん、ありがとうユリアナ」

ぱたん、とドアが閉まりランが俺の傍に近づいてくる。

「ヴィルヘルム、どうかした?」
「・・・お前があんまりにも綺麗だから」

ぽろりと本音が零れるとランの顔は真っ赤になった。

「ヴィルヘルムも、すごい素敵だよ」

真っ白のドレスに包まれて微笑むランは本当に綺麗だ。

「さわっても、いいか」
「うん」

化粧とやらが取れないか心配しつつ、ランの頬にそっと触れた。
抱き締めたい衝動にかられるが、今はこれだけで我慢する。

「なんかさ」

「うん」

「幸せに触れてるみたいだ」

何度も何度も触れたはずのランの頬は、いつもと違うように感じられた。
それは今日が特別な日だからか、それとも・・・
ランは目を潤ませながら、優しく笑った。

 

 

 

教会の扉が重々しく開いた。
参列者の視線が、全て私に集中するけれど私には赤い絨毯の先の人物しか見えない。
一歩、踏み出すたびに彼との出会い、ニルヴァーナに来たときのことを思い出す。
初めて会った時は小さな男の子だった。態度は大きいし、話しかけても全然こたえてくれない。
だけど、ユリアナが笑って話しかけてくれたり、他のみんなも魔剣を持っている私、という存在からただのランという一人の人間を見てくれるようになった。
そして、彼に出会った。
見た目は違うのに小さいときと全然変わらなくて、態度は大きいし言うこと全然聞いてくれないし。
私がしっかりしなきゃ、と何度も自分に言い聞かせて周囲と馴染もうとしない彼の後を追った。
森で私を引き寄せてくれたとき、初めて彼の体温を知った。
サマルナのお祭りで一緒に見たランタンが凄く綺麗で、ヴィルヘルムとまた一緒に見たいと願った。
初めて彼の涙を見た時、守りたいと思った。
こんなに誰かを好きになるなんて想ってなかったよ、ヴィルヘルム。

ようやくヴィルヘルムの元へ到着すると、彼は私に手を差し伸べてくれた。
その手に自分の手を添える。
本当なら神父様が執り行ってくれるのだが、私たちを祝福したいといって、その役目をキオラ様が引き受けてくれた。

「新郎ヴィルヘルム、貴方は新婦ランが病めるときも、健やかなるときも愛を持って、生涯支えあう事を誓いますか?」
「誓います」

キオラ様の言葉にヴィルヘルムは力強く返事をしてくれた。
キオラ様は優しく微笑むと、私へ視線を移動させた。

「新婦ラン、あなたは新郎ヴィルヘルムが病めるときも、健やかなるときも愛を持って、生涯支えあう事を誓いますか?」
「誓います」

ヴィルヘルムに負けないように、私も力強く返事をした。

「それでは指輪の交換を」

私たちは向かい合い、ヴィルヘルムは私の左手を取り、そっと指輪をはめてくれる。
その手が、少し震えていることに気付いた。
ヴィルヘルムでも、緊張するんだななんて失礼なことを思ってしまった。
私も彼の左手に指輪をはめ終わると、キオラ様が再び口を開いた。

「それでは誓いの口付けを」

何度もキスをしたのに、人前でするのはやっぱり少し恥ずかしい。
ヴィルヘルムが私の顔にかかるヴェールを上げる。
控え室のときのように彼は私の頬にそっと触れた。

「ラン」

なんだろう、いつもより彼がかっこよく見えるのは見慣れない姿だからなのかな。
私のために着てくれたタキシードが、光で輝いて見えた。

「これから先二人で変わっていっても絶対変わらないことがある」
「なに?」

私がそう問うと、ヴィルヘルムは微笑んだ。
こんなに穏やかに微笑む彼を見たのは初めてで、熱いものがこみ上げてくる。

「俺の一番はお前だってこと」
「・・・うん」

彼の胸に手を添えて、少しだけ背伸びをした。

これから先、楽しいことだけじゃなくて、喧嘩もするだろうし、困難だってあるだろう。
だけど、そういうことをひっくるめて私は貴方と一緒に生きていきたい。

「大好きよ、ヴィルヘルム」

あなたに恋をして、あなたが愛してくれて、私はどうしようもなく幸せだ。

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illustrations by 檸檬様! Thanks!

うたた寝(エスルル)

図書館で過ごす時間は好きだ。
たまにパルーとノエルが喧嘩(?)をしていることはあるが、基本的に本をめくる音や書き物をする音、そういったものが聞こえてくるくらいだ。
僕の隣にいる彼女も、さっきまでは一生懸命本を読み、ペンを走らせていた。

(・・・夕べ、寝てないんでしょうね)

属性が分からなかった頃も、こうやって寝る間も惜しんで勉強している姿を何度も見た。
他の人なら簡単に出来る魔法も、彼女はうまく出来なくて失敗してはしょんぼりとしていた。
だけどしょんぼりとした後、彼女は顔を上げて次への一歩を踏み出す・・・そんな人だ。
ルルのそういうひたむきさに惹かれたし、彼女に名前を連呼されるのも、飛びつかれるのも初めは煩わしかったのに今は嬉しい。
飛びつかれる度に押し倒されてしまうのはいい加減どうにかしたいとは思っているが

(それにしても・・・)

寝顔をちらりと見ると、その表情はあどけなく、本当に気持ち良さそうに眠っている。
あんまり無防備でいられると、心配になる。
自分のいない場所でこうやって無防備にうたた寝をしている姿を他の人に見られたらと想像するだけでため息が出る。
もう少し自覚を持って欲しい。
自分が、魅力的な存在だということを。

「・・・スト」

ルルの唇が動く。

「エスト・・・わたし、」

「・・・っ!」

寝言だとわかっていても、自分の名前が出たことにひどく動揺する。
夢を見ているんだろう。ルルは幸せそうな顔をしていた。
その夢に、僕がいるんだろうか。
そう思うと、胸が締め付けられるような・・・だけど不快ではなくて、なんとも言えない気持ちがこみ上げる。

「わたしのお肉たべていいからおっきくなろう!」

「は?」

寝言とは思えないはっきりとした言葉に、先ほどの気持ちはあっという間に引っ込んだ。

「何の夢を見てるんですか・・・あなたは」

幸せそうな顔をしたルルを見て、ため息をもう一度ついた。

 

 

 

 

「エスト、なんで起こしてくれなかったのー!」

「うたた寝するあなたが悪いんでしょう」

「そうだけど!でも、まだ勉強途中だったのに!」

寮への帰り道。
日が傾くまで眠ってしまっていたルルは、起こさないでいた僕に不満を漏らす。

「ルル、最近無理しすぎですよ」

「そんな事ないわ!」

「休息も必要です。無理に詰め込んだって意味はないでしょう」

「・・・エスト」

真剣に彼女に語りかけると、ルルはこくりと頷いてくれた。

「心配してくれてありがとう、エスト」

「いいえ」

ルルが甘えるように僕の手に自分のそれを重ねる。
いつもは手を握り返すの恥ずかしいが、今日は素直に頷いてくれたからきゅっと握り返す。

「ふふ。そういえばね、さっき夢を見たの!」

「夢・・・ですか」

「エストの夢だったわ!
エストにすごい食欲が湧くの!それでたくさんお肉も食べてくれて凄く嬉しかったわ!」

「・・・肉ですか」

それでさっきの寝言に繋がるのか。

「でも、こうやって一緒にいるのに夢でもエストに会えるなんて嬉しいわ」

「・・・っ」

ルルが見る夢は僕は見れない。
それでも、夢でも会えて嬉しいと喜んでくれる事が気恥ずかしい。

「エスト、顔が赤いわ」

「赤くないです」

「え、でも」

「ほら、もうすぐあなたの大好きな夕食の時間ですよ」

「エスト、誤魔化してるわ!」

「誤魔化してません。夕日のせいです」

「もう!エストは恥ずかしがりやなんだから」

 

 

 

今夜、ルルの夢が見れますように。
がらにもない事をひっそりと願った。

 

 

 

 

 

 

 

日差し(諸関)

部屋の掃除が終わり、私はぐいっと背を反らした。
もちろん訓練は今でも欠かさず行っているけど、最近は暑くなってきてなかなか手合わせをする気にならない。
今、私の手には箒。ここの掃除が終わったら、夕食の支度をするまで少し時間があるから少し遠出して果物を採ってこようかしら。
そんな事を考えながら掃除をしていると、影が落ちた。

「おい、関羽」

「おかえりなさい、諸葛亮」

何やら劉備に相談があるといって出かけていった諸葛亮が呆れた顔をしながら私を見つめていた。
不思議に思って、彼に近づくと首筋を指でなでられた。

「・・・っ!どうしたの?」

突然のことで思わず身をすくめると、手首を掴まれて家の中へ連れて行かれる。

「ねぇ、諸葛亮!どうしたの?
私、これから外の掃き掃除をしなきゃ・・・!」

「馬鹿者」

風通しのよい場所に連れて行かれ、なかば無理やり私を座らせる。
どうしたのか分からず、彼を見つめているとお茶を取りに台所へと姿を消してしまう。

(・・・どうしたのかしら)

彼が何を考えているか分からず、どうしたものかとぼんやり考えながらも頬を撫でる風が気持ちよくて目を閉じてしまう。
諸葛亮が戻ってきた気配を感じ、目をあけようとすると目蓋を撫でられた反射で目をきつく瞑る。

「-っ」

少しひんやりとした唇が重なった。
突然の彼からの口付けに驚きながらも私はそれを受け入れた。
啄ばむような優しい口付けに、唇が離れる頃には目が潤んでしまっていた。

「そんな間抜け面をするな」

「間抜けって・・・!」

至近距離で見つめ合っているのに、そんな事を言うから思わず反論しようと口を開くと私を黙らせるためなのか、もう一度唇を塞がれた。
先ほどの優しい口付けとは違う。触れ合う舌が、熱い。

「んっ、・・・っ、」

漏れる声は何度聞いても自分のものとは思えないくらい甘ったるい。
恥ずかしくなって離れようとしても、どこにそんな力があるのか諸葛亮は逃がさないというように私の腰を強く抱く。
諸葛亮が満足するまで口付けをかわし、解放される頃にはすっかり息があがってしまっていた。

「一体どうしたの?」

「日差しが強いときにあんなところにいたら、身体を壊すぞ」

「・・・心配してくれたの?」

「当たり前だろう」

太陽の日差しよりもさっきの口付けのほうがくらくらしたとは恥ずかしくて言えなかった。
甘えるように諸葛亮の肩にもたれかかると、彼の扇子がそよそよと心地よい風を送ってくれた。

 

ゆめ(ガラアル)

目を覚ますとまだ夜明け前で、視界は薄暗かった。
ぼんやりとしたまま、私は右手で目をこすろうとして、その手の存在に気付いた。

「・・・」

そう、隣にはガラハットが眠っていた。
あどけない表情のガラハットに私はほっとする。
左手で目をこすると、ガラハットの顔にかかった髪をそっとよける。

「ん・・・」

「ごめん、起こしちゃった?」

「・・・アル」

きっと私もついさっきはそんな顔をしていたんだろう。
ぼんやりとした表情のまま、ガラハットは私の頬に触れてきた。
繋いでいる手は暖かいのに、空いている手はひんやりとしていた。

「先に起きてたの?」

「ううん、今さっき目がさめたの。
でもまだ夜も明けてないからはやかったみたい」

「ん・・・」

頬に触れた手がそのまま私を抱き寄せる

「このまま」

「ん?」

「このままアルを抱き締めて眠ったらアルの夢みられるかな」

そういえば以前、ガラハットは幼い頃から大事にしている抱き枕をなくしたと探していたことがあった。
今のこの格好はまるで私を抱き枕に見立てているようだと思うくらいガラハットが甘えてくれる。
おそらくまだ眠いのだろう。きっといつもの彼なら顔を真っ赤にして怒るんじゃないだろうか。

「私の夢、みたいと思ってくれるのね」

今もこうして一緒にいるのに、夢でも一緒にいたいと思ってくれていることに心が温かくなる。
首筋にガラハットの唇が触れる。
ちゅ、と音がするとそのまま首筋に顔を埋めて動かなくなった。

「おなじ夢、見れたら良いのにな」

現実でもこうして一緒にいれるけど、もし夢を見るなら同じ夢をみたいだなんて子どもみたいかな。

「おやすみなさい、ガラハット」

ガラハットを抱きしめながら私も目を閉じた。
夜が明けるまで、どうかこのままでいさせて。

感触(ヴィルラン)

「なあ、ヴィルヘルム」

「んー?」

それは夜、男子寮での出来事だった。
男子寮での生活にもすっかり慣れ、そこそこ人とも会話するようになった。
男というのは集まれば、やれ誰が強いだ、やれ誰が可愛いだ、スタイルが良いだのという話に花が咲く。
昔、戦場の宴でもそんな話をして盛り上がっていたような気もするがイマイチ覚えていない。
だから新鮮といえば新鮮な会話だ。
何人か集まって盛り上がっている連中に名前を呼ばれ立ち止まると、腕をつかまれ引きずり込まれた。

「あのさ・・・」

そう、それはとてもくだらない話だった。

 

 

 

「・・・ヴィルヘルム?」

ある日曜日のこと。
いつものように森で過ごしていると、ヴィルヘルムが私の腕をじっと見つめてきた。
あまりに真剣な顔をしているので、思わず私も自分の腕を見てしまう。
青あざが出来たりといった外傷も、特別太くなったわけでもない。

「私の腕がどうかしたの?」

「触ってもいいか?」

「うん、どうぞ」

いつも私の断りなんて聞かないで触れてくるのにどうしたんだろうか。
恐る恐る手を伸ばしてきて、私の二の腕に触れるとやわやわと揉むように手が動いた。

「・・・え、と」

「お前、腕細いな」

「う、うん?ありがとう」

「剣振るんだからもっと筋肉ついた方が良いんじゃないか」

「うーん、頑張ってるんだけどなかなかつかなくて・・・」

筋肉を確かめるような手つきではない。
ただひたすら腕を揉むのをやめないのはどうしてなんだろうか。

「どうしたの?ヴィルヘルム」

「なあ」

揉む手がようやく動きを止めた。
ヴィルヘルムの視線は腕から胸へ移動した。

「胸、さわっていいか?」

「・・・っ!?」

さっきの腕触っていいかっていうノリと全く同じに尋ねられる。
つられて思わず頷きそうになったけど、私は慌てて胸の前で腕を組んでそれを阻止した。

「だ、駄目だよ!ここ、外だよ?」

「別にここでしようとかそういうことじゃなくてだな」

ヴィルヘルムはいたって冷静だ。
まるで私の方がおかしなことを言ったみたいな空気になるが、流されてはいけない。
ここは人があまり来ないといっても屋外だ。
胸に触るなんてそんなこと・・・

「ど、どうして触りたいの?」

「二の腕のやわらかさと胸のやわらかさが同じだって言われたから確認」

「・・・は?」

「男子寮でそんな話されたんだよ。
どうだったかなーと思って確認しようと思ってな」

「・・・」

ヴィルヘルムは乙女心というものが全くといっていい程理解出来ない。
それを今更どうこう言うつもりもないんだけど、これはさすがに・・・
思わずため息をつくと、ヴィルヘルムが私を抱き寄せた。

「嫌だったか?・・・悪い」

「・・・嫌というか、うん」

ヴィルヘルムに触れられること自体は好きなのだ。
ただ、ちょっと場所を選んで欲しいというだけ。

「でも確かめるまでもなかったな」

きゅ、と私を抱きしめる腕が強くなった。
それはまるで私の存在を確かめるように。

「お前はどこもかしこも柔らかいもんな」

「・・・っ、そういうこと他の人に言ったら駄目だからね?」

「ん?どうしてだ?」

「どうしても!」

 

 

 

 

「なあなあ、ヴィルヘルム!こないだの確認したか?」

それから数日後、男子寮で再び例の奴らに捕まった。
今度は腕をとられないようにさっと避ける。

「あー、あいつに言ったら駄目だって言われたから内緒」

俺がそう言って立ち去ると「確かめたのか!?」という声と共に騒がしくなったが気にせず部屋へ帰った。

欲しいのは、(マイアリ)

ぼんやりと兄の後ろ姿を見つめる。
幼い頃は私の手をひいてくれていた彼の手には実験用のフラスコ。
会いにくると大体実験をしている。
私から見たらいつも同じことをしているように見えるけど、きっと違うのだろう。

「どうした?」

「え?」

「兄ちゃんが恋しくなったか?」

部屋に入ってから黙っている私を心配したのか、マイセンはちらりと私を見遣る。

「そんなわけないでしょ、馬鹿じゃないの」

「はは、厳しいなー」

笑いながらフラスコを振る兄から視線を逸らす。
従者探しを始めて大分経ったのに。
私はどうして、この人にばかり会いにきてしまうんだろう。
ここに来るまでなかなか会うことが出来なかった兄を恋しいと思っているのか。
分からない。
膝を抱えて、そこに額を押し付ける。

「アリシア」

マイセンの気配が動く。
記憶のなかより大きな手が私の頭に触れた。
私に触れるマイセンの手はいつだって優しくて・・・
そして、なんだか違うものが込められているんじゃないかと錯覚してしまうような手つきだ。

「・・・マイセンが、」

「ん?」

尋ね返す声。
小さい頃を思い出す。
マイセンは私のために手を握ってくれた最初の人。
いつだって私に寄り添っていたのはマイセンなのに。
いつからか、私から離れた。
憎たらしい人。
幼い私がどれだけ心細かったのか知ってるくせに。

「マイセンが兄じゃなかったら」

良かったのに・・・と言おうとした唇をかみ締めた。
兄じゃなかったら、マイセンのことをマイセンと呼ばなかったかもしれない。
それにマイセンは魔力を持たない私に見向きもしなかっただろう。
マイセンと私は、兄と妹だからこうして触れることが出来るんだ。

「・・・アリシア」

言葉が続かない。
何を言おうとしたのか、分からない。

「あんたが私の従者になればいいのに」

兄相手に何を言っているんだろう。
呆れたのか、マイセンは何も言ってくれない。
段々この空気がいたたまらなくなり、私はようやく顔を上げようとした、が-
マイセンが私の頭にそっと口付けた。

「・・・あんまり可愛い事言うなよ」

驚いて顔をあげるとマイセンが真剣な表情で私を見つめていた。
瞳には、私が映っている。

「なんて顔してんのよ」

頭に置かれていた手はゆるりと頬を撫でて離れた。

「従者探し、頑張れよ」

「・・・うん」

少しだけ困ったように微笑むと、マイセンは私に背を向けて実験を再開した。
近づけたと思ってもすぐ離れてしまう。
離れたくないなんて小さな子どもみたいな我侭が口から出そうになるのを飲み込んだ。

「おやすみなさい、マイセン」

「ああ、おやすみ。アリシア」

手を伸ばせない。
幼い頃のように傍にいて、手を握って欲しいなんて言えるわけがない。
そもそも私が本当に願っているのはそんな事なのかさえ分からない。

実の兄を血以外のもので縛り付けたいなんてどうかしている。

マイセンの後ろ姿をもう一度見て、私は扉を閉じた。

仲直り(寅撫)

※高校生の寅撫です

 

 

 

喧嘩をした。
それはいつもどおりと言えばいつもどおりだ。
ただ俺の言葉に撫子の瞳に涙が浮かんだのを見た時、がらにもなく動揺してしまった。

(・・・あの撫子が、)

喧嘩をやめられないのはいつものことだろう。
なんで今更そんな事で泣きそうになるんだ。
小学生の頃から知っているのだからもう慣れただろう。
それに俺の傍に撫子や終夜がいるようになってから自分から喧嘩を売るような真似はほとんどしなくなった。
別の高校に進んで、一緒にいる時間が昔より減った。
そんな時に今更言い募っても仕方がない事を言う意味が分からなかった。
携帯を取り出し、時間を確認する。
今日は会う約束をしているが、撫子は来るだろうか。
そんなことをぼんやりと考えながらいつもの道を歩いていた。

 

「そういえばこないだ彼氏と喧嘩したって言ってたじゃん。
それからどうなったの?」

「それがね、聞いてよ!
あの後、彼氏がプレゼントくれたの!なんでもない日なのに」

「えー、プレゼント?」

近くを歩く女たちの会話が嫌でも耳に入る。
しかも彼氏と喧嘩した話だとか、俺の心を呼んでいるんだろうか。

「そう!花束をくれたの!
わたし感動しちゃって、許しちゃったよー!」

「えー!花束くれるなんて素敵!!」

きゃぁ!と盛り上がる女たちの言葉に知らず知らず舌打ちをしていた。
ものでご機嫌取るってガキかっつーの。
それから早足で歩いて、距離を離す。

(あいつはそんなことで喜ぶような女じゃないだろ)

 

 

 

 

 

トラと喧嘩をした。
それはいつもどおりと言えばいつもどおりなのだけど。
トラの言葉が悲しくて、泣きそうになってしまった。
そんな私に気づいたトラは小さく舌打ちをして、その場は終わった。
人を殴る拳はきっと痛いだろう。
トラにそんな想いを続けて欲しくなくて、いつも咎めてしまう。
昔より減った。
でも、今でもトラの拳が傷ついていることがたまにある。
それが悲しい。
今日は喧嘩をしないようにしよう、と心の中で誓いながらいつもの待ち合わせ場所へ行く。
トラはまだ来ていなくて、それに少しだけ安堵してしまう。
ただ、トラといたいだけなのにうまくいかない。

「おい、撫子」

名前を呼ばれて、顔をあげると目の前にはトラがいた。
眉間に皺を寄せて不機嫌そうなくせに、心なしか頬が赤くみえる。

「どうしたの、ト・・・」

言い終わる前に私の目の前には花束が差し出された。
小ぶりにまとめらているが、その花は私の名前と同じものだ。

「え・・・!?」

「いらねえのか」

「いる・・・いるわ!」

恥ずかしいんだろう。睨むように私を見つめるトラから花束を慌てて受け取った。
優しい香りがして、思わず笑みがこぼれた。

「ありがとう、トラ」

「・・・おう」

「でも、どうして?」

「理由なんてねーよ」

くるりと背中を向け、トラは歩き始めてしまう。
私はそれを慌てて追い、手をつなぐために彼の手をとった。
その手に新しい傷がないことに安堵する。
もしかしてこないだのことを気にして、花を買ってきてくれたんだろうか。
そう思うとじわじわと幸福感が私を満たしていく。

「ふふ」

「なんだよ」

「ううん、なんでもないわ」

「・・・ったく」

少しずつ私のために変わってくれるトラ。
私も彼のために少しずつでもいい、変わっていきたい。
そんな事を考えながらトラを見つめた。

前夜(インカル)

お風呂から上がったインピーの髪をブラシでとかす。
二人で暮らすようになってから、これは私の日課。
ベッドの上でインピーの後ろからブラシを通す。

「はぁ~。カルディアちゃんがやさしく髪触ってくれるって天国・・・」

「毎日のことなのに、おおげさだよ。インピー」

私の髪よりもボリュームがあるインピーの髪は、丁寧にしないとすぐごわごわになってしまいそう。
ブラシを動かす私をシシィがうらやましそうにじっと見つめていた。

「シシィもインピーが終わったらしてあげるね」

「わん!」

「ふっふーん。先にやってもらえるのは恋人の特権なんだよ、シシィさん!」

得意げに笑うインピーが面白くなかったのか、シシィはうなり声をあげながらインピーへ近づいた。

「え、ちょっと。待って!なんでそんなうなってるの?!」

「シシィ、順番だからね?」

シシィを数回撫でると、それで少し機嫌を直してくれたようで甘えるように膝の上に乗ってきた。
インピーは少し振り返って、その様子を見て優しく微笑んだ。

「シシィはカルディアちゃんのこと、大好きだよね」

「私もシシィ、大好き」

シシィのぬくもりに、存在に何度助けられたか分からない。
シシィが何を考えているか全て分かることは出来ないけれど、シシィが私を好きだと思ってくれていることが素直に嬉しい。

「俺もシシィ、好きだよ。
でも、カルディアちゃんが一番すき」

「・・・インピー」

「痛い!カルディアちゃん、愛が痛い!!」

不意打ちの言葉に恥ずかしくなって、インピーの頭を掴んで無理やり前を向かせた。
それから黙ってインピーの髪をとかし続けると、彼は鼻歌を歌い始めた。
インピーって意外に歌が上手・・・って言ったら「意外ってなに!?」って言われそうだからおとなしくその歌を聞き入る。
綺麗にとかし終わると、インピーの髪から手を離す。

「終わったよ、インピー」

「ありがとう!」

そう言って振り返ろうとしたインピーの背中にきつく抱きついた。
驚いたらしく、インピーが息を呑むのが分かった。

「ねえ、インピー」

「なに?カルディアちゃん」

「明日・・・デートしよう」

最近ゆっくり二人でいる時間が少ない。
夜、この時間だけでは足りないって思ってしまう自分がいる。

「・・・インピー?」

私の言葉にインピーは返事もせず、動きもしない。
心配になって顔をあげて、彼の後姿を見ると耳が真っ赤になっていることに気づいた。

「ごめん、カルディアちゃん」

拘束が弱まり、インピーは振り返ると私の肩を掴んでそのまま押し倒した。
膝の上にいたシシィは迷惑そうにしながらも空気を読んでベッドから降りる音がした。
インピーの顔が近づき、そのまま唇が触れ合う。
いつも優しいキスばかりくれるインピーが、今日はいつもより熱っぽくて。
気づいたら私も身体が熱くなっていた。

「寂しい思いさせてたのかな。
でも、俺・・・カルディアちゃんがデートしたいと思ってくれてすっごく嬉しい」

唇を離すと、インピーが微笑んだ。
だけど、その笑みもいつもより大人っぽい。

「明日のデートは、午後からにしよう?
だから・・・」

インピーの言いたいことが分かると、頬が紅潮してしまった。
だけど、私ももっとインピーに触れたかったからこくりと頷いて彼の背中に手を回した。

 

 

今日も明日も明後日も、
あなたとずっといれますように。

 

誤魔化されてあげる(ヴィルラン)

座学の授業は大体隣で眠っているヴィルヘルムを起こすことが日課だ。
今日も何度か彼を起こしつつ授業を受けて、ようやく全てが終わるとヴィルヘルムとルナリアの木のもとへ散歩に出掛けた。

「もう・・・いっつも寝ちゃうんだから。
エリアス教官、ため息ついてたよ?」

「だって眠いもんはしょうがねーじゃん」

ヴィルヘルムは私の小言なんてお構いなし、といった風に大きなあくびをした。

「いつも寝るの遅いの?」

「あー・・・部屋にいるときは大体寝てるぞ」

「そうなの?」

もしかして魔剣の後遺症みたいなもので、寝ても寝ても寝たりないみたいになっているのならどうしよう、と彼を見つめるとヴィルヘルムは私の頭をぽんと撫でた。

「おまえといない時間は退屈だからな」

「・・・っ」

何も考えずにヴィルヘルムは口にしたのだろう。
だけど、私には効果は絶大で思わず言葉に詰まってしまった。

「そうだ、眠気覚ます方法考えよう!」

「いいってそんなこと」

「だってせっかく授業受けてるんだからヴィルヘルムのためになる事もあるかもしれないでしょ?」

「俺は実戦で学ぶタイプなんだよ」

「もう・・・自分のことなんだからもっと真面目に考えて!」

まるで子どもが駄々をこねるように言うから、私もムキになって言い返す。
すると、ヴィルヘルムは私の肩を抱くように引き寄せると少し屈んで触れるだけのキスをしてきた。

「・・・っ!」

「ようやくふたりきりになったんだからさ・・・」

突然のキスだったので、私は驚いてヴィルヘルムをじっと見つめてしまう。
見つめられることが恥ずかしかったのか、私の視線から逃げるように肩口に顔を埋めてきた。

「おまえを独占したっていいだろう」

「・・・ずるいんだから」

喜ばせるようなことを言って、誤魔化そうとしたって明日も授業中寝てたら起こすんだからね。
でも、言葉も態度も嬉しかったから今日はおとなしく誤魔化されてあげよう。
気付かれないようにくすりと笑うと、私はヴィルヘルムを抱き締め返した。

少しでも長く(ミクフウ)

「ミクト、一緒に映画見ませんか?」

フウちゃんが満面の笑みを浮かべて、映画のDVDのパッケージを手にして現れた。
フウちゃんの笑顔には似合わないゾンビが蔓延っているようなパッケージだ。
ホラー好きな彼女は、たまにこうして僕を映画鑑賞に誘う。
好きな人と好きなものを共有したい。
フウちゃんの好きなものならなんでも知りたいし、フウちゃんの苦手なものは僕が補いたい。

「はい、見ましょう」

「良かったです」

僕が頷くと、フウちゃんは嬉しそうに笑った。
場所を娯楽室へ移動すると部屋を暗くし、フウちゃんと肩を並べて映画を見る。
恋人同士だし、こうやって寄り添うことも勿論ある。
だけど、部屋が暗いというだけでどうしていつもより緊張してしまうんだろう。
フウちゃんの様子をちらりと伺うと、心底楽しそうに映画を見ている。

(ああ、フウちゃん可愛い・・・)

手を握るくらい良いだろうか。
おそるおそるフウちゃんの手に自分の手を重ねるとフウちゃんの肩はぴくりと跳ねた。

「わわわ!ごめんなさい!ごめんなさい!」

慌ててフウちゃんの手から自分のそれをどけると、フウちゃんは僕の手を両手で包んだ。

「謝らないでください。
ミクトが手を握ってくれたこと・・・嬉しくて驚いただけなんです」

「フウちゃん・・・」

「ミクト、これを・・・」

片手をポケットに差し入れ、何かを取り出すと僕の手にそれを握らせた。

「・・・これって」

ひんやりとした金属、そしていびつな形。
もしかしてこれは・・・

「私の部屋の鍵です」

「・・・え?」

「あの・・・、確かに同じ階ですし仕事も一緒に終わりますし、休みも一緒ですけど。
私の部屋の鍵、持っていて欲しいんです。
少しでも長い時間一緒にいられるように・・・」

液晶の光でフウちゃんの顔が赤くなっていることが分かると、つられて僕も赤くなってしまう。

「フウちゃんは凄いです」

「え?」

フウちゃんが渡してくれた鍵をぎゅっと握る。
そして、フウちゃんの手を覆うようにして手を重ねた。

「僕が欲しいもの、フウちゃんには言わなくても分かるんですね」

「・・・ミクトが欲しいと思っていてくれたら良いなって思ってました」

「うふふ、すごくすごく嬉しいです」

「・・・ミクト、好きです」

「僕もフウちゃんが大好きです」

見つめあうと、どちらからともなく唇を重ねた。
どれくらいの時間、そうしていたのだろう。
そっと顔を離すと、フウちゃんはくすりと笑った。

「ホラー映画見ながらする話じゃなかったですね」

画面に顔を向けると、ゾンビが暴れまわっていた。

「確かにそうですね」

「ミクトに早く渡したくて我慢出来ませんでした」

「・・・っ、フウちゃん。
映画終わったら早速この鍵使ってもいいですか?」

「え?」

そんな可愛いことを言われて、映画を見て離れるなんて出来るわけがない。
にっこりと笑いかけると、意味が伝わったのかフウちゃんは恥ずかしそうに頷いた。

すりおろしりんご(張関)

※2のED後なので、姉貴呼びではなく関羽呼びになってます。

 

 

 

 

「張飛、具合はどう?」

いつも元気いっぱいな張飛が風邪を引いた。
彼の額にのせていたおしぼりはすっかりぬるくなっていた。

「ん・・・だいぶ良くなってきた」

「まだ寝てないと駄目よ」

「ん」

新しく持ってきたおしぼりを額にのせ直し、張飛の頬に触れる。
私の手が冷たかったのか、張飛は気持ち良さそうに笑った。

「昨日みたいな真似、もうしちゃ駄目よ?」

「関羽にうまい魚、食べさせたかったんだけどなぁ」

すっかり秋も深まって、夕方になると肌寒くなってきた。
そんな季節なのに、張飛は私に新鮮なお魚を食べさせたい!と言って釣りにいったのだが、川に落ちてびしょぬれになって帰ってきたのだ。

「・・・村の子どもが川に落ちそうになったのを助けたんでしょ?」

昨日帰ってきた時は自分の不注意で落ちてしまったと話していたが、先ほど子どもたちが張飛を心配して家に来た。

「え、聞いたの?」

「ええ、子どもたちが張飛にありがとうって言ってたわ」

「そっか」

張飛は嬉しそうに頬を緩ませた。

「子どもたちが張飛にってりんごくれたんだけど、食べられそう?」

「そういわれたら急に腹減ってきた」

「ふふ、じゃあ用意するね」

張飛の寝床のそばでりんごの皮をむき、食べやすいように摩り下ろす。
そんな私の様子をじっと見つめながら、張飛は口を開いた。

「なんか子どもの頃思い出すな。
今みたく関羽が風邪でぶったおれた俺のためにりんご摩り下ろしてくれてさ」

「風邪にはこれが一番でしょ?」

半分ほど摩り下ろすと、器に盛って張飛の元へ移動する。

「起きられる?」

張飛の背中に手を差し込み、彼を起き上がらせる。
一さじすくうと、張飛の口元へ盛っていく。

「はい、あーん」

「・・・あーん」

ひな鳥のように口を開く張飛にりんごを食べさせる。
張飛が小さい頃もこうやって食べさせてあげたことが懐かしい。
成長するに従い、張飛は丈夫になり風邪で寝込むということが滅多になかった。張飛には悪いけど、たまにはこういうのも悪くない。

「おいしい?」

「うん、うまい」

美味しそうに食べる張飛を見つめながら、彼の成長が頭の中で駆け巡っていった。
風邪をひいて寝込んでいた頃はただの弟だったのに・・・
気付けばこんなにも素敵な男の人に育っていた。
傷だらけの私の手を綺麗だと言って口付けてくれたことがどれだけ嬉しかったか。
張飛には恥ずかしくて、全ての想いを伝えきれないけど。

「ふーっ!ごちそうさま!」

「もう熱は下がってきたみたいね」

満足げな張飛の額に触れると、いつもより少し熱い気はするけど先ほどよりは落ち着いていた。
今日一日休めばおそらく大丈夫だろう。
額に触れている手を張飛がそっと掴んで、自分の頬へと移動させた。
じっと見つめる瞳が熱を孕んでいるように見えるのは彼が風邪をひいているからなんだろうか。

「こどもの頃さ、劉備がしょっちゅう寝込んでたの覚えてる?
それもあって関羽は劉備ばっかり構ってて、俺すっげー寂しかったのんだけどさ。
俺が熱出した時、つきっきりで看病してくれたのが嬉しくて嬉しくてさ」

「・・・うん」

「でも、関羽が熱出したときに俺全然役に立たなくてさ。
蘇双に看病の邪魔だって怒られてすっげーへこんだんだよなぁ」

「ふふ、そうだったのね」

確かに子どもの頃、熱で寝込んだ私の看病をしていたのは蘇双や世平おじさんだった。

「張飛とはずっと一緒にいるけど、知らないこともあるのね」

「そりゃそうだよ。
今だって風邪ひいて、関羽にこうやって看病されてすっげー幸せって思ってるのだって言葉にしないと伝わらないだろ?」

「風邪ひいたのは良くないんだからね」

「うん・・・それにさ。
今すっげー幸せで嬉しくて・・・関羽に口付けたいって思ってるのも伝わってないだろ?」

「・・・っ、風邪ひいてるんだから駄目よ」

「分かってるよ。だから今はこれで我慢する」

張飛は私の手を口元まで持っていくと、手の甲に口付けた。
それはまるで昔、私の手は綺麗だ、と好きだといって口付けてくれたときのようで顔が熱くなっていくのが分かった。

「はやく風邪なおして。
私も張飛に伝えたいこと、あるから」

「えー、なんだろうなぁ。俺のこと大好き、とか?」

茶化すように笑う張飛に私もにこりと笑った。

「ふふ、それはもちろんよ」

私の言葉を聞いて、張飛も熱がぶり返したかのように赤くなった。

「俺、関羽には一生勝てない気がする」

そう言って笑う張飛の手を私はきゅっと握った。

6月~7月のプレイ状況

気づけばもう7月になっていました・・・
6月は更新が少し停滞してしまったかなぁ、と反省しているのですがちょっと仕事が忙しく、あっという間に時間が過ぎていました!
6月、何があったかといいますと「魔法使いとご主人様」にものすごい勢いではまりました!!
アンケートにご参加いただき、ありがとうございます!
作品名以外にもこのCP読みたいな~とかあったら是非!!

というわけで最近のプレイ状況です~

 

RE:VICE[D]

まず四天王可愛いです。四天王でうだうだしているのが好きです。
キャラはイロハが好きです!目隠しプレイに萌え転がされた・・・!!
でも、お話としてはユキネと魔王様が好きです。
プレイ前はみんなそれぞれ魔王になるんだろな~と思っていたんですが、
そうじゃなかったのも面白かったです!
みんな好き!!

 

魔法使いとご主人様

クリムゾン・エンパイアに登場するマイセンの妹ということで、とても楽しみにしていました。まず、キービジュアルを見て、セラスがタイプだったのでセラスから攻略するじゃないですか。
もうね、大正解!!すっごい好きなカップリングです。セラアリちゃん。
セラスが一緒じゃないと寝付けないって言って会いにきたのが本当可愛くてですね・・・
今までずっと片時も離れず一緒にいたのに、学校に入ったおかげで離れ離れ。
でも、その時間があったからこそアリシアは自分の気持ちの変化にも気づいたんだろうなぁ~。キスしてってねだってほだされちゃうのとか可愛いです。
何もかもが可愛いです、セラアリちゃん。
一番好きなEDはVitaで追加になったのかな?アリシアが画家になるお話です。
ミラー不憫w
ミラー、リューク、ロイド、ハワード・・・いや、攻略キャラみんな好きなんですけど語るの長くなるからちょっと割愛です。

マイセン!!!

アリシアがマイセンのことを「お兄ちゃん」ではなくて「マイセン」って呼ぶのに衝撃受けました。なんだ、この兄妹。素敵過ぎる。
マイセンがアリシアのためにしていること、続けていくことを思うと本当おにいちゃん!!って転がってしまうのですが、マイセンにとって唯一の女はアリシアなんだろうな。おいしいな。マイセンがあんな風に照れるの美味しい
乙女ゲームを買うようになって、初めて通常版を買った後に限定版に買いなおしました。そしてPSP版も買いそうです。本当やってくれた・・・
ありがとう、セラアリ!マイアリ!!

 

カオスチャイルド

乙女ゲームではありませんが、これの前作カオスヘッドはアニメを見、シュタインズゲートはゲームをプレイしていたのでカオスチャイルドの発売も凄く楽しみにしていました。
もう・・・本当欝ゲー!!
なんであの子攻略できないの??とか思っていたら、それには理由もあり、各ヒロインとのルートも強引に恋愛関係になるとかではなかったので、良かったです。
一番好きなEDはやっぱりののENDでした。
ここを見てくださる方は乙女ゲームやってる方だと思うので、カオスチャイルドのネタバレ見たらあれかもしれないので、詳細は書きませんが、最後の最後まで良かったです!!

未来のことは分からないけど(拓珠)

授業が終わり、教室でぼんやりと拓磨を待つ。
先生に呼び出されることは度々あるし、その都度先に帰っていいといわれるけれど私はいつもこうやって拓磨を待っている。
自分の席に座らず、拓磨の席に座って・・・

(拓磨の席からだと、私の席よく見えるよなぁ)

頬杖をつきながら自分の席を見る。
拓磨は授業中、こうやって私の後ろ姿を見ていたりするんだろうか。
プリントを後ろへ回すとき、いつも私は拓磨の様子も見てしまう。
起きているだろうか、ちゃんと授業聞いてるだろうか。
そんなお母さんみたいな気持ちで彼の様子を見て、たまに目があうと少し照れくさい。

 

教室のドアがガラっと開くと、拓磨が戻ってきた。

「悪い、待たせたな」

「ううん。もう帰れるの?」

「ああ」

席を立ち、自分のカバンと拓磨のカバンを持って彼の隣へ移動した。
私からカバンを受け取ると、ちらりと私を見て視線を外す。

「どうかした?」

「ん、いや」

それから二人で学校を出て、いつもの道を歩く。
今月から夏服に変わり、じわじわと暑くなってきているけれど夕方になれば過ごしやすい。
拓磨の手に自分の手を伸ばす。
指先が触れ合っただけで、拓磨の頬が赤くなった。
私もそれにつられて頬が熱くなる。
触れた指を引っ込めようとすると、逃がさないとでもいうように拓磨に手を握られた。

「・・・えと」

「・・・夕方は涼しくなったな」

「うん、そうだね」

手を繋いでいるだけなのに、心臓がうるさい。
キスだって何回かした事あるし、抱き締められたこともあるのに。

「お前と過ごす初めての夏だな」

「うん・・・受験生だからあんまり遊べないけどね」

「それは・・・まぁそうだな」

「でも、今年だけじゃなくて・・・来年もその次もこうやって一緒にいるでしょう?」

未来のことは分からない。
もしかしたらどちらかが大学に落ちてしまって離れ離れになるかもしれないし、そうならないかもしれない。
大学を卒業した後のこともはっきりとは分からない。

だけど・・・
これから先も拓磨と手を繋いで歩いていけたら良いな、と思っている自分がいる。

「ああ、そうだな」

拓磨ははにかむように微笑んだ。

気弱なときは甘えたい(ヴィルラン)

「くしゅんっ!」

「大丈夫か?」

寝る前、髪をとかしていると思わずくしゃみをしてしまった。
先にベッドに入ってくつろいでいたヴィルヘルムから心配そうな声がする。
振り返って、頷くとほっとしたような顔になった。
以前はそれくらいじゃ心配しなかったのに、と思うとなんだか気持ちが和む。
髪をとかし終え、ヴィルヘルムの隣にすべりこむとぎゅっと抱き締められた。

「風邪かもしれないからな、暖めておかないと」

「くしゃみ一つで大げさなんだから」

「いいだろ、これくらい」

「・・・うん」

抱き締められるとヴィルヘルムの少し高い体温と、鼓動が心地よい。
目を閉じ、私は先日の出来事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

「はっくしょん!!」

「ヴィルヘルム、風邪?」

大きなくしゃみをし、ぼーっとしたヴィルヘルムに声をかけるとヴィルヘルムが小さく首を振った。

「風邪なんて身体鍛えてない奴がひくんだろ?
俺は大丈夫だ!」

なぜか得意げに言うヴィルヘルムの額に手を伸ばす。
触れてみるといつもより体温が高い気がした。

「ヴィルヘルム、熱はかってみよう。
なんだか熱がある気がする」

「熱なんてないって」

「いいから。確認したいだけだから」

「だから大丈夫だって」

「いいから!」

一喝すると、ヴィルヘルムは驚いたらしく大人しく私の言うことを聞いてくれた。
体温計を取り出し、熱を計らせる。
なんだか居心地が悪いようで、ヴィルヘルムは身体を揺らしているが
計り終わるまで私はじっとヴィルヘルムをみつめていた。

ぴぴぴ、と音がなって体温計を取り出させると数値は38度を表示していた。

「げ」

「ほら、熱ある!ヴィルヘルム、ベッドに戻って」

「だけど今日はマルクに稽古つけてやる約束が」

「それでマルクに移したらどうするの?
私から事情説明するから!」

しぶるヴィルヘルムの背中を押して、寝室へ押しやる。
ベッドに寝かせて、布団をかける。

「少し寝た方が良いわ」

「・・・おう」

横になって、ようやく自分の体調の悪さを自覚したのか赤い顔をして目を閉じた。
濡れたタオルを用意して、ヴィルヘルムの額に乗せると気持ち良買ったのか、表情が和らいだ。

「私、ちょっと買い物してくるから寝ててね」

「ん」

目を閉じたまま頷くと、私はそっとドアを閉じた。
街に出て、マルクのもとへ行ってヴィルヘルムの体調を説明し、約束はまた今度ということにしてもらうと
それを聞いていたティファレトに風邪に良いという薬草を貰った。その後、消化の良さそうなものを買うと家に戻った。
寝室を覗くと、すーすーと寝息を立てているヴィルヘルムがいた。
タオルを変えようと手を伸ばすと、うっすらと目が開いた。

「ん・・・」

「ごめん、起こしちゃった?」

「いや、いい」

タオルを絞りなおし、額にのせる。

「どう?具合」

「ああ・・・お前に言われるまでこれが具合悪いなんておもわなかった」

きっと体調を崩すのも久しぶりのことで、ヴィルヘルム自身が覚えていなかったのだろう。
魔剣のなかにいた永い年月を思うと、胸が締め付けられる。
たまらなくなって、手を握るとヴィルヘルムは幼い子どものようにはにかんだ。

「なんだろうな、お前がそばにいてくれるだけですっげー安心する」

「・・・っ」

不意に言われた言葉に思わず頬が熱くなる。
誤魔化すように片手でヴィルヘルムの頭を優しく撫でる。

「もう少ししたらご飯作るからそれまで眠ってていいよ」

「ん、ありがとな」

それから目を閉じると、また規則的な寝息が聞こえ始めた。
そろそろ手を離して、ご飯の支度をしようとするが思いのほか強く手を握られており
その手をほどくのはしのびなくて、私はしばらく彼の寝顔を見つめていた。

 

 

 

 

 

高熱も一晩たてば落ち着き、2日後にはマルクとの約束を果たしていた。
珍しく弱気で、子どもみたいなヴィルヘルムに私は私でちょっと幸せな気持ちになってしまっていた。
ただ、くしゃみ=風邪という図式が彼のなかで出来上がってしまったため、
くしゃみをするたびに過剰に心配されるようになってしまったのはちょっと困るけど。

「ふふ、」

「ん、どうした?」

ヴィルヘルムの腕のなかで、笑みをもらすと不思議そうに私を見つめていた。

「幸せだなって思ってたの」

私がそう微笑むと、ヴィルヘルムは大人びた表情で微笑んだ。

「ああ、俺も幸せだ」

 

願い事は自分で叶えるから素晴らしい(レジェアス)

旅の途中、ある村で不思議なものを見つけた。
木というには軟弱そうに見えるその植物は天まで届くんじゃないかと思うほど長い。
その枝に紙がたくさんぶら下がっているのを不思議そうに見ていると近くを通りかかったおじいさんに声をかけられた。

「もしや旅のお方ですか?」

「うん、そう。
ねえ、これは何なの?」

「それはですね・・・」

おじいさんは丁寧に説明してくれ、わたしはそれを真剣に聞いていた。

 

「アスパシア?どうしたんだ?」

「あ、レジェッタ」

話がちょうど終わった頃、レジェッタが合流した。

「これの説明聞いてたの」

「ああ、七夕ってやつだろう?」

「レジェッタ、知ってるの?」

「ああ、遠い国が発祥の祭りだろ?
年に一回しか会えない恋人に願い事するっていう」

思っていたよりレジェッタが物知りで感心してしまう。
じっと見つめていると、わたしの熱視線に気付いたのか少し恥ずかしそうに笑った。

「お前もやりたい?」

「短冊に願い事を書いてって?」

「ああ」

もう一度たくさんの願い事がぶらさがった笹の葉を見上げる。
人々の願い事をかなえて、魔神になるために奮闘していた日々を思い出していた。
その日々があったからわたしは今、レジェッタの隣にいるのだ。

「わたしさ」

そっとレジェッタの手を握る。
レジェッタは一瞬強張ったが、すぐわたしの手を握り返してくれた。

「何かに願うものなんて何もないよ。
好きな人と好きな世界を生きているんだもの」

「・・・ああ」

「それに願い事があったら自分の力で叶えてみせるから」

にっこりと笑うとレジェッタもつられて笑った。

「おまえのそういうところに惚れたんだよな、俺」

レジェッタのぽろりと零した言葉に迂闊にも赤面してしまった。

夕立(暁七)

夕食の支度をしていると、外から雨音が聞こえてきた。
窓から空を仰ぐとどんよりとした雲に覆われていた。

(すぐやまなそう・・・)

時計を見ると暁人の仕事がもうすぐ終わる時間だ。
今日は夕方で仕事が終わるから夜ゆっくり過ごせると朝話していた暁人を思い出す。
記憶を辿り、手には傘を持っていなかったことを思い出す。
夕食の支度も一段落ついたし、せっかくだから迎えにいこうと思い立った時にはエプロンを外していた。

 

 

 

 

 

暁人の職場につく。
お店の中に入っても厨房にいる暁人は見えないだろうから教えてもらった裏口で待つことにする。
傘にぶつかる雨音を聞きながら、私は目を閉じた。

水の能力者である市ノ瀬さんから記憶を消した日のこと、暁人に出会った時のことを思いだす。
雨は、水のなかに自分を閉じ込めるような感覚だ。
あの日のことは、一生忘れることはない。
苦しい過去だとしても、私に疑問を抱かせたきっかけ。
暁人と出会うきっかけになった過去。
そういうものをひっくるめて、私たちは今一緒にいることを選べた。

 

お疲れ様です、という暁人の声が聞こえると裏口が開いた。

「お疲れ様、暁人」

「七海!?どうしたんだ、おまえ」

待っているとは思わなかったらしく、暁人は私の姿を見て驚く。
そして私が傘をさしているのをみて雨に気付いたようだ。

「雨降ってたから迎えに来た」

「あー、厨房って結構慌しいから気付かないんだよな。
ありがとな、迎えに来てくれて」

「ううん。傘を持っていない旦那さんを迎えに行くのは奥さんの仕事」

「・・・、そうか」

頬を赤らめると、それを誤魔化すように私の手から傘を奪う。

「帰るぞ」

「暁人の分の傘も持ってきてる」

歩き出すと、一つの傘に二人入るのは少しきつい。
暁人の肩が雨にぬれるのが見えて、私は自分の手にある傘を見せる。

「いいんだよ、一つで。
・・・この方が近いだろ」

「・・・うん」

暁人の腕に自分の手を添える。
じんわりと彼のぬくもりが伝わってきて、なんだかほっとしてしまう。
雨は苦手だった。
暁人に再会するまで、ずっとそう思っていた。

「俺さ、雨って結構好きなんだ」

「え?」

暁人がぽつりと言葉を紡ぐ。

「昔、千里と離れて暮らしてた時雨が降ると千里のことを思い出してた。
村に雨がもっと降ればあいつが苦しむこともなかったのにって最初は悔しかったけど。
それでも、離れて過ごす時間が長くなっていって、生きるために生活に追われていく中で雨が降ると千里を思い出すことを許される気がした」

「暁人・・・」

「だから雨が降ると少し気持ちが安らぐんだ」

そう話す彼はひどく穏やかに見えた。
市ノ瀬さんのことを思い出すのは苦しかっただろう。
そして、本当は片時も市ノ瀬さんのことを忘れていなかっただろうに、そうやって自分を納得させていたんだと思うと苦しい。

「暁人、わたし・・・」

「それに今はこうやってお前が迎えに来てくれる」

空いている手が私の頭をぽんぽんと撫でる。

「ありがとな」

「私も、ありがとう」

それ以降、雨の日は私が暁人を迎えにいくことが二人の約束事になった。
私も今は、雨を好きになれた。

ずるい女(マイアリ)

「マイセン・・・わたし、しぬの?」

「大丈夫だ、お兄ちゃんがおまえを助けてやるから
死なせないから・・・」

熱に蝕まれる彼女の手をきつく握る。
どうか、俺から彼女を奪わないでくれ。
いるはずもない神様に、ひたすら願った。

 

 

 

生まれたばかりのアリシアを見た時、俺は今まで感じたことのない愛おしさを覚えた。
何も知らなかった俺は、これが家族愛というものなのかと思った。
成長するに従い、俺はそれが家族愛じゃないことを悟った。
俺にとっての女は、アリシアただ一人だ。
生まれたばかりのアリシアに心を奪われたんだ。
他の奴に渡す心なんてどこにもない。

「マイセン、全然帰ってこなかったら顔忘れるわよ」

シンフォニアで再会したアリシアは、今まで会えなかった時間を埋めるように俺に会いに来た。
分かりづらいようで分かりやすい距離の取り方をしていた俺に気付いていたんだろう。
今なら昔のように会えると思ったのか、従者探しそっちのけで会いに来ているんじゃないだろうか。
フラスコを揺らしながら意識はアリシアに奪われる。

「お兄ちゃんが恋しいなら恋しいって言ってもいいんだぞー?」

「・・・っ!そんなんじゃないわよ!」

ムキになって、少し声を荒げる。
その反応が可愛くて、自然と顔がにやける。

「でも・・・お父様やお母様だって会いたがってたわ」

「ふーん」

お前は?と聞けない俺も大概だ。
他の人間の言葉や動作に揺れることはない。
アリシア以外には・・・たいした感情は動かない。
好意を寄せられれば、その時の気分次第で体の関係を持ったり、交際をしたりもする。
けれど、口から出る言葉に真実はどこにもない。
アリシアに伝える言葉も、ほとんど真実は含めない。
気付いて欲しいわけじゃない。
ただ、俺は誰よりもアリシアにささげている。
俺の女。
アリシアだけが、俺の大事な女だ。

「マイセン・・・」

ため息をつくと、ぽすっと背中に何かが当たる。
いや、何かが当たる、というのは語弊だ。
背中からアリシアが抱きついてきた。
胸のあたりに回された手に、頭が沸騰しそうになる。
自分でも分かるくらい顔が熱い。

「私だって、その・・・たまにはあんたに会いたい」

くらくらする。
手に持っているフラスコをうっかり落としそうになるくらい動揺している。
ああ、このまま振り返ってきつく抱き締め、唇を塞いでしまいたい。
俺が、おまえをどんな風に想っているのかその身体に教えてやりたい。

「・・・可愛いことも言えるんじゃん。お兄ちゃん嬉しい」

「私らしくないっていいたいの?」

「いや、なんでもないよ」

フラスコを机の上に置く。
空いた手をどうすべきか悩んで開いたが、きつく握り締めた。
俺から触れ返してはいけない。
まだだ。
まだ、俺は振り返ってはいけない。

「アリシア、良い奴を従者にしろよ」

「ええ、分かってるわ」

身体が離れ、背中が少し寒い。
アリシアはなんでもない事をいくつか話して部屋を出て行った。

ばたん、とドアが閉じられると俺はその場に座り込む。

「あ~・・・もう、酷い女」

未だにひかない熱。
フラスコの向こう側に見える世界は、緑色。
ああ、またスライムモドキできちゃったじゃないか。

つばさ(セラアリ)

地位に縛られることがなくなって、私は自由になった。
その傍らにはいつもセラスがいる。
私が望んだ未来だ。
私が死ぬまで、セラスが隣にいることを私は望んでいる。
愚かな人間に仕える孤高だったドラゴン。
セラスがどうして小生意気な子どもの従者になったのか分からない。
セラスに冗談まじりに尋ねると、セラスは「ご主人様は愚かな人間じゃありません」とだけ言う。
どうでも良い。
セラスが一緒にいてくれるなら。

 

 

 

 

壁画の仕事が終わり、セラスが向かえにくるまで少し時間があった。
あれから大分時が経ち、もう暗殺者に狙われることはほぼないのにセラスは私を心配して送り迎えをしてくれる。
セラスのことだから私がいつもの場所にいなくても見つけられるだろう。
自然と足は教会へ向かっていた。田舎の教会なのに、ここはひどく綺麗だった。
日中だとステンドグラスがキラキラと輝いて教会のなかは明るい雰囲気になるのに、それが夕焼けになるとあっという間に赤くなんともいえない色に染まる。
ここで執り行われる結婚式のほとんどは日中だからいいんだろう。
こんな時間に一生の愛は誓えないだろう。
くすりと笑うと、すぐ後ろで音がした。

「ご主人様、探しましたよ」

「遅かったじゃない」

振り返るとセラスがいた。
はぁ、とため息をついたセラスはそのまま近づいてくると私を抱き寄せた。

「ご主人様、いつもの場所から離れるのはやめてください。
心配になります」

「あら、私がどこにいたって見つけられるでしょう?」

「・・・それは勿論そうですけど」

「じゃあいいじゃない」

セラスの背中に腕を回す。

「どうかしたんですか?ご主人様」

「ん、なんでもないわ」

「あ、もしかしてお誘いですか?さすがにここじゃ」

夕方、教会の中抱き合うなんてとっても雰囲気が出ていたのに。
セラスの空気が読めない発言にがっかりする。
身体を離すと、セラスの頭をぐちゃぐちゃと撫で回す。

「わっ、ご主人様っ!」

「本当にこの馬鹿ドラゴン!」

いつまで経ってもセラスは空気を読まない。
ドラゴンには読む空気なんて存在しないんだろうか。
今だったら大人しく抱き締めていればよかったのに。

「ほら、ムード出るようにしてよ」

頭から手を離すと、セラスを見上げた。
じっと見つめると、セラスは真面目な顔を作って頷いた。
私の両頬を手でつつむと、唇を重ねる。
花畑でいつかしたような、ムードのあるキス。
私がセラスを意識せざるを得なくなったキス。
舌を絡め、軽く吸い上げられる。
漏れる吐息ごと飲み込まれそうだ。
身体の力が抜けそうになると、セラスが片手で腰を支える。
長いキスからようやく解放されると、セラスは耳朶に唇を寄せた。

「ムードのあるキスでしたか?アリシア」

「・・・っ」

呼べといってもなかなか慣れなくて呼べない私の名前をこんな時に言うなんて反則だ。
潤んだ目でセラスを睨むつけると、セラスは嬉しそうに微笑んだ。

「帰りましょう」

「ええ・・・そうね」

教会でするには濃厚過ぎる口付けの余韻に、私はガラにもセラスに甘えるように歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

いつかセラスが心変わりしていなくなるんじゃないか、と不安に想っていた日々。
私はもう怖くない。
だってセラスは、私の元まで堕ちてきたんだから。
そのつばさはもう、私だけのものだ。

みらい(朔深)

誰も好きにならない、という約束は交わした頃にはもう破っていた。
僕はただ一人のひとを想い、彼女のために死ぬのなら構わない、と想っていたのに。
深琴の枷でいることが怖かった。
彼女と離れることが、本当はただ怖かったんだ。
死が二人を分かつまで・・・という言葉があるけれど、僕は死にも引き裂かれたくなかった。

 

 

 

 

「深琴、危ないよ」

「大丈夫よ、心配性なんだから」

目を離した隙に深琴は洗濯籠を持って移動していた。
慌てて駆け寄ると、深琴は優しく微笑んだ。

「だってもうすぐなんだから安静にしていないと」

「もうすぐだから!体を動かしていた方が良いんですって」

そういわれても心配なものは心配で、深琴の手から洗濯籠を取り上げる。
彼女のおなかは大きく膨れていて、予定日まではまだ日数があるとはいえどいつ生まれるか緊張するのだ。

「それじゃあ僕が運ぶから一緒に干そう」

「・・・ええ、おねがい」

籠を片手に持ち、もう片方の手は深琴と繋いだ。
ベランダまでの間、そうやって移動する。
深琴が妊娠したと分かった日から、気付けば手を繋ぐようになっていた。
恥ずかしい、と最初は抵抗していた深琴も次第に慣れて僕が繋ごうとしなくても自然と手を握るようになっていた。
低い位置に干す洗濯物を彼女に任せて、他の大きなものを手早く干していく。

「本当に朔也はなんでも出来るわね」

「そんな事ないよ」

「そうかしら」

「うん、深琴のほうが凄いよ」

「・・・あなたはいつもそうなんだから」

やはり大きなおなかでは身動きがとりづらいようで、僕の方が先に片付いたので深琴のほうを手伝う。
時折、おなかへ目をやってしまう。
くすり、と深琴が笑った。

「朔也っていっつもそうやっておなか見てるわね」

「・・・だって、僕と君の子供がそこにいるんだなぁって思うとさ」

「・・・そうね」

洗濯物を干し終えると、部屋に入る。
ソファに二人並んで座ると、深琴が僕の手を取っておなかへ触れさせた。

「もうすぐ会えるのよ」

「うん、そうだね」

深琴のおなかをゆっくりとなでる。
毎日、朝起きてからと寝る前に必ず撫でさせてもらうがこうやって深琴が自ら触れさせようとするのは珍しい。
深琴はすっかり母親の表情になっていた。

「深琴、ありがとう」

たまらなくなって、言葉を紡ぐ。
深琴は不思議そうに僕を見つめた。

「君が、僕に家族をくれることがどうしようもないくらい嬉しいんだ」

妊娠が分かった時、深琴の言葉を聞いて涙した。
深琴は最初笑っていたけれど、きつく抱き締めると僕につられて泣いた。
日に日に大きくなるおなかを見つめて、こんなに幸せでいいのか不安になった。
幼い頃、僕の命で一番大切な深琴を守れるんだと分かって嬉しかった。
命にかえても守る、というものが大きくて格好良いもののように思えていたから。
だけど、命というものがかけがえのないものだと僕たちの子どもが改めて教えてくれた。
僕と深琴を、繋いでくれた。

「もう・・・まだ生まれてないんだからありがとうは早いわ」

「そうだね・・・でも、僕は毎日深琴と、おなかの赤ちゃんに感謝してる」

「私も感謝してるわ。朔也と私のところに来てくれてありがとうって」

僕の手を深琴がそっと握った。

「早く会いたいね、僕たちの子どもに」

「ええ」

 

一人と一人だった僕たちが、
二人になって、
これから三人になる。

 

生きていて良かった、とこれから何度思うだろう。
その度に、僕は深琴と子どもをより深く愛するんだろう。

もう見えないはずの未来が、見えた気がした。

ロマンチック(夏深)

「あ、夏彦さん!これ見てください!!」

部屋に戻ると、雪が駆け寄ってきて雑誌を広げてきた。
その動きが煩わしくて、思わず銃を構えそうになるが深琴が部屋にいるのに気付いてぐっと堪える。

「・・・なんだ、雪」

「ここ!血液型占いですよ~!
O型の夏彦さんはなんと・・・!!」

息を荒げて近づいてくる雪がやはり気持ち悪くて、雑誌を手から奪って部屋から追い出す。

「な、夏彦!?」

「構わないだろう、いつものことだ」

部屋に鍵をかけるのを忘れず、深琴の隣に腰掛ける。

「夏彦さん!?俺を追い出して、二人でいちゃいちゃするつもりですね!!
ハードなプレイをするんならぜひこの雪も!雪も仲間に!!」

「うるさい、どこかへ行け」

部屋の外にいる雪には届かないだろうが、我慢できずにぽつりと呟く。
深琴はなんともいえない、という風に俺を見ていた。雪から奪った雑誌に目を落とすとカラフルなページに何のページか一瞬分からなかったが血液型占いだとようやく思い出した。

「これは・・・?」

「血液型占いが載ってるって雪が持ってきてくれたの」

「そうか」

女というものは占いなどが好きだと聞いたことがあった。
深琴も好きなのだろうか。彼女の血液型の欄を探す。

「夏彦はここよ」

「俺のことはいい。お前のはどこだ」

「・・・っ」

深琴をちらりと見ると、なぜか頬を赤らめていた。
細い指が移動し、A型の欄をさした。

「今月は運勢良いんですって」

「そうか、良かったな」

「・・・夏彦とも、相性が良いみたい」

A型とO型の相性について書いてある欄に指が滑る。
二人の相性は抜群!と太字で書いてある後、
『ロマンチックなデートでお互いの仲が深まります!』という一文。

「・・・ロマンチック」

「あ、ねぇ夏彦」

「ん?」

「星が見たいわ、私」

「お前が望むならいつでも行こう」

仕事は他の時間にやればいいのだ。
深琴が望むことはなんでもしてやりたい。
彼女の肩を抱き寄せると、一瞬体が強張るがすぐに力は抜けた。
それから俺の肩に甘えるようにもたれかかる。
人に甘えることが苦手な女だったのに、少しずつ甘えてくれるようになった。
この体温から離れることが出来ないのはきっと俺だろう。
・・・離れるつもりなんて毛頭ないが。

「深琴、」

頬にかかる長い髪をそっとよけて唇を寄せた。
大人しく目を閉じて、口付けを受け入れる彼女に今日はどんな星の話をしようかと考えると自然と微笑んでいた。

 

ただ、あなたを想う(セラアリ)

眠る時、ミニドラゴンの姿になってご主人様に抱き締めながら眠る。
それが当たり前になった日常から切り離され、一人で眠るベッドは酷く冷えていた。
孤高のドラゴンが、何を言っているんだ・・・と自分でも思う。
けれど、私を孤高から引き摺り下ろした存在に飼いならされてしまったのだ。

(ああ・・・顔がみたい)

城にいた頃はいつだって一緒にいた。
ご主人様がいないと満足に眠ることも出来ない。
そんな事を話すと、呆れたような表情を作り、嬉しそうな笑みを浮かべた。
ご主人様の表情はどれだって好きだ。
呆れて蔑むときの表情にゾクゾクする。
他人に見せる作り笑いなんかより、そういう表情のご主人様が好きでたまらない。
早く城に戻って・・・いや、城じゃなくてもどこでもいい。
ご主人様と二人だけの世界に戻って、抱き締められて眠りたい。
そんな事を考えながら、ようやく浅い眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

「セラス、あんたまだ思ってるの?」

「何をですか?」

二人だけの時間。
ベッドでご主人様を抱き締めていると、ご主人様がぽつりと問いかけた。

「私が死んだら自分も死ぬって」

「ええ、もちろんです」

間髪いれず頷くと、呆れたようにため息をつく。
そうして、私の頭に手を伸ばして優しく撫でてくれる。
その手が心地よくて、つい目を閉じて受け入れてしまう。
ご主人様から与えられるものはなんだって嬉しいのだ。
優しさでも怒りでも、悲しみでも。
私からこの人を奪わないで欲しい。
あなたなしでは生きていけない私にしたのだ。
あなたが死んだ世界であなたが転生してくるのを待ったとしても、それはあなたじゃない。
私が焦がれるあなたは、今腕の中にいるあなただけだ。

「あなたがいない世界なんて意味がありません」

ご主人様の髪にそっと口付ける。
髪の一本だって、他の奴には渡したくないのだ。
それくらい、私はご主人様に依存している

「どうしようもないドラゴンね」

「ええ、あなたがそうさせたんです」

私の言葉を聞くと、ご主人様は満足げに微笑んだ。

 

二人で眠るベッドは暖かかい。
もう一人で過ごす夜なんて私は知りたくないのだ。

鎖(マイアリ)

ただ血が繋がっているという理由だけで、私はこの人を縛り付けているのだ。
たった一人の血の繋がった兄。

「・・・妹よ、そんなに見つめるとお兄ちゃん減っちゃう」

「減らないでしょ」

わざとらしくマイセンはため息をついた。
自分から会いに来たくせにその反応はどういう事だ。
お土産にもらった珍しい品種の種を育てることに舞い上がる気持ちもあるが、今は目の前にいるマイセンに集中したい。
セラスが淹れてくれたお茶をすするマイセンをじっと見つめていると、さっきの言葉を投げられた。
いつぞやもそんな事を言われた気がする。
幼い頃は私の世界はマイセンしかいないといっても過言ではなかった。
体の弱かった私を懸命に看病し、頭をなでてくれたのはこの男だ。

「お前は相変わらずだな」

「ええ、そうよ。今更変わるわけないじゃない」

「・・・それもそっか」

カップをソーサーに置くと、空いた手を私に伸ばした。
優しく頬を撫でる手。
こうやって他の女にも触れたのだろうか。
そう思うと、私に触れるマイセンの手が汚らわしく思えた。

「マイセン」

「ん?」

「こうやって女を口説いてきたの?」

「はぁ?」

私を撫でていた指の動きが止まった。
マイセンは驚いた顔で、私を見つめていた。

「お兄ちゃんの恋愛事情が気になる?」

「気にならないわ」

気になっているわけじゃない。
確認しないと錯覚しそうになる。
他の女にもこういう風に触れてきたのだと確認しないと勘違いしそうになる。
あいされている、と。

「アリシア・・・」

頬を撫でていた指が、肩へ移動する。
そして、そのまま抱き寄せられた。
マイセンは私の首筋に顔を埋めたまま、動こうとしない。
こんなに近い距離はいつ以来だったか。
マイセンはまるで私をあいしているかのように触れることがあるけれど、それでも私を抱き締めるといった真似はほとんどしない。

「マイセン」

そっとマイセンの背中に腕を回した。
掴んでいないと、逃げていってしまう。
また、この男は私から距離を取ろうとする。
それが、気に食わない。
他の女と同列に扱われるのも嫌だ。
でも、血が繋がっているという理由だけで縛りつけるのはもっと嫌だ。

「マイセン」

ただ、名前を呼ぶ。
私には何もないんだ。
この血以外なにもない。
マイセンを縛り付けるものが、ない。
私を抱き締める腕が緩み、体が離れそうになる。
私は強く抱き締めた。

「アリシア、そろそろ離せ」

「嫌よ」

「・・・アリシア」

見上げればマイセンは心底困ったような顔をしていた。
心なしか、頬が紅潮している。

「離して欲しかったらキスして」

どこでもいいから触れて。
そう目で訴えると、マイセンはゆっくりと瞬きをした。
首筋にかかる髪をはらうと、マイセンはそのまま首筋に唇を寄せた。

「これでいいだろう」

「・・・ええ」

抱き締める手をほどき、マイセンと距離を取った。

「じゃあ、俺そろそろ行くよ。
またな、アリシア」

「ええ、また」

部屋を出る前に一度振り返って、私を見つめたマイセンの表情は嬉しいのか、悲しいのか分からなかった。
私もきっと同じような顔をしているだろう。

首筋への口付けは『執着』を意味していることを、瞬時に思い出したのだ。
マイセン、私に執着しているの?
妹だから?
それとも・・・

マイセンが触れた首筋にそっと触れた。
その部分だけ熱を持っているように熱い。

高めの温度(ヴィルラン)

「あっちぃ」

季節は夏。
日差しがじりじりと照りつけ、薄着にしても、汗が滴り落ちるような暑さ。
気だるげな顔をしながらも私に寄りかかるヴィルヘルム。

「ねぇ、ヴィルヘルム」

「ん?」

「暑いんなら・・・ちょっと離れた方が良いんじゃないかな」

さっきからずっと暑いとげんなりしているのだ。
それなのに私との間には隙間なんてない。

「・・・お前は離れたいのかよ」

不機嫌そうに私を見てくるので、首を横に振った。

「ううん、私はこのままでいいんだけど。
ヴィルヘルム暑いんでしょう?」

「お前はいいんだよ」

間髪いれず言葉が返ってくる。
そんなヴィルヘルムが可愛くて、つい笑みが零れた。

「あ、そうだ。良いものあるよ」

「ん?なんだよ」

先日、アサカに教えてもらったものを取り出した。

「扇子っていうんだけど、アサカの国ではこれであおいで涼しくなるんだって」

「へぇ・・・」

扇子を開くと、ヴィルヘルムを仰ぐ。
そよそよとした風が彼の髪を揺らす。

「どう?涼しい?」

「んー・・・まぁ、悪くないな」

「そう、良かった」

彼の髪がふわふわと揺れるのを見るのが楽しい。
大きな犬を構っているような気持ちになる。

しばらくすると、ヴィルヘルムが私の方を向いた。

「それ貸せよ」

「え?」

私の手から扇子を奪うと、豪快に仰ぎ始めた。
私が仰ぐのとは比べられないほど強い風が来て驚いてしまう

「ヴィルヘルムっ、そんなに乱暴に仰いだら壊れちゃうから優しく仰いで」

「え?こうか?」

慌てて注意すると、ヴィルヘルムは仰ぐ力を抑えてくれた。
そよそよとした風が私たちに届く。

「うん、気持ちいい」

「・・・そっか」

嬉しそうに目を細めると、何も言わずに大人しく仰いでくれた。
離れた方がきっと暑くないし、仰ぎやすいのに。
それでも私から離れようとはしないヴィルヘルムの気持ちが嬉しくて、私は彼の肩に頭を預けた。
いつもより高い温度。
それが酷く心地よい。

蛍火(怜沙弥)

「すーっかり季節も夏ですねぇ」

季節は巡って夏。
そろそろ夏服に切り替わる季節だというのに隣にいる狐邑くんはいつも通り制服の下にパーカーを着ている。

「暑くないの?中にきていて」

「先輩わかってないですねー!お洒落というのは我慢が必要なんです!」

「・・・そう?」

「そうなんです!」

繋いだ手が少しだけ強く握られて、ちょっとすねているのが分かった。
彼なりのポリシーがあるんだろう。

「・・・夏服になる頃には違うお洒落をしてね」

「もちろんです!あー、でも先輩の夏服見たいけどちょっと心配ですね」

「え?」

「だって、いつもより肌出すわけじゃないですか。
彼氏としてはちょっとだけ心配です」

狐邑くんは吹っ切れたのか、以前よりも私に執着するようなことを言ってくれるようになった。
それが少し・・・いや、とても嬉しい。

「狐邑くんって凌さんのこと言えないくらい心配性よね」

「えー・・・それはなんだか微妙ですね」

なんてことない会話をしながら家路につく。
これが今の私の一番好きな時間。

 

 

 

家の前に着くと、狐邑くんは私の手を離した。
この時間が一番苦手だ。
明日もまた会えるのに、別れるときはいつも寂しい。

「じゃあ、先輩。また明日」

「うん、おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」

狐邑くんは少し屈むと私の額に口付けた。
いつも別れるときはそうしてくれる。

「先輩が今日も良い夢を見れますように」

「・・・もう」

優しく笑う狐邑くんが好きだ。
意地悪なところもあるし、つかみどころがないところもある。
だけど、私はやっぱり狐邑くんが大好きで、彼がいない日々はもう考えられない。

「それじゃあ」

「はい、また明日」

狐邑くんはもう一度そう言って、微笑んだ。
私がマンションの中に入るまで絶対その場から動かない。
心配するのは彼氏の特権です、って笑ってくれたのを思い出して、胸の奥が熱くなる。
狐邑くんと過ごす初めての夏はどんなことが待っているんだろう。
私はそんな事を考えながら気付けば微笑んでいた。

甘い飲み物には裏がある(千こは)

「あ、千里くん!」

千里くんの姿を見つけて、駆け出す。
千里くんはすぐ私に気付いて振り返ってくれた。

「どうしたんですか?こはるさん」

「これ、さっき街の人にいただいたんです!
一緒にいただきましょう!」

綺麗な色のガラス瓶に入ったそれを千里くんに見せる。
千里くんも顔をほころばせて、頷いた。
部屋に戻り、持ってきていたグラスと一緒にテーブルの上に置いた。
栓を抜き、それぞれのグラスへ注ぐ。

「なんだか甘い香がしますね」

「そうですねー!何かの果物でしょうか?」

グラスを手に持ち、くんくんと匂いをかぐが甘い香りがするだけで何かまで分からない。

「こはるさん」

「はい」

「乾杯」

「・・・乾杯です」

グラスを軽く合わせ、微笑みあった。
甘い香りがするそれは口の中にも甘味が広がった。
ジュースよりも甘い飲み物なんてあるんだ、と感動し千里くんの方を向いた。

「千里くん!すっごく甘いですね!」

「・・・」

「千里くん?」

千里くんの顔はなぜか少し赤くなっていて、なんだかうつろな目をしていた。
グラスをテーブルに戻し、千里くんの前で手を振る。

「千里くん?どうかしたんですか?」

「・・・あれ?こはるさん」

うつろな目のまま、私のほうを向いた。
グラスが千里くんの手から落ちそうになるのを慌てて支えると、突然千里くんに抱き締められた。

「・・・っ!千里くん!?」

驚きのあまり今度は私の手からグラスが落ちそうになるが、なんとかそれをテーブルの上に戻す。
密着した千里くんの体はいつもより熱く感じた。

「こはるさん・・・すきです」

「はい、私も好きです」

千里くんはあまりそういう言葉を言ってくれないから嬉しくて、私もそれに応える。
抱き締める力が緩んだ次の瞬間、唇が重なっていた。

「・・・んっ」

「んん・・・っ、せん・・・りく」

いつも交わすような啄ばむような口付けではなく、初めてに近い口付けに私は動揺した。
これがもしかして本で読んだ大人のキスなんだろうか。
千里くんの舌が、吐息が熱い。
どう息をしていいのか分からず、唇が離れる頃にはすっかり酸素が足りなくなっていた。

「こはるさん・・・ぼくは、あなたが」

そう言って私に覆いかぶさるように倒れこんでくる。

「・・・千里くん?」

そっと抱き締めつつ、耳を澄ませば千里くんの寝息が聞こえてきた。
千里くんをベッドに運ぶことは出来ないので、その場に横にさせて、毛布を持ってくる。
二人で包まるようにして、千里くんに身を寄せる。

(・・・さっきのジュースのせいでしょうか)

千里くんからの突然の大人のキス。
自分の唇にそっと触れる。
なんだろう、凄く熱い。
千里くんの体温に安心しながらもドキドキする心は収まらず、結局私は眠れなかった。
残ったジュースをキッチンへ持っていくと暁人くんに「それはお酒だ」と言われて、没収されてしまった。

次の日、千里くんは少し頭が痛いと嘆いていたけれどキスのことは覚えていなかった。

(いつかまた、千里くんは大人のキスをしてくれるんでしょうか・・・)

そんなことを思いながら、胸の高鳴りに気付かないふりをして千里くんの頭を優しく撫でた。

 

おやすみなさい(セラアリ)

「ご主人様」

ベッドのなかで私を優しく抱き締めたまま、耳元で囁く。
暗い部屋の中で、ぼんやりとセラスの顔が見える。
セラスは相変わらず私に触れるときは優しく触れる。
力の加減を間違えて私を傷つけないように、とそっと抱き締めてから強くひきよせる。
どんなに体を重ねても、セラスとのはじまりは変わらない。
私の許可を得ると、唇を重ねる。
優しく腰を抱いて、逃がさない。
ドラゴンに人間のような理性があるのかは分からないけれど、セラスの理性を溶かしてしまいたい。
そんな風にいつも思うのに、結局いつも理性を溶かされるのは私のほうだ。

「ご主人様、お疲れですか?」

「・・・疲れてなんかいないわ」

情事の名残で体は気だるいが、それだってセラスが求めてくれた結果だ。
そう思うと愛おしささえ感じるが、ドラゴンと人間の体力なんて比べるまでもない。
私がくたくたになるまで求められるのだ。
正直、疲れるに決まってる。
だけど、そんな事を言ってセラスが控えるようになったら嫌なのだ。
求められる心地よさ、終わった後に包んでくれる腕、熱を孕んだ瞳でみつめられることがたまらなく幸福を感じる。

「ねえ、セラス」

甘えるようにセラスの胸に頬を摺り寄せる。
それから彼の腰を撫で回すと、セラスが小さく声を漏らした。

「あんた、シンフォニアにいた頃私がいないと眠れないって言ってたでしょ?」

「・・・はい」

「今はどう?」

「今も・・・これからも、ご主人様がいないと眠りにつくことなんて出来ませんよ」

本当に可愛い。
孤高のドラゴンを孤高じゃなくしたのは私だ。
私が引き摺り下ろしたのだ、このドラゴンを。

「本当にどうしようもないんだから」

私もあんたも。
くすりと笑うと、セラスの頬に口付けた。
愛おしい私のセラス。

「はい、私はご主人様がいないと眠ることさえ出来なくなりました」

口付けを受けて嬉しそうな声を出す。
応えるように口付けを返され、受け入れる。ついばむような口づけを繰り返しているうちに私は目蓋を開けられないほど睡魔に襲われていた。

「おやすみなさい、私だけのご主人様」

最後に額に口付けをうけて、愛おしい従者の腕のなかで眠りにおちた。

気付かない(ミラアリ)

ミラーが女子生徒に囲まれているなんていつものことだ。
そんな姿を見て、幼馴染としては鼻が高い・・・とまでは言えない。
なんだろう、ムカムカする。

「・・・人の顔じっと見てなんだよ」

「なんでもないわ」

試験勉強をするミラーについてきて、今日も私は図書館だ。
本をめくる音や、何かを走り書く音くらいしかしないのだ。
心地よくて、ついうとうとしてしまう。
だけど、今日はいつもと違う。
私の前に座って黙々と試験勉強をするミラーの顔を見つめていた。
昔から整った顔立ちで、金髪碧眼。
まるで絵本の世界から抜け出してきたような見た目だ。

「なんでもないならじっと見るなよ。
集中できないだろ」

「あら、そんな事くらいで途切れる集中力なの?」

「・・・おまえな」

じろりと睨まれるが全く怖くない。
私はとびきりの笑顔で応戦してやる。

「あら、何か問題でも?」

「・・・本当に可愛げないやつだな」

呆れたようにため息をつくと、その視線が私の手元へと映る。
壊れ物を扱うようにそっと私の手をとった。

「・・・っ、なによ」

「傷・・・消えたな」

ゴーレムの一件で出来たたいしたことない傷。
ミラーはそれをなぜかしきりに気にしていたのを思い出した。
傷があった場所を指先でそっとなぞる。
その触れ方が妙に艶かしく感じてしまい、頬が赤らむのが自分でも分かった。

「あんたって変なところで気にするのね」

「おまえだって女だろう」

「・・・そんなささやかな傷でどうにかなるほど弱くないわよ」

「そういうことじゃない」

掴まれていた手を払うと、私は机に突っ伏した。

「おい、プリンセス・・・」

「私が見てると気が散って勉強できないんでしょう?
ほら、見てないんだから勉強すれば?」

「・・・君という奴は、」

ミラーが何かいいたげな視線を投げているのを無視して、私は目を閉じた。
顔を合わせれば、些細な口喧嘩ばかり。
今は手が届く場所にいるミラー。
従者探しが終われば、もうこんな日々は訪れないのかもしれない。
今はもう少しだけ、幼馴染と過ごすこの時間が愛おしいだなんてミラーには知られたくない。

未来の約束(ユンフウ)

「フウちゃんフウちゃん、明日何の日か覚えてる?」

仕事が終わって、ミーティングルームでナチが淹れてくれた紅茶を飲んで一息ついてるとユンがにこにこしながら私の隣に座った。

「明日はお休みですね」

パートナーであるユンももちろん休みだ。
ユンはご機嫌な顔を崩さず、私に甘えるようにすりよってきた。

「もう!お休み以外にもあるでしょ?大事なことが!」

「そうですね・・・久しぶりに買い物に行きたいです。
付き合ってくれますか?」

「・・・フウちゃん、わざとやってる?」

「何がですか?」

「なんでもない」

私のそっけない言葉を聞いて、ユンの顔から笑顔が消えた。
露骨なため息を零して、私の肩にもたれかかる。

「さて、部屋に戻りましょうか」

残っていた紅茶を飲み干すと、ユンに声をかける。
不貞腐れた顔をして、私を見つめるユンが子供みたいで可愛くて思わず笑ってしまう。

「なんで笑ってるの、フウちゃん」

「すいません。ユンが可愛くて」

「可愛いのは俺じゃなくて君だよ!」

「ふふ、ありがとうございます」

ユンの頭を優しくなでると、少し機嫌を直してくれたのか私の空いてる手を握る。

「フウちゃん、明日が何の日か覚えてなくてもいいから・・・一緒にいてくれる?」

「はい、もちろんです」

ユンの言葉に頷くと、彼は安心したように微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

さて、ユンと部屋の前で別れて部屋に入るそぶりをした後、キッチンに舞い戻る。
冷蔵庫に入れておいたそれを確認し、私は最後の仕上げに取り掛かることにした。

 

 

 

 

「はぁ~・・・フウちゃんひどい」

フウちゃんと別れて部屋に戻った後、俺はベッドの上で丸くなっていじけていた。
明日は誕生日なのに。
フウちゃんと初めて過ごす誕生日なのに!!
アピールするのが早すぎたのかな。2ヶ月くらい前からさりげなーく話題に出していたから忘れちゃったのかな。
何かがほしいわけじゃない。
自分の生まれた日を、好きな子と一緒に迎えたい。おめでとうって笑ってくれるだけで良いのに。

「でも明日、一緒にいれるから良いか・・・」

買い物に行きたいって言っていたし、それに付き合おう。
もしも、明日が終わる頃までおめでとうって言ってもらえなかったら自分で誕生日だって伝えちゃおう。

「フウちゃんのばーか・・・でも、フウちゃん可愛いからなぁ」

胎児のように体を丸めている内に、気付けば眠りに落ちていた。

 

 

 

てふてふてふてふ

 

「・・・ん?」

 

てふてふてふてふ

と、俺のてふてふが鳴っていた。
体を起こし、通信を確認する。

『これから部屋に行きます』

フウちゃんからそんな通信が入っていた。
慌てて起き上がると、見計らったようにドアを叩く音がした。

「フウちゃん、どうした・・・」

「ユン、お誕生日おめでとうございます!」

ドアを開けると、フウちゃんがいた。
フウちゃんの手にはケーキがあって、そこには『Happy Birthday ユン!』と書いたプレートが乗っていた。

「フウちゃん・・・!」

「部屋、入ってもいいですか?」

「うん、どうぞどうぞ!」

フウちゃんを部屋に招き入れると、テーブルにケーキを置いてくれた。
フウちゃんは振り返って微笑んでいた。

「どうして?さっき、え!?」

「ユンを驚かせたくて、忘れてる振りをしました、ごめんなさい」

覚えててくれたという事と、俺を驚かせたいと思ってくれた事。
そのどちらも嬉しくて、気付けばフウちゃんを抱き締めていた。

「ありがとう、フウちゃん。すっごい嬉しい」

今の自分の気持ちをどう言えば、フウちゃんに伝わるのか分からなくてただきつく抱き締める。
フウちゃんの髪が俺の頬にあたり、少しくすぐったい。
彼女の腕が背中に回り、抱き締め返される。

「誕生日おめでとうございます、ユン。
あなたの誕生日をこうやって祝えること、凄く嬉しいです」

しばらく抱き締めあっていたが、フウちゃんが顔をあげて俺を見つめた。

「少しかがんでください」

「?うん」

心なしか頬を赤く染めたフウちゃんが可愛くお願いしてきたので、俺は言われたとおり少し屈んだ。
フウちゃんの手が俺の両頬に触れ、顔が近づく。

「んっ・・・」

滅多にないフウちゃんからのキスに思わず目を見開いてしまうが、
目を伏せてキスを続けるフウちゃんが可愛くてそのまま見入ってしまう。
フウちゃんの後頭部に手を回して逃げれないようにすると、深いキスに切り替える。
唇から漏れる声にくらくらする。

「・・・っはぁ」

「フウちゃん、ありがとう。
フウちゃんからキスしてもらえるなんてすっごい嬉しい」

唇を離し、フウちゃんの耳元で囁くと体がぴくりと震えた。

「ねぇ、フウちゃん。誕生日に欲しいものがあるんだけど、いいかな」

「・・・なんですか?」

「フウちゃんが欲しい、すごく」

フウちゃんの瞳をじっと見つめる。
意味を悟ったのか、フウちゃんの顔が再び赤くなる。

「誕生日じゃなくたって、私はユンのものです」

フウちゃんは赤くなったまま、そう言葉を返してくれた。

「・・・!フウちゃん、君って本当に可愛すぎる!!」

ぎゅっと抱き締めると、フウちゃんは笑ってくれた。

「来年も再来年も、こうやって一緒に誕生日をお祝いしましょう」

「うん、君の誕生日も目一杯お祝いするね」

「ふふ、楽しみにしてます。
でも、今日はユンを目一杯お祝いさせてください」

フウちゃんから頬に軽いキスを貰うと、俺は笑顔で頷いた。

 

Happy BirthDay!!