ただ血が繋がっているという理由だけで、私はこの人を縛り付けているのだ。
たった一人の血の繋がった兄。
「・・・妹よ、そんなに見つめるとお兄ちゃん減っちゃう」
「減らないでしょ」
わざとらしくマイセンはため息をついた。
自分から会いに来たくせにその反応はどういう事だ。
お土産にもらった珍しい品種の種を育てることに舞い上がる気持ちもあるが、今は目の前にいるマイセンに集中したい。
セラスが淹れてくれたお茶をすするマイセンをじっと見つめていると、さっきの言葉を投げられた。
いつぞやもそんな事を言われた気がする。
幼い頃は私の世界はマイセンしかいないといっても過言ではなかった。
体の弱かった私を懸命に看病し、頭をなでてくれたのはこの男だ。
「お前は相変わらずだな」
「ええ、そうよ。今更変わるわけないじゃない」
「・・・それもそっか」
カップをソーサーに置くと、空いた手を私に伸ばした。
優しく頬を撫でる手。
こうやって他の女にも触れたのだろうか。
そう思うと、私に触れるマイセンの手が汚らわしく思えた。
「マイセン」
「ん?」
「こうやって女を口説いてきたの?」
「はぁ?」
私を撫でていた指の動きが止まった。
マイセンは驚いた顔で、私を見つめていた。
「お兄ちゃんの恋愛事情が気になる?」
「気にならないわ」
気になっているわけじゃない。
確認しないと錯覚しそうになる。
他の女にもこういう風に触れてきたのだと確認しないと勘違いしそうになる。
あいされている、と。
「アリシア・・・」
頬を撫でていた指が、肩へ移動する。
そして、そのまま抱き寄せられた。
マイセンは私の首筋に顔を埋めたまま、動こうとしない。
こんなに近い距離はいつ以来だったか。
マイセンはまるで私をあいしているかのように触れることがあるけれど、それでも私を抱き締めるといった真似はほとんどしない。
「マイセン」
そっとマイセンの背中に腕を回した。
掴んでいないと、逃げていってしまう。
また、この男は私から距離を取ろうとする。
それが、気に食わない。
他の女と同列に扱われるのも嫌だ。
でも、血が繋がっているという理由だけで縛りつけるのはもっと嫌だ。
「マイセン」
ただ、名前を呼ぶ。
私には何もないんだ。
この血以外なにもない。
マイセンを縛り付けるものが、ない。
私を抱き締める腕が緩み、体が離れそうになる。
私は強く抱き締めた。
「アリシア、そろそろ離せ」
「嫌よ」
「・・・アリシア」
見上げればマイセンは心底困ったような顔をしていた。
心なしか、頬が紅潮している。
「離して欲しかったらキスして」
どこでもいいから触れて。
そう目で訴えると、マイセンはゆっくりと瞬きをした。
首筋にかかる髪をはらうと、マイセンはそのまま首筋に唇を寄せた。
「これでいいだろう」
「・・・ええ」
抱き締める手をほどき、マイセンと距離を取った。
「じゃあ、俺そろそろ行くよ。
またな、アリシア」
「ええ、また」
部屋を出る前に一度振り返って、私を見つめたマイセンの表情は嬉しいのか、悲しいのか分からなかった。
私もきっと同じような顔をしているだろう。
首筋への口付けは『執着』を意味していることを、瞬時に思い出したのだ。
マイセン、私に執着しているの?
妹だから?
それとも・・・
マイセンが触れた首筋にそっと触れた。
その部分だけ熱を持っているように熱い。