「あっちぃ」
季節は夏。
日差しがじりじりと照りつけ、薄着にしても、汗が滴り落ちるような暑さ。
気だるげな顔をしながらも私に寄りかかるヴィルヘルム。
「ねぇ、ヴィルヘルム」
「ん?」
「暑いんなら・・・ちょっと離れた方が良いんじゃないかな」
さっきからずっと暑いとげんなりしているのだ。
それなのに私との間には隙間なんてない。
「・・・お前は離れたいのかよ」
不機嫌そうに私を見てくるので、首を横に振った。
「ううん、私はこのままでいいんだけど。
ヴィルヘルム暑いんでしょう?」
「お前はいいんだよ」
間髪いれず言葉が返ってくる。
そんなヴィルヘルムが可愛くて、つい笑みが零れた。
「あ、そうだ。良いものあるよ」
「ん?なんだよ」
先日、アサカに教えてもらったものを取り出した。
「扇子っていうんだけど、アサカの国ではこれであおいで涼しくなるんだって」
「へぇ・・・」
扇子を開くと、ヴィルヘルムを仰ぐ。
そよそよとした風が彼の髪を揺らす。
「どう?涼しい?」
「んー・・・まぁ、悪くないな」
「そう、良かった」
彼の髪がふわふわと揺れるのを見るのが楽しい。
大きな犬を構っているような気持ちになる。
しばらくすると、ヴィルヘルムが私の方を向いた。
「それ貸せよ」
「え?」
私の手から扇子を奪うと、豪快に仰ぎ始めた。
私が仰ぐのとは比べられないほど強い風が来て驚いてしまう
「ヴィルヘルムっ、そんなに乱暴に仰いだら壊れちゃうから優しく仰いで」
「え?こうか?」
慌てて注意すると、ヴィルヘルムは仰ぐ力を抑えてくれた。
そよそよとした風が私たちに届く。
「うん、気持ちいい」
「・・・そっか」
嬉しそうに目を細めると、何も言わずに大人しく仰いでくれた。
離れた方がきっと暑くないし、仰ぎやすいのに。
それでも私から離れようとはしないヴィルヘルムの気持ちが嬉しくて、私は彼の肩に頭を預けた。
いつもより高い温度。
それが酷く心地よい。