「すーっかり季節も夏ですねぇ」
季節は巡って夏。
そろそろ夏服に切り替わる季節だというのに隣にいる狐邑くんはいつも通り制服の下にパーカーを着ている。
「暑くないの?中にきていて」
「先輩わかってないですねー!お洒落というのは我慢が必要なんです!」
「・・・そう?」
「そうなんです!」
繋いだ手が少しだけ強く握られて、ちょっとすねているのが分かった。
彼なりのポリシーがあるんだろう。
「・・・夏服になる頃には違うお洒落をしてね」
「もちろんです!あー、でも先輩の夏服見たいけどちょっと心配ですね」
「え?」
「だって、いつもより肌出すわけじゃないですか。
彼氏としてはちょっとだけ心配です」
狐邑くんは吹っ切れたのか、以前よりも私に執着するようなことを言ってくれるようになった。
それが少し・・・いや、とても嬉しい。
「狐邑くんって凌さんのこと言えないくらい心配性よね」
「えー・・・それはなんだか微妙ですね」
なんてことない会話をしながら家路につく。
これが今の私の一番好きな時間。
家の前に着くと、狐邑くんは私の手を離した。
この時間が一番苦手だ。
明日もまた会えるのに、別れるときはいつも寂しい。
「じゃあ、先輩。また明日」
「うん、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
狐邑くんは少し屈むと私の額に口付けた。
いつも別れるときはそうしてくれる。
「先輩が今日も良い夢を見れますように」
「・・・もう」
優しく笑う狐邑くんが好きだ。
意地悪なところもあるし、つかみどころがないところもある。
だけど、私はやっぱり狐邑くんが大好きで、彼がいない日々はもう考えられない。
「それじゃあ」
「はい、また明日」
狐邑くんはもう一度そう言って、微笑んだ。
私がマンションの中に入るまで絶対その場から動かない。
心配するのは彼氏の特権です、って笑ってくれたのを思い出して、胸の奥が熱くなる。
狐邑くんと過ごす初めての夏はどんなことが待っているんだろう。
私はそんな事を考えながら気付けば微笑んでいた。