甘い飲み物には裏がある(千こは)

「あ、千里くん!」

千里くんの姿を見つけて、駆け出す。
千里くんはすぐ私に気付いて振り返ってくれた。

「どうしたんですか?こはるさん」

「これ、さっき街の人にいただいたんです!
一緒にいただきましょう!」

綺麗な色のガラス瓶に入ったそれを千里くんに見せる。
千里くんも顔をほころばせて、頷いた。
部屋に戻り、持ってきていたグラスと一緒にテーブルの上に置いた。
栓を抜き、それぞれのグラスへ注ぐ。

「なんだか甘い香がしますね」

「そうですねー!何かの果物でしょうか?」

グラスを手に持ち、くんくんと匂いをかぐが甘い香りがするだけで何かまで分からない。

「こはるさん」

「はい」

「乾杯」

「・・・乾杯です」

グラスを軽く合わせ、微笑みあった。
甘い香りがするそれは口の中にも甘味が広がった。
ジュースよりも甘い飲み物なんてあるんだ、と感動し千里くんの方を向いた。

「千里くん!すっごく甘いですね!」

「・・・」

「千里くん?」

千里くんの顔はなぜか少し赤くなっていて、なんだかうつろな目をしていた。
グラスをテーブルに戻し、千里くんの前で手を振る。

「千里くん?どうかしたんですか?」

「・・・あれ?こはるさん」

うつろな目のまま、私のほうを向いた。
グラスが千里くんの手から落ちそうになるのを慌てて支えると、突然千里くんに抱き締められた。

「・・・っ!千里くん!?」

驚きのあまり今度は私の手からグラスが落ちそうになるが、なんとかそれをテーブルの上に戻す。
密着した千里くんの体はいつもより熱く感じた。

「こはるさん・・・すきです」

「はい、私も好きです」

千里くんはあまりそういう言葉を言ってくれないから嬉しくて、私もそれに応える。
抱き締める力が緩んだ次の瞬間、唇が重なっていた。

「・・・んっ」

「んん・・・っ、せん・・・りく」

いつも交わすような啄ばむような口付けではなく、初めてに近い口付けに私は動揺した。
これがもしかして本で読んだ大人のキスなんだろうか。
千里くんの舌が、吐息が熱い。
どう息をしていいのか分からず、唇が離れる頃にはすっかり酸素が足りなくなっていた。

「こはるさん・・・ぼくは、あなたが」

そう言って私に覆いかぶさるように倒れこんでくる。

「・・・千里くん?」

そっと抱き締めつつ、耳を澄ませば千里くんの寝息が聞こえてきた。
千里くんをベッドに運ぶことは出来ないので、その場に横にさせて、毛布を持ってくる。
二人で包まるようにして、千里くんに身を寄せる。

(・・・さっきのジュースのせいでしょうか)

千里くんからの突然の大人のキス。
自分の唇にそっと触れる。
なんだろう、凄く熱い。
千里くんの体温に安心しながらもドキドキする心は収まらず、結局私は眠れなかった。
残ったジュースをキッチンへ持っていくと暁人くんに「それはお酒だ」と言われて、没収されてしまった。

次の日、千里くんは少し頭が痛いと嘆いていたけれどキスのことは覚えていなかった。

(いつかまた、千里くんは大人のキスをしてくれるんでしょうか・・・)

そんなことを思いながら、胸の高鳴りに気付かないふりをして千里くんの頭を優しく撫でた。

 

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