つばさ(セラアリ)

地位に縛られることがなくなって、私は自由になった。
その傍らにはいつもセラスがいる。
私が望んだ未来だ。
私が死ぬまで、セラスが隣にいることを私は望んでいる。
愚かな人間に仕える孤高だったドラゴン。
セラスがどうして小生意気な子どもの従者になったのか分からない。
セラスに冗談まじりに尋ねると、セラスは「ご主人様は愚かな人間じゃありません」とだけ言う。
どうでも良い。
セラスが一緒にいてくれるなら。

 

 

 

 

壁画の仕事が終わり、セラスが向かえにくるまで少し時間があった。
あれから大分時が経ち、もう暗殺者に狙われることはほぼないのにセラスは私を心配して送り迎えをしてくれる。
セラスのことだから私がいつもの場所にいなくても見つけられるだろう。
自然と足は教会へ向かっていた。田舎の教会なのに、ここはひどく綺麗だった。
日中だとステンドグラスがキラキラと輝いて教会のなかは明るい雰囲気になるのに、それが夕焼けになるとあっという間に赤くなんともいえない色に染まる。
ここで執り行われる結婚式のほとんどは日中だからいいんだろう。
こんな時間に一生の愛は誓えないだろう。
くすりと笑うと、すぐ後ろで音がした。

「ご主人様、探しましたよ」

「遅かったじゃない」

振り返るとセラスがいた。
はぁ、とため息をついたセラスはそのまま近づいてくると私を抱き寄せた。

「ご主人様、いつもの場所から離れるのはやめてください。
心配になります」

「あら、私がどこにいたって見つけられるでしょう?」

「・・・それは勿論そうですけど」

「じゃあいいじゃない」

セラスの背中に腕を回す。

「どうかしたんですか?ご主人様」

「ん、なんでもないわ」

「あ、もしかしてお誘いですか?さすがにここじゃ」

夕方、教会の中抱き合うなんてとっても雰囲気が出ていたのに。
セラスの空気が読めない発言にがっかりする。
身体を離すと、セラスの頭をぐちゃぐちゃと撫で回す。

「わっ、ご主人様っ!」

「本当にこの馬鹿ドラゴン!」

いつまで経ってもセラスは空気を読まない。
ドラゴンには読む空気なんて存在しないんだろうか。
今だったら大人しく抱き締めていればよかったのに。

「ほら、ムード出るようにしてよ」

頭から手を離すと、セラスを見上げた。
じっと見つめると、セラスは真面目な顔を作って頷いた。
私の両頬を手でつつむと、唇を重ねる。
花畑でいつかしたような、ムードのあるキス。
私がセラスを意識せざるを得なくなったキス。
舌を絡め、軽く吸い上げられる。
漏れる吐息ごと飲み込まれそうだ。
身体の力が抜けそうになると、セラスが片手で腰を支える。
長いキスからようやく解放されると、セラスは耳朶に唇を寄せた。

「ムードのあるキスでしたか?アリシア」

「・・・っ」

呼べといってもなかなか慣れなくて呼べない私の名前をこんな時に言うなんて反則だ。
潤んだ目でセラスを睨むつけると、セラスは嬉しそうに微笑んだ。

「帰りましょう」

「ええ・・・そうね」

教会でするには濃厚過ぎる口付けの余韻に、私はガラにもセラスに甘えるように歩くのだった。

 

 

 

 

 

 

いつかセラスが心変わりしていなくなるんじゃないか、と不安に想っていた日々。
私はもう怖くない。
だってセラスは、私の元まで堕ちてきたんだから。
そのつばさはもう、私だけのものだ。

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