ずるい女(マイアリ)

「マイセン・・・わたし、しぬの?」

「大丈夫だ、お兄ちゃんがおまえを助けてやるから
死なせないから・・・」

熱に蝕まれる彼女の手をきつく握る。
どうか、俺から彼女を奪わないでくれ。
いるはずもない神様に、ひたすら願った。

 

 

 

生まれたばかりのアリシアを見た時、俺は今まで感じたことのない愛おしさを覚えた。
何も知らなかった俺は、これが家族愛というものなのかと思った。
成長するに従い、俺はそれが家族愛じゃないことを悟った。
俺にとっての女は、アリシアただ一人だ。
生まれたばかりのアリシアに心を奪われたんだ。
他の奴に渡す心なんてどこにもない。

「マイセン、全然帰ってこなかったら顔忘れるわよ」

シンフォニアで再会したアリシアは、今まで会えなかった時間を埋めるように俺に会いに来た。
分かりづらいようで分かりやすい距離の取り方をしていた俺に気付いていたんだろう。
今なら昔のように会えると思ったのか、従者探しそっちのけで会いに来ているんじゃないだろうか。
フラスコを揺らしながら意識はアリシアに奪われる。

「お兄ちゃんが恋しいなら恋しいって言ってもいいんだぞー?」

「・・・っ!そんなんじゃないわよ!」

ムキになって、少し声を荒げる。
その反応が可愛くて、自然と顔がにやける。

「でも・・・お父様やお母様だって会いたがってたわ」

「ふーん」

お前は?と聞けない俺も大概だ。
他の人間の言葉や動作に揺れることはない。
アリシア以外には・・・たいした感情は動かない。
好意を寄せられれば、その時の気分次第で体の関係を持ったり、交際をしたりもする。
けれど、口から出る言葉に真実はどこにもない。
アリシアに伝える言葉も、ほとんど真実は含めない。
気付いて欲しいわけじゃない。
ただ、俺は誰よりもアリシアにささげている。
俺の女。
アリシアだけが、俺の大事な女だ。

「マイセン・・・」

ため息をつくと、ぽすっと背中に何かが当たる。
いや、何かが当たる、というのは語弊だ。
背中からアリシアが抱きついてきた。
胸のあたりに回された手に、頭が沸騰しそうになる。
自分でも分かるくらい顔が熱い。

「私だって、その・・・たまにはあんたに会いたい」

くらくらする。
手に持っているフラスコをうっかり落としそうになるくらい動揺している。
ああ、このまま振り返ってきつく抱き締め、唇を塞いでしまいたい。
俺が、おまえをどんな風に想っているのかその身体に教えてやりたい。

「・・・可愛いことも言えるんじゃん。お兄ちゃん嬉しい」

「私らしくないっていいたいの?」

「いや、なんでもないよ」

フラスコを机の上に置く。
空いた手をどうすべきか悩んで開いたが、きつく握り締めた。
俺から触れ返してはいけない。
まだだ。
まだ、俺は振り返ってはいけない。

「アリシア、良い奴を従者にしろよ」

「ええ、分かってるわ」

身体が離れ、背中が少し寒い。
アリシアはなんでもない事をいくつか話して部屋を出て行った。

ばたん、とドアが閉じられると俺はその場に座り込む。

「あ~・・・もう、酷い女」

未だにひかない熱。
フラスコの向こう側に見える世界は、緑色。
ああ、またスライムモドキできちゃったじゃないか。

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