「ミクト、一緒に映画見ませんか?」
フウちゃんが満面の笑みを浮かべて、映画のDVDのパッケージを手にして現れた。
フウちゃんの笑顔には似合わないゾンビが蔓延っているようなパッケージだ。
ホラー好きな彼女は、たまにこうして僕を映画鑑賞に誘う。
好きな人と好きなものを共有したい。
フウちゃんの好きなものならなんでも知りたいし、フウちゃんの苦手なものは僕が補いたい。
「はい、見ましょう」
「良かったです」
僕が頷くと、フウちゃんは嬉しそうに笑った。
場所を娯楽室へ移動すると部屋を暗くし、フウちゃんと肩を並べて映画を見る。
恋人同士だし、こうやって寄り添うことも勿論ある。
だけど、部屋が暗いというだけでどうしていつもより緊張してしまうんだろう。
フウちゃんの様子をちらりと伺うと、心底楽しそうに映画を見ている。
(ああ、フウちゃん可愛い・・・)
手を握るくらい良いだろうか。
おそるおそるフウちゃんの手に自分の手を重ねるとフウちゃんの肩はぴくりと跳ねた。
「わわわ!ごめんなさい!ごめんなさい!」
慌ててフウちゃんの手から自分のそれをどけると、フウちゃんは僕の手を両手で包んだ。
「謝らないでください。
ミクトが手を握ってくれたこと・・・嬉しくて驚いただけなんです」
「フウちゃん・・・」
「ミクト、これを・・・」
片手をポケットに差し入れ、何かを取り出すと僕の手にそれを握らせた。
「・・・これって」
ひんやりとした金属、そしていびつな形。
もしかしてこれは・・・
「私の部屋の鍵です」
「・・・え?」
「あの・・・、確かに同じ階ですし仕事も一緒に終わりますし、休みも一緒ですけど。
私の部屋の鍵、持っていて欲しいんです。
少しでも長い時間一緒にいられるように・・・」
液晶の光でフウちゃんの顔が赤くなっていることが分かると、つられて僕も赤くなってしまう。
「フウちゃんは凄いです」
「え?」
フウちゃんが渡してくれた鍵をぎゅっと握る。
そして、フウちゃんの手を覆うようにして手を重ねた。
「僕が欲しいもの、フウちゃんには言わなくても分かるんですね」
「・・・ミクトが欲しいと思っていてくれたら良いなって思ってました」
「うふふ、すごくすごく嬉しいです」
「・・・ミクト、好きです」
「僕もフウちゃんが大好きです」
見つめあうと、どちらからともなく唇を重ねた。
どれくらいの時間、そうしていたのだろう。
そっと顔を離すと、フウちゃんはくすりと笑った。
「ホラー映画見ながらする話じゃなかったですね」
画面に顔を向けると、ゾンビが暴れまわっていた。
「確かにそうですね」
「ミクトに早く渡したくて我慢出来ませんでした」
「・・・っ、フウちゃん。
映画終わったら早速この鍵使ってもいいですか?」
「え?」
そんな可愛いことを言われて、映画を見て離れるなんて出来るわけがない。
にっこりと笑いかけると、意味が伝わったのかフウちゃんは恥ずかしそうに頷いた。