※2のED後なので、姉貴呼びではなく関羽呼びになってます。
「張飛、具合はどう?」
いつも元気いっぱいな張飛が風邪を引いた。
彼の額にのせていたおしぼりはすっかりぬるくなっていた。
「ん・・・だいぶ良くなってきた」
「まだ寝てないと駄目よ」
「ん」
新しく持ってきたおしぼりを額にのせ直し、張飛の頬に触れる。
私の手が冷たかったのか、張飛は気持ち良さそうに笑った。
「昨日みたいな真似、もうしちゃ駄目よ?」
「関羽にうまい魚、食べさせたかったんだけどなぁ」
すっかり秋も深まって、夕方になると肌寒くなってきた。
そんな季節なのに、張飛は私に新鮮なお魚を食べさせたい!と言って釣りにいったのだが、川に落ちてびしょぬれになって帰ってきたのだ。
「・・・村の子どもが川に落ちそうになったのを助けたんでしょ?」
昨日帰ってきた時は自分の不注意で落ちてしまったと話していたが、先ほど子どもたちが張飛を心配して家に来た。
「え、聞いたの?」
「ええ、子どもたちが張飛にありがとうって言ってたわ」
「そっか」
張飛は嬉しそうに頬を緩ませた。
「子どもたちが張飛にってりんごくれたんだけど、食べられそう?」
「そういわれたら急に腹減ってきた」
「ふふ、じゃあ用意するね」
張飛の寝床のそばでりんごの皮をむき、食べやすいように摩り下ろす。
そんな私の様子をじっと見つめながら、張飛は口を開いた。
「なんか子どもの頃思い出すな。
今みたく関羽が風邪でぶったおれた俺のためにりんご摩り下ろしてくれてさ」
「風邪にはこれが一番でしょ?」
半分ほど摩り下ろすと、器に盛って張飛の元へ移動する。
「起きられる?」
張飛の背中に手を差し込み、彼を起き上がらせる。
一さじすくうと、張飛の口元へ盛っていく。
「はい、あーん」
「・・・あーん」
ひな鳥のように口を開く張飛にりんごを食べさせる。
張飛が小さい頃もこうやって食べさせてあげたことが懐かしい。
成長するに従い、張飛は丈夫になり風邪で寝込むということが滅多になかった。張飛には悪いけど、たまにはこういうのも悪くない。
「おいしい?」
「うん、うまい」
美味しそうに食べる張飛を見つめながら、彼の成長が頭の中で駆け巡っていった。
風邪をひいて寝込んでいた頃はただの弟だったのに・・・
気付けばこんなにも素敵な男の人に育っていた。
傷だらけの私の手を綺麗だと言って口付けてくれたことがどれだけ嬉しかったか。
張飛には恥ずかしくて、全ての想いを伝えきれないけど。
「ふーっ!ごちそうさま!」
「もう熱は下がってきたみたいね」
満足げな張飛の額に触れると、いつもより少し熱い気はするけど先ほどよりは落ち着いていた。
今日一日休めばおそらく大丈夫だろう。
額に触れている手を張飛がそっと掴んで、自分の頬へと移動させた。
じっと見つめる瞳が熱を孕んでいるように見えるのは彼が風邪をひいているからなんだろうか。
「こどもの頃さ、劉備がしょっちゅう寝込んでたの覚えてる?
それもあって関羽は劉備ばっかり構ってて、俺すっげー寂しかったのんだけどさ。
俺が熱出した時、つきっきりで看病してくれたのが嬉しくて嬉しくてさ」
「・・・うん」
「でも、関羽が熱出したときに俺全然役に立たなくてさ。
蘇双に看病の邪魔だって怒られてすっげーへこんだんだよなぁ」
「ふふ、そうだったのね」
確かに子どもの頃、熱で寝込んだ私の看病をしていたのは蘇双や世平おじさんだった。
「張飛とはずっと一緒にいるけど、知らないこともあるのね」
「そりゃそうだよ。
今だって風邪ひいて、関羽にこうやって看病されてすっげー幸せって思ってるのだって言葉にしないと伝わらないだろ?」
「風邪ひいたのは良くないんだからね」
「うん・・・それにさ。
今すっげー幸せで嬉しくて・・・関羽に口付けたいって思ってるのも伝わってないだろ?」
「・・・っ、風邪ひいてるんだから駄目よ」
「分かってるよ。だから今はこれで我慢する」
張飛は私の手を口元まで持っていくと、手の甲に口付けた。
それはまるで昔、私の手は綺麗だ、と好きだといって口付けてくれたときのようで顔が熱くなっていくのが分かった。
「はやく風邪なおして。
私も張飛に伝えたいこと、あるから」
「えー、なんだろうなぁ。俺のこと大好き、とか?」
茶化すように笑う張飛に私もにこりと笑った。
「ふふ、それはもちろんよ」
私の言葉を聞いて、張飛も熱がぶり返したかのように赤くなった。
「俺、関羽には一生勝てない気がする」
そう言って笑う張飛の手を私はきゅっと握った。