ミラーが女子生徒に囲まれているなんていつものことだ。
そんな姿を見て、幼馴染としては鼻が高い・・・とまでは言えない。
なんだろう、ムカムカする。
「・・・人の顔じっと見てなんだよ」
「なんでもないわ」
試験勉強をするミラーについてきて、今日も私は図書館だ。
本をめくる音や、何かを走り書く音くらいしかしないのだ。
心地よくて、ついうとうとしてしまう。
だけど、今日はいつもと違う。
私の前に座って黙々と試験勉強をするミラーの顔を見つめていた。
昔から整った顔立ちで、金髪碧眼。
まるで絵本の世界から抜け出してきたような見た目だ。
「なんでもないならじっと見るなよ。
集中できないだろ」
「あら、そんな事くらいで途切れる集中力なの?」
「・・・おまえな」
じろりと睨まれるが全く怖くない。
私はとびきりの笑顔で応戦してやる。
「あら、何か問題でも?」
「・・・本当に可愛げないやつだな」
呆れたようにため息をつくと、その視線が私の手元へと映る。
壊れ物を扱うようにそっと私の手をとった。
「・・・っ、なによ」
「傷・・・消えたな」
ゴーレムの一件で出来たたいしたことない傷。
ミラーはそれをなぜかしきりに気にしていたのを思い出した。
傷があった場所を指先でそっとなぞる。
その触れ方が妙に艶かしく感じてしまい、頬が赤らむのが自分でも分かった。
「あんたって変なところで気にするのね」
「おまえだって女だろう」
「・・・そんなささやかな傷でどうにかなるほど弱くないわよ」
「そういうことじゃない」
掴まれていた手を払うと、私は机に突っ伏した。
「おい、プリンセス・・・」
「私が見てると気が散って勉強できないんでしょう?
ほら、見てないんだから勉強すれば?」
「・・・君という奴は、」
ミラーが何かいいたげな視線を投げているのを無視して、私は目を閉じた。
顔を合わせれば、些細な口喧嘩ばかり。
今は手が届く場所にいるミラー。
従者探しが終われば、もうこんな日々は訪れないのかもしれない。
今はもう少しだけ、幼馴染と過ごすこの時間が愛おしいだなんてミラーには知られたくない。