図書館で過ごす時間は好きだ。
たまにパルーとノエルが喧嘩(?)をしていることはあるが、基本的に本をめくる音や書き物をする音、そういったものが聞こえてくるくらいだ。
僕の隣にいる彼女も、さっきまでは一生懸命本を読み、ペンを走らせていた。
(・・・夕べ、寝てないんでしょうね)
属性が分からなかった頃も、こうやって寝る間も惜しんで勉強している姿を何度も見た。
他の人なら簡単に出来る魔法も、彼女はうまく出来なくて失敗してはしょんぼりとしていた。
だけどしょんぼりとした後、彼女は顔を上げて次への一歩を踏み出す・・・そんな人だ。
ルルのそういうひたむきさに惹かれたし、彼女に名前を連呼されるのも、飛びつかれるのも初めは煩わしかったのに今は嬉しい。
飛びつかれる度に押し倒されてしまうのはいい加減どうにかしたいとは思っているが
(それにしても・・・)
寝顔をちらりと見ると、その表情はあどけなく、本当に気持ち良さそうに眠っている。
あんまり無防備でいられると、心配になる。
自分のいない場所でこうやって無防備にうたた寝をしている姿を他の人に見られたらと想像するだけでため息が出る。
もう少し自覚を持って欲しい。
自分が、魅力的な存在だということを。
「・・・スト」
ルルの唇が動く。
「エスト・・・わたし、」
「・・・っ!」
寝言だとわかっていても、自分の名前が出たことにひどく動揺する。
夢を見ているんだろう。ルルは幸せそうな顔をしていた。
その夢に、僕がいるんだろうか。
そう思うと、胸が締め付けられるような・・・だけど不快ではなくて、なんとも言えない気持ちがこみ上げる。
「わたしのお肉たべていいからおっきくなろう!」
「は?」
寝言とは思えないはっきりとした言葉に、先ほどの気持ちはあっという間に引っ込んだ。
「何の夢を見てるんですか・・・あなたは」
幸せそうな顔をしたルルを見て、ため息をもう一度ついた。
◇
「エスト、なんで起こしてくれなかったのー!」
「うたた寝するあなたが悪いんでしょう」
「そうだけど!でも、まだ勉強途中だったのに!」
寮への帰り道。
日が傾くまで眠ってしまっていたルルは、起こさないでいた僕に不満を漏らす。
「ルル、最近無理しすぎですよ」
「そんな事ないわ!」
「休息も必要です。無理に詰め込んだって意味はないでしょう」
「・・・エスト」
真剣に彼女に語りかけると、ルルはこくりと頷いてくれた。
「心配してくれてありがとう、エスト」
「いいえ」
ルルが甘えるように僕の手に自分のそれを重ねる。
いつもは手を握り返すの恥ずかしいが、今日は素直に頷いてくれたからきゅっと握り返す。
「ふふ。そういえばね、さっき夢を見たの!」
「夢・・・ですか」
「エストの夢だったわ!
エストにすごい食欲が湧くの!それでたくさんお肉も食べてくれて凄く嬉しかったわ!」
「・・・肉ですか」
それでさっきの寝言に繋がるのか。
「でも、こうやって一緒にいるのに夢でもエストに会えるなんて嬉しいわ」
「・・・っ」
ルルが見る夢は僕は見れない。
それでも、夢でも会えて嬉しいと喜んでくれる事が気恥ずかしい。
「エスト、顔が赤いわ」
「赤くないです」
「え、でも」
「ほら、もうすぐあなたの大好きな夕食の時間ですよ」
「エスト、誤魔化してるわ!」
「誤魔化してません。夕日のせいです」
「もう!エストは恥ずかしがりやなんだから」
今夜、ルルの夢が見れますように。
がらにもない事をひっそりと願った。