「姫・・・これはどうするつもりだ?」
イシュマールが眉間をおさえながら口を開いた。
枕の中から真っ白い羽と、よく分からない白い玉がたくさん出てきて、ベッドから零れ落ちた。
事の発端はこうだ。
「ね、イシュマール!」
「・・・」
「イシュマールってば」
「・・・」
机に真剣に向かう姿は何度も見てきたが、何度も呼びかけているのに一向に応答がない。
それだけ集中しているということは素晴らしいかもしれない。
だけど、夕食の支度が出来たので呼んでいるのにイシュマールは振り返ってもくれないのだ。
それが少し・・・いや、とっっっても面白くなくて、わたしはあるものに手を伸ばし、それを勢いよくイシュマールの背中に投げつけた。
「-っ!なんだね、一体!」
背中に当たって落ちた枕をイシュマールは拾いつつ、ようやく振り返った。
「ふふ、勝負よ!イシュマール!」
「はぁ!?」
もう一個あった枕に手を伸ばし、再び力いっぱいイシュマールに投げつけた。
それを開始の合図代わりに、わたしたちの枕投げ合戦が始まったのだ。
「結構楽しかったね」
「・・・君という人は」
枕投げが終わる頃には枕一つが駄目になり、中身がぶちまけられる結果となった。
枕の中身ってこんな風になっていたのね、知らなかった。
「どうするんだ、枕が一つになってしまったではないか」
「もうしょうがないわね。イシュマールが使っていいよ、枕」
夕食を食べている時も、その話が続いた。
枕投げしてるときはイシュマールだって楽しそうだったくせに。
それからいつものように寝る支度を整え、一緒のベッドにもぐりこむ。
「・・・君はどうするつもりだ」
枕をわたしに押し付けられたイシュマールはなんとも言えない表情で隣で横になるわたしを見ていた。
「え、このまま寝るけど」
「それでは首が疲れるだろう」
「いや、別に」
正直、路上でも気にせず眠れるんだから枕があってもなくても眠りにつけるのは変わりない。
イシュマールはため息をついてから、わたしの首の下に腕を差し込んで肩を抱き寄せた。
「・・・イシュマール?」
「こうすれば君も少しは楽だろう」
「・・・でもイシュマールの腕」
「なんだね、私の腕では安眠できないというのかね?
それは仕方ないだろう、枕ではないんだ。そもそも枕をだめにしたのは先ほどの枕投げであってだな。
君の遊びに乗ってしまった私にも責任があるんだ。だからこれはだな・・・」
恥ずかしさを誤魔化すためか、まくし立てるようにイシュマールは言葉を続ける。
それがなんだか可愛くて、わたしはくすりと笑った。
甘えるようにイシュマールに身体を寄せると、イシュマールがようやく大人しくなった。
「なんだかいい夢見れそうだな」
「そうか・・・」
ようやく目が合い、微笑みあった。
「おやすみ、イシュマール」
「・・・ああ、おやすみ」
一つだった枕が二つになって、また一つになってしまったけど。
イシュマールともう一度枕を買いに出掛けられるんならそれも幸せかも。
でも、すぐ買いにいかなくてもいいかな。
この枕をもう少し堪能したいから、なんてね。