旅の途中、ある村で不思議なものを見つけた。
木というには軟弱そうに見えるその植物は天まで届くんじゃないかと思うほど長い。
その枝に紙がたくさんぶら下がっているのを不思議そうに見ていると近くを通りかかったおじいさんに声をかけられた。
「もしや旅のお方ですか?」
「うん、そう。
ねえ、これは何なの?」
「それはですね・・・」
おじいさんは丁寧に説明してくれ、わたしはそれを真剣に聞いていた。
「アスパシア?どうしたんだ?」
「あ、レジェッタ」
話がちょうど終わった頃、レジェッタが合流した。
「これの説明聞いてたの」
「ああ、七夕ってやつだろう?」
「レジェッタ、知ってるの?」
「ああ、遠い国が発祥の祭りだろ?
年に一回しか会えない恋人に願い事するっていう」
思っていたよりレジェッタが物知りで感心してしまう。
じっと見つめていると、わたしの熱視線に気付いたのか少し恥ずかしそうに笑った。
「お前もやりたい?」
「短冊に願い事を書いてって?」
「ああ」
もう一度たくさんの願い事がぶらさがった笹の葉を見上げる。
人々の願い事をかなえて、魔神になるために奮闘していた日々を思い出していた。
その日々があったからわたしは今、レジェッタの隣にいるのだ。
「わたしさ」
そっとレジェッタの手を握る。
レジェッタは一瞬強張ったが、すぐわたしの手を握り返してくれた。
「何かに願うものなんて何もないよ。
好きな人と好きな世界を生きているんだもの」
「・・・ああ」
「それに願い事があったら自分の力で叶えてみせるから」
にっこりと笑うとレジェッタもつられて笑った。
「おまえのそういうところに惚れたんだよな、俺」
レジェッタのぽろりと零した言葉に迂闊にも赤面してしまった。