気弱なときは甘えたい(ヴィルラン)

「くしゅんっ!」

「大丈夫か?」

寝る前、髪をとかしていると思わずくしゃみをしてしまった。
先にベッドに入ってくつろいでいたヴィルヘルムから心配そうな声がする。
振り返って、頷くとほっとしたような顔になった。
以前はそれくらいじゃ心配しなかったのに、と思うとなんだか気持ちが和む。
髪をとかし終え、ヴィルヘルムの隣にすべりこむとぎゅっと抱き締められた。

「風邪かもしれないからな、暖めておかないと」

「くしゃみ一つで大げさなんだから」

「いいだろ、これくらい」

「・・・うん」

抱き締められるとヴィルヘルムの少し高い体温と、鼓動が心地よい。
目を閉じ、私は先日の出来事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

「はっくしょん!!」

「ヴィルヘルム、風邪?」

大きなくしゃみをし、ぼーっとしたヴィルヘルムに声をかけるとヴィルヘルムが小さく首を振った。

「風邪なんて身体鍛えてない奴がひくんだろ?
俺は大丈夫だ!」

なぜか得意げに言うヴィルヘルムの額に手を伸ばす。
触れてみるといつもより体温が高い気がした。

「ヴィルヘルム、熱はかってみよう。
なんだか熱がある気がする」

「熱なんてないって」

「いいから。確認したいだけだから」

「だから大丈夫だって」

「いいから!」

一喝すると、ヴィルヘルムは驚いたらしく大人しく私の言うことを聞いてくれた。
体温計を取り出し、熱を計らせる。
なんだか居心地が悪いようで、ヴィルヘルムは身体を揺らしているが
計り終わるまで私はじっとヴィルヘルムをみつめていた。

ぴぴぴ、と音がなって体温計を取り出させると数値は38度を表示していた。

「げ」

「ほら、熱ある!ヴィルヘルム、ベッドに戻って」

「だけど今日はマルクに稽古つけてやる約束が」

「それでマルクに移したらどうするの?
私から事情説明するから!」

しぶるヴィルヘルムの背中を押して、寝室へ押しやる。
ベッドに寝かせて、布団をかける。

「少し寝た方が良いわ」

「・・・おう」

横になって、ようやく自分の体調の悪さを自覚したのか赤い顔をして目を閉じた。
濡れたタオルを用意して、ヴィルヘルムの額に乗せると気持ち良買ったのか、表情が和らいだ。

「私、ちょっと買い物してくるから寝ててね」

「ん」

目を閉じたまま頷くと、私はそっとドアを閉じた。
街に出て、マルクのもとへ行ってヴィルヘルムの体調を説明し、約束はまた今度ということにしてもらうと
それを聞いていたティファレトに風邪に良いという薬草を貰った。その後、消化の良さそうなものを買うと家に戻った。
寝室を覗くと、すーすーと寝息を立てているヴィルヘルムがいた。
タオルを変えようと手を伸ばすと、うっすらと目が開いた。

「ん・・・」

「ごめん、起こしちゃった?」

「いや、いい」

タオルを絞りなおし、額にのせる。

「どう?具合」

「ああ・・・お前に言われるまでこれが具合悪いなんておもわなかった」

きっと体調を崩すのも久しぶりのことで、ヴィルヘルム自身が覚えていなかったのだろう。
魔剣のなかにいた永い年月を思うと、胸が締め付けられる。
たまらなくなって、手を握るとヴィルヘルムは幼い子どものようにはにかんだ。

「なんだろうな、お前がそばにいてくれるだけですっげー安心する」

「・・・っ」

不意に言われた言葉に思わず頬が熱くなる。
誤魔化すように片手でヴィルヘルムの頭を優しく撫でる。

「もう少ししたらご飯作るからそれまで眠ってていいよ」

「ん、ありがとな」

それから目を閉じると、また規則的な寝息が聞こえ始めた。
そろそろ手を離して、ご飯の支度をしようとするが思いのほか強く手を握られており
その手をほどくのはしのびなくて、私はしばらく彼の寝顔を見つめていた。

 

 

 

 

 

高熱も一晩たてば落ち着き、2日後にはマルクとの約束を果たしていた。
珍しく弱気で、子どもみたいなヴィルヘルムに私は私でちょっと幸せな気持ちになってしまっていた。
ただ、くしゃみ=風邪という図式が彼のなかで出来上がってしまったため、
くしゃみをするたびに過剰に心配されるようになってしまったのはちょっと困るけど。

「ふふ、」

「ん、どうした?」

ヴィルヘルムの腕のなかで、笑みをもらすと不思議そうに私を見つめていた。

「幸せだなって思ってたの」

私がそう微笑むと、ヴィルヘルムは大人びた表情で微笑んだ。

「ああ、俺も幸せだ」

 

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