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ふたりのみぞ知る(真京)

「季節は夏。
夏といえば、涼しくなりたい。
涼しくなりたいといえば怪談といいますよね」

なんてことを皐月さんが突然言い出した。
夕食も終わり、真之介が淹れてくれた紅茶を飲みながら一息ついていたところだった

「・・・皐月さん、何を突然」

「お嬢様、夏の風物詩を満喫しないで日本人といえますか?
否、いえませんよね!」

「毎年、そんな事をしないでも夏は満喫できているわ」

「ちっちっちっ。お嬢様、甘いです。
これはフラグですよ、フラグ」

「・・・折ってもいいのかしら」

ため息とまではいわないが、なんともいえない気持ちになってふぅっと息を漏らした。
・・・でも怪談ってどういうことを話すのかしら。
少しだけ興味が湧いてしまった。

「皐月さん、怪談っていうのはどんなお話をするの?」

「お、お嬢様・・・!そんなことを興味本位でいっちゃあ・・・」

「ふふ、仕方がありませんね。それでは私の選りすぐり100選を」

「それはちょっと多いわ」

好奇心は猫をも殺すとはよく言ったものだ。
私は自分のその選択をすぐさま後悔することとなった。

 

 

 

 

 

「し、しんのすけ・・・」

「だから言ったのに」

怪談というのはとんでもないものだった。
私が予想していたのはお皿を数えて一枚足りないとかそういう話だったのに。

「・・・人間の口からあんなスプラッタ音がするなんて思わなかったわ」

「はは、あれは凄かったですね」

臨場感を出そうと皐月さんが嬉々として話すことは全て恐ろしかった。
話が終わった今も、ドアを開けたらその先には得体の知れないものが佇んでいるんじゃないかと思うくらい。
怖くて自分の部屋なのに、一人でいることが出来なくて真之介の手をずっと握っていた。

「・・・真之介、お願いがあるの」

「そ、そんな可愛い顔で見つめないでください。心臓に悪いです」

懇願するようにじっと彼を見つめると、照れたらしく私から視線を外す。

「怖くて眠れないの・・・一緒に寝てもらえないかしら」

「それは、・・・それはもう、色々とまずいような」

「問題なんてないわ。だって真之介は・・・その、恋人ですもの」

お父様も今日は仕事で帰られないから問題ない。
皐月さんは・・・この際忘れよう。

「・・・分かりました。僕も男です。覚悟を決めます」

「・・・覚悟?」

「京子がおばけと戦うように僕も理性と戦いましょう」

「やめて、私はおばけと戦ってないわ」

「そうでしたね、おばけじゃなくてどっちかといえばゾ・・・」

「やめて」

「いたたたた!」

思い出させるようなことを言うなという気持ちから握っていた手を目一杯握る。

「分かりました。京子が眠るまで、こうして傍にいますから」

私をベッドに寝かしつけると、手を握りなおして、私を眠らせようと胸元を優しく叩く。

「・・・一緒に眠ってはくれないの?」

「・・・それをすると僕は戦いに負けてしまいます」

「私がお願いしているのに?」

「・・・それは色々とずるいよ、京子」

困ったように笑うと、私の頬にキスを落とした。
それだけじゃ恐怖も不安も消えない・・・と思ってしまうのはいけないこと?
真之介の腕を強く引っ張り、ベッドに引きずり込もうとする。

「・・・っ、」

「お願い、真之介」

「もう降参・・・」

私の懇願に応えるように真之介は私の上に覆いかぶさるような体勢になる。
ドキドキしながら、私は彼からのキスを受け入れー

 

 

 

 

 

 

 

「さて、真之介さんは理性に勝てたのか・・・
ふふ、知りたいですか?
それはですね・・・」

「皐月さん!!」

それは私と真之介だけが知っていて良い事・・・ということで。

お誘い(インカル)

「カルディアちゃん」

眠りにつく少し前のこと。
私の髪を指で弄びながら歌うように私の名前を呼ぶ。
インピーに触れられるのは心地よくて、つい目を閉じて、それを受け入れてしまう。

「カルディアちゃん」

「・・・なに?」

「カルディアちゃんのこと、呼ぶの好きなんだ」

「・・・私も好き」

インピーに呼ばれることが。
いつも優しい声で私を呼ぶインピーの声が好き。
例えば私が道に迷ったとしても、インピーが私を呼んでくれるのなら戻れる気がする。
・・・いや、きっと私が戻る前にインピーなら私を見つけ出してくれそう。

「インピー?」

急に黙り込んだ彼を不思議に思い、私は重たい目蓋をあける。
いつもなら寝ている時間なのだけど、インピーとまどろむ時間が愛おしくて眠るのがもったいない。

「どうしたの?」

枕元のライトが、ぼんやりとインピーの表情を映し出す。
頬を赤らめて、私から視線を逸らしている。

「カルディアちゃんが可愛くて色々と堪えてるところ・・・」

私の髪に触れるインピーの手をとり、きゅっと握る。
それだけでインピーは驚いたように私を見つめてくる。
インピーに見つめられすぎて、いつか穴が開いてしまうんじゃないかって時々思う。
擦り寄るようにインピーに身体を寄せてから、少し身体を起こして少し頑張ってインピーの頬に口付けた。

「私もインピーが可愛くて困る・・・かな」

喜んでくれるかな、と思ったのにインピーは固まったまま動かない。
少し恥ずかしいことをした、と羞恥心が沸き起こってきて、私はシーツを無理やり被った。
強く引っ張ったせいでシーツの上にいたシシィが体勢を整えようと動く気配がする。

「か、カルディアちゃんっ!カルディアちゃん!」

我に返ったのか、インピーが上擦った声で何度も何度も私を呼ぶ。
それが余計恥ずかしくて、私は身体を丸める。すると、さっきのシシィが動く気配とは比べられない大きさ・・・つまりインピーのことだけど、インピーがシーツの上から私を抱き締める。

「どうしよう、カルディアちゃんが可愛すぎて眠気どこかいったよ!カルディアちゃん」

「・・・っ、インピー、うるさい。シシィに怒られるよ」

「それでもいい!カルディアちゃん、お願いだから顔みせて」

「・・・いや」

だって顔が真っ赤になっていることくらい分かっているから。
無理やりにシーツをはがしちゃえばいいのに、インピーは優しいからそういうことを絶対しない。
だから私の名前を何度も呼ぶ。

「カルディアちゃん・・・」

「・・・」

「ねぇ、カルディア・・・」

「-っ」

シーツ越しに耳もとで囁くように名前を呼ばれる。
いつもそんな風に呼ばないのに、ずるい。
おそるおそるシーツを外して、振り返ると大好きなおやつをもらったシシィのような顔をしているインピーと目が合う。

「やっと見れた」

「インピー・・・」

額にそっと口付けられる。
インピーは私を甘やかすようにいつも額にキスをくれる。

「提案があるんだけど、カルディアちゃん」

「・・・なに?」

「今日は夜更かし・・・しませんか?」

私の手に自分の手を重ねる。
その提案に頷くように、私は彼の手を握り返した。

倍返し(ラスラン)

「ラスティン・・・そんなに見つめられると食べづらい」

「ん?」

今日は休日。
普段は休日といっても、暁の鷹のことで潰れてしまうことが最近は多かったんだけど
ようやく少しゆっくりする時間が出来たといってラスティンは私を街へと誘ってくれた。
ラスティンおすすめの生クリームたっぷりのパンケーキを頬張っていると嬉しそうにラスティンが私を見つめていた。
その視線に気付いてからパンケーキを口へ運ぶ速度が遅くなった。

「俺、ランが嬉しそうに食べるの見るの好きなんだ」

「・・・食べづらいよ」

「俺が食べるの見てていいから」

「ラスティンは食べづらくないんでしょ?」

「ランの視線を独り占めって思うとぐっと来るかな」

「・・・」

さっきより小さく切ったパンケーキを口へ運ぶ。
恥ずかしさを誤魔化すように珈琲を飲むラスティンにフォークにさしたパンケーキを差し出した。

「はい、ラスティン」

「え?」

「ラスティンも食べて」

「ランが食べさせてくれるんだ?」

「・・・う、うん」

にっこりと笑うとラスティンは口を開けた。

「はい、あーん」

「・・・っ!?」

思わずフォークを落としそうになったが、強く握りなおす。
ラスティンは楽しげに私を見つめている。

「ほら、食べさせてくれるならあーんっていってくれないと」

「・・・っ」

「ラン」

「・・・あーん」

「あーん」

恥ずかしさで顔が熱い。
ラスティンは嬉しそうに口をあけて、私が運ぶパンケーキを待ちわびる。
ラスティンはずるい。
いつも余裕たっぷりで、私ばっかりドキドキさせて。
パンケーキを口にいれるとそれをご機嫌に咀嚼する。

「うん、うまいね」

たまには私も彼をドキドキさせたい。
周囲をちらりと見渡すと、それなりにお客さんはいるがみんな目の前のパンケーキに気をとられている。
私はメニューを持ち上げて、ラスティンに顔を近づける。

「ラン?・・・っ」

メニューで顔を覆って、周囲に気付かれないような一瞬の口付け。
驚いたようにラスティンは目をみはった。
ドキドキさせたくて、思い切って行動してみたけれど恥ずかしさに負けてすぐ席に座りなおした。

「・・・おかえし」

「それは反則」

ラスティンはテーブルに突っ伏してしまった。

「ねえ、今夜は外泊届け出さない?」

上目遣いに私を見つめてそうねだるラスティンの熱っぽい瞳に私は頷く以外できなかった。

約束とお風呂(ヴィルラン+子ども)

※オリジナルキャラとして二人の子どもが出てきます。苦手なかたは閲覧をご遠慮ください※

 

 

 

 

 

子どもの成長というのは本当にあっという間で、子どもたちはすくすくと成長し、4歳になった。
昔、お母さんが言っていた「子育てなんてあっという間よ」という言葉を思い出してはその通りだな、と頷いてしまう。
夕食を終えて、後片付けをしながら子どもたちと遊ぶヴィルヘルムを見て思わず笑みが零れた。

(・・・すっかりお父さんの顔してる)

子どもたちの成長を見るのと同じくらい、お父さんなヴィルヘルムを見ることが好きだ。
たまに子どもと同じ次元で言い争うことはあっても、やっぱり父親だ。

「ねえねえお父さん」

「ん?どうした?」

ロニはお母さん子で、ヴィオレッタはお父さん子だ。
幼い頃の私に似ていると評判のヴィオレッタがヴィルヘルムに懐いているのを見ると、なんだか胸の奥が熱くなる。
ロニもユリアナに言わせると「ヴィルヘルムが小さくなった感じね!」といわれたので、ヴィルヘルムも同じような気持ちだったりするのかもしれない。
そんな穏やかな気持ちで父娘のやりとりを見つめていた。

「今日、いっしょにおふろ入ってほしいの」

「え?」

「・・・」

多分、私とヴィルヘルムの空気だけ固まった。
結婚してからいつもというわけではないが、度々一緒に入浴していたが、私が妊娠したのをきっかけに毎日一緒に入ることが日課になった。
それは今も変わらなくて、今は子どもたちを先にお風呂に入れてやると最後に私とヴィルヘルムが一緒に入る。

「たまにはお父さんといっしょに入りたいの。だめ?」

「・・・いや、駄目というか」

愛娘からのお願いにヴィルヘルムは困ったように視線をさ迷わせる。
ヴィオレッタだってたまに父親とお風呂に入りたいのだろう。
私も子どものころ、そういう時期があったから気持ちは分かる。

「・・・いや、やっぱり駄目だ。
悪いな、ヴィオレッタ」

「・・・うん、わかった」

ヴィオレッタは本当にワガママを言わない子で、今もヴィルヘルムの言葉に素直に頷いた。
が、傍から見てもヴィオレッタはとってもしょんぼりしている。
その姿が見ていられなくて、思わず口を開いた。

「ヴィルヘルム、一緒に入ってあげればいいじゃない」

「だって風呂はお前と一緒に入る約束だろ」

「・・・っ!」

何を言ってるんだ、と言わんばかりにヴィルヘルムが私を呆れたように見つめてきた。
ヴィルヘルムはどうみてもヴィオレッタを溺愛している。
ロニのことも可愛がっているけれど、口喧嘩は絶えないが、
おっとりとしたヴィオレッタが懐いてくるのが可愛くて仕方がないといつも表情がいっている。
子どもに張り合っているわけじゃないけど、ヴィルヘルムが私との約束を優先してくれたことが嬉しくて言葉に詰まる。

「ヴィルヘルムばっかりズルイ!オレだって母ちゃんと風呂はいりたい!」

「何言ってんだよ!いっつもランに風呂いれてもらってるだろ!」

「オレだって母ちゃんのせなか流したり一緒にお湯にはいりたいのにヴィルヘルムばっかりズルイ!
ちょっとオレたちよりながいきしてるからっておーぼーだ!」

「んだと!悔しかったら俺より長生きしろ!!」

論点がずれている気がする。
ヴィルヘルムとロニが言い合っているのを見て、本当に大人気ないんだから・・・とくすりと笑ってしまう。

「じゃあ、今日はヴィオレッタと二人で入ろうかな」

「え?本当?」

「うん、本当だよ。だからヴィルヘルムがロニと一緒に入ってね」

「「えっ」」

ヴィオレッタが嬉しそうに駆け出してきて、私の足に抱きついた。

「うれしい!お母さんとも入りたかったの!」

「ふふ、良かった。それじゃ、入ろっか」

「お、おい!ラン!」

「ヴィオレッタずるいぞ!」

慌てる我が家の男性陣をみて、二人で微笑む。

「明日はロニと入るから、ヴィオレッタはヴィルヘルムと入ろうね」

「うん!」

その後、それぞれ入浴を済ませた。
ヴィルヘルムとロニも騒ぎながらも楽しそうに入っていたから、たまにはこういうのもいいかもしれない。

 

 

 

 

 

「お前は俺と入れなくてもいいんだな」

その日の晩。
すっかり拗ねたヴィルヘルムの頭を乾かしていると、そんな事を言い出した。

「ヴィルヘルムだってロニと楽しそうにしてたじゃない」

「そりゃそうだろ。でも、俺はお前との約束を・・・」

「子どもたちが大きくなったら一緒に入れなくなるんだから今の内だよ」

「・・・俺はそういうことを言ってるんじゃなくてだな。お前が薄情だと・・・」

「・・・」

子どものように拗ねる彼を可愛いな、と思うけれど薄情という言葉は心外だ。
思わず黙り込むと、ヴィルヘルムは振り返って私の顔を見た。

「・・・怒ったか?」

「・・・怒ってないけど」

「いや、口調が怒ってるだろ」

「怒ってないよ」

「・・・悪い、言いすぎた」

「怒ってません」

「・・・だから!」

怒ってないと繰り返す私に困り果てたのか、ヴィルヘルムは立ち上がって私を抱き締めた。
お風呂上りの彼の身体はいつもより体温が高かった。

「・・・ごめん、機嫌直してくれ」

「だから怒ってません」

「・・・ラン」

ご主人様に叱られた犬のようにしょんぼりするヴィルヘルムに、私は堪えきれなくなって噴出した。

「・・・おまえ」

「ふふ、ごめんね。あさっては一緒に入ろうね」

「・・・はぁ、そうだな」

ぽんぽんとあやすように私の背中を叩く。
子どもたちがいても恋人気分が抜けないのは、ヴィルヘルムのこういう部分のおかげなんだろうな。
甘えるように胸に頬を押し当てると、少しだけ恋人のときの気分へと戻るのだった。

世界のすべて(朔深)

幼い頃、忍び込んでは遊びに来てくれる彼女に会うことがとても楽しみだった。
あの頃の僕にとって、それが世界の全てだといっても過言ではなかった。
深琴が全てだった。
深琴を守って死ねるのなら、それで構わないと・・・誇りにさえ思っていた。

 

 

 

 

 

 

食堂で突っ伏して眠っている深琴をみつけた時はなんて無防備なんだと腹立たしくも思ったが幸い誰もいなかった。
暗くなった食堂で、窓から差し込む明かりに照らされる深琴が綺麗すぎた。
思わず掴んだ肩に、不自然な力が入ってしまった。
声はできるだけ優しく・・・深琴の名前を呼ぶ。

「深琴、深琴・・・」

「・・・さくや?」

「こんなところで寝ていたら風邪ひくよ」

まだはっきりと意識は覚醒していないであろう瞳で僕をみつめる。
昔は僕ばかり映していた瞳に、今多くの存在が映る。
幼い頃だっていろんな人を見ていただろうが、深琴はそれを個人としては認識していなかっただろう。
でも、今この箱舟の中にいる存在は全て守るべき対象だし、個人として慕ったり嫌ったりしている。
深琴が誰かに向ける感情全てが僕のものだったらいいのに。
僕は深琴以外に、一ミリも感情を向けるつもりがない。
だっていつだって僕の全ては深琴だから。

「ん・・・ありがとう」

まだ眠たそうに目元をこするので、彼女の手をそっと取る。

「目、痛くなっちゃうよ」

「そんな事ないわ」

「いいから」

ほら、言ったとおり目元が少し赤くなってる。
顔を寄せると、驚いて後ろに逃げようとする深琴の背に空いてる手を移動させて固定する。
目元に舌を這わせると、身体が強張った。

「・・・っ!ちょっと!!何するのよ!」

拘束を振りほどくように深琴が腕のなかで暴れるから彼女の手を離して両腕できつく抱き締めた。
この腕のなかにいつまでもいればいいのに。
喜んでくれるわけがないって分かっているし、嫌がることも充分分かっている。
だって深琴にとっては僕は守るべき対象であって、抱擁を許す対象じゃない。
じゃあ、なんで僕は深琴の傍にいるんだろうか。
この気持ちは敬愛だけじゃない。
深琴を腕の中に閉じ込めて、誰にも渡したくない。
誰の目にも触れない世界で、ふたりきりで生きていければ・・・
もしくは・・・

「ごめん、深琴・・・ねぼけてたみたい」

腕の拘束を緩めて、深琴に笑みを向ける。
どこかほっとしたように、深琴は息をもらす。
が、すぐさま不機嫌な顔をつくって顔をそむけた。

「もう・・・仕方ないんだから。朔也は」

「ごめんね、深琴」

「・・・私だから良かったものの、もし七海やこはるにしてたら危ないんだから」

「うん、そうだね」

深琴以外の人間には触れようとも思わないんだけどね。
深琴だから良いのに。
世界には、僕と深琴しかいないみたいな静けさで。
薄明かりのなか、このまま僕と深琴だけになってしまえばいいのになんていつも願うことを改めて願った。

 

贔屓目(ナチフウ)

「ナチの帽子、可愛いですね」

「え?」

夕食の片付けをしていると、最近はフウちゃんが手伝ってくれることが増えた。
最初は自分の仕事だからと断っていたが、少しでも一緒の時間を作りたいとフウちゃんが言ってくれたのでその言葉に甘えることにした。
・・・自分だってフウちゃんと少しでも長く一緒にいたいんだから断れるわけがない。
そんな日常が続いたある日のこと。
フウちゃんが自分の帽子をまじまじと見つめて、冒頭の台詞に至る。

「ナチのてふてふもお揃いですよね」

「ああ、そうっすね」

食器を洗い終え、二人で乾いたタオルで拭いていく。
フウちゃんの手つきはとても丁寧で、例えばドアを開くときやカップをソーサーに置くとき、そういう時も丁寧に触れているのがわかる。
彼女が自分に触れるときもあんなふうに丁寧に触れてくれているんだろうと思うと、頬が熱くなる。
照れを誤魔化すように自分の帽子を外して、彼女の頭にぽふっと乗せる。

「フウちゃんも似合うっす」

「・・・っ、そうですか?」

驚いたように、乗せられた帽子を押さえる。
お世辞じゃなくて、本当に・・・可愛い。
恥ずかしそうにしながらも、嬉しさを隠し切れないように微笑むフウちゃんは可愛かった。火照った頬を誤魔化すために、彼女に帽子をかぶせてみたのに逆効果だ。

「ナチ、照れてますか?」

「・・・黙秘するっす」

「ふふ、顔が赤いです」

誤魔化すように残りの皿を拭こうとすると、フウちゃんがからかうように顔を覗きこんできた。
たまに余裕な表情を見せるフウちゃんに意地悪したくなる。
帽子を彼女から外し、横から見えないように帽子で覆うとフウちゃんの唇を奪う。
一気に形勢逆転し、フウちゃんの頬は紅潮する。
自分の頬が火照るのはもういい。フウちゃんとの短いキスを楽しむだけだ。

「・・・っ、ん」

唇を離し、帽子を再びフウちゃんの頭にかぶせる。
慌てるように帽子を両手でおさえながら上目遣いに自分を見てくる。

「そういう仕草も、可愛いっす」

「・・・知らないです」

「機嫌損ねちゃったんすか?」

「・・・さあ」

ふい、と顔をそむけながらもフウちゃんは右手で自分の服の裾をきゅっと握ってきた。
何をしても可愛く思えるのは惚れた弱みなんだろうか。
いや、彼女は可愛いからしょうがないだろう。
うんうん、と心の中で頷くと服の裾をきゅっと握るその手を包み込んだ。

「この片付けが終わったら、自分の部屋でお茶でもしませんか?」

「・・・」

「ホットケーキも作るっす」

「・・・もう、しょうがないですね」

どんなフウちゃんも自分にとっては可愛いけれど、やっぱり笑っているフウちゃんが一番可愛い。
そんな事を思いながら、微笑み返した。

幸福な明日(ヴィルラン)

※オリジナルキャラとして二人の子どもが出てきます。苦手なかたは閲覧をご遠慮ください※

 

 

 

 

それはいつもと変わらない朝。

「おい、ヴィルヘルム!!」

「うっ・・・!!」

ぼすん!!と突然身体の上にのしかかってくる二つの塊。
容赦なくみぞおちを攻撃されて、思わず声を漏らす。

「お父さん、おきてー」

「おきろよー!ヴィルヘルム!!」

「うるせぇ!!起きてほしいんならどけろ!」

「きゃあっ」

「うわっ」

二人を乗せたまま、俺は勢いよく起き上がると二人が叫び声を上げた。
休みの日はこうして毎度毎度飛びかかってくる。

「ロニ、ヴィオレッタ!
お前ら、ちょっとは父ちゃんを労われ!」

「やすみの日だからってだらだら寝てると牛になるぞ!」

「お母さんにおこしてきてっていわれたの」

「いっぺんにしゃべんな!とりあえず父ちゃんに言うことは?」

「おはよう、お父さん」

「・・・おきるのがおそいんだよ、ばーか」

「おい、ロニ」

きちんと挨拶が出来たヴィオレッタの頭はなでてやり、ロニの頭を軽く小突く。

「おまえ、何回も言わせんな。ヴィルヘルムじゃなくて、お父さんだろ」

「うるさいんだよ!」

ロニは不貞腐れた表情をして、寝室から逃げていった。
俺譲りの真っ赤な髪とラン譲りの藍色の瞳。
俺のことをヴィルヘルム、とランの真似をして呼んでいるのか、一向にお父さんと呼ぶ気配がない俺の息子。
そして、今俺に嬉しそうに頭を撫でられているのがヴィオレッタ。
ラン譲り・・・のようなそうでないような珊瑚色の髪に俺譲りの紫色の瞳。
いっつもにこにこして、俺に甘えたがる可愛い娘。

「起きた?ヴィルヘルム」

「ん、はよ」

「おはよう」

ヴィオレッタを抱きかかえたままリビングで行くと、ランは食事の支度をちょうど終えたところだったようで、エプロンを外していた。

「支度してくるから先に食ってろ」

「駄目だよ、休みの日の朝はみんなで一緒に食べようって約束したでしょ?」

「ああ、悪い。すぐ戻る」

ヴィオレッタをおろすと、俺は身支度を済ませに洗面台へと向かった。
冷たい水で顔を洗うとようやく頭が覚醒してくる。

(・・・もう4歳か)

早いものだ。
俺が父親になる日が来るなんて・・・想像したこともなかった。

 

 

 

 

 

結婚したばかりの頃。
日曜日は私の買い物に付き合う、と約束してくれてから今もそれは変わらない。

「・・・ねえ、ヴィルヘルム」

「ん?」

子どもたちも一緒に買い物に連れて行くとき、はぐれないようにと手を繋ぐ。
私の右手をロニが握り、ヴィルヘルムの左手をヴィオレッタが握る。
・・・つまり、私の左手はヴィルヘルムの右手だ。

「両手塞がって不自由じゃない?」

「別に」

「ヴィルヘルム、母ちゃんの手離せよ」

「あ?お前が離せよ」

「オレは母ちゃんが好きだから良いんだよ!」

「俺はお前より長い間、ランが好きなんだよ!」

「二人とも!喧嘩しないの!」

子供同士の喧嘩の仲裁はほとんどない。
一緒にこの世に産まれたからなのか、ロニとヴィオレッタは仲が良い。
お兄ちゃん風を吹かしたがるロニをにこにこと見て笑うヴィオレッタはいつかの私達に重なる。
だけど、似たもの同士というかヴィルヘルムとロニが今みたいにしょっちゅう喧嘩する。

「だってヴィルヘルムが・・・」

「ロニ、お父さんって呼ばないと駄目よ。ヴィルヘルムはロニのお父さんなんだから」

「そうだそうだ!」

「ヴィルヘルムも!なんでロニと同じ次元で張り合っちゃうの?」

二人を平等に叱ると、分かりやすいくらいしゅんとしている。
本当に似たもの親子なんだから・・・

「お父さん、ロニ。元気だして?」

「ヴィオレッタはお利口ね」

「うん!ヴィオレッタはお父さんもロニも大好きなの!」

ヴィオレッタの言葉でひとまずその場は治まる。
いつもこんな風に時間が過ぎていく。
二人でいた頃より、ずっと慌しいけれど・・・とても幸せな時間だ。

 

 

 

買い物が終わり、家に戻ると子どもたちはすぐ遊びに行く支度を始める。

「遠くに行っちゃ駄目だからねー」

「だいじょーぶ!すぐそこで遊ぶだけだから!」

「お父さん、お母さんいってきまーす」

二人は仲良く手を繋いで出て行った。
買ってきた荷物を片付ける前にヴィルヘルムにお茶を用意しようとするとキッチンにヴィルヘルムが現れた。

「お茶飲むでしょ?」

「ああ」

「どうした・・・」

顎に手をかけると軽く上を向かされ、そのまま唇が重なった。
触れるだけのキスだったので、すぐ唇は離れるがそれからぎゅっと抱き締められた。

「ヴィルヘルム?」

「充電中だ」

「・・・そうなんだ。じゃあ私も充電しようかな」

ヴィルヘルムの背中に自分の手を回す。
ヴィルヘルムの腕のなかはいつだって安心する。

「そういえば・・・ヴィルヘルムも少し大人になってね」

「何がだよ」

先ほどの二人の喧嘩。
よく飽きもせずあんな風に喧嘩できるものだと感心してるけど。

「ロニはまだ子どもなんだから。ヴィルヘルムはお父さんでしょ?」

「お前のこと一番好きなのは俺だし、俺のこと一番好きなのはお前だろ。
それは絶対ゆずらねぇ」

「・・・もう」

子どもみたいな物言いに呆れてしまう気持ちが少しだけ。
残りの気持ちは嬉しくて仕方がない。
親としては子どもが一番愛おしいと伝えたい。
でも、私とヴィルヘルムが愛し合ったからこそ産まれてきた尊い命だからこそ。
一番好きな人は互いだと伝えたい気持ちもわかってしまう。

 

 

 

妊娠が分かった時、ヴィルヘルムは喜んだ。
そして、戸惑った。
俺は父親になれるのか・・・と。
父親という存在、家族というものがどんなものか分からない自分が父親になれるのか、と吐露した。
母親というものは不思議なもので、今までなった事がないのにお腹に新しい命が宿っているという事実が、自分を母親にしていくのだ。
日に日に大きくなるおなかを見つめて、ヴィルヘルムは私のおなかを毎日撫でた。

「ここにいるんだな、俺とお前のこどもが」

「うん、そうだよ」

「そっか・・・」

その瞳には優しさしか滲んでいなかった。

「はやく会いたいな」

そんな風に願うあなたが、父親になれないわけないでしょう。
私がそう言うと、ヴィルヘルムは黙って私を抱き締めた。

 

 

 

私が妊娠したと分かったとき。
大きくなっていくおなかにふれたとき。
彼はいつだって優しい顔をしていた。
産声を上げて産まれたわが子を見て、ヴィルヘルムは

「・・・おまえって凄いな」

「え?」

「だって、こんなに愛おしいと思う存在・・・
お前以外にいないって思ってた」

そう言って、震える手でロニを抱いて彼は泣いた。

「ありがとな、ラン」

「わたしも、ありがとう」

子どもたちが生まれるまで、ずっと私の手を握ってくれていて。
私にこんなに可愛い子どもを授けてくれて。

「ありがとう、ヴィルヘルム。だいすきよ」

「ああ、俺もだ」

 

 

 

あの日からもう4年の歳月が過ぎた。
変わらずに私を愛してくれて、愛させてくれて
子どもたちの良いお父さんになったヴィルヘルム。

「子どもたち、見てくるか?」

「それは大丈夫!もうすぐ帰ってくるよ」

「そうか?」

「うん」

夕食の下ごしらえも済ませ、私はヴィルヘルムとくつろいでいた。

「ただいまー!!」

「ほら」

「だな」

玄関から元気いっぱいな声とバタバタバタという足音が聞こえた。

「おかえりなさい」

「ただいま。お父さん、お母さん」

「ただいま、母ちゃん・・・と、父ちゃん」

にこにこ笑っているヴィオレッタと少し恥ずかしそうにするロニ。
二人はヴィルヘルムの前に立つと、後ろに隠していたそれを差し出した。

「「たんじょーび、おめでとう」」

「え?」

「おめでとう、ヴィルヘルム」

子どもたちから差し出されたのは画用紙。
受け取って広げてみると二人が描いたヴィルヘルムの顔があった。

「二人ともよく描けてるねー!」

「うん!がんばったの、お父さんによろこんでほしくて!」

「オレは絵がとくいなんだよ」

「・・・ふたりとも」

ヴィルヘルムは二人を両腕で強く抱き締めた。

「ありがとな、すっげー嬉しい」

「えへへー」

「・・・やめろよ、暑苦しいだろ!」

子どもたちは気付いていないけど、ヴィルヘルムの頬に一筋の雫が流れたことに気付いた。

「私もまざろっと」

そう言って、ヴィルヘルムを背中から抱き締める。
ねえ、ヴィルヘルム。
これが家族のぬくもりだよ。
二人だけで生きていくことを最初は望んだ貴方と、変わりたいと願った私。
二人で暮らすようになって、喧嘩もしたけどその分幸せな事だって沢山あった。
二人だけで生きていく幸せより、今腕のなかにある存在がどれだけ私達を幸せにしてくれてるか、貴方は知っているから・・・
そうやって涙を零すんだよね。
そういう貴方を好きで良かった。

 

 

 

 

 

子どもたちも眠り、俺たちは寝室に戻っていた。
子どもたちと俺たちは別々の部屋。
たまに怖い夢をみた、と言って二人揃って枕を抱えてくることもあるが、それ以外はいつも別々に眠っている。今日貰った絵は壁に貼り付けた。
それを見ていると優しい気持ちになる。

「嬉しそうだね、ヴィルヘルム」

「ん?」

寝る支度が出来たのか、ランが俺の隣に入る。

「ああ、すっげー嬉しい」

「良かった」

「ありがとな、ラン」

ランの手をとり、そこにキスを落とす。

「お前が俺に全部くれたんだ」

「それは違うよ。二人で築き上げたんだよ。
私だけじゃ叶わなかったし、ヴィルヘルムだけでも叶わなかった。
私とあなたがいたから・・・今、幸せなんだよ」

「・・・そうだな
なあ、ラン」

「なあに?」

その声に弱い、といわれたことがある少し低めの声を意識してランの耳元でそっと告げる。

「そろそろもう一人、どうだ?」

「・・・っ!」

意味を察したのか、それとも耳元で囁かれたことが恥ずかしかったのか。
あっという間にランは頬を紅潮させた。

「・・・そう、ね」

「だろ?」

「・・・うん」

指と指を絡め、唇を重ね・・・ようとした時。

「おとうさん」

「かあちゃん」

部屋のドアが開き、枕を抱えた二人が飛び込んできた。
慌てて手を離そうとするランの手を離すまいと握ると、少し潤んだ瞳が俺を睨みつける。

「どうしたの?ふたりとも」

「こわいゆめ、みた」

「いっしょに寝てもいい?」

「ああ・・・いいぞ」

二人は俺とランの間に潜りこむ。
俺、ヴィオレッタ、ロニ、ランの順番だ。

「おやすみなさい。ロニ、ヴィオレッタ」

「もう怖い夢、みんなよ」

「うん、おやすみなさい」

「・・・かあちゃんといっしょなら見ない」

あっという間に二人は寝息を立てる。
それを二人で見つめていると、ランが優しい顔をしている事に気付いた。

「おまえのそういう顔、すっげー好きだな、俺」

「え?」

「なんでもない。寝るか」

「ん、そうね」

子どもたちを抱くように手を伸ばして、自分たちの手を繋ぐ。
まるで夢みたいな幸福だ。
だけど、これは夢じゃない。
明日も続く、幸福な現実だ。

0:00 君と迎える明日

0:00

行為が終わった後、動けない私の代わりにヴィルヘルムが身体を拭ってくれる。
その支度をするとき、いつも裸のままウロウロするから私はちょっと恥ずかしい。濡れたタオルで私の身体を拭き終わると、ヴィルヘルムもベッドに戻って私を抱き寄せてくれた。

「ねえ、今何時?」

「ん?ああ」

ヴィルヘルムは時計を確認する。

「もうすぐ0時だ」

「そっか」

いつもいつも私は彼が抱き寄せてくれると、甘えるように擦り寄った。
彼の腕の中がとても心地よいから。

「ヴィルヘルム」

「ん?」

「お誕生日、おめでとう」

時計を見ると、針が0をさした。
そう、今日は彼の誕生日。

「・・・おまえ」

「ヴィルヘルムの腕の中が好き。
あなたが私を大切にしてくれてることが伝わるから。
ヴィルヘルムと街に出掛けるのも好き。
森へ行くのも、どこに行くのだってそう。
ヴィルヘルムが帰ってくるのを待つのも好きよ」

あなたと過ごす時間。
あなたと離れている時間。
全てが愛おしいのは、あなたをあいしているから

「ありがとう、ヴィルヘルム。
生まれてきてくれて、ありがとう」

腕を伸ばして、彼の頭を抱き寄せる。
そして、いつも眠る私に彼がくれるキスのように私も彼の額にキスをする。

「あなたが大好きよ」

「ラン・・・」

ヴィルヘルムを見つめれば、目元が赤くなっていた。

「ありがとう、ラン」

「・・・うん」

「俺の隣にいてくれて、ありがとう。
俺を変えてくれてありがとう」

「・・・うん」

きつく抱き締めあう。
いつかの未来、私たちの子どもたちとあなたの誕生日をお祝いしたい。
私以外の誰かにとっても、あなたはかけがえのない存在になることを教えてあげたいから。
私とあなただけの世界じゃなくて、この世界は私達に優しいということを教えてあげたい。

「来年も再来年も、ずっとずっと先も・・・
こうやって一番にあなたにおめでとうって伝えるからね」

「じゃあ俺はおまえの誕生日にそうしてやる」

未来の約束を重ねていこう。
いつまでも、共にある誓いのように

 

Happy BIrthday Wilhelm !!

20:00 バスタイム

20:00

 

夕食が終わり、片付けも手伝いたいというヴィルヘルムと一緒に皿洗いを済ませるとお風呂を沸かした。
今日はいつもより彼が積極的に私を助けようとしてくれるから、そのお礼もかねて彼の背中を流す。

「ヴィルヘルムの背中って広いよね」

背中を流しながら彼の背中をじっくりと見つめる。
身体に残る無数の傷跡は騎士の誇りでもあるだろう。
だけど、彼の身体に残るそれがなんだか苦しい。

「そうか?まあ、お前は小さいけど」

「私と比べたらそうだけど」

ごしごしこすり終わると、お湯をかけて泡を落とす。

「さんきゅ」

「どういたしまして」

「じゃあ俺も流してやる」

「え?良いよ」

「なんでだよ。折角一緒に入ってるんだから流してやるよ」

ヴィルヘルムは振り返ると私の肩を掴んで反転させる。
スポンジを粟立てると、それは私の背中を優しくなで始めた。

「・・・」

ヴィルヘルムはいつだって私に優しく触れる。
どうして?と聞くと、大事だと思うからと平然と答えられて赤面したのはいつだったか。

「ここ、痕になってるな」

「え?」

「ここ、分かりづらいけど」

そう言って、私の二の腕をなでる。
きっと訓練のときにつけた傷だろう。

「大丈夫だよ、ヴィルヘルム」

「俺は良いけど、お前は傷つかないようにしろよ」

「私が駄目でヴィルヘルムが良いものなんて何もないよ」

男だから傷が残ってもいい。女だから傷が残ってはいけない。
そんな事はないでしょう?

「私もあなたが大事だから傷があるの見たら悲しいもの」

「・・・気をつける」

スポンジがタイルに落ちる音がしたかと思えば、そのまま後ろから抱き締められる。

「ヴィルヘルム?」

「・・・なんでもない」

その抱擁には下心なんて全くなくて・・・
ただ、愛おしいと言葉でいえない代わりに私をきつく抱き締めているみたいだ

「ヴィルヘルムの心臓の音、聞こえる」

「俺はお前の聞こえない」

「ふふ、残念だね」

「ああ・・・」

隙間なんてないのに、それでも二人の隙間を埋めるみたいにヴィルヘルムはきつく私を抱き締め続けた。

18:00 いっしょにごはん

18:00

 

「ヴィルヘルム、どうしたの?」

「なにが?」

「だっていつもそんな事言い出さないじゃない」

「今朝のお前見てたらやりたくなった」

「そう?」

「おう」

キッチンに二人で立つ。
いつもランが作っているのを傍で見たり、つまみ食いしたり、催促したりして隣にいる事は多い。
だけど、今は違う。
どう考えても大きさが足りてない(そりゃランのだから)エプロンを腰に巻いて、ランの隣にいる。

「で、何作るんだ?」

「ヴィルヘルムがお肉食べたいっていうからハンバーグだよ」

「肉丸めるのか?」

「丸める前に色々するんだよ」

ランは食材を用意するとたまねぎを俺に渡した。

「たまねぎの皮、むいてもらって良い?
白い部分が見えたらむくのやめていいから」

「おう、分かった」

手渡されたたまねぎの皮を一枚一枚むいていく。
普段こんな風に集中して何かをするなんて鍛錬以外ないからドキドキした。
白い部分が見えたらやめる、と何度も頭で繰り返しながらむいていくと白い部分がようやく現れた。

「これで良いか?」

「うん、ありがとう」

むいたたまねぎをランに手渡すと、それを細かく刻んでいく。

「お前って手先器用だな」

「そうかな」

「俺も剣でなら出来るかもしれねえけど」

「・・・それはちょっと違うかな」

ランは困ったように笑うと、次は何をするか丁寧に指示した。
きっとラン一人で支度すればもっと早くできただろう。
料理が完成した頃、いつもの食事の時間はとうに過ぎていた。

「悪かった」

「え、何が?」

「俺が余計なことしたから、遅くなっただろ」

エプロンを外して、元あった場所に戻す。
ランは俺の手に触れた。

「私、すごく嬉しいよ。
ヴィルヘルムが一緒にご飯作ってくれて」

「本当か?」

「うん。ありがとう、ヴィルヘルム」

「・・・おう」

「さあ、食べよ?」

テーブルについて、ランはいただきます、と言って二人で作ったハンバーグを口に運んだ。

「すっごい美味しい!ヴィルヘルムも食べて」

「ああ」

ランに促され、俺も口に運ぶ。
いつもランが作ってくれる料理はどれもうまい。
俺の好みを知りつくしているから、俺はランが作るものがなんだって一番好きだ。

「うまいな、これ」

「ふふ、でしょ?」

だけど二人で作った料理はうまいだけじゃなくて・・・
ランが嬉しそうに笑うから、胸の奥がなんだか暖かくなった。

16:00 思い出の場所へ

16:00

緑の滴亭で軽食を取った後、残りの買い物を済ませると自然と足がその場所へ向いていた。

「学生の頃、ヴィルヘルムいっつもここに連れてくるんだもの」

そう、あの頃毎週のように通った森へと来ていた。
せっかく日曜日でお休みなのに、足しげく森へ通うから・・・
付き合い始めたばかりの頃はさすがの私も不貞腐れた。

「あれは悪かったよ。お前もここ好きだと思ってたんだよ」

あの頃のように彼は私の頭をぽんぽんと撫でた。
多分ヴィルヘルムはあの頃より優しく笑うようになった。

「あーでも、やっぱり人混みは疲れるな」

ぐっと伸びをする彼のわき腹をつつくと、びくりと身体が震えた。

「ふふ、そこ弱いよね」

「・・・俺がおまえにやったら怒るくせに」

不貞腐れるように彼は私の肩にもたれかかってくる。
だからさっきのヴィルヘルムみたいに頭をぽんぽんとなでてあげる。

「子ども扱いしてるだろ」

「ヴィルヘルムだって私にしてるでしょ?」

「あれは大事にしてる扱いだ」

「・・・だから私も同じよ」

大事にしたい、大事にされたいと強く思う。
目を閉じて、彼のぬくもりだけを想う。
あれから随分時が流れた。
私はこうしてヴィルヘルムの隣にいる。

「風、気持ち良いね」

「だな」

もうすぐ日が傾き始めるだろう。
夏の日差しも、この森には優しい。
ヴィルヘルムの手に自分のそれを重ねた。
彼の手は、私より少し熱い。
それが彼がここにいるというようで私は好きだ。

14:00 パンケーキ

14:00

週に1回、二人で買い物に出掛ける。
これが習慣になると、そこまで億劫じゃなくなった。
緑の滴亭に立ち寄って軽い休憩がてらコレットが用意してくれた軽食を口に運ぶ。

「なんだ、これ?」

「パンケーキです」

「パンケーキ?パンじゃないだろ、これ」

「ヴィルヘルム!そういうものなの!
ありがとう、コレット」

「いいえ、ごゆっくり」

コレットはランに微笑むと、別のテーブルへ注文を取りに向かった。
用意された皿にはホイップクリームと果物ですっかり埋まっている。
これのどこにパンとかケーキの要素があるんだろうか。
しげしげと見つめていると、ランがそこにフォークをいれた。

「はい、ヴィルヘルム」

「え」

フォークには確かにケーキのスポンジに似たものとたっぷりのクリームと木苺が乗っていた。
それを俺に差し出し、にっこりと笑っていた。

「あーん」

「ば、ばか!お前、何やってんだよ!恥ずかしいだろ!」

「いいから、早く!あーん」

「・・・あーん」

有無を言わせないランの言動に俺は仕方なく口を開いた。
そこに入るのはさっきのフォーク。
・・・甘い。

「どう?美味しい?」

「・・・悪くはない」

「ふふ。じゃあ私もいただきます」

ランは嬉しそうにそれを口に運んだ。
その満足げな表情を見つめていると、甘いものを食べてる時って凄く幸せだと前に言っていたのを思い出した。

「うまいか?」

「うんっ!すっごい美味しい!」

「良かったな」

カップに口をつけて、コーヒーで口の中の甘味を消してやる。
俺のその姿を見て、ランはもう一口俺の分を用意するのだった。

 

 

12:00 街へデート

12:00

 

「ヴィルヘルム、買い物に付き合ってくれない?」

「ああ」

洗濯物を干し終えて、時計を見るとお昼になっていた。
今日は遅めの朝だったから昼食はまだ良いだろう。
ヴィルヘルムに声をかけて、二人で外に出た。
普段一人でも買い物に行くけど、日用品だったり、重めの食料品を買うのはヴィルヘルムと一緒の時と二人で決めた。

以前、私が色々買い込んで荷物を運んでいる時、運悪く袋の底が抜けてしまった。
その時、たまたま帰り道だったヴィルヘルムが駆け寄ってきてなかなか見ないくらいに慌てたのだ。

『お前、こんな大量に買い込むな!』

『でもまとめて買っちゃった方が楽なんだもん』

『なら今度から俺と一緒の時にしろ!そうしたら俺が持ってやれるんだから』

『え?』

『お前のその細っこい腕でこんなもん持たせられるか!!』

『・・・っ。うん』

時々、ヴィルヘルムはそうやって爆弾を落とす。
荷物が重いのが解消された事より、ヴィルヘルムなりに私を大事にしてくれることが嬉しい。

「やっぱり暑いね、今日」

「んー、そうだなぁ」

人混みが好きじゃない彼にとって街に出るのは苦痛・・・とまでは言わないが、面白くはないだろう。
日差しのせいもあって、少しだけ眉間に皺を寄せている。

「どうした?」

「え?」

「手、繋がないのか?」

隣にいる私に彼が手を出す。

「暑いから嫌かなって」

「それとこれは関係ないだろ」

照れるわけでもなく、当たり前に差し出された手に私が少し恥ずかしくなる。

「・・・もう」

きゅっと握るとヴィルヘルムは満足げに笑って、歩き始めた。
私といて、こうやって触れ合うことが当たり前になったことが私にとっては一番嬉しい事なのだ。

10:00 ようやく起床

10:00

 

腕のなかで小さな寝息を立てているぬくもりに安堵する。
ベッドの近くに置いてある時計に目をやるともうすぐ長針がてっぺんを指すところだ。
そろそろ起こさないと後で怒られる気がするので、ランの頬を軽くつねってみる。

「ラン、そろそろ起きろ」

「んっ・・・いたい、ヴィルヘルム」

「目、さめたか?」

頬から手を離すと、ランは目を数回擦ってから俺の方を振り返った。

「ん、おはよ」

「おう、おはよ」

まだ少しだけ眠そうな目をしているが、ようやくランは目を覚ました。

 

そこからの行動は早い。
着替えて、顔を洗うとキッチンにすぐ立っていた。
俺はそんなあいつを母親につき従う子どものように後ろをついて見つめていた。

「スクランブルエッグとポーチドエッグ、どっちが良い?」

「んー・・・俺、半熟なの好きじゃない」

「じゃあスクランブルエッグね」

卵をいくつかボウルに割り、手早く溶いていく。
俺はというとランのエプロンの紐をなんとなくいじりながらその姿を見ていた。
朝食が出来上がっていく様を間近で見つめてると、ランがくすりと笑った。

「そんなに真剣に見つめて、どうしたの?」

「ん、あっという間に出来ていくなぁ」

「ふふ、そう?
もう少しだから待っててね」

「おう」

それから15分も経たないで朝食はテーブルに並んだ。

「それじゃあ、いただきます」

「はい、召し上がれ」

ランが作ったスクランブルエッグを口に運ぶ。

「ん、うまい」

「良かった」

テーブルに向かい合って食事をする。
ランが嬉しそうに笑うから、人と食事をするということがこんなに幸せな事なんだって知った。

8:00 起床・・・?

ー8:00

 

目を開けるには瞼があまりにも重い。
回されている腕のぬくもりに甘えるように少し開いた目を閉じる。
私が起きているのに気付いたのか、私を抱きしめている腕が、そっと頭を撫で始めた。

「・・・おなじ匂いする」

「なにが?」

「おまえ、起きてたのか」

「まだ眠いけど・・・起きてるよ」

「ん・・・」

眠っていると思った私が起きていたのが恥ずかしかったのか、私を抱きしめる腕の力が少しだけ強くなる。
その腕に自分の手を置くと、頭を撫でていた手は私の手を握った。

「おまえ、あったかいな」

「ヴィルヘルムだってあったかいよ」

他の人とこんな風にくっついて眠ったことがないので分からないけど、
幼い頃怖い夢を見て、お母さんの布団にもぐった時のような安心感が彼の腕の中にはある。

「そろそろ起きないとだめだよね」

重い瞼を頑張って開くと、ヴィルヘルムは私の後頭部に優しく口づけた。

「今日は日曜なんだし、もう少しこのままでも良いだろ」

「ん・・・そうだね」

休みの日でも出来る限り生活リズムを崩さないようにしているんだけど、今日は眠くて駄目そうだ。
彼の言葉に素直に同意して、私は頑張って開いた目を閉じる。

「ヴィルヘルムの腕のなかって安心するね」

「・・・俺も、こうしてると安心する」

二人の間のすき間をなくすように、彼がぎゅっと抱きしめてきたことを嬉しく思いながらも私は睡魔に勝てず、眠りに落ちた。

 

いただきます(ガウェアル)

「ガウェイン!」

「おう、アル」

ようやくガウェインの姿を見つけられたことが嬉しくて、思わず名前を呼ぶ。
振り返ったガウェインは振り返って、私の方へ方向転換する。
駆け足気味だったこともあり、ガウェインにぶつかりそうになるが彼の腕に抱きとめられる。

「大丈夫か?」

「うん、ありがとう」

「ん、なんか甘い匂いするな」

少し屈んで私の髪や首筋あたりをふんふんと嗅ぐ。
それが恥ずかしくて、慌ててガウェインの顔を押し返すと、私の手にぶら下がっているものに気付いたようだ。

「うん、ガウェインと一緒に食べようと思って作ってきたの。
どうかな?」

「お、いいな!」

ガウェインも頷いてくれたので、二人並んで歩き始めた。
ちらりとガウェインの手を見るが、私の視線に全く気付かない。
わざと指を触れさせると、ガウェインは少しだけ驚いたように私をちらりと見た。

「・・・」

「・・・」

お互い相手の出方を伺うような沈黙が流れる。
手を繋ぎたいと伝えるのってなんだか恥ずかしい。
カウェインから手を繋いでくれたら嬉しいのに。
じっと彼の手を見つめてみると、押し黙っていたガウェインが軽く咳払いした。

「あ、あのよ。アル」

「うん」

「手、繋がねえか?」

そう言って下がったままだった手を私に差し出す。
顔を見ると、頬が紅潮していた。

「うん、繋ごう!」

嬉しくなって私はすぐガウェインの手を握った。
ガウェインの手はごつごつとしていて、私の手をすっぽりと隠せるくらい大きい。
ああ、男の人の手なんだなと思うと繋ぎたいと思っていたくせに急に恥ずかしくなってくる

「アルの手、小さな」

「え?」

「お前のこと、好きだなあって・・・」

「・・・っ!」

「いや、今は待て、違う!違わないけど違う!!」

ぽろりと零れた言葉に二人で顔を真っ赤にする。

「あ、うん!分かってる!大丈夫だから!」

「・・・お、おう」

「私も、ガウェインのこと好きだからね・・・」

「~っ!!だから今は!」

「あ、ごめんなさい!」

そんなやりとりを続けながら私たちはようやく庭にたどり着いて、腰を落ち着かせるのだった。

 

 

「はい、どうぞ」

「お、美味そう」

「久しぶりに作ったから美味しく出来てるか心配なんだけど」

バターをたっぷり使ったパウンドケーキ。
昔はよくエレインと作ったなぁ、と作りながら思い出していた。バスケットから一切れ取り出して、ガウェインに手渡す。

「ガウェイン、お誕生日おめでとう」

「え?」

パウンドケーキを受け取りつつ、驚いたように私を見る。

「あれ、間違ってる?」

「いや・・・合ってる。どうしてお前知って・・・」

「ランスロットに聞いたの。今日が誕生日だって。
本当はプレゼントを買いに行きたかったんだけど・・・
出掛ける時間がなくて・・・」

「いや、すっげー嬉しい!ありがとな、アル!」

そう言ってパウンドケーキを口に放り込む。
もぐもぐと咀嚼すると、ぱぁっと笑顔に変わった。

「すっげー美味い!」

「良かった!」

「ほら、アルも食べろよ」

バスケットから一切れ取り出すと、私に差し出してくれる。

「ありがとう、ガウェイン」

彼から受け取って、私も食べ始める。

「よかった、美味しく出来てる」

「アルって料理うまいよな」

「え?そうかな」

「前作ってくれたのもうまかったし・・・
お前の手料理、もっと食べてみてえなっておもう」

「嬉しい!また作るね」

「お、おう」

それからガウェインとおしゃべりをしながら穏やかな時間を過ごした。
あっという間にパウンドケーキを平らげてくれたことに私は幸せな気持ちになる。

「ご馳走さん」

「喜んでもらえてよかった」

「あ・・・あのさ」

「ん、なに?」

ガウェインの方をむくと、彼はなぜか頬を赤らめながら頬をかいていた。

「俺、今夜食べたいものあるんだけど・・・いいか?」

「え?うん、用意が間に合うものであれば」

私が頷くと、ガウェインは私の肩を引き寄せてそのまま抱き締める。
驚いて、彼を見上げようと顔を上げるとすぐ傍に彼の顔。
そして、唇が重なる。

「ん・・・っ」

唇からまるで想いが伝わるようでくらくらする。
少しの時間だろうけど、私には何分もの時間に感じた。

「アル、お前が食べたい」

小さく耳元で囁かれて、私の体温が上がる。
顔を見られるのは恥ずかしくて、私はこくりと頷くのが精一杯だった。

 

 

 

HAPPY BIRTHDAY Gawain!!

 

 

 

Happy Sunday(ヴィルラン)

「ねえ、ヴィルヘルム。これどうかな?」

久しぶりに街へ買い物。
私は彼の腕を引いて、様々なお店を巡っていた。
ヴィルヘルムは私に意見を求められる度に眉間に皺を寄せる。

「いいんじゃねえの?」

「もう、そればっかり」

「俺に女物の事聞くなよ、わかんねえよ」

困っているのも分かっている。
だけど、せっかく一緒に回っているんだから彼が気に入るようなものを身につけたいのだ。
そういう気持ちを彼に理解して欲しいというのはなかなか難しい事も分かっているけど。

「眉間に皺」

人差し指でヴィルヘルムの眉間をぐりぐりと押してやると私の手を払う。
自分で改めて眉間をほぐしてから私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

「・・・さっきの奴の方が良いとおもう」

「じゃあ、あっちにするね」

「おう」

ごめん、と謝れない代わりに私の頭を撫で回すのは癖のようなものだ。
悪いと思っている時ほど乱暴に私の頭を撫でる。
それに気付いてから、私は彼をあまり強く怒れなくなった。

「でもヴィルヘルム」

「ん?」

「あんまり髪、ぐちゃぐちゃにしないで欲しいの。
せっかく今日は髪、頑張ってセットしたのに」

「あ、悪い。道理でさわり心地良いと思った」

「・・・もう」

甘えるように彼の腕に自分のそれを絡める。
私たちの休日はいつもこんな感じだ。

 

 

 

 

 

買い物も終わり、遅めの昼食を済ませると自然と足は森へ向かっていた。
街で買い物をするのも楽しいけど、人がいない空間でゆっくりしたくなる。
人混みは息がつまる、とヴィルヘルムが以前からぼやいているのが私も森で過ごす時間が増えるようになってから分かる気がした。

「あー、やっぱり落ち着く」

「付き合ってくれてありがとう」

いつもの木陰にたどり着くと、背中を思い切り反らす。
寄り添うように隣に座り、私は膝を抱えた。

「なあ、ラン」

「なに?」

「手、出してみろ」

言われるがまま右手の平を彼に差し出すが、彼は私の髪に触れた。

「ヴィルヘルム?」

「おう、確認しただけ。ほら」

そう言って私の手の平にそっと置いた。
それは小ぶりだけど、リボンのような形に蒼い装飾が散りばめられたバレッタだった。

「どうしたの、これ」

「さっきの店でお前に似合いそうだと思ったから買った」

「だって、聞いてないよ!」

「今言っただろ」

「そうだけど!」

「なんだよ、嬉しくないのかよ」

「嬉しいに決まってるでしょ!」

いつも買い物に付き合ってくれるとき、面倒そうにしてるのに。
それなのに、私に似合うと思ってこっそり買ってくれてるなんて嬉しくないわけがない。

「ヴィルヘルムのばか」

悪態をつきながら彼に抱きついた。
そして、彼がいつも私に謝罪の言葉を口にせず撫で回すように、彼の頭を撫で回した。

「なんだよ、それ」

「・・・嬉しい、ありがとう」

「おう」

優しく私を抱き寄せてくれるから、彼の髪を優しく撫で返した。
次のデートのときは、彼のものを買おう。
そしてその時は今日もらったバレッタをつけていこう。
それを見て、ヴィルヘルムがなんていうかはその時のお楽しみ。

7~8月プレイ状況

あっという間に8月も半ばですね~。
7月~8月のプレイ状況でも書きたいと思います。
今、おやゆび姫を絶賛プレイ中なんですが違うゲームをやりたくなってきてる今日この頃・・・
8月は十三支、ロミジュリ、レンドですね!!楽しみです!

 

マーメイド・ゴシック

ずっと気になっていたのですが、ロゼ移植無双が続いてたのでもしかして発表になるかな~?と待っていたのですが、現時点ではなっていなかったのでついに購入しましたっ!!
最愛はロキです。ロキをやるために購入したようなものだったのですが、本当にツボでした。
クチが悪くて、リディアとの軽口の応酬がまず可愛い。
人魚姫モチーフなので、もっと暗い話かと思いましたがリディアが10年幽閉されていたのもあり、あまり思慮深い子じゃないんですよね。
それが物語を明るくしてると思います。悲恋チックなのを求めてる人だと「あれ?」となるかもしれないですが、リディアがああいう子でよかった!
そして一番頭おかしいのはリディアのお姉ちゃんです!笑

 

SWEET CLOWN

TAKUYOのダークファンタジー。面白かったです!
最初、柘榴が誰にも心を開かないので、恋愛するのか??と心配になりましたが、恋してましたね!!
EDにいたるまでの過程や物語のモチーフは好きなのですが、世の中なめてるの??みたいな気持ちになったので帰還EDがあまり好きじゃなかったです。
真相ルートはね・・・あの人と結ばれるENDがあっても良かったんじゃないかなと思います。
でも、結ばれないですれちがってもお互いに気づけないのも、良かったのかもしれません。

 

KLAP!

待ってました!!サンプルボイスを聞いたときからすっごい楽しみにしてました!!
奏が可愛くて可愛くて・・・調教システムは、喘ぎ声が凄い恥ずかしいです笑
でもカミル可愛いです。カミルの調教の棒読み具合、本当に可愛いです。
きっと一番人気出るのは壮介でしょうね!壮介ルート良かったです。
でも、奏と紫苑ルートは神なる君とみたいな雰囲気だったので、凄い好きです。
ゲームとしては2日もあればフルコンできるくらいなので、手軽にプレイできて面白いので是非是非!

 

VitaminR

お友達に借りてプレイしました!
カイザー可愛い、テルル可愛い、忍むささび可愛い。
動物たちみんな可愛かったですね!!
私は玲央が好きです。初恋ってずるいですよね・・・
私、初恋ものに弱いんですよね。でも、瑛太の病んで行くのも好みでした。
あの問題児を真っ当に出来るのは主人公ちゃんだけですね。
主人公ちゃんが一番可愛いのは一真ルートかな!と思います!!

夜空の花(ウンアス)

「姫様姫様!」

「何よ・・・まだ夕飯の時間じゃないでしょ?」

騒々しく、わたしの名前を呼ぶ従者を睨みつける。
疲れる、というものにあまり・・・というかほとんど縁のない魔神だけれどベッドに身体を投げ出したばかりで叩き起こされるなんて腹が立つ。私に睨まれてもにこにこと笑って、私の腕に触れる。
久しぶりに来た人間界。
ウンバラがはしゃいでいるのは分かってるし、私も楽しい。
だけど、少しは労われっつーの。

「夕食の時間はまだでしょうけど、ほら起きてくださいよー」

「えー。じゃあこのままでいいじゃない」

「む。こんなに愛する恋人がお願いしているのに聞いてくださらないんですか?」

「愛する恋人だっていうんならわたしをこのままベッドに寝かせてよ」

「・・・分かりました。姫様はそのまま動かないで構いません」

起こそうと触れていた手が離れる。
すんなり諦めてくれたことに少しだけ寂しい気持ちになりながらもわたしは目を閉じた。
が、

「ちょ、ちょっと!何すんのよ!」

「何って、姫様だけにお姫様だっこですよー!」

「はぁ!?」

ベッドに投げ出していたからだをひょいと持ち上げられる。
ウンバラが言うとおり、私は動いていないけれど恥ずかしい。

「ちょっとウンバラ!おろして!」

「いいじゃないですか、部屋には姫様と私だけですし」

「・・・っ、」

楽しそうに笑うウンバラの笑顔に思わず息を飲む。
そんな顔をされたら、もうおろしてなんていえないじゃない。
大人しくウンバラの首に腕を回し、落ちないようにするとウンバラは窓まで私を連れて行った。

「窓がどうしたの?」

「今日はこの街で年に1回ある大きなお祭りだそうですよ」

「へえ」

確かに賑わっていたな、と記憶を手繰り寄せる。
そうか、あれはいつも街が賑わっているんじゃなくてお祭りだったのか。

「それでもうすぐですね・・・」

突然、窓の外が明るくなった。

「わあ!」

夜空に色とりどりの花火が上がる。
輝いては消え、消えては輝いて・・・と勢いよく繰り返される。

「すごい!花火じゃない!」

「おや、姫様花火を知っていましたか?」

「あんた、私をなんだと思っているのよ。花火くらい知ってるわ」

見るのはこれが初めてだけど・・・
いつか聞いたことがある。
火薬で作られた玉を打ち上げると、夜空に花が舞うようで綺麗だと。

「姫様が喜んでくださってよかったです」

「・・・うん」

珍しくウンバラのそういう優しさを素直に受け入れて頷いた。

「あんた、絶対私のこと落とさないでね」

「え?それはもちろ・・・」

ウンバラの言葉が終わる前に引き寄せて唇を重ねた。
驚いて私を落とすんではないかと思ったけど、きつく抱きかかえたまま私の口付けに応えてくれた。

・・・たまにはこういうロマンチックなのも、悪くないかもしれない。

夏の約束(千こは)

空を見上げることが好きだ。
どこまでも青く広がる空は世界の広さを表しているように見えるし、雲はそんな空に浮かぶ舟のように見えるから。
ひとりだった頃の私は何度も何度も空を見上げた。
海も空みたいに青いと聞いたことがあるけれど、どこにも行くことが許されない私はただ空を見上げた。

 

 

 

 

「わあー!!千里くん!凄いです!真っ青です!」

「こはるさん、落ち着いてください」

「はい!」

私の手を強く握ってくれている千里くんに満面の笑みで頷く。
けれど、嬉しくて視線はすぐ目の前に広がる海へと戻る。数日、舟を止めての休憩で立ち寄った街でのこと。

「なんだか不思議な香りがしますね、この街」

「ああ、それは海が近いからだよ」

食料を買っていると、優しそうなおばあさんが教えてくれた。

「うみ・・・ですか?」

「お嬢さん、海を見たことがないのかい?
ここからずーっと行ったところに海があるから行ってみると良いよ」

「ありがとうございます!」

受け取った食料品を手に千里くんの元へ急いで戻って、海が近くにあることを伝えた。
すると、荷物を置いてから行ってみようと千里くんが誘ってくれた。

 

「ふふ、凄いですね!」

「波打ち際、歩きますか?」

「はい!」

靴を脱ぐと、繋いでいない手にそれぞれ持つ。
おそるおそる海へ足を入れると、飲み込むように砂へ足が埋まっていく。

「千里くん!すごいです!」

「気持ち良いですか?」

「はい!ちょっとだけくすぐったいけど、気持ち良いです!
千里くんは気持ち良いですか?」

「僕も久しぶりに海に触れたんですけど、気持ち良いです」

寄せては返す波に都度、驚いてはしゃぐ私の手を千里くんはただぎゅっと握ってくれた。

「千里くん、もし良かったら今度海で泳ぎを教えてくれませんか?」

「え?」

「舟のなかで一緒に泳ぐことはなかなか出来ないですけど、こんなに広い場所なら一緒に泳げると思うんです!」

「・・・でもここだと水着になるってことはこはるさんの水着姿を不特定多数の人に見られてしまう恐れもあるから」

「え?」

「こはるさん、僕はこうやって手を繋いで歩くことが嬉しいです」

「私も嬉しいです!」

「だから泳ぐことはまた今度考えましょう?」

「・・・千里くんは私が泳げないと思っているから一緒に泳いでくれないんですか?」

「そんな事は・・・」

「それなら今度一緒に泳いでください」

じっと見つめると、千里くんは観念したように首を小さく縦に振った。

「こはるさんはもう少しだけ僕の心配に気付いても良いと思いますけど・・・
でも、あなたが喜ぶなら・・・泳ぎましょう」

「はい!ふふ、その時が楽しみです」

足をくすぐる波に視線を落とし、それから空を仰いだ。

「千里くんと見る世界は、とってもキラキラしています」

「何か言いましたか?」

私が呟いた声が聞こえなかったらしく、不思議そうに私を見つめる千里くん。

「千里くんのことが、大好きだって言いました」

赤くなった彼に、幸せだと伝えるように私も強く手を握った。

 

 

祭りの前に(暁七)

今日はなんだかいつもより街が賑やかだ。
買い物袋をぶら下げたまま、なんとなく周囲をきょろきょろ見回すとポスターが貼ってあることに気付いた。
人を避けて、そこまで移動するとそこには大きく「夏祭り」と書いてあった。

(・・・お祭り)

幼い頃から忍として生きてきたからお祭りに行ったこともなかった。
人が大勢集まって、屋台がたくさん出る。
それくらいしか私は知らないけれど・・・

(楽しそう。暁人は好きかな)

しばらくポスターを見つめていたが、今日は遅番だったから彼の仕事が終わる時間にはきっとお祭りも終わっているだろう。
それに気付いた時は少し悲しかったけれど、来年は一緒に行ければいいな。
暁人が帰ってきたら誘ってみよう。
そんな風に考えていたら、少し楽しくなった。

 

 

 

 

「ただいま」

「おかえりなさい、暁人」

玄関の扉が開く音がして、いつもより早い帰宅に慌てて玄関まで駆けつけた。

「なにかあったの?」

「・・・なんて顔してんだよ」

暁人は少し呆れたように笑うと私の頬を優しくなでてくれた。
そのぬくもりが心地よくて、思わず目を閉じて受け入れてしまう。

「だって暁人が仕事の終わる時間じゃないのに帰ってくるなんて・・・
具合悪いの?」

「いや、ぴんぴんしてる」

「だったら・・・」

「七海、目あけろ」

「ん・・・」

暁人にうながされ、目を開けると目の前には白いふわふわした物体があった。
これがなんなのか理解できず、暁人に目で訴えると口元に寄せられる。

「食べてみろ」

「ん・・・」

口を開き、ぱくりとそれに食いつくと、口の中に甘味が広がる。
砂糖のように甘いのに、口のなかに入るとすぐ消えてしまった。
まるで魔法みたいだ。

「美味しい・・・!」

「そうか、良かった」

「どうしたの?これ」

「今日から祭りだろ?祭りのせいで客も少なかったから少し早く上がったからお前に食わせてやりたくなった」

「・・・あ、」

暁人に手渡された綿あめの棒を強く握る。
言うなら今だ。

「暁人・・・!今年はもう行けないけど、来年はお祭り・・・行こう?」

意を決して伝えると、暁人は少し驚いた顔になる。

「いや、良いけど・・・来年じゃなくて、明日行かないか?」

「え?」

「祭り、今日から始まったからさ」

「明日もあるの?」

「3日間くらいやってるはずだぞ」

「行きたい!!」

「ん、じゃあ行くか」

「うん!」

ぽんぽんと私の頭をなでる暁人に嬉しくて、抱きつきそうになるが代わりに目の前にある綿あめにかじりついた。

 

「明日が楽しみで眠れないかもしれない」

「何こどもみたいな事言ってんだよ」

そう言う暁人も明日が楽しみだというように笑っているように見えた。

うたかた(ヴィルラン)

※全力で暗いですよ!!

 

 

何もない部屋にある唯一の窓。
手を伸ばしても届かない、見せしめのような窓。
そこから俺が見る景色はひどく残酷だ。
だって何が見えたとしても俺はこの場所から囚われて、動くことが出来ないんだから。
小さくなった身体を抱き締めれば、自分が震えていることにようやく気付く。

『ヴィルヘルム・・・応えて、ヴィルヘルム』

柔らかな声が、俺を呼ぶ。
俺の名前を呼ぶその声だけが、俺がここにいる事を教えてくれる。
眠り続ければ、まだ俺は消えないのに。
それなのに、俺は俺のことを呼ぶ声を無視することが出来なかった。だってあの女の存在が、何もなかった俺の世界に、一筋の光を与えたんだから。

 

 

 

 

 

「いやああ!!」

夢を見た。
怖い夢だった。
人を、殺す夢だった。

「どうした」

溢れる涙が、頬を伝い落ち喘ぐように呼吸を繰り返した。
涙でぼやけて視界がよく見えない。
大きな手が、私を力強く抱き締める。
背中をさすられて、ようやく涙が止まった。

「ヴィルヘルム・・・ねえ、ヴィルヘルム」

「ん・・・」

「どこにも行かないで・・・!ずっと私の傍にいて」

「ああ、俺はお前の傍にいるから」

私の求めに応えるように強く強く抱き締められる。
ただ何度も何度も彼の名前を呼ぶ。
もしもあの時私が彼を起こさなかったら、私はあの時死んでいたんだろう。
だけど人を殺すことはなかっただろう。
どうして私の声に応えてしまったんだろう、この人は。
たまらなく憎らしいのに、どうしようもなく恋焦がれる。
この人に抱き締められていると、自分がここに存在していることを思い出す。
魔剣を宿した女ではなく、普通の女として。

「ヴィルヘルム・・・ねえ」

「なんだ?」

「名前を呼んで、お願いだから」

「・・・」

「どうして呼んでくれないの?ヴィルヘルム」

あなたを呼ばなければ、私は死んでいたのに。
あなたが応えたから生きているのに。
どうして、あなたは私を呼んでくれないの?

「ヴィルヘルム・・・」

止まったはずの涙がまた一筋零れた。
私を抱き締める彼の身体が透けて見えて、呼吸が苦しくなる。
もしも彼がいなくなってしまったら、私はどうなるんだろう。

「もしも貴方が、いなくなる時が来るなら」

「・・・」

「その前に、貴方の剣で私をころして」

「ああ・・・約束する」

彼が今、どんな顔をしているのかなんて分からなかった。
私はただ、ずっと傍にいたかっただけなのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開くと、そこはいつもの私の部屋だった。
自分の傍らにある剣に手を伸ばす。
彼が遺した剣は、酷く冷たかった。

夏のある日(ガウェアル)

「あっちいなぁ」

「暑いねぇ」

季節はすっかり夏になった。
いつも薄着なガウェインも気温のせいだろう、吹き出る汗にぐったりしている。
ぱたぱたと近くにある薄めの本で仰ぐと、ガウェインは気持ち良さそうな顔をする。

「涼しい?」

「おう、ありがとな。
次は俺がやってやるよ」

「え、良いよ。私が仰いでてあげる」

「いいから、俺に任せろって」

「でも」

二人で押し問答していると、近くにいたガラハットが勢いよく立ち上がり、私たちから本を奪った。

「暑苦しいから二人でどっか行ってくれば?」

「「・・・はい」」

暑さなんて微塵も感じさせない涼しげな顔をしたガラハットに叱られて、私たちは海へと足を伸ばすことにした。

 

「んー!やっぱり海に来ると涼しく感じるねー!」

「ああ、そうだな」

砂浜に立つと、思い切り伸びをする。
日差しがじりじりと感じられるが、潮の香りがする風が心地よい。

「少し、海に入るか」

「うん!」

それぞれ靴を脱ぐと、海に足を入れる。

「すっごい気持ち良い!
ガウェインも早く!」

「そんなに急かすなよ」

「だってすっごい気持ち良いよ!」

ガウェインの方を振り返って、気持ちよさのあまり顔はほころぶ。
だけど、海に入ったのにガウェインの頬は心なしか先ほどより赤くなっている気がする。

「あれ、気持ちよくない?」

「ああ・・・気持ち良いな!
アル!貝とか探そうぜ!」

「うん!」

ガウェインに手をとられ、私たちは浅いところをゆっくり歩いた。
手を繋いでいる方がきっと暑いのに。
ガウェインの手をきゅっと握り返すと、彼が驚いた顔をして振り返った。

「どうかした?」

「ん、いや」

思い返せばただ手を繋いで歩くことも、最近していなかった気がする。
私の前を歩くガウェインの背中を見つめながら、自然と微笑んでいた。

「ガラハットに感謝しないとね」

「俺も今、そう思ってた」

ガウェインの耳を見ると、赤くなっていることに気付いた。
どんな表情でそう言っているんだろうか。
そんな彼が、たまらなく愛おしい。

「えい!」

繋いでいた手を離し、そのまま彼の背中に飛びつく。

「うおっ!」

「ふふ、ガウェイン大好きだよ!」

「・・・っ!ばか、俺だってお前が好きだ!」

私に飛びつかれると、顔だけ振り返っていつかの夜みたいに愛を叫んだ。
それがまた嬉しくて、振り返った彼の頬に口付けをした。

 

そんな夏のある日。

 

大きな子ども(ヴィルラン)

「なんか良いにおいしてるな」

キッチンで夕食の支度をしていると、ヴィルヘルムは近づいてきた。
ふんふん、と犬のように匂いを嗅ぐ姿にくすりと笑ってしまう。

「今日はシチューだよ」

「肉たくさん入ってるか?」

「ちゃんと入ってるよ」

「お、やったな」

嬉しそうに笑うと、自然と後ろから私を抱きすくめるように腕を回してくる。
両手を私のおなかのあたりで落ち着かされ、私は少しそわそわしてしまう。
特別太ってるわけじゃないけど、おなかを触られるのってなんだか恥ずかしい。

「ねえ、ヴィルヘルム」

「ん?」

「その・・・おなかはちょっと恥ずかしいな」

彼の手をどかそうとやんわりと左手で押し返すが、その手は全く動こうとしない。

「じゃあどこなら良いんだよ」

「それは・・・どことはいえないけど」

こうやって抱きすくめられるのは好きだし、触れ合うことも幸せだ。
だけど、どこなら触っていいかと訪ねられるとどう答えていいか言葉に詰まる。

「ん、じゃあここなら良いだろう」

おなかの前で組まれていた手がそのまま上に移動し、私の胸に触れた。

「え!?」

「だって触ってる方がでかくなるんだろ?」

胸に移動した大きな手は優しく動き始める。
初めて触れた時は恐る恐る触れたのに。
二度目は強く触られて私に怒られて、しゅんとしていたのに。
今は優しく触れてくるんだから・・・

「ヴィルヘルムは大きい方が好きなの?」

振り返るのも、手をどかそうとするのも恥ずかしくて、私は右手に持っているお玉で鍋をかきまぜる。
左手は、ヴィルヘルムの服の裾を掴んだ。

「俺はお前の胸ならなんでもいいけど」

「・・・っ」

ああ、馬鹿みたい。
時々ヴィルヘルムは無自覚にストレートな言葉を言う。
恥ずかしさと彼が触れているという事で身体が熱くなる。

「ん、なんかお前火照ってる?」

首筋に顔を埋めて、私の熱を確認してくる。

「そんなの・・・ひゃっ!」

首筋をぺろりと舐められて、思わず声が漏れる。
慌てて彼を押しのけようと振り返ると、強く抱き締められる。

「もうちょっとだけ、触ってたい」

「・・・お肉少なくするよ?」

「・・・あと5秒」

「5秒だけだからね」

恥ずかしさを誤魔化すように彼の背中に手を回す。
ヴィルヘルムに甘えられるのも、触れられるのも好きだから拒めるわけがないのだ。

「おまえにさわってると落ち着く」

「・・・うん」

「だからさ」

何を言おうとしているのかと顔をあげると、ヴィルヘルムはお預けをくらった子どものような顔をしていた。

「肉、多めがいい」

「・・・もう」

そんな事を言うから、約束の5秒が過ぎても離れられなかった。

つかの間の休息(小ヴィルラン)

大人の姿をしたヴィルヘルムだと異性として意識してしまうことが少なからずある。
手をひかれた時、肩が触れ合った時。
隣の体温になんだか落ち着かない気持ちになってしまう自分がいる。

「なんだよ、俺様の顔になんかついてるのかよ」

「ううん。おいしい?それ」

魔剣が安定しないということからヴィルヘルムは朝目が覚めたら子どもの姿になっていたそうだ。
いつもは見上げてばかりだし、目の前で私の作ったサンドウィッチを食べてる彼はなんていうか可愛らしい。
まるで自分に弟が出来たような気分になる。

「まずくはないな!」

「そう、良かった」

そう言いながらも次から次へと彼の口に放り込まれていくそれ。
気に入ってくれたのだろう。
大人の姿で言われると刺があるように感じてしまうのに、子どもの姿だと可愛く思えるんだから不思議なものだ。

「あ、ヴィルヘルム。マヨネーズついてる」

唇の端についているマヨネーズに手を伸ばし、それをすくいとる。
マヨネーズのついた指をぺろりと舐めるとヴィルヘルムは驚いた顔をしてした。

「どうかしたの?」

「・・・おまえ、ばかじゃねえの!」

髪の毛ほどではないが、頬を赤く染めたヴィルヘルムは不機嫌そうな顔をして残りのサンドウィッチを平らげた。
私はそんな彼を頬杖をつきつつ、そのまま見つめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

食べ終わると、私たちはなんとなくぶらぶらと歩いた。
私の数歩先を歩く彼の背中に声をかける。

「ねえ、ヴィルヘルム」

「ん?」

「触ってもいい?」

「は?!」

私の言葉に驚いたのか、ヴィルヘルムは勢いよく振り返った。

「大人の姿のヴィルヘルムはなんていうか触れることはあっても初めて出会ったその姿のヴィルヘルムには触れてないから」

「・・・さっき触っただろ」

「え?」

「なんでもねえ!!
好きにすればいいだろ!」

「うん、ありがとう」

そうして私はヴィルヘルムの手を取った。
繋いだ手は少し冷たかった。
けど、ようやく触れられたことに気持ちは穏やかだ。

「ヴィルヘルムの手、思っていたより冷たいね」

「なんだよそれ」

「それに・・・思ってたより大きいかも」

「だからなんだよ、それ」

「ふふ、なんだろうね」

「俺様を子ども扱いしてんじゃねえよ」

悪態をつきながら繋いだ手を離そうとしないヴィルヘルムに、私は小さな幸せを感じていた。
つかの間の穏やかな時間。
大人の姿になったら、また誰かと喧嘩してしまうかもしれない。
魔剣の力に飲まれそうになってしまうかもしれない。
そんな不安はあるけれど、私はどんな形でも良いからこの人の隣にいたいんだとぼんやりと考えていた。

 

 

このままずっと(寅撫)

久しぶりにいつものメンバーが揃った。
小学生の頃、はみ出し者同士の寄せ集めだった俺たちは今もこうしてたまに顔を合わせる。
そう・・・あの、タイムカプセルを開けてから定期的に集まるようになったのだ。
それまでは撫子とは一緒にいる事が多かったが、それ以外は終夜とたまに会うくらいだった。
あの頃の俺が、今の俺を見たらどう想うんだろうか。
群れることは今でも好きじゃない。
だけど、こいつらとたまに会うのは悪くない。
ビールを飲み干して、なんとなく周りにいる奴の顔を見ていると隣にいた撫子が気付けば俺に寄りかかっていた。
レポートだなんだ、と忙しく日々追われているからだろう。
疲れを見せないようにしていたが、アルコールが入って気が緩んだのだろう。
右側に感じる体温に、気付けば笑みを零していた。

「それにしても・・・トラさんと撫子さんも長いですよね」

「そうだよねー!中学校の頃からだっけ?」

「んだよ」

英兄弟がそんな俺たちを見て、そんな言葉を投げてくる。
すっかり酔っ払っている加納は泣きそうな声でわめいているが、いつものことなので気にしない。海棠は・・・まぁ、加納と似たようなものだし、終夜は机に突っ伏して眠っている。

「不良少年とお嬢様!うんうん、なんだかにやにやしちゃうねー」

「うるせーぞ、英兄」

「トラさん、央が空気を読めず言葉を発するのは小さい頃からのことですので気にしないでください。
ただのやっかみです」

「え?円、お兄ちゃん泣いちゃうよ・・・
でもさ、二人はお似合いだと思うよ、俺」

空になったビールジョッキを見て、もう一杯注文しようかどうか悩む。
隣の体温をちらりと見ると、気持ち良さそうに眠っている。
門限までは時間あるけど、そろそろ送っていっても良いだろう

「トラくん、撫子ちゃんといると優しい顔するもんね」

「何言ってんだよ・・・
これ、俺と撫子の分。先に帰るわ」

「うん、了解」

二人分の代金をテーブルに置き、撫子の左腕をとる。
ぼんやりとした顔で俺を見てくる撫子の頬をゆるく撫でてやると嬉しそうに笑った。

「またね、トラくん。撫子ちゃん」

「ちゃんと家に送ってあげてくださいね、トラさん」

「ああ、じゃあな」

それぞれに軽く挨拶を交わすと、俺と撫子は店の外へ出た。

 

 

いつも通る並木道。
撫子はまだ酒が抜けないのだろう。
火照りが繋いだままの手のひらから伝わってくる。

「おい、撫子・・・」

「なあに?とら」

「お前、酔ってるだろ」

「よってない」

いつもより舌足らずな口調で何を言ってるんだろうか。
昔からしっかりした気の強い女だった。
だから酒の力といえど、こんな風な姿を見るのはなかなか貴重だ。が・・・他の連中にも見られるというのは面白くない。

「お前今度から酒は一杯な」

「えー、どうして?とらはたくさんのんでるじゃない」

「俺は酔わないから良いんだよ」

「でも・・・」

繋いでいる手を強く引き寄せると、撫子の耳朶を口に含む。
突然のことに驚いたのか、離れようとするのを空いてる手で阻む。
首筋に痕が残らない程度に歯を立てると、びくりと身体が強張った。

「分かったか?」

こくこくと頷く撫子の頭をぽんぽんとなでると、再び歩き出す。

 

「とら」

「ん?」

「とらの手、あたたかいわ」

「お前の手もな」

 

空を仰ぐと、月が笑っているようにみえた。

遅めの朝(ヴィルラン)

休みの朝はいつもより起きる時間が遅くなる。
夕べの名残もあって、私はぼんやりとベッドのなかで丸くなる。

「ラン」

背後から聞こえた声に、私は振り向かないで目を閉じる。
ヴィルヘルムの腕が私を抱き寄せるように私を胸のなかにおさめた。
まるでコアラの親子のようだ。

「・・・ラン」

返事をしない私を心配したのか、小さな声でもう一度私を呼ぶ。

「なに?」

「・・・腹減った」

彼のおなかに手を伸ばし、そっとなでる。
シャツの上からでも充分に分かる筋肉のついたお腹が、心なしかへこんでいるように思えた。

「じゃあ朝ごはん、用意するよ」

「おう」

そう言いながらもヴィルヘルムは私を腕から解放しようとしない。

「離さないと、ご飯できないよ?」

「分かってる」

拘束を緩めるどころか、少しきつく私を抱き締める。

「だけど・・・もうちょっとだけこうしてたい」

珍しく甘えるように言う彼に、愛おしさを覚えた。
カーテンの隙間から差し込む光が、もう起きる時間だと告げているけれど私はもう一度目を閉じた。

「もう少しだけだからね」

いつもより遅めの朝。
彼の腕のなかは幸せだ。

弱音(夏深)

朝起きた時から身体がだるいとは思っていた。
けれど、最近忙しかったから疲れがたまっているんだろうくらいにしか思っていなかった。

「具合はどうだ?深琴」

「夏彦・・・ごめんなさい、心配かけて」

朝ごはんの支度をしているときにそのまま倒れてしまった。
大きな音を聞きつけて、夏彦が私のもとへ飛んできてくれたらしくすぐ身体を持ち上げられてベッドに寝かされた。
夏彦のご飯の支度さえ終わっていなかったのに、申し訳なくて涙が滲む

「お前のことを心配するのは当然だろう。
それくらい・・・させてくれ」

私の目尻を指でそっと拭うと、もう片方の手で頭を優しくなでてくれた。

「少し眠れ。ついててやるから」

「うん・・・ありがとう、夏彦」

頭を撫でていた手が移動し、私の左手をきゅっと握ってくれる。
そのぬくもりに安心して、私は目蓋を閉じた。

 

 

 

どれくらい時間が経ったんだろうか。
何度かまばたきをすると、手にあった夏彦のぬくもりは消えていた。
それに少し寂しさを感じながらもぼんやりと天井を見つめた。

「ぴーぴぴ?」

「え?」

声のする方に顔を向けると白いひよこがどこか心配げな表情で私を見つめているように見えた。

「ぴーぴぴ?(具合はもう大丈夫そうですか?)」

「ええ、大丈夫みたい。あなたも心配してくれたのね、ありがとう」

手を伸ばして、ひよこをなでる。
そんな私に安心したのか、ひよこが言葉を続ける。

「ぴぴぴーぴぴ(夏彦さんが心配していましたよ。あなたが体調崩すことになってしまって)」

「夏彦が・・・、私と一緒にいるためにも頑張ってくれているんだから私も頑張らないとって思っていたの。
昔から甘えるのとか、人に頼るのが得意じゃなくて。
限界が来てもまだ私なら出来るし、そうやって乗り越えてきたんだけどね」

私にしか出来ないことだから。
人を守る事は、私だけにしか出来ない。
そう思って私はただひたすら走ってきた。
その役目から解放されて、私は頑張る夏彦の隣にいる事しか出来なくなった。
少しでも夏彦を支えたいと思うあまり、こんな結果になってしまうなら意味がないのに。

「ぴぴ・・・(深琴さん・・・)」

「夏彦に愛想尽かされちゃうかな」

体調を崩すと、人はネガティブ思考になってしまうものなんだろうか。
黒いインクをぽたり、と垂らしたみたいに広がる不快な想い。
私、何をしてるんだろう・・・

ぼんやりと考えていると、部屋のドアが開いた。

「深琴、おきたか?」

「夏彦・・・ええ、もう大丈夫よ」

「まだ顔色が悪い。無理をするな。
少し腹にものをいれろ」

そう言って夏彦は盛ってきたお盆をテーブルの上に置くと、私の身体を起こしてくれた。

「・・・夏彦?」

「ん?」

「あの・・・それ」

夏彦が用意してくれたおかゆは煮えたぎっているのか、火からおろして幾分か時間が経っているにも関わらずグツグツと大きな音を立てていた。

「気持ちは嬉しいんだけど・・・もう少ししたらいただくわ」

「・・・そうか」

さすがに煮えたぎったおかゆを食べる根性は残っていなかった。
少し悲しそうな夏彦に申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになる。

「夏彦・・・」

「深琴、」

何かを言おうとして、口を開いたのに何も言えない私を夏彦は優しく抱き締めた。

「お前のペースでいい。
お前がそういう女だってこと、分かっているから。
何もいえなくても、俺の手を握ればいい」

いつもより優しい声色で、夏彦がそんな事を言うから。
迂闊にも、涙が零れ落ちた。
私がこの人の弱さを愛したように、この人も私の弱さを愛してくれているんだ、と今更気付いた。

 

 

 

 

 

ひとしきり泣いた後、ようやく食べられるようになったおかゆをいただいていた。

「でも夏彦」

「ん?」

「どうして私が悩んでいること、分かったの?」

「・・・」

曖昧に笑う夏彦に私は首をかしげるだけだった。