「姫様姫様!」
「何よ・・・まだ夕飯の時間じゃないでしょ?」
騒々しく、わたしの名前を呼ぶ従者を睨みつける。
疲れる、というものにあまり・・・というかほとんど縁のない魔神だけれどベッドに身体を投げ出したばかりで叩き起こされるなんて腹が立つ。私に睨まれてもにこにこと笑って、私の腕に触れる。
久しぶりに来た人間界。
ウンバラがはしゃいでいるのは分かってるし、私も楽しい。
だけど、少しは労われっつーの。
「夕食の時間はまだでしょうけど、ほら起きてくださいよー」
「えー。じゃあこのままでいいじゃない」
「む。こんなに愛する恋人がお願いしているのに聞いてくださらないんですか?」
「愛する恋人だっていうんならわたしをこのままベッドに寝かせてよ」
「・・・分かりました。姫様はそのまま動かないで構いません」
起こそうと触れていた手が離れる。
すんなり諦めてくれたことに少しだけ寂しい気持ちになりながらもわたしは目を閉じた。
が、
「ちょ、ちょっと!何すんのよ!」
「何って、姫様だけにお姫様だっこですよー!」
「はぁ!?」
ベッドに投げ出していたからだをひょいと持ち上げられる。
ウンバラが言うとおり、私は動いていないけれど恥ずかしい。
「ちょっとウンバラ!おろして!」
「いいじゃないですか、部屋には姫様と私だけですし」
「・・・っ、」
楽しそうに笑うウンバラの笑顔に思わず息を飲む。
そんな顔をされたら、もうおろしてなんていえないじゃない。
大人しくウンバラの首に腕を回し、落ちないようにするとウンバラは窓まで私を連れて行った。
「窓がどうしたの?」
「今日はこの街で年に1回ある大きなお祭りだそうですよ」
「へえ」
確かに賑わっていたな、と記憶を手繰り寄せる。
そうか、あれはいつも街が賑わっているんじゃなくてお祭りだったのか。
「それでもうすぐですね・・・」
突然、窓の外が明るくなった。
「わあ!」
夜空に色とりどりの花火が上がる。
輝いては消え、消えては輝いて・・・と勢いよく繰り返される。
「すごい!花火じゃない!」
「おや、姫様花火を知っていましたか?」
「あんた、私をなんだと思っているのよ。花火くらい知ってるわ」
見るのはこれが初めてだけど・・・
いつか聞いたことがある。
火薬で作られた玉を打ち上げると、夜空に花が舞うようで綺麗だと。
「姫様が喜んでくださってよかったです」
「・・・うん」
珍しくウンバラのそういう優しさを素直に受け入れて頷いた。
「あんた、絶対私のこと落とさないでね」
「え?それはもちろ・・・」
ウンバラの言葉が終わる前に引き寄せて唇を重ねた。
驚いて私を落とすんではないかと思ったけど、きつく抱きかかえたまま私の口付けに応えてくれた。
・・・たまにはこういうロマンチックなのも、悪くないかもしれない。