「ナチの帽子、可愛いですね」
「え?」
夕食の片付けをしていると、最近はフウちゃんが手伝ってくれることが増えた。
最初は自分の仕事だからと断っていたが、少しでも一緒の時間を作りたいとフウちゃんが言ってくれたのでその言葉に甘えることにした。
・・・自分だってフウちゃんと少しでも長く一緒にいたいんだから断れるわけがない。
そんな日常が続いたある日のこと。
フウちゃんが自分の帽子をまじまじと見つめて、冒頭の台詞に至る。
「ナチのてふてふもお揃いですよね」
「ああ、そうっすね」
食器を洗い終え、二人で乾いたタオルで拭いていく。
フウちゃんの手つきはとても丁寧で、例えばドアを開くときやカップをソーサーに置くとき、そういう時も丁寧に触れているのがわかる。
彼女が自分に触れるときもあんなふうに丁寧に触れてくれているんだろうと思うと、頬が熱くなる。
照れを誤魔化すように自分の帽子を外して、彼女の頭にぽふっと乗せる。
「フウちゃんも似合うっす」
「・・・っ、そうですか?」
驚いたように、乗せられた帽子を押さえる。
お世辞じゃなくて、本当に・・・可愛い。
恥ずかしそうにしながらも、嬉しさを隠し切れないように微笑むフウちゃんは可愛かった。火照った頬を誤魔化すために、彼女に帽子をかぶせてみたのに逆効果だ。
「ナチ、照れてますか?」
「・・・黙秘するっす」
「ふふ、顔が赤いです」
誤魔化すように残りの皿を拭こうとすると、フウちゃんがからかうように顔を覗きこんできた。
たまに余裕な表情を見せるフウちゃんに意地悪したくなる。
帽子を彼女から外し、横から見えないように帽子で覆うとフウちゃんの唇を奪う。
一気に形勢逆転し、フウちゃんの頬は紅潮する。
自分の頬が火照るのはもういい。フウちゃんとの短いキスを楽しむだけだ。
「・・・っ、ん」
唇を離し、帽子を再びフウちゃんの頭にかぶせる。
慌てるように帽子を両手でおさえながら上目遣いに自分を見てくる。
「そういう仕草も、可愛いっす」
「・・・知らないです」
「機嫌損ねちゃったんすか?」
「・・・さあ」
ふい、と顔をそむけながらもフウちゃんは右手で自分の服の裾をきゅっと握ってきた。
何をしても可愛く思えるのは惚れた弱みなんだろうか。
いや、彼女は可愛いからしょうがないだろう。
うんうん、と心の中で頷くと服の裾をきゅっと握るその手を包み込んだ。
「この片付けが終わったら、自分の部屋でお茶でもしませんか?」
「・・・」
「ホットケーキも作るっす」
「・・・もう、しょうがないですね」
どんなフウちゃんも自分にとっては可愛いけれど、やっぱり笑っているフウちゃんが一番可愛い。
そんな事を思いながら、微笑み返した。