今日はなんだかいつもより街が賑やかだ。
買い物袋をぶら下げたまま、なんとなく周囲をきょろきょろ見回すとポスターが貼ってあることに気付いた。
人を避けて、そこまで移動するとそこには大きく「夏祭り」と書いてあった。
(・・・お祭り)
幼い頃から忍として生きてきたからお祭りに行ったこともなかった。
人が大勢集まって、屋台がたくさん出る。
それくらいしか私は知らないけれど・・・
(楽しそう。暁人は好きかな)
しばらくポスターを見つめていたが、今日は遅番だったから彼の仕事が終わる時間にはきっとお祭りも終わっているだろう。
それに気付いた時は少し悲しかったけれど、来年は一緒に行ければいいな。
暁人が帰ってきたら誘ってみよう。
そんな風に考えていたら、少し楽しくなった。
◇
「ただいま」
「おかえりなさい、暁人」
玄関の扉が開く音がして、いつもより早い帰宅に慌てて玄関まで駆けつけた。
「なにかあったの?」
「・・・なんて顔してんだよ」
暁人は少し呆れたように笑うと私の頬を優しくなでてくれた。
そのぬくもりが心地よくて、思わず目を閉じて受け入れてしまう。
「だって暁人が仕事の終わる時間じゃないのに帰ってくるなんて・・・
具合悪いの?」
「いや、ぴんぴんしてる」
「だったら・・・」
「七海、目あけろ」
「ん・・・」
暁人にうながされ、目を開けると目の前には白いふわふわした物体があった。
これがなんなのか理解できず、暁人に目で訴えると口元に寄せられる。
「食べてみろ」
「ん・・・」
口を開き、ぱくりとそれに食いつくと、口の中に甘味が広がる。
砂糖のように甘いのに、口のなかに入るとすぐ消えてしまった。
まるで魔法みたいだ。
「美味しい・・・!」
「そうか、良かった」
「どうしたの?これ」
「今日から祭りだろ?祭りのせいで客も少なかったから少し早く上がったからお前に食わせてやりたくなった」
「・・・あ、」
暁人に手渡された綿あめの棒を強く握る。
言うなら今だ。
「暁人・・・!今年はもう行けないけど、来年はお祭り・・・行こう?」
意を決して伝えると、暁人は少し驚いた顔になる。
「いや、良いけど・・・来年じゃなくて、明日行かないか?」
「え?」
「祭り、今日から始まったからさ」
「明日もあるの?」
「3日間くらいやってるはずだぞ」
「行きたい!!」
「ん、じゃあ行くか」
「うん!」
ぽんぽんと私の頭をなでる暁人に嬉しくて、抱きつきそうになるが代わりに目の前にある綿あめにかじりついた。
「明日が楽しみで眠れないかもしれない」
「何こどもみたいな事言ってんだよ」
そう言う暁人も明日が楽しみだというように笑っているように見えた。