うたかた(ヴィルラン)

※全力で暗いですよ!!

 

 

何もない部屋にある唯一の窓。
手を伸ばしても届かない、見せしめのような窓。
そこから俺が見る景色はひどく残酷だ。
だって何が見えたとしても俺はこの場所から囚われて、動くことが出来ないんだから。
小さくなった身体を抱き締めれば、自分が震えていることにようやく気付く。

『ヴィルヘルム・・・応えて、ヴィルヘルム』

柔らかな声が、俺を呼ぶ。
俺の名前を呼ぶその声だけが、俺がここにいる事を教えてくれる。
眠り続ければ、まだ俺は消えないのに。
それなのに、俺は俺のことを呼ぶ声を無視することが出来なかった。だってあの女の存在が、何もなかった俺の世界に、一筋の光を与えたんだから。

 

 

 

 

 

「いやああ!!」

夢を見た。
怖い夢だった。
人を、殺す夢だった。

「どうした」

溢れる涙が、頬を伝い落ち喘ぐように呼吸を繰り返した。
涙でぼやけて視界がよく見えない。
大きな手が、私を力強く抱き締める。
背中をさすられて、ようやく涙が止まった。

「ヴィルヘルム・・・ねえ、ヴィルヘルム」

「ん・・・」

「どこにも行かないで・・・!ずっと私の傍にいて」

「ああ、俺はお前の傍にいるから」

私の求めに応えるように強く強く抱き締められる。
ただ何度も何度も彼の名前を呼ぶ。
もしもあの時私が彼を起こさなかったら、私はあの時死んでいたんだろう。
だけど人を殺すことはなかっただろう。
どうして私の声に応えてしまったんだろう、この人は。
たまらなく憎らしいのに、どうしようもなく恋焦がれる。
この人に抱き締められていると、自分がここに存在していることを思い出す。
魔剣を宿した女ではなく、普通の女として。

「ヴィルヘルム・・・ねえ」

「なんだ?」

「名前を呼んで、お願いだから」

「・・・」

「どうして呼んでくれないの?ヴィルヘルム」

あなたを呼ばなければ、私は死んでいたのに。
あなたが応えたから生きているのに。
どうして、あなたは私を呼んでくれないの?

「ヴィルヘルム・・・」

止まったはずの涙がまた一筋零れた。
私を抱き締める彼の身体が透けて見えて、呼吸が苦しくなる。
もしも彼がいなくなってしまったら、私はどうなるんだろう。

「もしも貴方が、いなくなる時が来るなら」

「・・・」

「その前に、貴方の剣で私をころして」

「ああ・・・約束する」

彼が今、どんな顔をしているのかなんて分からなかった。
私はただ、ずっと傍にいたかっただけなのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を開くと、そこはいつもの私の部屋だった。
自分の傍らにある剣に手を伸ばす。
彼が遺した剣は、酷く冷たかった。

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