※オリジナルキャラとして二人の子どもが出てきます。苦手なかたは閲覧をご遠慮ください※
子どもの成長というのは本当にあっという間で、子どもたちはすくすくと成長し、4歳になった。
昔、お母さんが言っていた「子育てなんてあっという間よ」という言葉を思い出してはその通りだな、と頷いてしまう。
夕食を終えて、後片付けをしながら子どもたちと遊ぶヴィルヘルムを見て思わず笑みが零れた。
(・・・すっかりお父さんの顔してる)
子どもたちの成長を見るのと同じくらい、お父さんなヴィルヘルムを見ることが好きだ。
たまに子どもと同じ次元で言い争うことはあっても、やっぱり父親だ。
「ねえねえお父さん」
「ん?どうした?」
ロニはお母さん子で、ヴィオレッタはお父さん子だ。
幼い頃の私に似ていると評判のヴィオレッタがヴィルヘルムに懐いているのを見ると、なんだか胸の奥が熱くなる。
ロニもユリアナに言わせると「ヴィルヘルムが小さくなった感じね!」といわれたので、ヴィルヘルムも同じような気持ちだったりするのかもしれない。
そんな穏やかな気持ちで父娘のやりとりを見つめていた。
「今日、いっしょにおふろ入ってほしいの」
「え?」
「・・・」
多分、私とヴィルヘルムの空気だけ固まった。
結婚してからいつもというわけではないが、度々一緒に入浴していたが、私が妊娠したのをきっかけに毎日一緒に入ることが日課になった。
それは今も変わらなくて、今は子どもたちを先にお風呂に入れてやると最後に私とヴィルヘルムが一緒に入る。
「たまにはお父さんといっしょに入りたいの。だめ?」
「・・・いや、駄目というか」
愛娘からのお願いにヴィルヘルムは困ったように視線をさ迷わせる。
ヴィオレッタだってたまに父親とお風呂に入りたいのだろう。
私も子どものころ、そういう時期があったから気持ちは分かる。
「・・・いや、やっぱり駄目だ。
悪いな、ヴィオレッタ」
「・・・うん、わかった」
ヴィオレッタは本当にワガママを言わない子で、今もヴィルヘルムの言葉に素直に頷いた。
が、傍から見てもヴィオレッタはとってもしょんぼりしている。
その姿が見ていられなくて、思わず口を開いた。
「ヴィルヘルム、一緒に入ってあげればいいじゃない」
「だって風呂はお前と一緒に入る約束だろ」
「・・・っ!」
何を言ってるんだ、と言わんばかりにヴィルヘルムが私を呆れたように見つめてきた。
ヴィルヘルムはどうみてもヴィオレッタを溺愛している。
ロニのことも可愛がっているけれど、口喧嘩は絶えないが、
おっとりとしたヴィオレッタが懐いてくるのが可愛くて仕方がないといつも表情がいっている。
子どもに張り合っているわけじゃないけど、ヴィルヘルムが私との約束を優先してくれたことが嬉しくて言葉に詰まる。
「ヴィルヘルムばっかりズルイ!オレだって母ちゃんと風呂はいりたい!」
「何言ってんだよ!いっつもランに風呂いれてもらってるだろ!」
「オレだって母ちゃんのせなか流したり一緒にお湯にはいりたいのにヴィルヘルムばっかりズルイ!
ちょっとオレたちよりながいきしてるからっておーぼーだ!」
「んだと!悔しかったら俺より長生きしろ!!」
論点がずれている気がする。
ヴィルヘルムとロニが言い合っているのを見て、本当に大人気ないんだから・・・とくすりと笑ってしまう。
「じゃあ、今日はヴィオレッタと二人で入ろうかな」
「え?本当?」
「うん、本当だよ。だからヴィルヘルムがロニと一緒に入ってね」
「「えっ」」
ヴィオレッタが嬉しそうに駆け出してきて、私の足に抱きついた。
「うれしい!お母さんとも入りたかったの!」
「ふふ、良かった。それじゃ、入ろっか」
「お、おい!ラン!」
「ヴィオレッタずるいぞ!」
慌てる我が家の男性陣をみて、二人で微笑む。
「明日はロニと入るから、ヴィオレッタはヴィルヘルムと入ろうね」
「うん!」
その後、それぞれ入浴を済ませた。
ヴィルヘルムとロニも騒ぎながらも楽しそうに入っていたから、たまにはこういうのもいいかもしれない。
「お前は俺と入れなくてもいいんだな」
その日の晩。
すっかり拗ねたヴィルヘルムの頭を乾かしていると、そんな事を言い出した。
「ヴィルヘルムだってロニと楽しそうにしてたじゃない」
「そりゃそうだろ。でも、俺はお前との約束を・・・」
「子どもたちが大きくなったら一緒に入れなくなるんだから今の内だよ」
「・・・俺はそういうことを言ってるんじゃなくてだな。お前が薄情だと・・・」
「・・・」
子どものように拗ねる彼を可愛いな、と思うけれど薄情という言葉は心外だ。
思わず黙り込むと、ヴィルヘルムは振り返って私の顔を見た。
「・・・怒ったか?」
「・・・怒ってないけど」
「いや、口調が怒ってるだろ」
「怒ってないよ」
「・・・悪い、言いすぎた」
「怒ってません」
「・・・だから!」
怒ってないと繰り返す私に困り果てたのか、ヴィルヘルムは立ち上がって私を抱き締めた。
お風呂上りの彼の身体はいつもより体温が高かった。
「・・・ごめん、機嫌直してくれ」
「だから怒ってません」
「・・・ラン」
ご主人様に叱られた犬のようにしょんぼりするヴィルヘルムに、私は堪えきれなくなって噴出した。
「・・・おまえ」
「ふふ、ごめんね。あさっては一緒に入ろうね」
「・・・はぁ、そうだな」
ぽんぽんとあやすように私の背中を叩く。
子どもたちがいても恋人気分が抜けないのは、ヴィルヘルムのこういう部分のおかげなんだろうな。
甘えるように胸に頬を押し当てると、少しだけ恋人のときの気分へと戻るのだった。