ふたりのみぞ知る(真京)

「季節は夏。
夏といえば、涼しくなりたい。
涼しくなりたいといえば怪談といいますよね」

なんてことを皐月さんが突然言い出した。
夕食も終わり、真之介が淹れてくれた紅茶を飲みながら一息ついていたところだった

「・・・皐月さん、何を突然」

「お嬢様、夏の風物詩を満喫しないで日本人といえますか?
否、いえませんよね!」

「毎年、そんな事をしないでも夏は満喫できているわ」

「ちっちっちっ。お嬢様、甘いです。
これはフラグですよ、フラグ」

「・・・折ってもいいのかしら」

ため息とまではいわないが、なんともいえない気持ちになってふぅっと息を漏らした。
・・・でも怪談ってどういうことを話すのかしら。
少しだけ興味が湧いてしまった。

「皐月さん、怪談っていうのはどんなお話をするの?」

「お、お嬢様・・・!そんなことを興味本位でいっちゃあ・・・」

「ふふ、仕方がありませんね。それでは私の選りすぐり100選を」

「それはちょっと多いわ」

好奇心は猫をも殺すとはよく言ったものだ。
私は自分のその選択をすぐさま後悔することとなった。

 

 

 

 

 

「し、しんのすけ・・・」

「だから言ったのに」

怪談というのはとんでもないものだった。
私が予想していたのはお皿を数えて一枚足りないとかそういう話だったのに。

「・・・人間の口からあんなスプラッタ音がするなんて思わなかったわ」

「はは、あれは凄かったですね」

臨場感を出そうと皐月さんが嬉々として話すことは全て恐ろしかった。
話が終わった今も、ドアを開けたらその先には得体の知れないものが佇んでいるんじゃないかと思うくらい。
怖くて自分の部屋なのに、一人でいることが出来なくて真之介の手をずっと握っていた。

「・・・真之介、お願いがあるの」

「そ、そんな可愛い顔で見つめないでください。心臓に悪いです」

懇願するようにじっと彼を見つめると、照れたらしく私から視線を外す。

「怖くて眠れないの・・・一緒に寝てもらえないかしら」

「それは、・・・それはもう、色々とまずいような」

「問題なんてないわ。だって真之介は・・・その、恋人ですもの」

お父様も今日は仕事で帰られないから問題ない。
皐月さんは・・・この際忘れよう。

「・・・分かりました。僕も男です。覚悟を決めます」

「・・・覚悟?」

「京子がおばけと戦うように僕も理性と戦いましょう」

「やめて、私はおばけと戦ってないわ」

「そうでしたね、おばけじゃなくてどっちかといえばゾ・・・」

「やめて」

「いたたたた!」

思い出させるようなことを言うなという気持ちから握っていた手を目一杯握る。

「分かりました。京子が眠るまで、こうして傍にいますから」

私をベッドに寝かしつけると、手を握りなおして、私を眠らせようと胸元を優しく叩く。

「・・・一緒に眠ってはくれないの?」

「・・・それをすると僕は戦いに負けてしまいます」

「私がお願いしているのに?」

「・・・それは色々とずるいよ、京子」

困ったように笑うと、私の頬にキスを落とした。
それだけじゃ恐怖も不安も消えない・・・と思ってしまうのはいけないこと?
真之介の腕を強く引っ張り、ベッドに引きずり込もうとする。

「・・・っ、」

「お願い、真之介」

「もう降参・・・」

私の懇願に応えるように真之介は私の上に覆いかぶさるような体勢になる。
ドキドキしながら、私は彼からのキスを受け入れー

 

 

 

 

 

 

 

「さて、真之介さんは理性に勝てたのか・・・
ふふ、知りたいですか?
それはですね・・・」

「皐月さん!!」

それは私と真之介だけが知っていて良い事・・・ということで。

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