「チャンス、ありがとう」
いつものようにチャンスと一緒に夕食の準備をする。
下ごしらえがある程度終わり、後は姉さんたちが帰ってきて仕上げるだけで充分。隣で手伝ってくれていたチャンスに御礼を言うと、作業から解放されたチャンスは私を後ろから抱き締めてきた。
「ちょっと、チャンス!」
「いいじゃないか。お姉さんたち帰って来るまでまだ時間あるだろ?」
「こんなところで危ないわ」
「・・・」
「黙っても駄目よ」
「ちえー、お堅いんだから」
抱き締めてきた手をぺしっと叩くと、しぶしぶ彼は手をどけた。
「お茶いれるから一息つきましょ?」
「うん、ありがとう」
チャンスがいつも座る私の隣の椅子に腰掛けると、伸びをするようにテーブルに突っ伏す。
その動作がまるで犬のようでくすりと笑ってしまう。
(トカゲなのにね・・・かわいい)
彼の背後に立って両手で彼の肩周りに触れる。
「ちょっと、あなた凄い肩こってるじゃない!」
「え?そうかな」
「大人しくしててよ」
「えっ、うぉっ・・・!」
「気持ちいい?」
「ん・・・っ、よくわかんない」
たまに仕事で疲れた姉さんの肩をもんであげることもあるけれど、男性と女性の身体のつくりが違うからといってもチャンスの肩の凝りは今まで経験したこともない。
少しずつ力を込めて、彼の肩をもんでいくがなかなか解れそうにない。
「ん・・・っぅ」
「ちょっと変な声出さないで」
「だってさ・・・こう、」
痛いような気持ち良いような・・・といつも姉さんも言うけれどチャンスもそうなんだろう
眉間に皺を寄せて堪えるような表情で私を見上げる。
その表情は・・・ベッドの上で見るような表情で思わず顔に熱が集まる。
「あんたが触れてるっていうだけで熱い」
「・・・そんな事言わないで」
今は家に二人きり。
時計をもう一度ちらりと見ると、やっぱりまだ時間はある。
チャンスの瞳に熱が宿ったような気がした。
肩に触れている私の手を引き寄せながら身体の向きを変える。
屈むような体勢になりながらも、チャンスからの口付けを受け取る。
ついばむような口付けから、吐息が漏れるような口付けに変わったのはあっという間のことだ。
「・・・っはぁ」
「なあ、オデット」
甘えるような声色で囁く。
「気持ちいいことなら、こっちの方が良いな」
腰をなでる手と、すっかり欲情した瞳に捕らえられる。
「・・・もう」
彼の頭を抱えるようにして抱き締める。
これを了承と取るか・・・いや、私の返事なんて分かりきっているだろう。
大人しく彼に抱きかかえられながら恥ずかしくて目を開けられなかった。
この甘ったるい空気が、恋人なんだと思うとやっぱり恥ずかしい・・・けど、嬉しそうな顔をするチャンスを見るとなし崩しも悪くないかも、とガラじゃないことを思った。