大人の姿をしたヴィルヘルムだと異性として意識してしまうことが少なからずある。
手をひかれた時、肩が触れ合った時。
隣の体温になんだか落ち着かない気持ちになってしまう自分がいる。
「なんだよ、俺様の顔になんかついてるのかよ」
「ううん。おいしい?それ」
魔剣が安定しないということからヴィルヘルムは朝目が覚めたら子どもの姿になっていたそうだ。
いつもは見上げてばかりだし、目の前で私の作ったサンドウィッチを食べてる彼はなんていうか可愛らしい。
まるで自分に弟が出来たような気分になる。
「まずくはないな!」
「そう、良かった」
そう言いながらも次から次へと彼の口に放り込まれていくそれ。
気に入ってくれたのだろう。
大人の姿で言われると刺があるように感じてしまうのに、子どもの姿だと可愛く思えるんだから不思議なものだ。
「あ、ヴィルヘルム。マヨネーズついてる」
唇の端についているマヨネーズに手を伸ばし、それをすくいとる。
マヨネーズのついた指をぺろりと舐めるとヴィルヘルムは驚いた顔をしてした。
「どうかしたの?」
「・・・おまえ、ばかじゃねえの!」
髪の毛ほどではないが、頬を赤く染めたヴィルヘルムは不機嫌そうな顔をして残りのサンドウィッチを平らげた。
私はそんな彼を頬杖をつきつつ、そのまま見つめ続けた。
◇
食べ終わると、私たちはなんとなくぶらぶらと歩いた。
私の数歩先を歩く彼の背中に声をかける。
「ねえ、ヴィルヘルム」
「ん?」
「触ってもいい?」
「は?!」
私の言葉に驚いたのか、ヴィルヘルムは勢いよく振り返った。
「大人の姿のヴィルヘルムはなんていうか触れることはあっても初めて出会ったその姿のヴィルヘルムには触れてないから」
「・・・さっき触っただろ」
「え?」
「なんでもねえ!!
好きにすればいいだろ!」
「うん、ありがとう」
そうして私はヴィルヘルムの手を取った。
繋いだ手は少し冷たかった。
けど、ようやく触れられたことに気持ちは穏やかだ。
「ヴィルヘルムの手、思っていたより冷たいね」
「なんだよそれ」
「それに・・・思ってたより大きいかも」
「だからなんだよ、それ」
「ふふ、なんだろうね」
「俺様を子ども扱いしてんじゃねえよ」
悪態をつきながら繋いだ手を離そうとしないヴィルヘルムに、私は小さな幸せを感じていた。
つかの間の穏やかな時間。
大人の姿になったら、また誰かと喧嘩してしまうかもしれない。
魔剣の力に飲まれそうになってしまうかもしれない。
そんな不安はあるけれど、私はどんな形でも良いからこの人の隣にいたいんだとぼんやりと考えていた。