「なんか良いにおいしてるな」
キッチンで夕食の支度をしていると、ヴィルヘルムは近づいてきた。
ふんふん、と犬のように匂いを嗅ぐ姿にくすりと笑ってしまう。
「今日はシチューだよ」
「肉たくさん入ってるか?」
「ちゃんと入ってるよ」
「お、やったな」
嬉しそうに笑うと、自然と後ろから私を抱きすくめるように腕を回してくる。
両手を私のおなかのあたりで落ち着かされ、私は少しそわそわしてしまう。
特別太ってるわけじゃないけど、おなかを触られるのってなんだか恥ずかしい。
「ねえ、ヴィルヘルム」
「ん?」
「その・・・おなかはちょっと恥ずかしいな」
彼の手をどかそうとやんわりと左手で押し返すが、その手は全く動こうとしない。
「じゃあどこなら良いんだよ」
「それは・・・どことはいえないけど」
こうやって抱きすくめられるのは好きだし、触れ合うことも幸せだ。
だけど、どこなら触っていいかと訪ねられるとどう答えていいか言葉に詰まる。
「ん、じゃあここなら良いだろう」
おなかの前で組まれていた手がそのまま上に移動し、私の胸に触れた。
「え!?」
「だって触ってる方がでかくなるんだろ?」
胸に移動した大きな手は優しく動き始める。
初めて触れた時は恐る恐る触れたのに。
二度目は強く触られて私に怒られて、しゅんとしていたのに。
今は優しく触れてくるんだから・・・
「ヴィルヘルムは大きい方が好きなの?」
振り返るのも、手をどかそうとするのも恥ずかしくて、私は右手に持っているお玉で鍋をかきまぜる。
左手は、ヴィルヘルムの服の裾を掴んだ。
「俺はお前の胸ならなんでもいいけど」
「・・・っ」
ああ、馬鹿みたい。
時々ヴィルヘルムは無自覚にストレートな言葉を言う。
恥ずかしさと彼が触れているという事で身体が熱くなる。
「ん、なんかお前火照ってる?」
首筋に顔を埋めて、私の熱を確認してくる。
「そんなの・・・ひゃっ!」
首筋をぺろりと舐められて、思わず声が漏れる。
慌てて彼を押しのけようと振り返ると、強く抱き締められる。
「もうちょっとだけ、触ってたい」
「・・・お肉少なくするよ?」
「・・・あと5秒」
「5秒だけだからね」
恥ずかしさを誤魔化すように彼の背中に手を回す。
ヴィルヘルムに甘えられるのも、触れられるのも好きだから拒めるわけがないのだ。
「おまえにさわってると落ち着く」
「・・・うん」
「だからさ」
何を言おうとしているのかと顔をあげると、ヴィルヘルムはお預けをくらった子どものような顔をしていた。
「肉、多めがいい」
「・・・もう」
そんな事を言うから、約束の5秒が過ぎても離れられなかった。