20:00
夕食が終わり、片付けも手伝いたいというヴィルヘルムと一緒に皿洗いを済ませるとお風呂を沸かした。
今日はいつもより彼が積極的に私を助けようとしてくれるから、そのお礼もかねて彼の背中を流す。
「ヴィルヘルムの背中って広いよね」
背中を流しながら彼の背中をじっくりと見つめる。
身体に残る無数の傷跡は騎士の誇りでもあるだろう。
だけど、彼の身体に残るそれがなんだか苦しい。
「そうか?まあ、お前は小さいけど」
「私と比べたらそうだけど」
ごしごしこすり終わると、お湯をかけて泡を落とす。
「さんきゅ」
「どういたしまして」
「じゃあ俺も流してやる」
「え?良いよ」
「なんでだよ。折角一緒に入ってるんだから流してやるよ」
ヴィルヘルムは振り返ると私の肩を掴んで反転させる。
スポンジを粟立てると、それは私の背中を優しくなで始めた。
「・・・」
ヴィルヘルムはいつだって私に優しく触れる。
どうして?と聞くと、大事だと思うからと平然と答えられて赤面したのはいつだったか。
「ここ、痕になってるな」
「え?」
「ここ、分かりづらいけど」
そう言って、私の二の腕をなでる。
きっと訓練のときにつけた傷だろう。
「大丈夫だよ、ヴィルヘルム」
「俺は良いけど、お前は傷つかないようにしろよ」
「私が駄目でヴィルヘルムが良いものなんて何もないよ」
男だから傷が残ってもいい。女だから傷が残ってはいけない。
そんな事はないでしょう?
「私もあなたが大事だから傷があるの見たら悲しいもの」
「・・・気をつける」
スポンジがタイルに落ちる音がしたかと思えば、そのまま後ろから抱き締められる。
「ヴィルヘルム?」
「・・・なんでもない」
その抱擁には下心なんて全くなくて・・・
ただ、愛おしいと言葉でいえない代わりに私をきつく抱き締めているみたいだ
「ヴィルヘルムの心臓の音、聞こえる」
「俺はお前の聞こえない」
「ふふ、残念だね」
「ああ・・・」
隙間なんてないのに、それでも二人の隙間を埋めるみたいにヴィルヘルムはきつく私を抱き締め続けた。