16:00
緑の滴亭で軽食を取った後、残りの買い物を済ませると自然と足がその場所へ向いていた。
「学生の頃、ヴィルヘルムいっつもここに連れてくるんだもの」
そう、あの頃毎週のように通った森へと来ていた。
せっかく日曜日でお休みなのに、足しげく森へ通うから・・・
付き合い始めたばかりの頃はさすがの私も不貞腐れた。
「あれは悪かったよ。お前もここ好きだと思ってたんだよ」
あの頃のように彼は私の頭をぽんぽんと撫でた。
多分ヴィルヘルムはあの頃より優しく笑うようになった。
「あーでも、やっぱり人混みは疲れるな」
ぐっと伸びをする彼のわき腹をつつくと、びくりと身体が震えた。
「ふふ、そこ弱いよね」
「・・・俺がおまえにやったら怒るくせに」
不貞腐れるように彼は私の肩にもたれかかってくる。
だからさっきのヴィルヘルムみたいに頭をぽんぽんとなでてあげる。
「子ども扱いしてるだろ」
「ヴィルヘルムだって私にしてるでしょ?」
「あれは大事にしてる扱いだ」
「・・・だから私も同じよ」
大事にしたい、大事にされたいと強く思う。
目を閉じて、彼のぬくもりだけを想う。
あれから随分時が流れた。
私はこうしてヴィルヘルムの隣にいる。
「風、気持ち良いね」
「だな」
もうすぐ日が傾き始めるだろう。
夏の日差しも、この森には優しい。
ヴィルヘルムの手に自分のそれを重ねた。
彼の手は、私より少し熱い。
それが彼がここにいるというようで私は好きだ。