「なあ、ヴィルヘルム」
「んー?」
それは夜、男子寮での出来事だった。
男子寮での生活にもすっかり慣れ、そこそこ人とも会話するようになった。
男というのは集まれば、やれ誰が強いだ、やれ誰が可愛いだ、スタイルが良いだのという話に花が咲く。
昔、戦場の宴でもそんな話をして盛り上がっていたような気もするがイマイチ覚えていない。
だから新鮮といえば新鮮な会話だ。
何人か集まって盛り上がっている連中に名前を呼ばれ立ち止まると、腕をつかまれ引きずり込まれた。
「あのさ・・・」
そう、それはとてもくだらない話だった。
◇
「・・・ヴィルヘルム?」
ある日曜日のこと。
いつものように森で過ごしていると、ヴィルヘルムが私の腕をじっと見つめてきた。
あまりに真剣な顔をしているので、思わず私も自分の腕を見てしまう。
青あざが出来たりといった外傷も、特別太くなったわけでもない。
「私の腕がどうかしたの?」
「触ってもいいか?」
「うん、どうぞ」
いつも私の断りなんて聞かないで触れてくるのにどうしたんだろうか。
恐る恐る手を伸ばしてきて、私の二の腕に触れるとやわやわと揉むように手が動いた。
「・・・え、と」
「お前、腕細いな」
「う、うん?ありがとう」
「剣振るんだからもっと筋肉ついた方が良いんじゃないか」
「うーん、頑張ってるんだけどなかなかつかなくて・・・」
筋肉を確かめるような手つきではない。
ただひたすら腕を揉むのをやめないのはどうしてなんだろうか。
「どうしたの?ヴィルヘルム」
「なあ」
揉む手がようやく動きを止めた。
ヴィルヘルムの視線は腕から胸へ移動した。
「胸、さわっていいか?」
「・・・っ!?」
さっきの腕触っていいかっていうノリと全く同じに尋ねられる。
つられて思わず頷きそうになったけど、私は慌てて胸の前で腕を組んでそれを阻止した。
「だ、駄目だよ!ここ、外だよ?」
「別にここでしようとかそういうことじゃなくてだな」
ヴィルヘルムはいたって冷静だ。
まるで私の方がおかしなことを言ったみたいな空気になるが、流されてはいけない。
ここは人があまり来ないといっても屋外だ。
胸に触るなんてそんなこと・・・
「ど、どうして触りたいの?」
「二の腕のやわらかさと胸のやわらかさが同じだって言われたから確認」
「・・・は?」
「男子寮でそんな話されたんだよ。
どうだったかなーと思って確認しようと思ってな」
「・・・」
ヴィルヘルムは乙女心というものが全くといっていい程理解出来ない。
それを今更どうこう言うつもりもないんだけど、これはさすがに・・・
思わずため息をつくと、ヴィルヘルムが私を抱き寄せた。
「嫌だったか?・・・悪い」
「・・・嫌というか、うん」
ヴィルヘルムに触れられること自体は好きなのだ。
ただ、ちょっと場所を選んで欲しいというだけ。
「でも確かめるまでもなかったな」
きゅ、と私を抱きしめる腕が強くなった。
それはまるで私の存在を確かめるように。
「お前はどこもかしこも柔らかいもんな」
「・・・っ、そういうこと他の人に言ったら駄目だからね?」
「ん?どうしてだ?」
「どうしても!」
◆
「なあなあ、ヴィルヘルム!こないだの確認したか?」
それから数日後、男子寮で再び例の奴らに捕まった。
今度は腕をとられないようにさっと避ける。
「あー、あいつに言ったら駄目だって言われたから内緒」
俺がそう言って立ち去ると「確かめたのか!?」という声と共に騒がしくなったが気にせず部屋へ帰った。