夜、部屋に戻るとなかなか寝付けずベッドの中でもぞもぞしていた。
(どうしようかな、あったかい紅茶でも入れたら落ち着くかなぁ・・・)
何度目かの寝返りを打ち、やはり暖かいものを飲もうと決意して部屋から出た。
誰もいない部屋は静まり返っていて、その静けさが少し怖い。
余計なことを考えないで、お湯を沸かそう。水を汲んで、お湯を沸かす。
ヤカンを見つめていると、なんだか少し眠くなってきた。
この調子なら暖かいもの飲んだら眠れそうだな、と考えていた時だった。
「ひゃっ!」
背後から抱き締められる。
驚いて振り向くと、紋白さんだった。
「も、紋白さん!?」
「うん」
きゅっと抱き締めると、私の首筋にすりすりと顔を寄せる。
狐のお面が当たって・・・痛い
「紋白さん、ちょっと離れてくれないかな」
「どうして?」
「お面があたって痛いの」
「そっか」
頷いてくれたはずが、紋白さんは私を離す気がないらしく抱き締める腕は緩まない。
どうしたものか、と考えていると沸騰を告げるようにヤカンから音がした。
紋白さんに抱き締められたまま、お湯をティーポットに注ぎこむ。
「紋白さんも飲む?」
「うん、飲む」
二人分くらいお湯を入れると、蓋をして蒸らす。
「紋白さんも眠れなくて出てきたの?」
「ううん、違う。
紅百合がいる気がしたから出てきた」
「・・・そっか」
気恥ずかしくて、私は言葉を切る。
紋白さんは私の頬に手を添えると、無理やり振り向かせた。
まるでキスしようとするみたいな図に、思わずドキっとしたがお面で何も見えない。
「・・・紋白さん」
「紅百合、顔赤い」
「紋白さんがいきなり抱き締めるから・・・!」
「俺が抱き締めると赤くなるの?」
「・・・そうだよ、恥ずかしくて・・・赤くなっちゃうよ」
もう紅茶をいれてもいい頃だろう。
私は向き直ると、紅茶を注いだ。
「紋白さん、飲もう?」
「うん」
片方のカップを紋白さんに渡すと、お面を少しずらしてお茶を飲み始める。
どんな素顔をしているんだろう。
声の感じからして、きっと同い年くらいだよね?
優しい顔をしているのかな。
そんな事を考えながらお茶を飲みつつ紋白さんを見つめた。
「紅百合・・・俺穴開いちゃう」
「え!?」
「見すぎ」
「ご、ごめんなさいっ!」
紋白さんの表情は分からないけど、その声色に恥ずかしくなる。
紋白さんは残りの紅茶を飲み干すと私に近づき、さっきのように頬に触れた。
それからそっと頬にやわらかいものが触れた。
「・・・っ!!?」
「ご馳走様。おやすみ、紅百合」
カップを流しに置くと、紋白さんは去っていった。
私は紋白さんが触れた部分を自分の指でなぞる。
「・・・キスされた?今」
さっきまで少し眠くなっていたはずなのに、眠気なんてどこかへ吹き飛んでしまっていた。
結局暖かい飲み物を飲んでも紋白さんの行動を思い出してしまい、眠れぬ夜を過ごすはめになった。