「きゃぁっ!」
突然、お尻をなでられて思わず声を上げてしまう。
振り返ると夏侯淵が驚いた顔をしていた。
「なんだよ、これくらいで騒ぐなよ」
「これくらいって・・・!!
夏侯淵、今おしりを・・・!!」
「いや、尻尾ないんだなーって」
距離を取るように一歩後ずさる。
夏侯淵は気にする風でもなく、言葉を続ける。
「十三支って猫だろ?猫耳があるんだから尻尾もあるだろ」
「ないわよ。それに私たち、猫の仲間っていうわけじゃないもの」
「ふうん」
離れた一歩分、夏侯淵が私に近づく。
また何かされるんじゃないかと思い、私も一歩下がった。
「なんで逃げんだよ」
「だって夏侯淵が近づくから・・・!」
「だからなんで俺が近づいてんのに逃げるんだよ」
「変なところ触るから」
「変?」
「だって・・・っ!」
油断した瞬間、夏侯淵に腕を掴まれてそのまま引き寄せられた。
ぽす、と夏侯淵の胸に飛び込んでしまった。
離れようとしても強く抱き締められて敵わない。
「夏侯淵、離して・・・!」
「やだ。お前が悪いんだろ」
抱き締める腕に力が籠もる。
これは戯れじゃなくて、まるで恋人同士がするような抱擁じゃないか。
そんな事が頭によぎってしまう。
意識するともう駄目だ。顔が熱い。
「関羽」
「・・・っ」
耳元で名前を呼ばれる。
ぴくり、と耳が反応してしまう。
それが面白かったのか、夏侯淵は空いてる手で私の耳に触れる。
「ふうん。耳、ぴくぴくしてる」
「離して、夏侯淵」
「やだ」
「どうして?」
遊びにも程がある。
夏侯淵は猫族が嫌いだから、何をしてもいいと思っているのかもしれないけれど。
私だって年頃の女なのだ。
恋人でもない人とこんな・・・
「お前に触るの嫌いじゃない」
「え・・・?」
「だから嫌いじゃない」
驚いて彼の顔を見上げると、心なしか赤らんでいる。
その表情に驚いて、思わず見入ってしまう。
「・・・んだよ」
私の視線に苛立ったのか、少し不機嫌に眉間に皺を寄せると耳に触れていた手が後頭部を撫でるように移動した。
そして、顔を引き寄せると唇が一瞬触れ合った。
「・・・っ!!」
「なんて顔してんだよ、ばか」
ようやく身体を離すと、呆れたように私を見つめた。
今、口付けされた・・・のよね?
頭が追いつかず、固まっていると夏侯淵が背中を向けて去ろうとする。
「どうして・・・?」
「さっきから言ってるだろ」
ようやく搾り出した言葉を聞いて、じろりと私を睨む。
「お前のこと、嫌いじゃない」
それだけ言うと、踵を返して去ってしまった。
嫌いじゃないって・・・それは
「好き・・・っていうこと?」
夏侯淵の行動の意味が分からず、心臓が早鐘のように打つのを感じていた。