やってしまった。
昨日、撫子と大喧嘩をした。
きっかけはとても些細な事だったと思う。
(はぁ・・・今更なことで喧嘩してしまった)
昔なら喧嘩も長引かなかった。
だっていつも隣にいたから。
だけど、高校が別々になって一緒にいる時間は驚く程減った。
昔なら撫子が困っていたら、すぐ傍にいられたのに。
腐れ縁の幼馴染では、もう限界なんだろうか。
久しぶりに明日、休日に会う約束をしていたのに。
さっきの喧嘩で全部流れてしまっただろう。
撫子が、他の男といたくらいでどうしたというんだろう。
クラスメイトだと言っていたけど、どうなんだろう。
俺の言葉に傷ついた顔をしていた。
(撫子・・・)
時計を見ると、20時を過ぎていた。
電話してみるべきか。
でも、なんて?
そんな風に悩んでいると、姉さんがノックもせずドアを開けた。
「ちょっと理一郎」
「!ノックしてから開けてくれっていつも」
「撫子ちゃん来てるわよ。
どうぞ、撫子ちゃん」
有無を言わせないのはいつものことだが、姉さんの後ろに立っていた撫子がひょこりと顔を出した。
そのまま俺の返事なんて聞かないで、撫子は俺の部屋へと通されて、ドアが閉まる。
「・・・」
「・・・突然ごめんなさい」
「いや、」
先ほどの名残か、非常に気まずい。
どんな顔をしていいのか分からなかった。
ベッドから降りて、撫子にも座るように促した。
「理一郎、これ食べない?」
後ろに隠していた袋を差し出すと、恥ずかしそうに俯いた。
不思議に思いつつ、受け取って中身を見るとプリンが入っていた。
「これ・・・」
「作ってきたの、理一郎プリン好きでしょう?」
「ああ、でも・・・」
どうしてこのタイミングで?と顔に出ていたんだろう。
撫子がくすりと笑った。
「さっき久しぶりに理一郎と喧嘩しちゃって、このまま話さなくなったらどうしようって思ったの。
だから仲直りの口実」
「撫子・・・」
同じ気持ちだったんだろうか。
少しずつかみ合わなくなった不安と、このまま離れてしまう恐怖。
「さんきゅ・・・一緒に食べるか?」
「ええ」
袋からプリンを取り出すと、ご丁寧にスプーンもついていた。
すくって口に運ぶと俺好みの味だ。
「うまい」
「本当?良かった!久しぶりに作ったから緊張しちゃって」
「お前がつくったのか?」
「ええ、だって仲直りするためだもの」
口に運んだプリンはとろけるようだった。
撫子が作ったものを食べるのは久しぶりだ。
隣で同じようにプリンを食べる撫子をどうしようもなく抱き締めたい衝動にかられる。
ああ、でも今はー
「明日、行きたいところ決まったか?」
「私、行きたいところあるの!駅前に新しく出来た雑貨屋さんなんだけど」
撫子が作ってくれたプリンと、撫子の隣。
明日の予定を考えて、いつもの日常に浸っていたい。