「ラン」
名前を呼ばれて、隣にいるヴィルヘルムのほうを向くと唇の端をぺろりと舐められた。
驚きのあまり、言葉が出てこない。
「ん、どうした?」
「な、なに、何をしてるの?ヴィルヘルムっ!」
「何って、口のここんところにクリームついてたから取ってやっただけだろ」
ヴィルヘルムは自分の口の端を指差した。
それから手に持っていた残りのクレープを食べる。
私は、というと驚きのあまり手に力が入ってしまってクレープがぐしゃりとクリームをはみ出していた。
「ヴィルヘルムって焦る事ないの?」
焦るというか、恥ずかしい事だろうか。
さっきみたいな真似をこんな人通りがあるところでしちゃうなんて思っていなかった。
多分、ヴィルヘルムにとって周りの人なんているけど関係ないといったものなんだろう。
はみ出したクリームは私の手を汚していて、どうしようもないから指先をぺろりと舐める。
「・・・そういう時とか」
「え?」
「なんでもねえよ!」
なんだろう?ヴィルヘルムの耳が赤くなっていた気がするけれど、
ハンカチを濡らしてくると言って離れてしまったので、よく確かめられなかった。
「なんだか・・・焦ってた?」
でも何かあったかしら?
小首をかしげつつ、クレープの残りを食べ終えた。