こはるさんが最近よく本を読んでいる。
知らなかったことを知っていくのが楽しい、と笑っていた。
ふと、それを思い出して私も何か読んでみたくなり図書室へと足を運んだ。
「・・・」
どこへ行ったんだろうと思っていた相手が、机に突っ伏して眠っていた。
大きな図体で、机を占拠している。
パートナーなんだから一緒にいるべきなのは分かっているが、室星さんは掴みどころがない。
そもそも、他人に興味なんてないだろう。だって私の名前すら覚えないんだから。
気付けばため息が漏れていた。
いけない、こんな事じゃ。
気分を変えるべく、私は早速本棚を物色し始めた。
やはりこれだろうか・・・
「『とっても簡単!初めてのお料理』」
宿吏さんがいつもいつも私と乙丸さんが料理に参加しようとすると邪魔をするため、全然料理の腕前が上がらない。
薬草を使った料理とか載っていればいいんだけど。
ぺらぺらと本をめくって、読み進める。
読み始めると意外と楽しいもので、気付けばしゃがみこんで没頭していた。
「ねえ」
「ー!!」
おそらくそんなに時間は経っていないはず。
さっきまですやすやと眠っていた室星さんが私をじっと見つめていた。
その視線に居心地の悪さを覚えて身をすくめる。
「花子ちゃん、パンツ見えてる」
その言葉に恥ずかしさと苛立ちを覚えて思わずクナイを構えた。
そんな私を見て、くすくすと愉快そうに笑う。
「なーんだ。見て欲しくてそういう格好してたのかと思った」
「そんなわけない」
立ち上がり、本をしまうと部屋を出ようと彼の横をすり抜けようとした。
が、思いのほか強い力で腕を掴まれて室星さんの膝の上に座らされた。
「やめ・・・!」
後ろから抱き締められ、室星さんの唇が首筋にあたる。
今まで知らなかった感覚に肌が粟立った。
「ねえ、脱がせてもいい?」
「・・・っ!!」
何を言っているんだ、この人は。
思わず振り返ると視線がぶつかった。
サングラス越しの瞳が、私を見抜く。
「ねえ、七海」
「・・・室星さん」
熱にうかされたように私はこくりと頷こうとした・・・そのとき
ガラっ
「あれ、何してるの?」
空汰が不思議そうな顔をして私たちを見つめた。
その瞬間ようやく正常さを取り戻して、室星さんを突き飛ばすように振り払って部屋を飛び出した。
「七海っ!?」
空汰の声が聞こえたけど、振り返らない。
今、空汰が来なかったら私は・・・!
「七海ちゃん、暁人くんがお菓子を作ったそうです。
一緒に食べに・・・、七海ちゃん?」
「はぁ・・・はぁ・・・こはるさん」
廊下を走っていると、こはるさんに出会う。
息を切らす私を見て、驚いたように駆け寄ってきた。
「どうしたんですか!?顔、真っ赤です!」
「-っ!なんでもない!」
心臓が痛い。
室星さんが触れた部分が馬鹿みたいに熱い。
なんなんだろう、これ。
苦しい。
いい加減な室星さんは嫌い。
私の名前を覚えない室星さんは嫌い。
だけど、さっき七海って・・・
思い返せばまた苦しくなって、私はしばらく室星さんを避けることになった。
このざわつく気持ちは一体・・・
その答えに気付くのはもう少し先のお話。