貴方が一番。(夏深)

研究に没頭する横顔を本を読む振りをしながら見つめる。
つい先日のことだ。
夏彦と街へ行ったとき、私がお手洗いから戻ってくると見知らぬ女の子たちに囲まれている夏彦がいた。
煩わしげな表情をしており、私が声をかけると安心したように表情が緩んだ。
そういえば記憶を失っていたとき、夏彦目当てに女の人が家に来ようとよくしていたのを思い出す。

「どうした、深琴」

私の視線に気付いたのか、ちらりと私を見る。

「夏彦って、かっこいいのよね」

「・・・!!」

「昔は朔也しか身近に異性がいなかったから分からなかったけど」

「待て、なんでそこでお前の幼馴染の名前が出てくる」

かっこいいと褒められて、少し得意げな表情になったのもつかの間あっという間に眉間に皺が寄っていた。

「え、だって」

夏彦は立ち上がると、私が座るソファの隣に乱暴に腰掛けた。

「お前の口から他の男の名前なんて」

「・・・もう。そんなに妬かなくても大丈夫よ。
私は貴方が好きなんだから」

年上の男の人に可愛いというのは可笑しいかもしれない。
だけど、夏彦のそういう子供じみたヤキモチを可愛いと思うなんて私も重症かもしれない。
夏彦の頭を撫でると、さらさらとした髪が心地よい。

「深琴・・・」

頭を撫でる手を取り、そのまま口元へ運んでキスを落とされる。
触れた部分からじわりじわりと熱が広がるようだ。

「お前の口から他の男の名前が出るだけで機嫌を損ねる俺のことは嫌いか?」

「・・・ばか」

夏彦の手を両手で包むと、私は微笑んだ。

「どんな貴方でも、私は貴方が好きよ」

第一印象は最低最悪だったけど。
二人で見上げた星空はどれも素敵だった。
あの時は夏彦が何を考えているか分からなかったけど、今なら分かる気がする。
私のことを彼なりに労わっていてくれたんだと。
不器用な優しさが、愛おしい。

「ああ、俺もお前を愛している」

片手で抱き寄せられ、夏彦にもたれかかる。
彼の胸に耳を寄せれば、トクントクンと鼓動が聞こえる。
こんな幸せな時間がいつまでも続けばいいのに、と夏彦の腕の中で私は願った。

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