洗濯物を干し終えて居間へ戻ると、拓磨はぼんやりとしていた。
「あれ、拓磨来てたんだ」
「ああ、蔵の掃除を手伝って欲しいって連絡あったんだけど」
「あれ?今日は私しかいないよ」
「・・・はかったな」
今日は美鶴ちゃんは一日外出している。
そのため、普段は分担してやる家事を私ひとりで片付けていたのだ。
美鶴ちゃんはいつも家のことをしてくれてるのでこうやって外出して息抜きになれば良いなと考えていた。
だけど、もしかして拓磨と二人にするためにこうして外出して、拓磨を呼んでくれたんだろうか。
・・・美鶴ちゃんならありうる。
その気遣いに乾いた笑みを浮かべる。
「お茶でも煎れようか」
「ああ、頼む」
でも、せっかく二人きりの時間。
嬉しくないわけはない。
同じクラスだし、登下校も一緒だ。
だけど、拓磨を凄く意識するという事はあまりない。
ふとした事で顔が赤くなったり、ドキドキすることは相変わらずあるけれど、一緒にいて落ち着くようになっていた。
台所へ移動し、やかんを火にかける。
その隙に急須や湯のみを用意する。
拓磨はいつも使う少し大きめの湯飲みの隣に私専用の湯のみが並ぶ。
なんだろう、それだけのことなのにまるで新婚さんみたいだな、と自分で考えて恥ずかしくなる。
お茶を煎れると、拓磨が待つ居間まで運んだ。
「お待たせ」
「ああ、悪いな」
湯のみを置くと、じっと私を見つめる拓磨の視線に気付いた。
「どうかした?」
「・・・いや、なんか新婚みたいだなって」
「なっ・・・!」
「いや、いや!!そんな事は断じて言っていない!」
「いや、今言ったでしょう?」
「・・・」
先ほど同じようなことを考えていたせいか、私もあっという間に赤くなってしまった。
多分、拓磨の方が赤い気もするけれど。
誤魔化すようにお茶をすする。
風に揺れる葉の音が耳にかすかに届く。
そんな音を聞いて、お茶をすすっているなんて私たちは随分落ち着いているなぁ。
もっと高校生って若いというかはしゃぐのかな、と思うんだけど私たちは落ち着いている気がする。
だけど、この空気が心地よい。
湯のみをテーブルに戻すタイミングが重なり、拓磨が私のほうを向いた。
視線がぶつかると、私の手を引き寄せた。
そのまま頬を優しくなでられると、顔が近づいてきた。
何をしようとしているか、意味を察して私はそっと目を閉じた。
「・・・ん」
唇が触れ合う。
時間にしては数秒だと思う。だけど、まるで世界には私と拓磨しかいないように感じられた。
鼓動が高鳴る。
唇が離れると、照れたように拓磨が私かあら視線を逸らして口を開いた。
「たい焼き、食べるか?」
「・・・うん、食べる」
テーブルに置いてあった包みから拓磨がたい焼きを取り出した。
その袋の中は最初から二つしか入っていなかったんだろう。
大好きなたい焼きを食べずに私をここで待っているとき、どんなことを考えていたんだろう。
じわり、と胸の内に暖かい気持ちがこみ上げてくる。
「拓磨、ありがとう」
私の好きな人は、こういうひとだ。