あの黒い瞳でじっと見つめられるのが苦手だ。
身動きが取れなくなる。
今だってそう。
いつものように二人並んで酒を呑んでいると、私の手をマーシャルが握った。
「・・・なに」
「触れてはいけませんか」
私とマーシャルが恋人同士というのは大体の人が知っていることだろう。
この酒場に来ている城の人たちだって知っている。
だけど、あんまり一目があるところで触れ合うのは憚られるというのに・・・
マーシャルは私に触れたがる。
「場所を選びなさい」
「誰も私たちのことなんて見てませんよ」
指を絡めて、微笑む。
空いている手で私はグラスのお酒を飲み干す。
そんな私を横でじっと見つめる一対の黒い瞳。
マーシャルに見つめられるのが苦手だ。
「あんた、酔ってないくせに」
「あなただって酔ってないでしょう」
マーシャルも残りのお酒を飲み干した。
「さて、酔っ払ってしまいましたので出ましょうか」
「は!?あんた酔っ払ってなんか」
「あなたに酔いました」
また、私をじっと見つめて似合わない気障な台詞を吐く。
繋がれた手が熱い。
何て切り返せばいいか咄嗟に出てこなくて私が黙ると、マーシャルは満足気に微笑んで私の額に口付けた。
会計を済ませて、店の外へ出る。
手を引かれて、そのまま人気が少ない路地裏へと連れ込まれる。
「んっ・・・」
壁に私を押し付けるようにして、キスをしてくる。
繋いだ手はそのまま、もう片方の手で私の頬を撫でながらキスは深くなる。
口のなかに残る酒の味が甘ったるい。
ああ、くらくらする。
「・・・っ、はぁ」
「すいません、我慢出来ませんでした」
ぎゅっと抱き締め、耳元で熱く囁かれる
「あんた・・・酔ってるんじゃない?」
「ええ、あなたに酔ってます」
「そうじゃなくて、ん・・・っ」
再び口付けられ、私の言葉は飲み込まれる。
ムードなんてものは求めてないけど、キスする時は目を閉じるものじゃないの?
だから、その目で見つめないで。
振りほどけなくなる・・・
「シエラ、あなたは」
「目くらい閉じなさいよ、馬鹿」
マーシャルの目元を手で覆うと私から口付ける。
陳腐な言葉に絆されて、馬鹿みたいに見つめられるから。
私も少し酔っ払ったみたいだ。
唇を離すと、私は路地裏から彼を連れ出す。
「私も酔っ払ったみたいだから・・・場所を変えましょうか」
「シエラ」
明日はどちらも休みなんだから良いじゃない。
合わせようとしてぶつかったわけじゃない休日だけど。
「あなた、さっき酔ってないって」
「お酒になんて酔わないわ。
あんたに酔ったみたい」
睨むようにマーシャルを見て、そんな言葉を投げかけるとマーシャルは馬鹿みたいに赤くなった。