いつか、貴方に触れたい。
優しく口づけてくれたぬくもりも、気持ちも今でも色あせない。
「カルディア!」
今日の夕食は何にしようかな、と考えながら買い物を済ませ、
街中を歩いていると聞き覚えのある声がして振り返る。
「フラン!どうしたの?」
「君に用事があって近くまで来ていたんだ」
1年以上前、私たちは寝食を共にしていたが今は別々に暮らしている。
たまに集まることもあるけれど、以前のような頻度で会う事はなくなってしまったので、
少しでも会えるのはとても嬉しい。
「インピーは家なの。良かったら寄っていって」
「あー、ごめん・・・その時間はないんだけどさ、」
フランが申し訳なさそうに頬を掻く。
それから懐から小さな瓶を取り出した。
「?
なにそれ」
「これ、試作品なんだけど。飲んでほしいんだ」
フランからそれを受け取ると、琥珀色の液体がキラキラと輝いてみえた。
不信に思いながらもフランがわざわざ持ってきてくれたもの。
おそるおそるそれをごくりと飲みほした。
味は・・・しない。
「・・・っ」
身体の体温が仄かに上がる。
瓶をフランに戻すと、そっとフランが私の頬に触れた。
「っだめ!」
けれど、肌が溶けるような音も何もしない。
フランがにこりと笑った。
「試作品なんだけど、君の解毒剤」
「え?」
「長い時間は持たないと思うけど、2~3時間くらいなら君の身体の毒を無効化出来ると思う」
さっきの瓶が何本か入った袋を手渡される。
「約束したでしょ?君の毒は僕がなんとかしてみせるって。
まだ時間はかかると思うけど、ようやくとっかかりが出来た」
「フラン・・・!」
試作品の解毒剤も嬉しいけど、フランの気持ちが何よりも嬉しくて私は思わず涙ぐんでいた。
「今ならインピーに触れられるから、急いで帰って」
「うん、ありがとう!
今度またゆっくり遊びに来てね!」
「うん、インピーによろしく」
急ぎ足が気付けば駆け足になっていた。
2~3時間は大丈夫だと言っていたけれど、もしかしたらすぐ効力がなくなってしまうかもしれない。
いや、それより何より。
早くインピーに触れたい。
家の中へ駆け込み、インピーを探しながら歩くが、キッチンにたどり着いてもインピーの姿はない。
庭にいるのだろうか。
少しの間なら食材をそのままにしても大丈夫だろう。
食材を置いて、庭へと飛び出すように出る。
「シシィ、インピーはどこ?」
シシィが庭でごろごろとしているのを見つけ、尋ねてみるとこっちだと言うようにシシィは歩き始めた。
それについていくとインピーの姿を見つけた。
「インピー・・・」
椅子に腰かけたまま、インピーは転寝していた。
小さな声で呼びかけるも起きる気配はない。
私は手袋を外すと、申しわけないが近くの草に触れた。
もし、解毒の効果が切れていて、インピーに触れてしまったら大変なことになる。
私が触れても草は青々しいままでそっと胸をなでおろした。
「インピー」
彼の頬にそっと触れる。
久しぶりに直に感じる彼のぬくもりに涙が零れそうになる。
頬から手を離すと恐る恐る頬に口づける。
「ん・・・カルディアちゃん?」
まだ覚醒しきっていないようで寝ぼけた声で彼が私を呼ぶ。
気付かれた事の恥ずかしさもあって、私の顔は自然と熱くなっていく。
「おはよう、インピー」
限られた時間だけど、貴方に触れられるのも、触れてもらえるのも泣きたくなるくらい幸せなの。
インピー、大好き。
そんな気持ちを込めて、寝起きの彼に抱きついた。