-大きくなったら結婚してください-
そんな子供の約束をいつまでも胸に抱いている。
「アイちゃん、アイス食べたくない?」
「あ、いいね。アイス」
久しぶりにナッちゃんと約束して下校する。
今日はこのまま私の家に来る予定になっていた。
コンビニに寄って、それぞれ好きなアイスを選ぶ。
せっかくだから公園で食べて行こうというナッちゃんの提案を喜んで受け入れた。
ベンチに二人並んで座るとナッちゃんが私のアイスの袋を開けて差し出してくれた。
「ありがとう、ナッちゃん」
「いいえ」
にっこりと笑うと、ナッちゃんも自分のアイスを開けて食べ始めた。
公園では、まだ子供たちが遊んでいてその様子をほほえましげに見つめる。
小さい頃、みんなでああやって遊んだなぁ。
でも、私はナッちゃんと二人でクローバーを探したり、花冠を作ったりすることが好きだった。
ナッちゃんを独り占め出来る時間が、とても好きだった。
ナッちゃんは私の初恋の人。
一つ年上で、いつでも優しくて、私が泣きたい時頭をなでてくれる優しい人。
子供の頃の約束・・・
ナッちゃんは覚えているのかな。
ちらりとナッちゃんを盗み見るとちょうどアイスを口に頬張る瞬間だった。
なんだかいけないモノを見たような気分になり、私も慌てて自分のアイスにかじり付く。
「なんか懐かしいね」
「え?」
「あの子供たち見てると、昔を思い出すね」
「・・・うん、私も今思ってた」
幼い頃は今よりもっと一緒にいたのに。
本当はもっと一緒にいたい。
だけど、それはやっぱり難しい。
私だけが願って叶うことではないから。
シャリ、とアイスをかじる。
その甘さは、ナッちゃんみたいだった。
「私たちってまだ、大人じゃないよね」
「そうだね、大人じゃないね」
「でも、子供でもないよね?」
「子供ではないね」
ナッちゃんは私の言葉に頷く。
ふぅ、と息を吐いて緊張を追い出す。
「大きくなったらっていつの事かなぁ」
ちょっと言いたくなっただけ。
ナッちゃんが覚えてるかも分からないもの。
「僕がアイちゃんを養えるくらいになったら、かな」
「ナッちゃん・・・っ」
思わず隣にいるナッちゃんの方を向いた。
「約束、覚えてくれてたんだね。アイちゃん」
頬が熱い。
いや、顔全体が熱い。
でもナッちゃんもほんのり赤くなっていた。
アイスを持っていたせいでナッちゃんの手はひんやりと冷たかった。
私の頬を優しく撫でると、穏やかに微笑んだ。
「もう少し・・・っていってもまだあと何年もかかるけど、待っててくれる?」
私の左手の薬指をそう言って撫でた。
言葉にならなくて、私は首を縦に振った。
「ありがとう、アイちゃん」
そっと左手を取って、王子様みたいに指にキスを落とされる。
ナッちゃんは私の王子様みたい。
夕方の公園で、未来の約束をした。
「ナッちゃん、その時が来たらずっと傍にいてね」
「うん、ずっと傍にいる。
アイちゃんだけを見つめるよ。過去も、今も・・・未来も」
白詰草で作られた指輪が本物の指輪に変わるまで。
今日の約束をいつまでも、忘れない。