俺を探す後ろ姿を見つけた。
俺がこんなところにいるなんて気付かないだろう。
誰かに会うことがとても億劫で、あいつさえ煩わしく感じていた。
(・・・そんなに一生懸命探さなくてもいいのに)
そんな事を思いながら、小さな身体を抱き締める。
ランは気付かない。
俺に気付くわけがない。
他の奴に呼び止められ、笑う声が聞こえた。
自由になったはずの身体が不安定に幼くなる。
明日になったら元の姿に戻っているんだろうか。
それとも俺は消えてなくなってしまうのか。
怖い、怖い、怖くて仕方がない。
誰か俺を-
「ヴィルヘルム!そんなところにいたのね!」
木の上にいる俺を見上げるランの姿。
その声に、俺は救われた気がしたんだ。
もしも願いがかなうなら
「ヴィルヘルム」
「ん?」
いつも通り森で過ごす。
ランはデートらしいデートがしたいと偶に不満を漏らす。
恋愛に疎く、女心なんてこれぽっちも考えた事がなかったので、言ってもらった方が正直助かる。
何も言わずに不機嫌になられるのは苦手だ。
「背中向けて」
「なんだよ、急に」
「いいから!」
木にもたれていた背中を浮かせ、身体ごと右を向く。
「これでいいのか?」
「うん、動かないでね」
ランの手が、いや違うな。指か。
指が俺の背中を這う。
数回、俺の背を指が走る。
まるで文字を書いているようだ。
「なんて書いたかわかる?」
まるで、じゃなくて本当に書いていたらしい。
「もう一回」
「うん、いいよ」
頷くと、先ほどと同じように指が背中をなぞる。
その動きを頭の中で思い浮かべると、一つの単語になった。
「お前ってたまに凄い乙女だよな」
「・・・わかった?」
「ああ、分かったよ」
-だいすき-
馬鹿みたいに優しいお前が俺にくれたのは愛の言葉だった。
魔剣が消え去り、俺は生き残った。
ランと出会わなければ、この結果はなかっただろう。
ランが俺を選ばなければ、この未来は存在しなかっただろう。
今の俺の全てはランのものだ。
あいつがいるから俺は生きている。
俺が俺として生きる為にはランが必要だ。
たまにはあいつを喜ばせたくて、俺は独りで城下へと足を運んだ。
女というものが何を好きかはよく分からないし、興味がない。
だけど、ランが何を好きかは知りたいし、俺が思いつく限り見て回った。
あいつは意外に食べるのが好きだから食い物でも喜ぶかもしれない。
でも、食べ物だとただのお土産みたいだ。
それだとなんだかニュアンスが違うし・・・
そんな事を考えながらうろついていると、花屋が目に付いた。
(あいつの髪の色に似てるな・・・)
ピンクのガーベラを小さな花束にしてもらうと、それを片手にニルヴァーナに戻った。
好きだという気持ちをどう伝えていいのか分からない。
言葉にするとどうにも陳腐だし、触れ合う事で伝わるのか分からない。